厳戒台湾ノーマスク罰金6万円 宴会300万円

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葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

京都産業大学外国語学部中国語学科、淡江大学(中華民国=台湾)日本語文学学科大学院修士課程卒業。1998年11月に台湾に渡り、様々な角度から台湾をウオッチしている。

 台湾では、新型コロナウイルスの感染症の感染拡大が止まりません。5月29日、中央流行疫情指揮センターは、1日の新規国内感染者は前日までの統計に含まれていなかった追加分と合わせて486人、感染死亡者は21人と発表しました(衛生福利疾病管制署2021年5月29日発表) 。台湾は厳戒態勢に入っており、違反者には厳罰が科されます。

マスク未着用で罰金最高で6万円も

防護服、ガスマスク姿のスタッフによる消毒作業(台北、撮影・葛西健二)

 台北の街は人や車、台湾名物のスクーターもまばらで、普段とは異なる日常風景です。感染者が多く出た台北萬華区や新北市では防護服、ガスマスク姿で街を徹底消毒する職員の姿が見られ、緊張した雰囲気に包まれています。

 5月15日からは台湾全土を対象に警戒レベルが上から2番目に高い「レベル3」に引き上げられました。これにより台湾全島で小中高校と大学の一斉休校、屋内5人以上、屋外10人以上の集まりの中止、外出時のマスク常時着用、不要不急の外出を控える等の社会活動制限措置が執られることになりました。

 その後、状況悪化を受け5月26日からはマスク未着用が判明した時点での罰金発生、店内は飲食禁止とし持ち帰りのみ可、スーパーや小売店の入場人数制限の強化など、より厳しい措置が実施されることになりました。日本ではマスクを着用しない男性が騒ぎを起こして逮捕・起訴された事件があったようですが、台湾では騒ぎになる前に罰金です。

 私は措置実施当日の晩に、交差点で警察官に呼び止められたマスク未着用のバイク男性がその場で罰金支払い承諾書にサインをしている現場を目撃し、措置実行の迅速さと取締の厳格さに驚きを感じました。

 マスク未着用の取締は自動車の運転手や同乗者に対しても行われています。5月15日からの「レベル3」体制では2人以上同乗の自家用車内でもマスクの着用が求められており、高雄市ではマスクを着けず乗っていた男性2名に対して罰金が科されています(蘋果新聞網2021年5月23日)。

 マスクの着用規定に違反した場合の罰金額は3000〜1万5000台湾元(約1万2000円〜約6万円)と決して安い金額ではありません。梅雨も終わり来月から本格的な夏を迎える南国のこと、馴れない日中の屋外でのマスク着用に対し無意識に「思わず」外してしまう人が後を絶たない気がします。

 マスク未着用以外にも、活動制限違反に対する取締は厳しく行われています。南投県ではパトロール中の警察官が「屋内5人以上の集まり禁止」を守らず室内で宴会を行っていた5人組のグループを発見、しかもそのうちの一名は今月4日に国外から入国した中国国籍の女性で、台湾政府が定める「14日間検疫後7日間の自主管理期間中の会食禁止」にも違反していたことがわかりました。この宴会を催した家主には30万元(約120万円)、中国国籍の女性には15万元(約60万円)、その他3名には各10万元(約40万円)の罰金が科せられました(東森新聞2021年5月29日)。5人で合計300万円かかる宴会、考えようによっては世界一コストのかかる宴会と言えるかもしれません。

 現在、社会活動が厳しく制限されています。これは政府当局が今回の新型コロナウイルスの感染症の拡大を危惧している表れとも言えるのではないでしょうか。

■SARSを教訓に 偽情報を厳しく取締

午後1時、人の姿が消えた台北市中心部・総統府近辺(撮影・葛西健二)

 台湾は新型コロナウイルスに関する偽情報の発信・拡散防止にも厳格に取り組んでいます。2003年に台湾でSARS(重症急性呼吸器症候群)感染症が拡大した際、SARSに関する不確かな情報が台湾メディアやインターネットで伝えられ、社会に混乱を生じさせました。

 私が覚えているものでは、テレビ局のニュース番組で「SARS感染症を抑えるにはパイナップルが有効」というニュースが検証もなしに報じられたことで、台湾北部を中心にパイナップルが一時的に品薄になったことや、インターネットで「台北市内の○○マンションで感染者が出た」といった偽情報が広まったことがあります(なお、この○○は当時私の住むマンションの2軒隣にありましたが、そのような事実は確認されていません)。

 SARSに戦々兢々としている中で複数の偽情報によって混乱に拍車が掛かった台湾社会。その教訓からその後、偽情報対策に関する法整備が進められ、2019年5月「伝染病防止法」(1944年制定)第63条修正により、虚偽の情報を発信拡散した場合に科される罰金の最高額が50万元(約200万円)から300万元(約1200万円)に引き上げられ、偽情報防止への取り組みが強化されるようになりました(衛生福利部「傳染病防治法部分條文修正草案」書面報告 第二頁)。

衛生福利疾病管制署公式HPに掲載された警告

 新型コロナウイルスに関する偽情報を発信・拡散した場合、この伝染病防止法と新型コロナウイルスに関する特別条例「特殊伝染性肺炎防治及紓困振興特別条例」に基づき3年以下の懲役または300万元(約1200万円)の罰金が科せられることなります。衛生福利疾病管制署は無料通信アプリ「LINE」の公式アカウントを通じてどのような偽情報が流されているかを詳細に伝えており、注意を呼びかけています。

 上述の防止法と特別条例に基づき検挙、書類送検された事案が起きています。インターネット上で「新北市新店区でクラスター発生」と虚偽の情報を流したとして5月22日に新店区在住の男性が逮捕され(自由時報2021年5月21日)、同29日には彰化県在住の男女3名が「マスク製造工場で感染者発覚」と虚偽のメッセージをSNS内に拡散させたことで書類送検されています(聯合新聞網2021年5月29日)。

 衛生福利疾病管制署はLINEの公式アカウントを通じて政府発表や感染状況をリアルタイムに発信。偽情報についても詳細な情報とともに注意喚起を行う。同公式アカウントに掲載された警告メッセージ。拡散に加担した場合も最高300万元の罰金または有期刑が科される。

■政府への信頼そして人々の団結 見せろ台湾の底力

 中国での新型コロナウイルスの感染拡大が確認されてから間もない2020年1月22日、台湾の蔡英文総統は国民に向け次のように語りかけました。

17年前我們一起挺過SARS風暴; 17年後的今天,我們也有足的經驗、足的準備、足的信心面對挑戰。請大家無需驚慌,維持正常生活,隨時注意政府提供的各項疫情資訊。(2020年1月22日の総統会見)

(17年前我々は共にSARSの猛威に立ち向かった。17年後の今日、我々は十分な経験、十分な準備、十分な自信で挑戦に立ち向かう。慌てないで。正常の生活を維持し、政府の提供する疫病の情報にいつも注意してほしい。)。

 この時の総統の宣言通り、台湾はSARS禍の経験と教訓を活かし、中央感染症指揮センターを中心とした迅速、徹底的な対策で新型コロナウイルスの侵入防止に成功しました。人々は今年の5月初旬まで平時と変わらない社会生活を送ることができました。この間に培われた政府の防疫対策に対する信頼があるからこそ、人々は罰金を伴うような厳しい制限措置も受け入れているのだと思います。

 政府への信頼そしてSARS禍の経験から生まれた各個人の防疫意識の高さを以て国が一致団結すれば、この危機的状況を乗り越えることができるのでないでしょうか。少なくとも私の周囲では、不安や心配よりも「今が正念場」といった士気の高まりを感じさせる声や、団結を呼びかける声が多く起きています。これこそが台湾の底力。私も台湾の人々とともに防疫に努めていきます。

"厳戒台湾ノーマスク罰金6万円 宴会300万円"に2件のコメントがあります

  1. oisan より:

    色々な新型コロナ対策が計画・実施されていますが、外国と比べた場合、日本はよりシビアな対策を確実に且つ速やかに実施する必要があるのではないかと感じました。

    対策については色々な考え方があると思いますが、感染を拡げないという点からは、やはり飛沫の拡散・吸込防止、密状態の回避は必須ではないでしょうか。
    このため、マスクやフェイスシールドの着用、ソーシャルディスタンスの確保等は、現在の最低限のマナーとして必ず守っていく必要があると思います。

    しかし、身の回りには、その「最低限」すら守れていない人が頻繁に見受けられます。各メディアにおいては、国や自治体の施策について論じるだけでなく、広く一般の市民、国民に改めて強くコロナ禍でのあり方やマナーの遵守を強く呼びかけてほしいと願っています。

  2. 葛西健二 より:

    oisan 様

    飛沫の拡散・吸込防止、密状態の回避、
    台湾は人々が自発・積極的に取り組んでいます。
    日本もご指摘の「最低限」を皆が意識していれば、
    今とは違う状況になっていたかもしれませんね。

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