鉄人部長の桃色マスク 気高き台湾精神

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葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

京都産業大学外国語学部中国語学科、淡江大学(中華民国=台湾)日本語文学学科大学院修士課程卒業。1998年11月に台湾に渡り、様々な角度から台湾をウオッチしている。
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 台湾の防疫の司令塔である中央感染症指揮センターの定例会見は、時に笑いが起きます。ウイルスの抑え込みに成功している余裕の表れでしょうが、同時に笑い、楽しむことを大切にする台湾人の国民性が感じられます。

■新型コロナウイルスを抑えた自信

 台湾では5月12日まで30日連続で国内での感染例がありません。そのため同日から、中央感染症指揮センターの定例会見では関係者がマスクを着用せず、仕切りのアクリル板のみが置かれるようになりました。防疫が成果を上げていることが目に見える形で示されたのです。

 最近の会見では新規感染者ゼロに関する物を登場させており「今日は何を登場させるのか」も話題になっています。4月26日から5月1日まで6日連続でゼロが続いたときは、4月27日にはオランダから贈られたチューリップを、5月1日には「0」と記された蔡英文総統から贈られた特製マグカップの蓋を掲げ、5月2日は「0」に形が似ているスイカ6個を会場に並べました。対策本部長で、鉄人部長の異名を持つ陳時中氏(参考:コロナを圧倒 台湾の”鉄人部長”支持率91%)も「スイカなど天然の果実、野菜は身体に良いのでたくさん食べましょう。(記者達に)君たちも食べるかい?」と声をかけ、会見場には笑いが起きました。

 防疫成果を挙げている余裕と、その成果を喜び楽しむ「楽しみ好き」な台湾人の性格が垣間見られたシーンです。

■鉄人部長ら5人の男性が装着した桃色マスク

中央感染症指揮センター Youtube チャンネル 4月13日定例会見から

 忘れられないのが4月13日の会見です。この日壇上に並んだ鉄人部長を含む5人の男性全員がピンクのマスクを着けて会見に臨みました。これには理由がありました。

 実名販売制で購入するマスクですが、色までは選べません。ある家庭では購入したマスクがピンクだったため、男児が学校でマスクの色でからかわれました。そのため、少年は学校へ行く時にマスクをつけるのを嫌がり、父親がネットで相談を持ちかけたのです。これはニュースでも取り上げられ、話題になりました。

 同性婚も認められ、ジェンダーの問題に敏感な台湾では「男がピンクではだめなのか」などの意見が噴出、学校における性教育(性別の平等)がどう行われているのかという点にまで発展したのです。

 会見はこれを受けてのものでした。陳時中氏は子供に呼びかけるように言いました。

 「我們小時候最喜歡看的卡通影片都是粉紅豹嘛,我們那時候這確實是很紅的顏色。 (我々が小さい頃大好きだったアニメは、ピンクパンサーだった。あの時ピンクは一番人気のある色だったんだ)」。

 この発言に対し会見場からは笑いと同時に拍手が起きました。子供への励ましと優しさが伝わるとともに、性別格差をなくしジェンダー平等社会を目指している台湾の立場を子供にも分かりやすく示すものだったからでしょう。

■萌えポストに込めた台湾人の笑いの精神

台北市内の微笑萌郵筒(撮影・葛西健二)

 台湾で20年以上暮らしていると、台湾の人々はどんな時も前向きで、笑顔を忘れずユーモアを大切にしているように感じます。2015年のソウデロア台風(日本では台風13号)来襲時、台北市内にある郵便ポストに飛ばされた看板が直撃して曲がってしまいました。

 人々からは「微笑萌郵筒 微笑み萌えポスト(「萌」は日本語「萌え」からの借用語)」、「歪腰郵筒 腰の曲がったポスト」と呼ばれ愛されてきました。台風通過直後から多くの人ポストとともにポーズをとって記念撮影、当時の台北郵便局副局長も一緒に記念撮影に臨んだほどです。

微笑萌郵筒の下の説明文(撮影・葛西健二)

 このポストは人々の強い希望で、そのままの形で残され、現在でも使用されています。ポスト下には中・英・日の3つの言語による紹介パネルが設置されています。

 「2015年8月8日の台風13号の影響で落ちてきた看板が私達に衝突しました。辛くて思わず倒れそうになってしまいましたけど、踏ん張りました。しかし、見ての通りこうやって私達の腰はすっかり曲がってしまいました。でもこれも人生。腰が曲がっていても大丈夫。曲がっていたほうが私達芸術的で素敵じゃない?人生何があっても大丈夫って忘れないように私達と一緒に写真でも撮りましょう!”

 腰の曲がったポストは、今も現役です。「何とかなる。人生何があるかわからない、でもそれが人生、だから大丈夫」。当時のままの形で残されたポストとパネルに込められたメッセージには、台湾の人々の前向きさや逞しさが現れています。

■蔡英文総統の強烈なリターン

蔡英文総統のFacebook 4月9日付から

 4月8日、WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長は、台湾から人種差別的な攻撃を受けたと発言しました。翌9日、蔡英文総統は自身のフェイスブックで強烈な抗議の意思を示しました。中でも私が心を動かされたのは以下の一文です。

 「台灣向來反對任何形式的歧視,我們長年被排除在國際組織之外,比誰都知道被歧視和孤立是什麼滋味。 (台湾はどのような形の差別にも一貫して反対している国です。何故なら、私たちは長年国際社会から排除され、差別と孤独がどんなものか誰よりも知っているからです)」

「差別され苦しんでいる我々が、なぜ、他者を差別しようか」というロジックで指摘された事実をあり得ないとし、同時に中国の影響力が強いWHOとテドロス事務局長こそが台湾を加入させず差別したではないかという意味をも含めた、ある種ウイットに富んだ強烈なリターンをカマしているのです。

 国際社会から国として認められず、中国の影響のため国際機関から排除され孤独を味わってきた台湾の人々の心に潜む不満を代弁するようなコメントではありませんか。

 世界各国からある種、差別的な待遇を余儀なくされている孤独な台湾人ですが、それに押し潰されることなく、笑い楽しむことの大切さを知り、遊び心を忘れずに克服しているのです。その遊び心が良くも悪くも台湾の緩さの正体なのかもしれません。

 ”萌えポスト”の紹介文にも記されているように「人生どうなるかわからない。でもそれが人生、常に明るく楽しくケセラセラ」に、私はいつも勇気と力をもらっています。

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