中居氏と関わったから処分? フジ社員4段階降職

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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フジテレビは5日、元タレントの中居正広氏の女性トラブルなどに関与した元編成部長をはじめとする関係者への社内処分を発表した。元編成部長は4段階の降職と、1か月の懲戒休職とされた。処分理由は「中居氏と関わったから」という印象を与えかねない。中居氏サイドからの性暴力と呼ばれるような行為はなかったという主張がなされている中、第三者委の提言を受け入れざるを得ないフジテレビの苦しい立場を示す発表となった。
◾️4つの非違行為で処分
元編成部長はフジテレビなどが設置した第三者委員会(以下、フジ第三者委)による調査報告書ではB氏とされている。中居氏と元女性アナウンサー(同女性A)との間を取りもっただけでなく、過去に女性アナウンサーを接待要員のように使うなど、一連の問題で最前線に立っていた人物である。
そのB氏が会社に与えた影響を思えば懲戒解雇でも世間は納得したと思うが、下された判断は4段階の降職と、1か月の懲戒休職。サラリーマン人生においては「死刑宣告」とも言える処分ではあるが、会社には籍を残す形となった(出向などの可能性はある)。
フジテレビが認定したB氏の非違行為、すなわち処分の理由となった行為は4つに分けて説明されている。中居氏、石橋貴明氏の実名は出てこないが、フジテレビ側は両氏であることを明らかにしている(Sponichi Annex・フジ 中居氏トラブル関与の編成部長の処分を発表 4段階の降職と1カ月間の懲戒休職)。
(1)中居氏の依頼を受けて現金及びその他の見舞品を女性Aに届けた。また、中居氏の依頼を受けて弁護士を紹介した。それらは二次加害となり得る不適切な行為。
(2)スイートルームの会で、中居氏と男性タレント及び、女性アナウンサー2名を残し、中居氏からの退出の働きかけを止めずに退出した。その後、女性アナウンサー1人が中居氏からハラスメント行為を受けた。
(3)とんねるずの石橋貴明氏との会食に女性社員を誘い、その2人だけを残して他の参加者とともに退出した。女性社員は石橋氏からハラスメント行為を受けた。
(4)2020年、2023年に後輩の女性社員を食事に誘って、その場でハラスメント行為を行った。
上記の(1)~(3)の行為で4段階の降職、(4)の行為で懲戒休職1か月という処分とされた(フジテレビ・懲戒処分等について)。
◾️B氏処分理由の妥当性
ここで注意していただきたいのは、中居氏が関係するのは(1)と(2)のみである点。まず、(2)について説明しよう。ここで触れられているハラスメント行為とは、調査報告書によると以下。
「中居氏において、(筆者註・女性アナウンサーの)Q氏の膝や肩、鎖骨付近に手を触れる、Q氏の顔に自身の顔を近づける等の行動があったため、中居氏の機嫌を損ねないように手をどけたり、身体を離すなどしながら会話を続けることでやりすごした」(調査報告書公表版 p146)
ところが中居氏は「Q氏がこの飲み会の場にいたかどうかすら覚えておらず、まして横にいた女性の身体に触ったことなどはない」(同)と否定している。中居氏が否定するにもかかわらず、フジ第三者委はQ氏の供述は「相対的に信用性が高い」として「Q氏の供述内容どおりの事実があったことを認める。」(同)と断じた。
このように「推定有罪」で中居氏のハラスメントを認定し、それをB氏の処分の理由としているのである。もし、Q氏が虚偽を述べていたら、Q氏の思い過ごしであったら、処分は根拠を欠く。調査報告書を読む限り、実際に同席していた残る2人、タレントU氏と女性アナウンサーR氏はフジ第三者委の聴取には応じておらず、事実関係はQ氏の話に頼るしかないという極めて脆弱な立証である。
さらに、B氏にとっては、そのようなハラスメント行為の存在は仮にあったとしても止める術がない点を忘れるべきではない。自分の力が及ばないところで、起きたかどうかも分からない事案の責任を取らされて処分を受けることが果たして望ましい結果と言えるのかは微妙であろう。
B氏はどうすれば、この点による処分を免れることができたのか。U氏やR氏に「中居氏の行為には気がつかなかった。本当にあったかどうか分からない」と言ってもらえれば変わったかもしれない。あるいは、中居氏から退出を促された時に「女子アナが危険なので、僕はとどまります」と言えば良かったのか。
「そもそもこのような会をやるべきではない」との考えであれば、会社側は経費として認めていたようであるから、会社にも負うべき責任はあるはず。そうした点を考えると、非常に釈然としない処分理由である。釈然としない最大の理由は、フジ第三者委が認定した中居氏のハラスメント行為が本当に存在したかどうかが分からないという点に収斂されるように思う。
◾️故意なき行為で処分の不思議
続いて(1)を見てみよう。こちらは何らかの被害を受けた女性Aに現金及びその他の見舞品を届けた行為、そして、中居氏に弁護士を紹介した行為が「二次加害となり得る不適切な行為」というのである。
ところが、B氏は女性Aが上長に対してどのような被害を受けたと申告しているかを知らず、かつ、当時の女性Aの病状の程度及び心情等を認識していなかったというのである。ということはB氏は女性Aに対する加害の意思、故意は認められないということではないのか。フジテレビは故意なき行為を理由にB氏を降職処分にしたと取られても仕方がない。
こうしたフジテレビの処分は世間からの強い批判を意識して、法的には筋の通らないことでも処分してしまえという姿勢のようにも見える。極論すれば「中居正広に関わったから処分する」という感情的な処分のように思えなくもない。
中居氏側は「『性暴⼒』という⽇本語から⼀般的に想起される暴⼒的または強制的な性的⾏為の実態は確認されませんでした。」(第三者委員会に対する受任通知兼資料開示請求及び釈明要求のご連絡)と主張している。その点からは二次加害の前提となる一次加害の存在そのものを疑わせる。
B氏の処分は中居氏との関わり以外の部分も理由となっているので、(3)、(4)の部分を根拠に処分は維持できるとは思われるが、事案のキーパーソンである中居氏が「性暴力」の部分で異議を唱えている現状は考慮されなければおかしい。
この点について、フジテレビの清水賢治社長は「本調査は本事案が起こった以降の社内での対応について。その対応についての関係、どのような事実であったかを主に調査しています。本事案の内容については我々としては調査範囲外」と答えた(Sponichi Annex・フジ社長 「性暴力」巡る第三者委と中居氏側の相違は「本調査の範囲外」 フジ調査は「社内での対応」)。
◾️問題の根源にフジ第三者委の事実認定
フジ第三者委の設置目的が「本事案に関する事実関係及び当社の事後対応やグループガバナンスの有効性を客観的かつ独立した立場から調査・検証すること、調査結果を踏まえた原因分析及び再発防止に向けた提言を行うこと」(調査報告書公表版 p1)であるから、その判断を最大限重視しなければ、設置した目的が達せられないと判断されるおそれがある。そうなると、フジテレビとしてもフジ第三者委の判断は最大限に尊重しなければならない。
その上で、中居氏の「性暴力」をめぐる問題は関係ないという立場に立ち、中居氏とフジ第三者委との争いからは一歩引いた立場を取るというのが、フジテレビのスタンスと言える。処分の発表に「性暴力」という言葉を全く使わなかったのは、そうした苦しい立場ゆえと思われる。
このような非常に分かりにくい立場に立たざるを得ないのは、フジ第三者委の事実認定が絶対のものとして社内処分に直結したことが根幹にある。そして、その事実認定自体が、客観的証拠に乏しい供述に依拠し、判断が恣意的という点において、なお検証の余地があると考える。