新型コロナが招く台湾映画の黄金期

The following two tabs change content below.
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

京都産業大学外国語学部中国語学科、淡江大学(中華民国=台湾)日本語文学学科大学院修士課程卒業。1998年11月に台湾に渡り、様々な角度から台湾をウオッチしている。

■1990年代以降の停滞から2000年代の復興へ

吳震亞『BRA太子』(2019)、主人公を追う殺し屋を演じる。リハーサル中の筆者(提供:葛西健二氏)

 ところが1990年代以降、芸術性重視に偏った台湾映画は国内の観客を集めることができず、2000年にはわずか10本しか作品が撮られないほどにまで台湾映画市場は落ち込みました。

 この落ち込みを経験した後、ドキュメンタリーの手法によってかつての台湾ニューシネマのように台湾社会を映し出す作品が出現し、注目を集めるようになってきました。劉芸后『私角落』(2001)、呉乙峰『生命』(2004)等などです。

 これに加え若手監督達によってエンターテイメント性を重視した作品が製作されるようなり、人々の目は再び台湾映画へ向けられていくようになります。その中の1本、陳映蓉『國士無雙』(2006)には、私も主要登場人物の一人を演じています。

 2008年、台湾映画は再び息を吹き返します。魏德聖は日本の台湾引き揚げによって引き裂かれた日本と台湾の人々を物語とした『海角七號 (海角7号君想う、国境の南)』を製作、台湾国内で大反響を呼びました。チケット売り上げは5億3000万元(約19億円)に達し、台湾映画史上最高収益を記録しました。

 その後、魏德聖は1930年に起きた台湾先住民による抗日武装蜂起霧社事件を克明に描いた『賽德克巴萊 (セデック・バレ)』(2011)、1931年に甲子園の高校野球大会で準優勝をした嘉義農林野球部の実話による青春ドラマ『KANO』(2014)も多くの観客を集め、日本をはじめ、海外でも上映されました(私は両作品に出演しています)。

 また他にも90年代を舞台とした青春映画『那些年,我們一起追的女孩 (あの頃、君を追いかけた)』九把刀(2011)、台北の歓楽街艋舺での抗争劇をリアルに描く鈕承澤の『艋舺 (モンガに散る)』(2010)等、台湾国内だけでなくアジアを中心とした海外でのヒット作が続きます。そして陳玉珊の現代学園コメディ『我的少女時代 (私の少女時代)』(2015)の国内大ヒットは中国大陸へも及び、中国大陸で異例の爆発的人気を呼びます。同作品の世界でのチケット売り上げは25億元(約90億円)に達しました。台湾映画はその後も質の高い作品を生み出していきます。

■国民党政府の政治的弾圧の歴史を描く作品も

 2019年には台湾産のホラーゲームとして海外でも話題となった「返校」を徐漢強が映像化、1960年代戒厳令下の高校での禁書読書会迫害をテーマとしたこの作品は、公開わずか3日間でチケット売り上げが6700万元(約2億4000万円)を超え、2019年度の興行成績は2億6000万元(約9億3000万円)と高い水準に達しました。金馬獎では視覚部門で最優秀賞を獲得するなど5部門でトロフィーを獲得しました。

 同作品はホラー・ファンタジーサスペンスとして観客を惹き付ける物語が展開されていきます。そして戒厳令下での国民党政府による政治的弾圧(白色テロ)という歴史を若い世代が再認識する契機としても高い評価を得ています。

 同年の鍾孟宏『陽光普照 (ひとつの太陽)』は、家庭の崩壊と再生を描いたヒューマンドラマ、観る者の心を打つ内容と主人公を演じる陳以文の高い演技力が大きく評価されました。この作品は同年第56回金馬獎にて11部門にノミネートされ、最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞等5部門で最優秀賞を獲得しました。

 その後、同作品は第93回アカデミー賞のノミネート作品として国際長編映画賞の最終候補に選出されました。残念ながらアカデミー賞のノミネート最終候補入りは果たせませんでしたが、昨今の台湾映画界の活況と快進撃を表していると思います。

 ドキュメンタリー作品もクオリティの高いものが継続的に作られています。近年では、アスリートの陳彥博さんの極地マラソンに挑む姿を記録した黃茂森『出發』(2019)が同年チケット売り上げ第10位、台湾東部の台東でのボランティアと人々の交流を記録した謝欣志・陳芝安『如常』は心に滲みる叙情的作品として話題となり、同年売り上げ第13位となりました。自分達の社会を見つめるドキュメンタリー作品に台湾の人々が高い関心を示していることが窺えます。

■台湾映画の更なる飛躍と黄金期の継続を願う

 近年上映の台湾映画は以前のように芸術性に重きを置きすぎず、エンターテイメント性も存分に取り入れ観客を飽きさせない作品となっており、あまり台湾映画に馴染みがない人でも楽しめる仕上がりになっています。

 特に『無聲』は、多くの人が「これは見応えがある」と口にする作品です。私もこの作品の持つ緊張感、意外性に久しぶりに「これは本当に面白い台湾映画だ」と感じました。またホラー作品は台湾独自の風土風習を活かした「ドロドロとした」怖さを振りまく作品が若い世代を中心に「台湾ホラー」という新ジャンルとして好評を得ています。

 昨年度は新聞やテレビ等台湾メディアが台湾映画を取り上げる機会が格段に増えました。そして普段はハリウッド映画一辺倒の友人や知人からも台湾映画を久しぶりに観に行った、といった声が聞かれ、中学時代から台湾映画を愛し、その気持ちで台湾映画界と関わってきた私は「台湾映画の黄金期到来か」と嬉しく感じています。

1ページ目へ戻る】

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です