ジャニー喜多川氏の性犯罪の告発に沈黙する日本メディア”強者”に阿る体質

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 ジャニーズ事務所のジャニー喜多川氏が2019年7月9日に他界した。日本を代表する数々のアイドル・タレントを育てた功績は誰もが認めるところである。しかし、一連の報道を見ていると、彼の生前の性的スキャンダルが全く出てこない。英BBCは訃報に寄せて、ジャニー喜多川氏の生前のスキャンダルを日本の報道を紹介する形で報じているのに対して、日本のメディアの沈黙ぶりは異常に映る。

■ジャニー喜多川氏を告発した北公次氏の「光GENJIへ」

 若い人はご存知ないかもしれないが、ジャニー喜多川氏はジャニーズ事務所を運営する中、タレントやタレント候補の少年に性的な行為を強要をしていたと多数告発されている。そのきっかけとなったのが、元フォーリーブスの故北公次氏の著書「光GENJIへ」である。

 1988年に出版された同書では生々しい性的なやりとりが明らかにされた。北公次氏は同性愛者ではなく、全くそのような考えがなかったのに、意思に反してジャニー喜多川氏に強制的にわいせつな行為をされ、その後もそのような行為を強要されていたという。今の時代ならジャニー喜多川氏は準強制性交罪(刑法178条)で刑事責任を問われるであろう(当時の準強姦罪は対象が女性のみだったため、準強制わいせつ罪と考えられる)。

 北公次氏に続いて、他のタレントたちも次々と事実を明らかにし、ジャニーズ事務所は一部を名誉毀損などで訴訟を提起したようだが、敗訴したと伝えられている。いずれにせよ、ジャニー喜多川氏が刑事責任を問われることはなかった。

■ジャニーズ事務所を前に沈黙するメディア、報道の二重基準

ジャニーズ事務所の前に一斉に沈黙するメディアの情けなさ

 ジャニー喜多川氏の偉大な功績は認めるとして、その一方でこうした犯罪行為の告発がなされていたことは、彼の人生を語る上では必要なことであろう。僕は北公次氏の著書を読んだが、その内容が全くの嘘偽りであるとは到底思えない。それなのに週刊文春以外のメディアがこのことに沈黙を守り続けたのはなぜなのか。

 答えは簡単、ジャニーズ事務所を恐れたということであろう。特にテレビ局が全くこの件に触れないのは、要はジャニーズ事務所との関係が悪くなり同事務所の所属タレントが番組に出演してくれなくなったら致命的な損失を被るからで、これはスポーツ新聞も同様と思われる。

 一般紙も沈黙する理由はない。加計学園などの問題では安倍首相に「国民の納得が得られるよう、国会できちんと説明をしなければいけない」という趣旨の社説を掲げた朝日新聞が、ジャニー喜多川さんの重大な犯罪が成立すると思われる事案に「説明しろ」と迫らないのは不思議と言うしかない。政治家と違って芸能人やその関係者は特別な保護の対象になるとでも言うのか。被害者の気持ちは全く考慮されないか。まさに二重基準そのものである。

 官房長官の記者会見で「事実に反する質問はしないで」と要望が出されたら、検証記事を延々と掲載し「権力を監視し、政府が隠そうとする事実を明らかにするのは報道機関の使命だ」と社会的使命を盾に自社の記者の反社会的な振る舞いを擁護する社説を掲げた東京新聞も「同じ穴の…」の類。重大な刑法犯であっても、相手次第で見て見ぬふりをするのか。

■性犯罪の被害者への思いに欠けるメディア、強者に阿る体質

 スターになることを夢見てジャニーズ事務所に入り、強制わいせつの被害を受けた少年たちへの、やり場のない悔しさ、無念さにメディアとして何の思いもないのだろうか。

 このようなメディアに対して日本国憲法は「報道の自由」を保障している。自由とは何とも効率の悪い代物ではないか。報道の自由に守られて相手が何もしてこない政府・与党には言いがかりのような文句をつけ、下手に報じたら報復をしてくる強者、権力者には阿る姿勢を続けるメディアには国民もウンザリしているに違いない。メディアが持つ様々な既得権こそ見直す必要があると、僕は思う。

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