”暴力老人”が示した太陽光発電の闇
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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山梨県北杜市での営農型太陽光発電設備の住民説明会で事業者側の80歳の男性が住民を恫喝し、男性市議を負傷させた事件は、当該事業の許可申請が認められない結末となった。その後の状況を「太陽光パネルの乱立から里山を守る北杜連絡会」に聞くと、事業者の非常識ぶりと、行政の対応の鈍さが明らかになった。
■暴行罪で罰金10万円、事業は不許可
問題となった住民説明会は北杜市高根町長澤地内、及び大泉町西井出地内で計画されていた営農型太陽光発電設備3件に関するもので、5月と7月に市内の大泉総合会館で行われた合計3度の説明会の中でX社(本社:東京都世田谷区)の技術顧問のN・H(80)が、大声を出して机を叩き、拳を振り上げて住民側の女性を殴ろうとするなど、非常識な行動を繰り返した。さらに止めに入った男性市議の左上腕部に全治2週間の怪我を負わせた。この時の映像がYouTubeにアップされ、地上波で放送されたことで一気に注目が集まった。
当サイトでは暴力老人N・Hが過去にも法に触れる行為に関わっていたことを3回の連載で明らかにし、N・Hらに代表されるX社の倫理観に欠ける行為の背景を考察した(参考・太陽光発電の暴力老人 その人生(1)(2)(終))。
N・Hは10月17日付けで市議への暴行で甲府区検から略式起訴され、甲府簡裁から罰金10万円の略式命令を受けた。11月29日、北杜市の上村英司市長は市役所で会見を開き、問題を起こしたN・Hらが関与する3つの事業者に対して、許可申請をしても認めない趣旨の通知書を送付したことを明らかにし(北杜市・営農型太陽光発電設備3件の事業について/2022年12月20日閲覧)、「社会的信用を失墜する行為であることから判断した」と理由を述べた(山梨日日新聞11月30日・太陽光 不許可を通知)。
こうして暴力老人N・HのX社は、予定していた営農型太陽光発電設備3件の設置ができなくなるという事態に陥った。
■太陽光パネルの乱立から里山を守る北杜連絡会に聞く
今回、N・Hによる暴行、恫喝などが動画で拡散されたことで大きな反響があった。その点について太陽光パネルの乱立から里山を守る北杜連絡会の坂(ばん)由花代表に聞いた。同連絡会は「山梨県北杜市内の地上設置型太陽光発電をめぐる問題に向き合い、 具体的な問題の解消や改善を目的に活動」(同連絡会HP・私たちの活動から/2022年12月20日閲覧)しており、森林伐採などによる土地の保水力の低下、自然環境や住環境に影響する、さまざまな問題の解決を目指している。
「太陽光発電や再エネそのものに異議を唱えているのではなく、住民がごく当たり前に安心安全に暮らす権利がないがしろにされていることや、住民の声を聞こうとしない市の姿勢に疑問を感じ、市との対話を通じ、条例改正等によって具体的に問題解決」(syncable・太陽光パネルの乱立から里山を守る北杜連絡会/2022年12月20日閲覧)するとしている。
ーー説明会の映像が多くの人に見られたことで反響はありましたか
坂:メールはかなり来ましたし、直接、電話をしてくれた方や、ホームページにメッセージを寄せてくれた方もいらっしゃいました。本当にありがたかったです。内容は「こんな事業者が今どきいるんですね」「頑張ってください」「負けないでください」という、励まし、応援する内容でした。
ーーX社とはその後、何か話をしましたか
坂:数回、電話で話しました。テレビで動画が流され大騒ぎになっていた頃です。「会社には行かないようにしている」、「報道からの電話がすごくて、知らない番号からの電話には出ないようにしている」などと言っていました。
ーーX社による説明会はその後、実施されたのでしょうか
坂:10月に2度ありましたが私は出ていません。事件以後、X社は市の施設が使えなくなり、あるレストランを借り切って、開催の案内を出していました。しかし、地区全体で反対しているところは説明会をボイコットしていましたし、それ以外の地区でもほとんど人が集まらない状況で、まともな説明会としては成り立たない状況だったようです。
ーーN・Hらが過去に法に触れることをしていたとネットに出ていますし、当サイトでも連載で報じましたが、そのあたりはどのように感じていますか
坂:今回の騒動以前から、この会社はおかしいと思ってネットでは調べていました。また、X社の社員からN・Hには前科があるようなこと、また鰻の産地の偽装をやっていたことがあるという話も聞いていましたから、やっぱりなという感じです。また、私の自宅にはカズノコが送られてきました。送り主がX社になっていたので、受け取りを拒否しました。説明会に出る時に住所を書かないといけないのですが、それを見て送ってきたのでしょう。
ーーカズノコ? もともとN・Hは北商の専務取締役だった時にカズノコ買い占めで世間を騒がせましたが、そのカズノコを送る感覚も理解しにくいものがあります
坂:N・Hは水産関係の大学を出ていて、その後も水産加工関係の仕事をしていたと聞いています。社長のF(当時の北商の常務取締役)はその後輩だったと聞いています。
ーー施設については台風などでパネルが飛んだり、足場が崩れたり、様々な被害が考えられますが、そのあたりは彼らはどうしようと思っているのでしょうか
坂:補償については、私たちも説明会では何度も質問しています。それに対して「高い保険に入っているから大丈夫」としか言いません。そこで保険証券を出させました。保険の内容は、自分の敷地内で設備が壊れたら保険でカバーするが、敷地内から風で飛ばされたパネルが敷地外の人に当たって怪我をさせた、自動車や建物を傷つけたといった場合は何の保証もない、というものでした。
■協力農業法人の正体
X社のホームページには協力農業法人が掲載されている。この協力農業法人の正体は何なのかも気になるところである。
ーーX社のホームページを見ると協力農業法人が6社出ていますが、これは設置する場所の住民、農家が協力するために法人を設立しているのでしょうか
坂:違います。協力農業法人として名前が出ているのは、ほとんどがX社の関係者です。その中の1人は築地(東京都中央区)の水産業の会社の社長です。一度、説明会に来たことがあるのですが、北杜市に隣接する韮崎市では営農型の太陽光発電事業もやっているそうです。
ーーX社について言えば、カズノコの買い占めの北商や鰻の産地偽装の浜伸などから続く水産業に関連する人たちが集まってきている印象ですね
坂:そういう面はあるのかもしれません
ーーFIT(固定価格買取制度)による電気の買取価格が徐々に下がっていますが、この先、彼らはやっていけるのでしょうか
坂:私もそれをN・Hに聞きました。買取価格が下がっているのに、どうやって儲けが出せるのか、と。普通の野立ての太陽光発電をすると現在の制度では30%は自家消費しないといけないのですが、営農型にすると全量買取になります。そして、過積載(筆者註・パワーコンディショナーの合計出力よりも高い合計出力の太陽光パネルを設置すること)をします。過積載をするので49.5kWの設備でも100kWくらい発電でき、売電収入は約2倍になる、と、儲かってしょうがない、笑いが止まらないようなことを話していました。それから、また新たに北杜市で土地を貸したいという申し出があり、契約が成立したと言っていました。真偽のほどはわかりませんが。
ここで過積載について説明しておこう。太陽光発電でパワーコンディショナーの容量を超えて発電した場合、電力を捨てることになるが、容量いっぱいまで発電できる条件は1日のうちでそれほど長い時間ではない。そのため、ピーク時に電力を捨てることになっても、それ以外の時間帯で発電量がアップすれば、元は取れるということで過積載が注目され、ブームになっていた(参照・エコめがね エネルギーBLOG:太陽光発電パネルの過積載とは?/2020年12月20日閲覧)。なお、過積載そのものは違法ではない。
■対応の遅い行政
坂氏は悪質な業社による太陽光発電施設の乱立を防ぐことを目的に会を運営している。しかし、肝心の行政が頼りない状況であるという。X社の件では、N・Hがたまたま罰金刑を受けたということで事業を不許可にしたが、それ以外では消極的な態度が目立つ。
ーーその後、北杜市とは話し合いはしているのでしょうか
坂:11月16日にメンバー6人でまちづくり推進課の課長を囲んでの面談をさせていただきました。これまで多くの問題が発生しているので、条例改正はできないかと言い続けているのですが、市側は煮え切らない態度です。
ーーそもそも条例は厳格に適用されているのでしょうか
坂:そうでもありません。今回のX社を除き、申請のあった事業は全件許可されていますし、条例で定められている許可を受けずに設置(9条1項)しようとしていた事例も私たちは把握しています。それは「まだ発電していないから」という理由で許されてしまっているようです。本来、 条例に書いてある通りなら罰金5万円(26条1号)で、しかも、その後5年間は事業ができない(10条2項4号)ことになります。
ーー行政がユルユルという感じでしょうか
坂:そういう面はあります。そもそもが性善説に則った条例制定をしているということが問題なのでしょうが、それにしてもあまりにも事業者の良心任せで、事業者のやりたい放題の状況が続いています。何回、市にかけあってもノラリクラリで、問題を解決しようという態度を一切見せてくれません。たまたま今回、刑事事件になり、全国区のニュースにもなったため、問題となった場所に関しては異例の判断が示されましたが、当該事業者以外にも問題案件は沢山あります。
■2021年エネルギー基本計画改定
坂氏らは、太陽光発電事業そのものを否定しているわけではない。現地の人々の生活を無視した事業、環境破壊や景観の悪化に通ずる事業の規制を求めている。
政府はエネルギー基本計画改定(2021年10月)で、2030年までに電源構成で再生可能エネルギーの比率を36~38%とすることを決定した。これは当初の目標だった22~24%から変更し、再生可能エネルギーの比重を高めるもの。
こうした大きな流れがあって、X社のような地元の事情は全く考慮しない業者が事業に参入してきていると言っていい。県や市の条例で食い止めるにも限界があり、問題の根は深い。