三浦瑠麗氏の陰に隠れる20兆円国債増発リスク

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。

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 三浦瑠麗さんという女性評論家がいる。右からも左からも嫌われているようだが、なぜか政界とメディア界のおじさんたちに好かれている。その三浦さんの夫が経営する投資会社が、太陽光発電をめぐる10億円の投資トラブルを起こしてしまい、東京地検特捜部に自宅の六本木のタワマンを捜査された。その結果、三浦さんが袋叩きになっている。SNSでそのタワマンでのセレブ生活を公開していたようで、批判を受けるのも当然だろう。(元記事は&ENERGY・「三浦瑠麗ではなく、GX国債20兆円増発を警戒せよ」)

◆御用評論家・三浦瑠麗氏のスキャンダル

一部の人々から人気の高い三浦氏(同氏インスタグラムから)

 私は他人を糾弾するのは好きではない。しかし、この人は菅義偉政権の成長戦略会議のメンバーで「荒廃農地の太陽光に対する転用の件について、ぜひやっていただきたい」(2021年6月の第11回会議)など、農地に太陽光パネルを敷く政策、太陽光の重視を主張していたのであるから、私としては看過できない。議事録を読んでいた私は、この人が太陽光発電を強く推していたことに当時から気づいていた。この人の夫が太陽光関係の投資をしていたことも知っていた。利害関係者なのに、堂々とこうした発言をするのは困った人であり、政府も問題だと思っていた。

 私は再エネ応援団のつもりだ。しかし太陽光を熱く語る人たち、例えば小泉進次郎、橋下徹、小池百合子などの人々は、なぜかうさんくさい。なぜだろうか。太陽光発電という技術がかわいそうだ。

 ただし、菅内閣が早期に退陣(2021年10月)してしまったので、この成長戦略会議は21年9月に終わってしまった。同年6月に出された提言では、検索すると太陽光発電の言及が4か所しかない。太陽光が、補助金の支援で作られすぎて、経産省はその抑制に動いている。三浦さん一人では、国を動かせなかったということだろう。

 ただし、それよりも巨大な問題がこの会議の延長にある。岸田政権は昨年から急にGX(グリーントランスフォーメーション)と言い出した。1月23日からの通常国会の岸田首相の所信表明演説ではGXが経済政策の中心となり、①脱炭素、②エネルギーの安定供給、③経済成長-の3つを同時に実現する「一石三鳥」の取り組みとした上で、「GXという経済、社会、産業、地域の大変革に挑戦していく」と述べた。

 成長戦略会議は「GX実行会議」「新しい資本主義検討会議」と名前を変えた。三浦さんは政権交代でのメンバー入れ替わりで再任されなかった。新しい資本主義は何もコンセプトを打ち出さず、岸田首相もGXのことばかりを言うようになった。目玉政策を、国民に知らせないうちに変えた。そして政府は昨年秋から年末までの3か月のGX会議での短い議論で基本方針をまとめた。

 もともと菅政権の方が環境戦略に熱心だったが、小泉・河野両大臣の影響の強い環境省寄りの政策だった。ところが岸田政権は、経産省の予算を増やす政策に変えた。しかも、それを名目に大増税をする危うさをはらんだ政策だ。

◆危ういGX政策に岸田政権は動く

GX基本方針は曖昧な内容で、夢のようなことを言っている。

▶︎政府は2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロとする以前からの目標を掲げ続ける。

▶︎その実現のために原子力発電を活用する。しかし、それだけではないあらゆる方策を行う。

▶︎その実現のために今後10年間で官民合わせて150兆円の投資を行う。

▶︎企業の取り組みを促すために、二酸化炭素(CO2)の排出に負担を求める。

▶︎経済活動に「カーボンプライシング(CP、炭素価格)」を導入し、それを使って炭素排出に負担を求める。

▶︎政府が20兆円規模の「GX経済移行債(仮称)」を発行して民間の投資を後押しし、2026年度以降から段階的に導入するCPで得た資金を償還財源に充てる仕組みを検討する。移行債の発行予定は20兆円。

◆20兆円の環境国債は炭素増税とセット

 以上が、基本案では出されたが、CPもGX経済移行債も、それによる債券の負担の埋め合わせも、中身がまだ設計されていない。

 GX移行債が20兆円を予定し、その分の徴税もしっかり行うということは、炭素排出を名目に負担を経済に20兆円加えるということだ。それで150兆円の投資が誘発されるなら、これは社会を大きく変えるだろう。しかし、そんなうまく行くか疑問が残る。今の行政の能力では税金が効果的に使われることはないと私は諦めているからだ。今、公金支出が不透明と大騒ぎしているColabo問題を見れば、私の危惧も当然ではないか。役所が財源を持っても、ただのばらまきになってしまうだろう。

 さらに、こうした負担は日本の産業上のライバルである中国や韓国にはない。国際的な炭素税で一律負担を課すならともかく、日本企業の競争力を削ぎかねない政策だ。

◆表面的な出来事ではなく、背後の重大な問題を考える

正面から考えたいエネルギー問題(写真はイメージ)

 不勉強なメディアと野党は、このGX実行会議をめぐり、「原子力の復活」の論点ばかりを騒いでいる。そして新しく世論が関心を向けたエネルギーの論点は「三浦瑠麗さんの太陽光発電スキャンダル」だ。

 おそらく違うだろうが、岸田政権の内部の人々が悪知恵を働かせ、議論をずらすために、「原子力」と「三浦瑠麗」を持ち出しているのかと勘繰ってしまう。この増税20兆円の行方について、私は今後も取り上げるつもりだ。

 世論が三浦さんを「いじって」もよいが、そういう表面的な面白い問題を騒いでも、あまり意味はなさそうだ。難しくても重要なエネルギー・環境の問題を考えるべきだ。怪しげな政府の計画が、深い議論のないまま決められてしまう。エネルギー・環境問題では、そんなことが繰り返されている。変な騒ぎの裏を気をつけてみよう。

 ※元記事は石井孝明氏のサイト「&ENERGY」に掲載された「三浦瑠麗ではなく、GX国債20兆円増発を警戒せよ」 タイトルをはじめ、一部表現を改めた部分があります。

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