台湾名物の夜市再開 危機に立ち向かう飲食店

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葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

京都産業大学外国語学部中国語学科、淡江大学(中華民国=台湾)日本語文学学科大学院修士課程卒業。1998年11月に台湾に渡り、様々な角度から台湾をウオッチしている。

 新型コロナ感染拡大措置制限により、台湾の飲食店が苦境に立たされる中、台湾食文化の代表的存在である夜市が徐々に営業を再開し始めました。感染拡大防止か、台湾文化の夜市の再開か、台湾の人々も難しい選択を迫られています。

■夜市の復活に未来への希望

営業を再開した台北寧夏夜市(NEXT TV 2021年7月4日 YouTubeチャンネルから)

 台湾外食文化の代表とも言える各地の「夜市」は、今回の新型コロナウイルスの感染拡大防止策の影響を受けています。台北市は5月中旬から夜市を一時閉鎖(夜市は各地方政府が管理運営)、これに続く形で各地の夜市も次々と営業を自粛していきました。

 私は先月、台北市内にある通化夜市の側を通ったのですが、普段の賑やかさが消え、静まりかえる暗い夜市、台湾文化のシンボル的存在の突然の消失という異様な光景を目にしました。その瞬間、今が「ただごとではない」ということを実感しました。

 夜市休業の一方で朝市(伝統市場)では入場人数の規制を行いながら営業が続けられていることに、夜市に店舗を構える人々の間から不公平感を訴える声が挙がっています。台北市は市中感染者数が減少傾向にあることを受け夜市の営業再開を決定、再開条件として入場者数の制限、店舗数を従来の4分の1として店舗間の距離を空けること、テイクアウトのみの提供といった防疫規則が設けられた上で、6月29日台北市を代表する夜市である寧夏夜市が約1か月半ぶりに復活しました。

■「感染は怖いが夜市は文化」の葛藤

 台北市の夜市営業再開決定について台湾のネットユーザーからは、夜市が台湾で展開されている防疫措置の「破口 (裂け目)」となるのではとの危惧の声も挙がっていますが、一方では以下のような声もあります。

相信夜市高度自制 (夜市の高度な自制力を信じている)

防疫機制有做好的話,當然夜市也可以, (防疫ルールがしっかりし守られていればもちろん夜市の営業も問題ない)

攤商本來就是自主休息 他們都有家庭要養 (夜市出店店舗は自主的に休業していた、彼らも家庭を養っていかなければならない)

 夜市の再開に肯定的なコメントも多く寄せられています(※3 Facebook及び台湾Yahooニュースコメント欄から抜粋)。感染は怖い、しかし、夜市は台湾の文化そのものという葛藤が多くの国民の間にもあるのかもしれません。

 中央感染症指揮センターは7月4日、入場者数の制限や1.5メートルのソーシャルディスタンス保持、食べ歩きの禁止といった夜市営業に際しての防疫ガイドラインを提示しました。

 これを受け台北市に続き台湾各地でも夜市の営業が再開されつつあります。台湾外食文化のシンボル復活を嬉しく思うとともに、夜市が一日も早くかつての賑わいを取り戻せるよう日々が訪れることを願っています。

■台湾社会に根付く外食文化

テイクアウトのみの閑散としたレストラン(撮影・葛西健二)

 たかが夜市ではないか、何でそんなに気にするのか、と日本人は思うでしょう。台湾にとって外食は、たまにある楽しい食べ歩きではありません。夫婦共働きが社会に浸透している台湾では、家での自炊にあまり時間をかけられません。

 そこで、朝食は早餐店(朝食専門店)で大根もちや豆乳などをテイクアウトして職場や学校で食べ、昼食は近くのレストラン。退勤・放課後は夜市や屋台、レストランで晩ご飯を済ませて我が家へといったように3食を外で済ます人が少なくありません。

 また台湾では自炊するよりも外食のほうが安上がりで、さらに飲食店の種類が豊富で選択肢が多いということも、外食が優先される理由の一つに挙げられます。

 台湾の飲食店舗数は約14万6000件です。日本の飲食店舗数は約3万7000件、台湾には日本の約4倍の飲食店が存在しているのです(台湾の飲食店店舗数については  台灣趨勢研究「餐飲業發展趨勢(2019年)」、日本の飲食店店舗数については日本フードサービス協会「2020年11月市場動向調査」)。そして台湾の人口は約2300万人と、日本の人口のわずか5分の1です。

 台湾社会で外食文化が重要な位置を占めていることが、おわかり頂けると思います。今その外食文化に小さな変化が起きています。新型コロナウイルスの感染症の拡大により警戒レベルが引き上げられたことで、社会活動に大きな制限が設けられています。

 5月19日以降飲食店に対しては店内飲食の禁止(テイクアウトは可)となりました。また厳しい行動制限を受け、多くの人が外出を控えるようになり、それを機に自炊を始めた人も多いようです。スーパーでは現在も生鮮食品が品薄となっています。

■外食禁止でも外の味を楽しむ人々

台湾の二大オンラインフード配達サービス(撮影・葛西健二)

 営業制限と人々の外出控えの影響で休業や閉店となる飲食店が増えていく中、営業中の店ではテイクアウトメニューを増やしたり、従来価格より安くしたり、トッピングを増やしたり、手厚いサービスを行っています。

 某デパートではアプリで館内の飲食店へ事前に注文を入れておけば、デパートに入場せずに持ち帰りができるドライブスルーサービスを導入しています。

 ある火鍋店(鍋料理のお店)では受け取り時にできたての鍋料理を熱々の状態で持ち帰ることができるサービスを始めました。

 また、小籠包が有名な大手上海料理チェーンでは独自のインターネット注文サイトを開設、配達可能エリアには注文から40分以内に料理を届けるシステムで消費者のニーズに対応しています。このように飲食店は様々な工夫を凝らし苦境を乗り越えようと努力しています。

 こうしたテイクアウトやデリバリーの需要があるのも、多くの人にとって長年の外食生活習慣は簡単に変えることはできないことが理由の1つでしょう。「巣ごもり」の人々はデリバリーサービスを使って今までのように「外の味」を楽しんでいます。台湾では以前からオンラインフード配達サービスが普及していました。ここに「巣ごもり」需要によりサービス利用者が増加、コロナ禍で人と車が減った街を大きな配達バッグを搭載したスクーターが忙しなく走りっています。

 しかし、配達件数の増加に伴い、配達員の交通事故やトラブルも増加しているようです。台北市政府警察によると、5月15日から21日に配達員が関連した交通事故やトラブルは前週に比べ約4割も増えたとのこと(中國時報 2021年6月10日)。

 外に出れば感染拡大、内に籠もれば配達員の事故増加。まったくもって罪つくりな新型コロナウイルスです。

"台湾名物の夜市再開 危機に立ち向かう飲食店"に2件のコメントがあります

  1. 名無しの子 より:

    台湾も、日本と同様に大変なのですね。
    でも、日本は今、東京オリンピックを控えています。
    この期に及んでまだ、開催反対を叫んでいる人々もいます。もう、ここまできて、どうしようもないと、私は思うのですが。
    今まで、エボラ出血熱やSARSなど、恐ろしい疫病はたくさん流行りましたが、これほど、経済に影響を及ぼす感染症は、初めてでしょう。コロナに感染した方々はもちろんのこと、コロナによって経済的な影響を受けた方々にも、心より、お見舞い申し上げます。
    まるで人事のような言い方ですが、私自身も、多少の影響は受けていますが。でも、本当に大変な思いをされた方々に、何かできることはないかと考えています。今のところは、募金くらいしか思いつきませんが。

    1. 葛西健二 より:

      名無しの子様

      おっしゃるとおり、経済に影響を及ぼす感染症としては最大規模のものかもしれません。
      発生源と看做されている中国には何らかの形で責任をとってほしいと強く思います。

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