冷静になろう中居正広氏案件 伝聞証拠と守秘義務
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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タレントの中居正広氏(52)とフジテレビの元局員との間で性的な問題でトラブルが発生した件は、ネット上で中居氏批判が続いている。しかし、真偽不明の情報が独り歩きし、それが拡散されている状況。一度、冷静に報道を見直す必要がある。事件を報じる週刊文春を読むと、核心部分は本来証拠とならない「伝聞証拠」で説明されている上、当事者は守秘義務があり、何も語れないことから全面的に信用するのはリスクがある。
◾️週刊文春報道とネット上の声
週刊文春1月16日号は、元SMAPの中居氏のトラブルに関して以下のように伝えている。
(1)2023年6月、フジテレビの元局員X子さんは中居氏やフジテレビの編成幹部A氏を交えて複数人で会食をする予定で、中居氏の自宅に向かった。
(2)中居氏から連絡があり、他の人が来られなくなったので二人になるがいいかとメッセージが届く。
(3)X子さんは急に言われてもドタキャンはできないので自宅マンションに向かった。
(4)中居氏は自ら配膳し上機嫌であり、そこでX子さんは「仕組まれた」と察した。
(5)X子さんは意に沿わない性的行為を受けた。
(6)X子さんはすぐにアナウンス室部長だった佐々木恭子アナに相談した。その際、佐々木恭子氏は「大変だったね。しばらく休もうね」と言うだけであった。当時のアナウンス室長にも相談している。その結果、編成制作局長へ報告がなされた。
(7)X子さんの相談、申し出はフジテレビからは「業務外のことだから」と取り合ってもらえなかった。編成制作局長は「付き合っていたんじゃないの」と軽口を叩いた。
(8)こうして、事件は握り潰されることになった。
(9)A氏は長年、女子アナなどを接待要員として扱ってきた。事件当日、A氏はその場にいなかったが、何が起きるのかわかっていたはず。
(10)X子さんは警察に被害届提出も考えたが、示談交渉の末、中居氏が解決金9000万円を支払うことで合意が成立した。
(週刊文春1月16日号・中居正広 X子さんの訴えを握りつぶした「フジの3悪人」)
この報道を含め、同種の先行する報道から、ネット上ではフジテレビでは女子アナを接待要員として人気芸能人などに”上納”している、中居氏はX子さんの意に沿わない性的行為をしたが、示談に持ち込み、9000万円を支払って揉み消した、佐々木恭子アナはそうした性接待・上納システムを知っておりX子さん救済に動かなかったーーといった類の話が飛び交っている。
◾️事案の核心部分
(1)から(10)が全て事実であれば、上記のネット上での噂話の類も事実として受け入れられるであろう。ところが、中居氏とX子さんの間で示談が成立し、守秘義務があるため事情を知る当人から事実関係の確認ができない。
そのため、週刊文春では(1)~(5)についてはX子さんの知人の話として報じている。
「あの日、X子は中居さんからA氏を含めた大人数で食事をしようと誘われていました。…彼女にとって中居さんやA氏は仕事上の決定権を握る、いわば力関係が上の立場であり、断れるわけがない。彼女は『行くしかない』と、指定された中居さんの自宅マンションに行ったのです。…(その後、中居氏から二人になるとのメッセージ、(2)の部分)…急に言われてもドタキャンなんてできない。仕方なくマンションに行くと…ようやく事態を察した。しかし、時は既に遅し。密室で二人きりになった末、彼女は意に沿わない性的行為を受けてしまった。」(上記の同誌記事から)
これが事件の核心部分である。この点についてX子さんは記事中で「事件の内容は一切話せません」としている。
その後、中居氏とフジテレビがそれぞれコメントを発表した。中居氏のコメントから重要な部分をピックアップする。
(あ)トラブルがあり、示談で解決した。
(い)一部報道にあるような手を上げる等の暴力は一切ない。
(う)トラブルについて当事者以外の関与はない。
(え)トラブルはすべて自分の至らなさによるもの。
(のんびりなかい・お詫び)
両者の間にトラブルが発生し、示談で解決したという点は認めている。問題は(う)の「一部報道にあるような手を上げる等の暴力は一切ない」としている部分。示談によって守秘義務が発生しており、内容について「暴力は一切ない」と言うことはできない。そこで一部報道への言及の形にしたのは容易に想像がつく。
即ち、原文の「手を上げる等の暴力は一切ございません。」は一切の暴力はないという趣旨と考えられ、そうなると(5)の意に沿わない性的行為は少なくとも暴力を用いたものではないと主張していることになる。
守秘義務がある中居氏としてはギリギリ伝えられる範囲でコメントしたものであり、その表現からすれば「純粋に当事者の2人だけの間で発生したトラブルで、性的行為は暴力を用いずに行われた。そしてX子さんは同意しているように見えた。だが、トラブルになったのは自分の至らなさである」と言いたいのではないか。X子さんにとって意に沿わない性的行為であったと見抜けなかったこと、安易に自宅に招いたこと、など様々な意味を込めて自身の至らなさと言っているものと想像できる。
もちろん、あくまでも表現や他の状況から、筆者は中居氏がそう言いたいのであろうと考えているという話であり、それが客観的な事実であるとは言っていないことには留意願いたい。
◾️この件に関してフジテレビの関与は…
続いてフジテレビのコメントを見てみよう。
(ア)食事会には当該社員は会の設定含め一切関与していない。
(イ)当該社員は会の存在自体も認識しておらず、突然欠席した事実もない。
(ウ)一部週刊誌等の報道には事実でないことが含まれている。
(エ)出演者などステークホルダーとの関係性のあり方については改めて誠実に向き合う。
(フジテレビ・一部週刊誌等における弊社社員に関する報道について)
(ア)(イ)から、フジテレビ社員の関与は一切ないとしており、中居氏の(う)も含め、文春報道の(1)は誤った情報であるとしている。
(1)が否定されると、中居氏がフジテレビ社員が出席すると虚言を弄してX子さんを仕事であると錯誤に陥らせて呼び寄せて行為に及んだとも考えられるが、そうであれば、当然、自社を利用して欺罔行為を行い、社員を傷つけたのであるから、中居氏に事情を聞き、場合によっては刑事告訴へと動くであろう。その事情聴取すらなされていない(記事内にその旨が明記)ことを思うと、その可能性は高くないように思える。
そう考えると、X子さんが中居氏の自宅マンションに行ったのは仕事ではなく自ら行ったと、行為の外観から判断されても仕方がない。フジテレビとしては社員の関与がなければX子さんの私的トラブルであるから介入できない。もちろん、X子さんが受けた性的な行為が強制性交罪(当時)などに抵触する類のものであれば、「それは警察に行きなさい」とアドバイスをするものと思われる。
ところが、佐々木恭子アナらがそのようなアドバイスをした形跡はない。これを非常識と考えることもできるかもしれないが、編成制作局長が「付き合っていたんじゃないの」と「軽口を叩く」(本誌・前述の記事から)ということは、報告があった段階ではそのような行為の外観があったため刑事事件とはなり得ないという判断が当時の上層部にあった可能性は排除できない。
そのように考えると(6)(7)は組織の対応としては、常識的な範囲内ではないかと思われる。ただし、この件では関与がなかったものの、他のケースではA氏らが女子アナらを接待要員として連れ出していた可能性までは排除できず、そのため(エ)を加えたのではないか。
◾️示談金9000万円の信憑性
こうしてみると文春に掲載された上記のX子さんの知人の話の信憑性は揺らいでくる。そもそも示談金の9000万円も関係者からの話として出たもので、守秘義務のある当事者は話せないため正確な金額である保証はない。ところが報道での衝撃が大きすぎたためか、金額が独り歩きを始め「そんな大金を払ったのだから、相当ひどいことをしたに違いない」という話として広まっていった。
そもそも知人がこう言っていましたという話は刑事訴訟法上「伝聞証拠」と呼ばれ、証拠とはされない。
【刑事訴訟法321条】
1 第321条乃至第328条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。
要は「また聞きは基本、証拠にならないよ」という規定である。なぜ、そうなのかは単純な話で「PさんがQさんから聞いた話をした時に、その話が真実かどうか、Pさんに聞いても判明しない」から。真実かどうかを知るためには、話をしたQさんに直接聞くしかない。いくらPさんを問い詰めても「Qさんがそう言っていた」とまでしか言えないため、確認のしようがない。
文春の記事は裁判では証拠とならない伝聞証拠で中居氏を追い詰めている。これが裁判なら、中居氏は事実ではないとして真実を説明する、あるいはX子さんに直接聞くことができる。ところが本件では示談が成立して当事者に守秘義務が発生し、何も言えない。仮にX子さんの知人に話が間違って伝わっていた、知人が誤解していた、正確に伝えられなかったなどの事情があっても、X子さんは守秘義務があるため今となっては何も話せない。中居氏も同様である。報じる側としては記事にする前に中居氏に事実確認をするが、最初からノーコメントなのは分かっているために堂々と伝聞証拠を掲載できる。
こうしてX子さんの知人の話だけ、裁判なら原告だけの話、しかも真実性の担保がない伝聞証拠だけで結審し、中居氏悪人説、フジテレビ性上納制度説が確定した事実であるかのようにネット上を席巻することになる。
◾️リテラシーの観点から
筆者はこの件については報道されたもの以上の知識は有していない。週刊文春が報じた内容、伝聞証拠が真実であるかもしれないし、上記で示した中居氏が考えているであろうと、筆者が想像した内容が「当たり」なのかもしれない。分からない以上、中居氏、X子さんの両者から等距離にある位置から事案を見るのは当然である。
その状況で確実に言えるのは、現在のように中居氏が黙るしかない状況において魔女裁判のようにネットリンチにするのはリテラシーの観点から問題があるということ。
筆者は女性が性的な被害を訴え、男性側が否定する事案を多く取材してきた。当事者の話も聞いている。密室で、あるいは二人だけの状況で行われた事案で、女性の側が男性の主張と全く異なる事実を述べて男性が性犯罪者のように扱われる事案を数多く見聞きした。
そして、筆者が取材した案件に限って言えば、事実と全く異なることをあたかも真実であるかのように言う女性は全て精神的に問題を抱えて治療を受けていた、あるいは確実に受けた過去があるとされていたことを付言しておく。
確定していない情報を確定したかのように受け止めている人が多すぎる印象です。