原発で安価な九州の電気 生まれる地域経済格差

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。

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 かつてほぼ同額だった国内の電力料金に差がでている。電力会社は軒並み値上げを経産省に申請したが九州電力は据え置きの方針だ。同社が他電源よりも安く発電できる原子力発電を活用するためだ。それを背景に、熊本県では半導体工場を複数の会社が新設する。原子力発電の有無が、経済活動や雇用にも影響を与え始めている。(元記事は&ENERGY・「九州の電気は安い-原子力発電で地域経済に差が生まれる」)

◆九州電、いち早く原発をフル稼働へ

九州電力川内原発1号機(2015年7月、撮影・石井孝明)

 九州電力は4つの原発を持つ。玄海原発3号機(118万kW)が2022年12月に発電を再開した。川内原発1、2号機(各89万kW)は運転しており、玄海4号機(118万kW)も今年2月には稼働を始める見通し。玄海1、2号機は廃炉したため同社は原発4基体制だが、それらがフル稼働となる。

 東京電力は福島第一原発事故後の、原子力規制体制の見直しと過剰規制、審査体制の混乱で原子力発電の稼働が遅れている。九州電は2015年7月に川内原発1号機を、東電の福島第1原発の事故後に最も早く再稼働した。

 原子力規制委員会、規制庁の規制は過剰設備をつけるというもので、2017年ごろまで規制審査は混乱していた。九州電力は行政に抵抗せず、言うとおりにして早期再稼働を進めた。規制当局の政策がおかしかったので、九州電力の対応は変だと当時の私は思った。しかし経営は結果が全てだ。現在のフル稼働の状況を見ると、九州電力の対応は正しかったと言える。一方で反原発派の妨害に対して、同社も立地自治体も右往左往せず、粛々と再稼働の手続きを進めた。

◆再エネをサポートするのが原子力発電

 原子力と再エネは対立するものと考える一般の人が多いが、そうではない。電力で再エネの発電に占める割合は21年で16%と全国平均の12%よりも大きい。日照時間が九州南部で長いために、もともと再エネ導入が多かった。

 そして原子力発電を使った方が、再エネによる発電の管理はしやすくなる。再エネは発電量が天候で左右されるが、原子力は巨大な電力をコントロールできる。ベースロードとして原子力で一定の電力を一日中確保し、需要が増えて太陽光発電のできる日中に増えた電力を再エネで賄うのが効率の良い発電方法だ。再エネと原子力を共に増やせば火力を減らせて、その結果、二酸化炭素も減らせる。

 電力は大量に貯められないため、発電した電力をほぼ同時に使わなければならず、需要と供給が原則として同量である必要がある。そのため、発電の管理を工夫しなければならない。各発電の性質を活かし組み合わせた方が良いのだ。供給の効率がよければコストは下がる。

◆九州の電力料金据え置き 生まれる他地域との格差

 九州電力は2011年の東京電力の福島第一原発事故前に、発電量の3割前後を原子力が供給していた。各社ともその後、原子力の稼働が低迷し、再エネの発電量の拡大、電力需要の全国的な縮小があった。九州電の発電比率は、かつての割合に国内10電力の中でいち早く戻るだろう。これは電力料金に効いてくる。

 電力各社は、ウクライナ戦争後の化石燃料価格の高止まり、原子力発電所の稼働の遅れ、円安などを背景に決算が軒並み悪化した。電力会社は支出の4~5割を、火力発電の燃料費が占めるという他産業にない企業構造をしている。急激な化石燃料の値上がりは、経営努力でなかなかカバーできない。

 そのため10電力中、関西、九州以外の電力会社は軒並み基本料金の値上げを申請した。日本では電力自由化を進めたが、家庭用を中心にまだ経産省が統制できることになっている。九州も22年度の収益は黒字を保つ見込みだが、減益の厳しい状況だ。それでも原発の稼働が通常に戻る見通しであることから値上げには動かなかった。

◆九州の安価な電力が半導体工場の建設の一因

 家庭用の世帯の平均の電力料金は1か月、平均世帯(3人)で月1万5000円ほどだ(総務省家計調査、21年度)。これが他地域では来年度値上げが認められれば月3000~4000円ほど増えると見込まれる。

 そして産業用の九州電力は1kWの産業用電力(高圧)の電力料金を10-12円にとどめている。現時点でのそれは関電で14~15円、東電で15~16円だ。東電は値上げを申請している。20円近くになる見込みだ。九州電の電力料金が東京や他地域の6割程度になれば、製造業にとって九州は魅力的な立地場所になるだろう。

 熊本県では半導体生産の世界最大手TSMC(台湾積体電路製造)の工場建設が進む。同社は日本国内で、熊本県内を候補にもう一つの工場の建設を検討している。またソニーも同県内に昨年6月に半導体の新工場を建設し、もう一つの建設を同県内で検討している。半導体が世界中で不足しているが、この経済環境で再び日本が生産拠点として注目されている。

 半導体は安定・廉価な電力供給を必要とする。熊本は豊富できれいな地下水があり、県などとの協力、九州大と熊本大などの地元大学と半導体産業が協力して工学系の人材を供給するなどの取り組みを重ね、1970年代から半導体工場が集積していた。そうした背景もあるが、両社の決定には安定的に供給され、安い、九州電力の電気が一因となっただろう。

しかし産業用電力は、米国(の大半)と韓国で1kWあたり6~7円前後、中国で4円前後とされる。まだ日本の方が電力料金では高い。

 ある家電事業を縮小し、海外生産を増やしているメーカーの幹部に昨年末に取材したが、関西と関東に工場が立地が集積してるが「電力の供給が不安定で、また値段が高いため、海外から生産を呼びもどせない」と話していた。しかし九州では事情は少し違う。

◆九州人は利益をたっぷり出し、日本人を目覚めさせて

写真はイメージ

 原子力に関しては、東電の事故の後で感情的な反発が渦巻き、政争の道具にもなってしまった。冷静な議論を求める人、ビジネスパーソンは、原子力を急に止めると電力供給の不安定化と料金高騰で経済に悪影響が出ると指摘していた。その意見が正しかったことが証明されたわけだ。

 一部の反原発を唱えた人やメディアの多くは、原子力をめぐる今の現実を見向きもせず、自分たちの発言を反省することもなく、今は無責任に「統一教会が!」と別の問題を喚いている。経済を真面目に考えたことも、ビジネスで成果を上げたこともなさそうな人たちだ。

 九州の経済人や各企業は、この電力での安さと安定供給の強みをたっぷり利用してほしい。地域経済格差で九州が勝ち組になれば、経済音痴の人たちも、政治的に反原発を無責任に騒いだ人も、エネルギーや原子力についての考えを少しは変えるかもしれない。また影響力が減るかもしれない。ノイジーマイジリティーが自分の不明を恥じて静かになれば、日本のエネルギー政策の正常化、そしてその結果としての経済成長が進むだろう。

 ※元記事は石井孝明氏のサイト「&ENERGY」に掲載された「九州の電気は安い-原子力発電で地域経済に差が生まれる」 タイトルをはじめ、一部表現を改めた部分があります。

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