破産…令和の虎「何で笑ってはるんですか」社長

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 YouTube配信のリアリティ番組「令和の虎」の出資者である渡邊正都氏が代表を務める会社が5月に破産手続き開始決定を受けた。かつて起業を目指す者に出資する立場だったが、コロナ禍で経営が窮地に陥り、番組内で自ら志願者となって融資を受けるなどしたが、立て直しに失敗。破産手続き開始決定前にも出演して「元気です」とアピールするなど、債権者を刺激するかのような言動を行っている。同番組では他の社長が書類送検されるなどの不祥事も発生しており、番組制作サイドの倫理観の欠如ぶりには首を捻らざるをえない。

◼️¥マネーの虎から令和の虎へ

渡邊正都社長(ファインファストフーズ社HPから)

 飲食店を複数運営するファインファストフーズ株式会社(本社:東京都港区)が5月17日に東京地裁で破産手続き開始決定を受けた。同社は最盛時にはイタリアンの「Gaston&Gaspar」などレストラン7店の飲食店を経営、社長の渡邊正都氏はYouTube配信の「令和の虎」に出演していた。

 「令和の虎」は起業を目指す志願者(虎の子)が、事業のプランを持って出資者(虎)の前でプレゼンを行い、出資を求める番組。司会進行役の岩井良明氏(株式会社モノリス代表取締役会長)は、2001年から2004年まで放送された「¥マネーの虎」(日本テレビ系)に出演していたことでも知られている。

 「令和の虎」そのものが「『¥マネーの虎』がYouTubeにて復活するという名目でスタートした。」(ウィキペディア・令和の虎)とされ、オールドファンには懐かしい「¥マネーの虎」の復刻版である。

 その「虎」の1人が渡邊正都氏であった。2019年4月12日に公開された2本の動画に出資側として出演しており、番組当初から起業家予備軍に事業プランなどを聞いていた(令和の虎CHANNEL・【中島 良1/4】今宵、あの伝説的番組がYouTubeで復活する…!!/[1人目]令和の虎 ほか)。もともとは令和の虎CHANNELを主宰する岩井氏と知り合いであり、その縁で出演したことを他のYouTube番組などで明らかにしている。

 渡邊氏が有名になったのが2019年4月17日公開の動画で、ベトナムでたこ焼きバルを展開するために400万円の融資か投資を求めた志願者の回。この時、42歳の男性志願者は目標金額に達しなかったのだが、笑みを浮かべながら事業プランの甘さを指摘する渡邊氏に怒りを抑えきれなかった。

 「何で笑ってはるんですか」と食ってかかった。「僕が話すと笑うじゃないですか」「僕はおかしいですか? バカにされている感じがして」と志願者の怒りはおさまらず、結局、志願者は辞退を申し出る結果となった(令和の虎CHANNEL・【奧田 敬3/3】容赦なく詰め寄る虎!!絶え間無く繰り出される言葉に志願者は激怒する!![4人目]令和の虎)。

 渡邊氏のクセなのか、話をする時にも常に笑みを浮かべている。これが接客などであれば、それほど問題にならないのかもしれないが、相手の申し出を却下する場合にも笑みを浮かべていれば、相手はバカにされたと感じることはあり得る。実際、この動画を見た時に、渡邊氏がニヤニヤと笑い続ける光景に薄気味悪さを感じた人は少なくなかったのではないか。少なくとも筆者(松田隆)は、そのように感じられた。

◼️何で笑ってはるんですか

令和の虎チャンネル画面から

 良くも悪くも、渡邊氏は「何で笑ってはるんですか」で有名になり、その後も令和の虎に出演を続けた。しかし、2020年初頭にコロナ禍が日本全体を襲い、7店舗を運営するファインファストフーズ株式会社はその直撃を受ける。

 運営店舗を7店舗から4店舗に減らし、スリム化を図るが、それでもうまくいかなかったようである。2021年3月、渡邊氏は驚きの行動に出る。虎たちに出資を求める虎の子(志願者)として、令和の虎に出演したのである(令和の虎CHANNEL・【1/3】YouTubeを使った食品ECに挑戦したい![122人目] 令和の虎)。

 渡邊氏はヴィーガンのカレーなどを食品ECで販売する資金として300万円の融資を求めた。本来は事業計画などを虎たちに詰問され、その回答次第で融資が成功するか否かが決まるが、この時は、虎たちがかつての仲間を支援するという趣旨が強く打ち出されて、融資を受けることに成功している。岩井氏は感動して泣き出すなど、冷徹なビジネスの視点で出資が決まるはずの番組なのに成否は問わないかのような浪花節的な結末となり、違和感を覚えた人は少なくないと思われる。

 このヴィーガンカレー(ハーブ&スパイスヴィーガンカレー)は発売直後、一晩で5000食を超える売り上げがあったという(Fine Fast Foods 株式会社代表取締役CEO 渡邊 正都のnote・ヴィーガンカレー販売開始した俺、1店舗あたり売上として過去最高)。さすがにYouTubeの人気番組での宣伝効果はすさまじかったが、それも瞬間風速的なものに終わった。

 およそ7か月後に岩井氏が番組の中で「渡邊社長のヴィーガンカレーも惨憺たる結果でしたよ」と述べており、大失敗に終わったようである(令和の虎CHANNEL・試験的に販売してみた結果…500個販売達成できたのか!? 最後の審判#026[伊藤英子]】)。

◼️最後の動画出演時の状況は?

 いよいよ追い詰められた渡邊氏であるが、2022年11月4日公開の動画に登場。「この通り元気です。」「死ぬわけじゃないので、元気に生きている日々です。」「(店舗は)相変わらず厳しいですよ。」などと語った(令和の虎CHANNEL・久しぶりの渡邊社長が登場!現在とあの炎上の件について語る…【令虎対談[渡邊 正都]】)。

 この半年後の2023年5月17日、官報にファインファストフーズ株式会社が東京地裁で破産手続き開始決定を受けたと掲載された。通常、破産手続き開始決定は、破産手続開始の申し立てから2~3か月程度かかると言われており、最後の動画出演時には、相当、厳しい状況となっていたのは間違いない。多額の負債を抱えながら「死ぬわけじゃないので、元気に生きている日々です。」などとYouTubeでいつもの笑みを浮かべながら言えば、債権者を刺激することは分かりそうなもの。やはり、どこか普通の人とは異なる感性の持ち主であったように思う。

◼️常習的な賭けポーカーで書類送検

 コロナ禍という思わぬ逆風が吹いたとはいえ会社を破産させ、基本的に経営者としては無能であったと評価せざるを得ない人間を「虎」として起用したのは、番組制作サイドに見る目がなかったで済むのかもしれないが、そこに至る一連の経緯には疑問を感じさせられる。

 まず、「虎」として出演していた出資者たちが常習的に賭けポーカーをしていたことで、2022年6月に書類送検されたことが明らかにされた。渡邊氏が虎の子として2021年3月に出演した際に虎であった5人のうち林尚弘、桑田龍征、齋藤友晴(トモハッピー)、條隼人の4人は犯罪に手を染めていたのは明らか。反社会的な行為を続けていた人々が、仲間の支援を目的に出資するというのも悪い冗談としか思えない。

御茶ノ水ソラシティー内にある「Gaston&Gaspar」

 渡邊氏も虎に融資を求めた時点で本当に返済するあてがあったのか疑問であるし、実際に返済されたのかも明らかではない。また、2022年11月4日公開の動画では、御茶ノ水のソラシティー内にある「Gaston&Gaspar」などの4店舗は運営されていると話していたが、実際は「Gaston&Gaspar」は営業していなかったと思われる。

 昨日、7月3日に同店舗を訪れると「メンテナンスのため休業」と書かれた紙が貼られていた。写真を撮影しているとソラシティーの警備員がやってきて内部を撮影しないように、撮影した写真を消すように求めてきた。話を聞くと「昨年からずっとこの状態(閉店)」とのこと。おそらく内部の什器などを債権者が差し押さえるのを防ぐために、内部に入ったり、撮影したりすることを防いでいたものと思われる。ソラシティーも家賃債権を有しているという事情があるのかもしれない。

◼️債権者や視聴者をバカにしているのか

 こうした状況を考えると、YouTubeの番組とはいえ、あまりに社会通念に反するものであるという感想を抱かざるを得ない。YouTubeの番組に一般社会のモラルを求めること自体間違っているという声も出そうであるが、下手なテレビ番組程度の視聴があるのなら、そこは制作サイドの自律が期待されるところである。

 反社会的な行為をした虎たちが、成功するあてもない事業で出資を求める「元・虎」の経営者に出資し、事業は案の定失敗。会社は破産手続き開始決定という状況を見ると、バラエティーとはいえ、債権者や視聴者をあまりにバカにした姿勢と言うしかない。

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