在日台湾人を苦しめる日本の”緩さ”
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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台湾のインターネット掲示板に4月24日、日本在住の台湾人から投稿がされました。表題は「親身告訴你日本多危險 (日本がどれだけ危ないか身を以て言おう)」。この投稿はその後、他のSNSサイトにシェア・拡散されたことにより、台湾で話題となっています。
■台湾人が指摘した3つの点
東京在住の投稿者は3つの点で危険を感じると指摘しています。
(1)東京都中野区では週末になると多くの人が商店街を訪れている。
(2)中野区のあるスーパーマーケットでは4月23日に従業員1名の新型コロナウイルス感染が確認されたが、当日と、店内消毒のため翌24日を休業としただけで、25日からは通常営業を再開した。
(3)街中では以前よりもマスクの着用率は高まったものの、5%程度は非着用である。
特に(2)について「濃厚接觸的概念都沒有 (濃厚接触の概念がないのか)」と、大きな疑問を抱いていることを強調していました。
台湾人がこうした感情を持つのも無理はありません。台湾は2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)騒動の経験から、今回の新型コロナウイルスでは完璧とも言える防疫態勢を整え、死者6人(4月29日現在)という人口2300万人を超える国としては考えられないようなレベルの成果を出しています。それに比べると日本は防疫対策も、民間人の意識も甘いと感じるのは当然でしょう(参考:誇れ台湾 世界の模範 蔡英文総統が示した自信)。
投稿者は以下のようにまとめています。
「生在台灣真的要知足感恩,我暫且還沒辦法回去,也不想造成台灣的困擾 但我每天都心驚膽顫,看到人都躲超遠。(台湾に生まれたことには本当に満足と感謝の気持ちを抱いている。しばらくは戻れないし、台湾に迷惑をかけたくもない。でも私は毎日心底怯えているんだ。人を見かけたらすぐに遠くへ身を隠すぐらいに。)」
■”緩い”対策に「日本どうしちゃったの?」
この投稿は大きな話題となり、多くのコメントが寄せられました。
「日本是怎麼了啊 (日本どうしちゃったの?)」
これは「日本=自立心が高く、助け合い団結して取り組む社会」という、台湾でも評価の高い日本社会のイメージとは異なる行動や状況に、疑問を抱くものでしょう。
「所以緊急事態宣言的作用是? (つまり緊急事態宣言の効果とは?)」
「緊急宣言就沒有強制力 (緊急宣言は強制力を持たないんだよ)」
「日本還沒認清防疫是國安等級的問題 (日本は防疫が国家安全と同等レベルの問題だということがわかっていないんだよ)」
この3つは日本の防疫体制と民間人の心の”緩さ”を指摘するものです。台湾では1月の時点で感染者や感染源の中国・湖北省に渡航歴のある者に自宅待機を命じ、さらにスマートフォンを支給してGPSによる位置把握をした上でテレビ電話による定時の報告を義務付けるなど、徹底した対策を施しました(参考:新型コロナウイルスは中国からの”挑戦” 蔡英文総統の徹底した対策に政治の匂い)。
それに比べると日本の”緩さ”は一目瞭然。パチンコ店が店名を公表されても営業を続けていることなどから、政府が完全に状況をコントロールできていないのは間違いありません。新型インフルエンザ等特措法では私権の制約は十分にできず、その原因を辿ると憲法で私権が強く守られていることに行き着くのでしょうが、結果、日本に滞在する外国人は(どうにかしてくれ)という気持ちになってしまうというわけです。
■外国人として生きるということ
投稿者は安全を考え、ウイルス対策では日本よりも明らかに成果を上げている自国へ戻ることも考えたと思います。しかし、勉強や仕事の関係で帰れない事情があるのでしょう。帰国すれば、いつ戻れるか分かりませんし、仮に感染していた場合に故郷に被害が出るかもしれません。
投稿からはそうした葛藤が感じられます。しかし、自分の意思で残ると決めた以上、状況を受け入れるしかなく、人の姿を見て身を隠す以外に自身を守る術がないという現実に行き着いたのでしょう。
日本に住む台湾人の立場は、台湾に住む日本人である私と似たようなものです。外から見ることで自国・故郷が一層好きになり、恋しくなるもの。投稿者の心細さや望郷の念、自国を案ずる気持ちは、少々神経質になっている部分はあるかもしれませんが、私には理解できます。
■ウイルス感染被害者が加害者になる可能性
台湾では隣国ということもあり、日本の新型コロナウイルス関連の情報は関心が持たれています。ウイルスは感染して被害者となるだけでなく、その後、感染源として加害者になる可能性を秘めているのです。
前述の「日本是怎麼了啊 (日本どうしちゃったの?)」というコメントは、そうした意識が希薄な日本への警鐘でもあるように感じます。