岡田有希子さん事故写真1面掲載 新宿駅事件との共通性

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 新宿駅南口で1月6日午後、男性が自殺する事件があり、その様子を写真撮影しSNS等にアップする事態が相次いだ。誰もが情報発信者になれる時代、全ての人にモラルが問われる時代になった。

■自殺者の撮影は死者の尊厳を傷つける行為

倫理観を問われる時代

 報道によると自殺があったのは午後0時30分頃で、国道20号(甲州街道)にかかる歩道橋からマフラーのようなもので男性が首を吊ったとされる。救急隊員が駆けつけて現場はシートで覆われたが、それ以前にスマートフォンなどで撮影された写真がツイッターなどにアップされた。

 これに対しては「信じられない」「写真を向けること自体、人としておかしい」といった趣旨のコメントが並んだ。僕もそうしたコメントに100%同意する。

 自ら命を絶った人の姿にレンズを向けるのは亡くなった人の尊厳を傷つけるものであり、しかもそれを公開するなど倫理的に許されない行為だと思う。アメリカの人気you tuberが富士山麓の青木ヶ原樹海での自殺者の遺体を撮影した動画をアップし、それに対する非難が殺到したのは記憶に新しい。

 日本人は死に対して特別な感情を抱く。死者にムチ打つ行為は受け入れがたいものとされ、「死ねば誰でも仏になる」というメンタリティーは多くの人が共通して持っているのではないだろうか。

■1986年アイドル歌手の事件で問われたモラル

 こうした自ら命を絶った人の写真を公開することはメディアでもあった。アイドル歌手の岡田有希子さんが1986年(昭和61)4月8日、ビルから飛び降り、自ら命を絶った。翌9日、報知新聞(現スポーツ報知)は道路にうつ伏せに倒れ、血が流れ出ている岡田さんの写真を1面で掲載。たまたま現場に居合わせた同紙の芸能担当記者が撮影したものであるという。

 当時、日刊スポーツ入社2年目だった僕は、その紙面を見てショックを受けた。スポーツ新聞はセンセーショナリズムで部数を伸ばしてきたのは事実だが、(このようなことまでが許されるのか)(岡田有希子さんの尊厳を踏みにじる行為ではないのか)という憤りを感じたのである。

 案の定、報知新聞の報道姿勢は、他の媒体からの批判の対象となった。以後、スポーツ新聞でそのような写真が掲載されることは、なくなったように思う。

 ただ、メディアに対する僕自身の不信感はこのあたりから芽生えていた。(そこまでして新聞を売りたいか)(他者の犠牲の上に我々の商売は成り立っているのか)という思いは、その後もずっと心の奥底に残り、そのことも定年前に日刊スポーツを去る理由の1つになったのは間違いない。

■誰もが情報発信できる時代

 新宿駅南口での出来事については、そういう時代なのだと思う。SNSがそれほど発達していなかった平成の初期は、一般の人が大衆(マス)に向けて情報発信することなどあり得ず、情報発信はメディアが独占的に有する権益であった。

 それが、今は誰でも簡単に世界に向けて情報発信ができる。だからこそ、かつてメディアに求められた倫理が、一人ひとりに対しても求められるのである。今風に言えばネットリテラシーとか、メディアリテラシーというものである。

 僕もこのHPで情報発信をしているわけで、そういう倫理観は持たなければならないと思う。写真だけでなく文章でも、人を不快にしたり、名誉を傷つけたりする表現は厳に慎まなければならない。それが情報発信という手段を持つ我々に課された使命である。

 新宿駅南口の事件を通じて、あらためて情報発信の難しさを感じさせられた。

"岡田有希子さん事故写真1面掲載 新宿駅事件との共通性"に4件のコメントがあります

  1. MR.CB より:

    松田さんのタイムリーな話題をいつも楽しみに読ませていただいています。毎日新聞は普段購読していませんので、同社の司法制度、とりわけ「保釈のあり方」についてのこれまでの論調は知りません。記事にあったような御都合主義的な報道であるのなら、朝日と同様にけしからんと思います。まあ日本の大手メディアの報道は、タブロイド紙と然程差はないと日頃から呆れております。
    むしろ法の知識を持ち得ない小生には単純に、ゴーン氏にとって合計15億円(10億円+5億円)という保釈金の額が適当であった否かだと思ってしまいます。ゴーン氏の金融資産がどれだけあるかわかりません。ただ全額没収されても、レバノンで彼が自由気ままな生活を諦める十分な額ではなかったはずです。
    事件後、報道では欧米並みにGPS装置を装着して監視することなど、今更のように議論されています。少なくとも弁護団の責任問題などメディアが喜びそうな方向にだけは進んで欲しくないと祈っています。

    1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 matsuda より:

      >>MR.CB様
       コメントをありがとうございます。
       毎日新聞はゴーン被告の保釈に関する報道はひどいですね。メディアがこれでは信頼を失うのは当然だと思いましたし、特に毎日新聞は間も無く日経に抜かれると言われていますから、終わりが近いように感じます。

       おっしゃる通り、ゴーン被告の15億円の保釈金は金額的に問題はあると思います。出廷を保証するための金額としては不十分だったのは、今回の件で明らかになりました。こうなってみると、早くから証拠隠滅の可能性を危惧していた検察の判断は非常に的確だったように感じます。

       GPS装着は個人的にはいい考えだと思います。これまでは人権問題になるため反対の声が強くなることが予想されていましたが、今回の件で流れは変わるかもしれません。

  2. 山口 秀明 より:

    おはようございます。
    マフラー自殺の件はネットニュースで知っていましたが、それをスマホで撮って配信していたとは知りませんでした。酷いです。人間性を疑います。
    今、見たく無くても勝手にSNSで写真が見えます。私がショックだったのは日本人がISに殺されて首を切られた写真がFBの友人が挙げたのです。直ぐにスマホを投げました。暫くFBを見ませんでした。そして、見たくない写メを挙げるのは止めて欲しいと書きました。以後そんな写真は無くなりましたが、貴殿が云われる誰もが発信者になると言う事を、モラルを持つ言う事の大事さを感じます。
    佐渡市長選が面白くなっています。(他人事では有りませんが)

    1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 matsuda より:

      >>山口 秀明様

       コメントをありがとうございます。

       昭和の時代には考えられなかった、誰もが情報発信者という時代になりました。情報発信者としてのモラルが確立される前に時代が動いてしまったという感じでしょうか。新聞社がそうしたモラルを持っていませんから、個人に持てというのも難しいものがあるとは思いますが。

       佐渡市長選、投票権はありませんが、注目しています。佐渡市民が最善の選択をされることを祈るばかりです。

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