香川照之氏”銀座ご乱行” 犯罪は成立するか

The following two tabs change content below.
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 俳優の香川照之氏の銀座の高級クラブでの”ご乱行”に対して当初はネットでも庇う声もあったが、現在は批判一色の状態になっている。犯罪者のように扱う記事も出ているが、犯罪が成立するのかは難しいところ。私刑のような感情的な批判ではなく、伝えられる範囲内で香川氏の行為を評価する。文章の最後で、この件に関して私見を述べる。

■個室でホステスの下着剥ぎ取る

香川照之氏(同氏ツイッターから)

 まずは香川氏が行った行為について簡単に説明しよう。第一報は週刊新潮2022年9月1日号。それによると、2019年7月、香川氏は銀座の高級クラブを4人で訪れ、個室で4人のホステスと飲食をした。その際、以下の行為を行ったとされる。

・隣に座った美麗さん(仮名)の服の中に手を入れ、ブラジャーを剥ぎ取った。

・剥ぎ取った下着を同行の客3人に手渡し、全員でその匂いを嗅ぎ、卑猥なことを言った。

・美麗さんにキスをし、服に手を入れ、乳房を直接揉むなどして弄んだ。

・いったん、個室から退出した美麗さんが携帯電話と名刺入れを取りに戻ったのを機に、再度、隣に座らせ、再びブラジャーを剥ぎ取った。

・若手の歌舞伎役者にビデオ通話し、美麗さんや剥ぎ取った下着を映した。

(デイリー新潮・香川照之による性加害 「胸を直に触り、キスもしていた」同席者が証言から)

 これに対し、ひろゆき氏はツイッターで「キャバクラなど風俗は、性的被害や嫌な思いをする事で高い給料が貰える仕事です。セクハラが嫌なら風俗で働くべきではないです。…」(2022年8月27日投稿)とツイートした。

 さらに、同氏のYouTubeチャンネルでも「ある程度、性的なものを売ってて、それで金もらってるんでしょ? 辞めたら? 基本的に僕、キャバクラってそういう場所だと思ってます。…本当に違うのであれば、ママが止めてるはずなんですよ。要は本当はやっちゃいけない行為、例えば本番行為をやりだしたら、ママが止めているし、警察も呼ばれていると思うんですよ。…」(ひろゆきのマインド・【ひろゆき】※炎上覚悟で言うわ※ 香川照之 銀座ホステスセクハラ被害は正直●●です【 切り抜き 2ちゃんねる 思考 論破 kirinuki きりぬき hiroyuki】)と話した。

■ひろゆき氏に噛み付いたジャーナリスト

 ひろゆき氏の発言に対して、フリージャーナリストの片岡亮氏が噛み付いた。香川氏の行為について「…聞くに堪えないわいせつ事件だ。こんなものは実質的に強制わいせつ事件に相当する被害であり、キャバクラだろうが風俗だろうが許されない行為だ。」(現代ビジネス・香川照之問題、「キャバクラ嬢は〈性的被害〉に遭うことでカネを稼いでいる」論のウソ)とした。

 片岡氏は直接、香川氏の行為を犯罪とは断定していない。犯罪被害に等しい被害を受けているという微妙な言い方をしているが、読み手からすれば香川氏が犯罪を実行していると批判しているに等しい感想を抱くであろう。こうした安直とも思える批判が国民を感情的にさせ、触発された人々による攻撃が延々と続く事態を我々は何度も目撃してきた。

 香川氏の行為は許し難いものであるとしても香川氏の言い分にも耳を貸さないと事件の本質から離れ、私刑のような攻撃が続くことになりかねない。もちろん、香川氏が今の状況で詳細な事情を語るとも思えないが、感情に任せて罵詈雑言を浴びせるのではなく、報道されている範囲でもいいので行為の適切な評価をするのがメディアの務めと考える。

■犯罪不成立の可能性

 私見であるが、香川氏の行為は犯罪が成立する可能性はゼロではないものの、不成立の可能性もかなりあると考える。それを説明するには、元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士のコメントが参考になる。

 「同意や承諾がなくホステスさんが突然そのようなことをされたなら、理屈のうえでは刑法176条の強制わいせつ罪が成立し、6カ月以上10年以下の懲役罪が科されます。要件として暴行または脅迫を用いることがあり、今回は暴行に当たると考えられます。…」(デイリー新潮・鬼の形相でホステスの髪の毛をつかみ… 香川照之、女性への暴行の“新証拠”を入手)。

イメージ写真

 この発言で注目してほしいのは犯罪成立のための前提条件が付されていること。つまり、言及した犯罪成立は、同意や承諾がない場合に限っての話をしたに過ぎない。

 香川氏は銀座の高級クラブとはいえ個室でサービスを受ける場合は、ある程度の性的なサービスは黙認されるという認識があったと考えられる。度を超えたら店の人に止められるが、止められない限りはホステスも接客の一つの形態として、嫌がるそぶりを見せながら容認するという行為に出ていると誤信していた可能性はある。

 このように被害者の同意に関する行為者の側の錯誤があった場合、被害者が同意したとする「表示の認識に関する錯誤は、違法性阻却事由の錯誤として、場合によって故意(学説によっては故意責任)を阻却する。」(基本講義 刑法総論 齋野彦弥 新世社 p130)とされる。故意が阻却されれば犯罪は成立しない。

 香川氏の事件ではそのあたりの香川氏サイドの詳細な言い分は明らかにされておらず、そのため若狭氏は「同意や承諾がなくホステスさんが突然そのようなことをされたなら」と前提をつけて判断の範囲を限定したのであろう。

■個室に戻ったホステスの行為の評価

 仮に美麗さんが香川氏を刑事告訴した場合、故意の成立が最大の焦点になると思われる。香川氏は上記のような主張をして故意の成立を否定するのは間違いない。

 一方の美麗さんは強制わいせつとされるような被害を受けながら、携帯電話と名刺入れを忘れたとして個室に戻り、香川氏の隣に座るように言われてそのようにしている。強制わいせつという重大な犯罪の被害に遭ったとするのに、再び個室に入り言われるがままに隣に座れば、同様の被害に遭うことは十分に予想される。スタッフに携帯電話等を取ってきてもらうなどの方法もあるのにそうしないのは、香川氏の行為に消極的にではあるが同意していたとみなされる可能性はある。

 そうした一連の状況を考慮すれば、香川氏が黙示の合意があると誤信するのも仕方がないと判断されるかもしれない。当然、警察は告訴を受理しない。普通に考えれば「店の中の私人間のトラブルに警察は介入できません」と言われて終わる。

 美麗さんは香川氏を告訴どころか、損害賠償請求もかけていないようである。もし、提訴するなら不法行為に基づく損害賠償請求。その場合、美麗さんが権利又は法律上保護される利益を侵害されたとして香川氏の故意、もしくは過失を証明しなければならない。上記の事情を考えると簡単ではない。

 それよりも店の管理者であるママが香川氏の行為を止めなかったことで香川氏が店では許される行為と誤信してわいせつな行為を実行したと考え、雇用なのか業務委託なのか分からないが、契約関係にあるママによる美麗さんに対する債務不履行であるとして損害賠償を求め提訴するのはごく自然な流れと思える。

■とはいえ…吐き気を催すレベル 香川氏の行為 

舞台は銀座(イメージ写真)

 香川氏から詳細な説明がない状況では、ひろゆき氏のような声は小さくなり、私刑のような批判一色となるのはある意味、分かりきったことである。

 メディアはそうした事情も報じないと香川氏に行為の責任以上の責任を負わせることになりかねない。我々には明らかになっている状況から、香川氏の行為を適切に評価することが求められている。少なくとも「犯罪が成立」「香川氏は犯罪者」などと感情に任せた根拠の薄弱な主張は口にすべきではないし、口にするなら根拠を明確に示すべき。

 最後にこの事件に関する私見を述べておく。香川氏の行為は犯罪としては不成立であると思うのは、ここまで述べた通り。ただし、倫理的に許されるかと問われれば、許されないと言うしかない。同世代の男性から見ても、吐き気を催すほどのレベルの行為である。

 何より不快なのは、わいせつな行為をしたにとどまらず、ことさら女性の尊厳を傷つける行為に及んでいる点。ブラジャーを剥ぎ取った後、仲間3人で順番にそのにおいを嗅ぐという、相手にとってこれ以上ない屈辱的な行為をするのは小中学生のいじめと同じ構図である。自らの優越的地位を利用し、相手が反抗できない状況で屈辱的仕打ちを行うことの何が楽しいのか。

 56歳男性がやっていいことといけないことの区別がつかないとしたら、情けないの一言。一体、東京大学で何を学んできたのかと問いたい。犯罪は不成立かもしれないが、しばらくは反省の日々を過ごした方がいい。

"香川照之氏”銀座ご乱行” 犯罪は成立するか"に6件のコメントがあります

  1. 通りすがり より:

    >香川氏から詳細な説明がない状況

    レギュラー番組では謝罪のみ行われたそうですね。
    香川氏サイドでは下手な弁明は火に油を注ぐだけだと分かっているから、弁解めいた釈明はしないのだと思います。
    実際何を言おうと揚げ足を取りに来るのがマスコミですから、正当な説明や釈明も意味がないでしょう。
    さらに不可解なのは、本件は2019年に起こったこと。関係者との始末もついている件に今更こういった過度な報道を行うのはいささか疑問ですが、昨今のマスコミの体質を鑑みて、彼らならやりかねないことだとは感じます。
    当然香川氏の2019年の行為や、その後追い打ちをかけるように出てきた醜聞は擁護できませんが、香川氏のことのみならず歯止めの利かなくなっているマスコミのやり口には閉口します。TV・新聞・雑誌等オールドメディアにはそろそろ痛い目を見てもらった方がいい。

    反論できない相手と見るや報道の自由や表現の自由を過度に振りかざす一方で、自分らの都合の悪いことは報道しない自由をメディアスクラムで徹底的に行使するマルチスタンダードはもはや看過できない所まで来ています。そこには矜持もなければ良心もない。

  2. 秋吉万葉 より:

    今回も読み易く、そして分かり易い記事をありがとうございます。
    香川氏の行為に対する私見は述べられつつも、事の成り行きや犯罪にあたるかどうかの客観的ま分析が分かり易くまとめられており、ストンと胸に落ちました。

  3. オーバーカッセル より:

    香川氏の行為は決して褒められたものではありません。また有名芸能人としての立場からプライベート場面でもTPOをわきまえる必要があったでしょう。元々持っていた本人の習癖に加えて驕りもあったのかも知れません。

    一方で、世の中には善悪含めて様々なキャラクターが存在し、実際の映画や物語では更に強調されてそれが良いスパイスとなり面白くなります。それに比べればかわいいものだとも思えますが、表に出たら厳しいでしょうね。

    香川氏本人はそこまで考えて行動するする必要がありました。ただ、世の中には同じ様な話、もっと酷い話が有名人一般人含めて他にも沢山あるのではないでしょうか。利害の関係やお金での示談で表に出ないだけなので日本のメディアのいつもの様な個人攻撃には辟易する部分を感じます。

  4. MR.CB より:

    》》ジャーナリスト松田様

    『強制わいせつという重大な犯罪の被害に遭ったとするのに、再び個室に入り言われるがままに隣に座れば、同様の被害に遭うことは十分に予想される。』

    小生も私見を述べさせて頂きます。
    本件とは直接関係はないですが、伊藤詩織氏の場合にも行為後に彼女が取った行動に首を傾げる方は多いはずです。しかも伊藤氏はジャーナリスト(本人はそう思っているはず)の立場で、自身の正当性をとても客観的な見地とは思えない論理で発信しています。事実誤認の内容を含む書籍を売るに至っては、三原じゅん子議員ではないですが、「恥を知りなさい!」と心の中で叫んでしまいそうです。繰り返しますが私見です。

    また香川照之氏については、いわゆる性癖なのでしょうから「酒が入ったので起きた行為」ではないですね。東大や人気俳優などは関係なく、【見苦しくて気持ち悪い】ですね。

    1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

       伊藤詩織氏は名誉毀損で損害賠償請求をかけられ、支払いを命じられました。これはジャーナリストとしては致命的な汚点です。相手の名誉を傷つける事実の摘示をおこなったわけですから、おっしゃるとおり「恥を知りなさい!」と言われても当然でしょう。

       多くのメディアはそういう部分は無視して報じますから、そういうメディアにも「恥を知りなさい!」と言いたいところです。

  5. 野崎 より:

    律法が無ければ罪ではない。

    キリスト教、聖書にあるパウロの言葉である。罪刑法定主義という事だ。
    ではパウロの言う罪とは何なのか、、

    ヒロユキ氏の論理
    >ひろゆき氏はツイッターで「キャバクラなど風俗は、性的被害や嫌な思いをする事で高い給料が貰える仕事です。セクハラが嫌なら風俗で働くべきではないです。…」

    以前、ほぼ同じ論理の読者と応答した。
    その主張は、風俗は現代において産業に一つである(立派なと形容詞が付いていた様な記憶がある)

    それに対し、産業とは言えない、売春であり実態は女性にとり過酷なものがあると。
    で、嫌ならやめればよい、との答えであった。ヒロユキ氏も同じ。
    この読者、ヒロユキ氏とも過酷な仕事であることを認めているのである。

    しかしその過酷さがただちに法に抵触している訳ではない。

    香川照之は糾弾されている。
    だがその実態をふまえ風俗を産業だとする者も(風俗を容認、利用する者も)又ヒロユキ氏の主張、それはキャバクラの実態を客観的に見て、風俗とはそういうものだ、にとどまらず、嫌ならやめればよい、との主張も香川昭之と同罪である。
    香川昭之の行為を容認しているのであるからだ。

    パウロの言う罪とは法に抵触するしないではない。
    AVに関する記事があるがAV業界の犯罪は事実であり(立件されぬだけ)AVを容認する者も同罪であるという人の論理を超えた罪ということだ。
    人はこの罪を受け入れない。
    又男が悪く女は被害者だという二元論でもない。

    ご返信は不要です。

秋吉万葉 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です