逃げるフジ第三者委 説明できぬ「性暴力」認定

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 フジテレビなどが設置した第三者委員会(以下、フジ第三者委)は3日、調査報告書で元タレントの中居正広氏の性暴力と認定したことに関して、同氏側に対して今後のやり取りをしないことを回答した。これまでの「性暴力」の認定についての説明には疑問が残されたままとなった。当サイトは過去にもその点を指摘したが、今回、あらためて問題点を示すことで、フジ第三者委の事実認定における中⽴性・公正性の欠缺を明らかにする。

◾️やり取りを分かりやすく表現

写真はイメージ

 中居氏側がフジ第三者委に対して主張した最も重要な点は、調査報告書において中居氏が被害女性に対して「性暴力を行った」と断定した部分にある。これはWHO(世界保健機関)の定義に当てはめたものであるが、その一連のやり取りを抽象化すると、以下のようになる。

中居氏側:一般的に連想される“性暴力”とされる行為はなかった。WHOの極めて広い性暴力の定義を漫然と使って、性暴力と決めつけるのは名誉毀損だ(5月12日・第三者委員会に対する受任通知兼資料開示請求及び釈明要求のご連絡)。

フジ第三者委:株主やらスポンサーやらがグローバルだから、グローバルスタンダードのWHOの定義を使った(5月22日)。

中居氏側:WHO自体が、その定義を「暴⼒に対する刑事司法や⼈権の対応の代わりになるものじゃない」と言ってる。個⼈の責任の追及や、懲戒処分の法的基準ではないとWHOが言ってるにもかかわらず使っているのはおかしい(5月30日・貴委員会に対する再度の資料開示・釈明等要求のご連絡)。

フジ第三者委:前に言ったとおり。そちらとは考え方がかなり違う(6月3日)。

 上記のやり取りを見ただけで、フジ第三者委の回答が「正鵠を射る」ものから程遠いのはお分かりであろう。ステークホルダーがグローバルだからグローバルスタンダードであるWHOの定義を使ったという説明そのものが良く分からないが、それはひとまず措くとする。

 そもそも、WHOの定義は「こういうところで使うものじゃないよ」と定義を示した団体であるWHOが言っている。正確に記すと、「WHO の定義は公衆衛⽣上の予防や調査を⽬的とした概念であり、『公衆衛⽣アプローチは、暴⼒に対する刑事司法や⼈権の対応に取って代わるものでは』なく」(”The public health approach does not replace criminal justice and human rights responses to violence”:「World report on violence and health SUMMARY」4 ⾴)個別事案を判定するための法的指標ではありません。」(5月30日付け・貴委員会に対する再度の資料開⽰・釈明等要求のご連絡)となっている。いわば場違いな使用をした理由について、説明していない。

 フジ第三者委は、答えないというより、答えられないと見る方が妥当であろう。「考え方が違う」と言うのであれば、「『ここで使うものじゃない』というのを『使っていい』」と考えた根拠を示すべき。それを示さずに「あなた方とは考え方が違う」とだけ述べて、中居氏の名誉を毀損したことの責任はないと言わんばかりの回答に納得できる人がどれだけいるか、という話である。

※WHOの性暴力(Sexual violence)の定義:「強制力を用いたあらゆる性的な行為、性的な行為を求める試み、望まない性的な発言や誘い、売春、その他個人の性に向けられた行為」(フジ第三者委・調査報告書公表版)であり、その原文は「Sexual violence is defined as:any sexual act, attempt to obtain a sexual act, unwanted sexual comments or advances, or acts to traffic, or otherwise directed, against a person’s sexuality using coercion」(WHO・World Report on Violence and Health(2002年))となっている。

◾️スイートルームの会の認定はセクハラ

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 ここで中居氏側が指摘していないフジ第三者委の主張のおかしさを示そう。あまり知られていないが、調査報告書は中居氏に対して、性暴力であるとした行為とは別の行為をセクハラと認定している。

 2021年12月18日に行われた、いわゆる「スイートルームの会」でのこと。この時に報告書では、女性アナウンサーのQ氏は、中居氏から「膝や肩、鎖骨付近に手を触れる、Q氏の顔に自身の顔を近づける等の行動」があるとし、「中居氏の機嫌を損ねないように手をどけたり、身体を離すなどしながら会話を続けることでやりすごした」(調査報告書公表版 p146)と証言。

 中居氏は、そのようなことは酒に酔っていて覚えていないとしたが、フジ第三者委は「当委員会としては、Q氏の供述内容どおりの事実があったことを認める。当該事実はQ氏の意に反する性的な言動であることから『セクシュアルハラスメント』と認められる。」(以上、報告書p146)と断じた(参照・中居氏セクハラ認定の欺瞞 ”革命裁判”か)。

 フジ第三者委は、中居氏の行為を「Q氏の意に反する性的な言動」と認定しているのである。そうであれば、上記の同委が示したWHOの定義「強制力を用いたあらゆる性的な行為、性的な行為を求める試み、望まない性的な発言や誘い、売春、その他個人の性に向けられた行為」に抵触するのは明らか。

 ところが、この行為を「性暴力」とせずに「セクシュアルハラスメント」と認定しているのである。フジ第三者委は、ステークホルダーがグローバルだからグローバルスタンダードの定義を使ったとしているのであるから、この場合も、そこから外れることはない。

 中居氏の被害女性に対する行為(2023年6月2日、中居氏の自宅マンション)ではWHOの定義を基準にして認定し、スイートルームの会での行為にはWHOの定義を基準にせず、性暴力とは認定していない。その時点で事実認定における中⽴性・公正性の欠缺が疑われる。

 WHOの基準を用いたのがステークホルダーがグローバルだからグローバルスタンダードを用いたという説明は、他の行為での基準には用いていない。それはなぜか。「グローバルスタンダードを用いた」以外に理由があるはず。それを、ぜひとも明らかにすべきであるし、中居氏側は求めていくべきと考える。

◾️フジ第三者委の思惑を推理

 なぜ、フジ第三者委はそのように事案によって基準を変えたのか。その点については、以前に記事でも触れた。一部を抜粋しよう。

 …ここでもWHOの定義を持ち出して『性暴力』とすれば、中居氏は2度の性暴力を行ったことになってしまう。

 …そして、その行為とはスイートルームの会での『Q氏の膝や肩、鎖骨付近に手を触れる、Q氏の顔に自身の顔を近づける等の行動』と(筆者註・多くの人は)知ることになる。(え、これが性暴力?)と疑問に感じ、『そもそも性暴力とは有形力の行使である暴力よりも遥かに広い範囲で…』と第三者委の中居氏が自宅マンションで女性Aに性暴力を行ったと認定した”手品”のタネがバレてしまう。

 おそらく、そうしたことから性暴力の濫発を避け、セクハラと認定したのではないか。事実認定が怪しい上に、その評価が自宅マンションでの『性暴力』認定をより効果的なものとするために恣意的に行われているとの疑いは払拭できない。(参照・中居氏セクハラ認定の欺瞞 ”革命裁判”か)。

 以上はあくまでも私見であることはことわっておく。ただ、このように思われても仕方がない調査報告書の内容であるし、また、その後の中居氏側とのやり取りでもある。

◾️弁護士法第1条をよく読んで

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 竹内朗弁護士らフジ第三者委にかかわった弁護士は、弁護士法第1条をもう一度読んでいただきたい。

【弁護士法】第1条

弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。

 竹内氏らに申し上げたいのは、弁護士として恥ずべき行為を行った認識がないとすれば、弁護士バッジを返上した方がいいということである。

 中居氏側はこうした第三者委員会という公正で中立な機関という外見を借りて行われた行為を厳しく追及すべき。それは中居氏本人だけでなく、社会正義の実現のためにも行うべきことと言える。

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