夫婦別姓でカオス くじ引きで子の姓を決定

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葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

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京都産業大学外国語学部中国語学科、淡江大学(中華民国=台湾)日本語文学学科大学院修士課程卒業。1998年11月に台湾に渡り、様々な角度から台湾をウオッチしている。
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 日本では選択的夫婦別姓制度の導入をめぐって議論が起きているようですが、隣国の台湾でその話題が取り上げられることは少なくありません。他国の苗字の制度について興味をもつのは、そもそも氏(苗字)に関する考え方が全く異なることに原因がありそうです。今回は氏における日本と台湾の違いについてお伝えしましょう。

■台湾で「いとこ婚」は禁止

台北市の風景(写真提供・葛西健二)

 氏の話題に入る前に、氏と関係の深い婚姻について説明します。日本ではいとこ同士が結婚することは、それほど珍しくありません。菅直人元首相はいとこ婚ですし、いとこ婚をした有名人を検索すれば、渋沢栄一、若槻禮次郎など歴史上の有名人も多く出てきます。

 民法第734条第1項には「直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない」とあります。三親等以内でも、血縁がない義理の兄妹や姉弟のきょうだい同士の結婚は可能ということです。では、日本の近隣国は法的にいとこ婚を認めているのでしょうか。

 儒教の影響が強い地域では、いとこ婚は法律で禁止されているのが現状です。韓国、北朝鮮、中国では四親等内での結婚は禁じられています。そして中国に文化のルーツを持つ台湾も同様にいとこ婚は法律で禁止されています。それどころか、中華民国民法第983条で傍系血族六親等内の間柄での結婚は禁じられています。2019年5月の改定により養子で血縁に直接的関係がない場合に限り、四親等内での結婚が可能となりました(全国法規資料庫)。

 いとこ婚の禁止は儒教倫理に根ざした同姓不婚の慣習と関係しているようです。夫婦別姓が原則の台湾では、父母の姓だけでなく子の姓も異なる家庭もあります。そのような背景からか、家庭よりも親類や血縁を重視する傾向にあると思われます。

 そうした社会的背景があるせいか、日本の夫婦同氏制度は台湾では異なる価値観として注目を集めることもありました。多様性を受容して発展する台湾社会ですが、その影響で家族の一体性やアイデンティティの揺らぎが大きくなるのではとの懸念もあります。

■近親婚避けるための同姓不婚の慣習

 中国では約三千年前の西周代から20世紀初頭まで儒教倫理に根ざした同姓不婚が設けられていました。清朝末期にこの制度は撤廃されましたが、福建・広東から移住してきた人々が多くを占めていた当時の台湾では、多様な親族・血脈が複雑に錯綜していたため、近親婚を避ける為にも同姓不婚が不可欠でした。

 現在この慣習はどれほど残っているのかといいますと、2014年10月に台湾メディアが台湾の「同姓」結婚数が17万4350組に達したことを、「真愛無禁忌 (真の愛にタブーなし)」として、長年の伝統習慣である同姓不婚はタブーではなくなったと報じました(華視新聞 2014年10月30日)。

 また2018年の内政部統計報告書では夫妻同姓を統計対象の項目として列記しています(内政部 全国姓名統計分析)。報告書によると、2018年6月時点での夫妻同姓数は17万5933組と記されています。統計年数が記されておらず、この数値が果たしてどのような意味を持つのか、その意図を図りかねますが、報告書の同項目には「我國傳統習俗,同姓氏不婚  (我が国の伝統習慣として、同姓は結婚せず)」と記された上で上記の数値が紹介されています。

 上述の報道と内政部の統計報告書はともに同姓不婚が台湾の伝統習慣であるとしていること、また報道ではそれが今ではタブーではなくなったとことさら強調して報じていること、報告書で夫妻同姓を統計対象の項目として挙げていることを踏まえて見ると、台湾には現在も同姓不婚の慣習が根付いているようです。

■同姓不婚と「冠姓」の名残

年長者の氏名に「冠姓」。病院の待合表示版の42・43番の方が冠姓。(38番は筆者)

 近親婚を避ける為の前提として同姓不婚が慣習として残る台湾では異なる姓の者が結婚した場合、その後の苗字はどういった扱いになるのでしょうか。中華民国民法第1000条では「夫妻各保有其姓。  (夫婦は各自の姓を保持する。)」と定められており、結婚後も夫婦別姓が原則となります(全国法規資料庫)。

 実際私の知人も、例えば夫は「林さん」、妻は「陳さん」のように、夫婦別姓の家庭が大多数です。なお民法第1000条には続いて「但得書面約定以其本姓冠以配偶之姓,並向戶政機關登記。( 但し当事者の姓に配偶者の姓を冠するには戸政機関での登記が必要となる。)」とあります。

 つまり戸政機関で書面登記をした場合は当事者の姓に配偶者の姓を冠することができるというものです。これは「冠姓」と呼ばれるもので、例えば「林大明」さん(男)と結婚した「陳美麗」(女)さんが冠姓で夫の姓を冠した場合、陳さんは以降「林陳美麗」さんとなります。以前は台湾でも冠姓を使用する人がいましたが、現在この慣習は殆ど残っていないようです。

■夫婦別姓とその影響

 夫婦別姓が原則となると、子供の姓決定にはどのような選択肢があるのでしょうか。以前の民法では「子女從父姓 (子は父方の姓に倣う)」とされていましたが、男女平等を推進する社会の変化に伴い、2007年に大幅な修正が加えられました(全国法規資料庫。現行の民法第1059条では「父母於子女出生登記前,應以書面約定子女從父姓或母姓。 (出生登記前に、両親合意の下で父母の姓のいずれかを子の姓とする書面を作成する)」と定められています(全国法規資料庫)。

 実際には出生届の提出期限(出生後60日以内)に父方または母方の姓を子の姓とする署名入りの申請書を戸政機関に提出することで、子の姓が決まります。 興味深いのは、同条同項にて「未約定或約定不成者,於戶政事務所抽籤決定之。 (合意に至らなかった者には、戸政事務所での抽選(くじ引き)で決定される。)」と規定されていることです(全国法規資料庫)。

 当事者間で子供の姓で揉めるというのが、婚姻の際には「夫又は妻の氏を称する」(民法750条)と規定されている日本では起こりえないことですし、出生届前に子供の姓で紛糾が生じるというのも夫婦別姓ならではの問題だと思いますが、解決法が「役所のくじ引き」というも、確かに公平公正なのでしょうが、シンプルさ故に「それでいいのか」と驚きを感じました。

王さんと陳さんが再婚したらこうなる可能性も

 また離婚後の親権問題等も考慮されているのか、中華民国民法1059条には子が成人前に両親の合意で子の姓を変更することができると規定されています(1回のみ)。更に子の成人後は当人自らが父母どちらかの姓を選択変更する機会も設けられています(1回のみ)。修正後の民法第1059条からは父母の意思とともに子の意思も尊重していることがわかります。

 ところで夫婦別姓の社会では、再婚の場合に子供の姓はどうなるのでしょうか。これは民法にて「養育者の姓を称するか或いは元の姓を維持する」と定められています。これに従えば、「林さんと陳さんの一人息子林君」は「林さんと陳さん」の離婚後、陳さんが「王さん」と再婚したことで、養育者である王姓を名乗ることになるか、今のまま林姓をそのまま使うこともできます。

 この家庭は「王」姓の父と「陳」姓の母そして「林」姓の息子という構成です。さらに王さんが前妻の姓「張」を名乗る連れ子伴った場合、家庭内の各4人が異なる姓を称することになります。

 これは極端な状況かもしれませんが、実際に妻の知人「劉」さんは前夫「黄」さんの姓を持つ二人息子を伴い「鄭」さんと再婚、子供はそのまま姓を「黄」姓を維持しており、父母と子が異なる姓の家庭を構成しています。2人の子ともまだ幼いので、成人までには姓をどちらかに変更する予定だということですが、実際にこのような家庭が身近に存在するのが台湾の社会です。

 各自が異なる「姓」のを持つ台湾の家庭では、「姓を一にした家族としてのアイデンティティ」構築や、「家族の一体性保持」に何らかの影響があるかもしれません。これもあって、台湾は父方・母方といった親族関係での血の繋がりを重視するのではないでしょうか。

■日本の夫婦同氏制度は台湾でも注目

 日本では民法第750条において「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定められています。昨年5月、台湾でも知名度が高くファンの多い新垣結衣さんが星野源さんとの結婚を発表、台湾でも大きく取り上げられました。また「新垣結衣變星野結衣 (新垣結衣が星野結衣に変わる)」(今日新聞 2021年5月20日 など)として、日本の「夫婦同氏制度」が注目を集めるようになりました。

 その直後の2021年6月23日、日本の最高裁は「夫婦同氏制度」を合憲とする決定を下しましたが、これも台湾で大きく取り上げられました。女性の社会進出が盛んな台湾では、日本の「夫婦同氏制度」で大部分は女性が夫の姓を称する状況にあること、女性が結婚によってそれまで築き上げた人脈や資産など人的、物的なものが失われるとして、改姓がもたらす大きな負担を指摘する記事(天下雑誌 2021年7月3日)や、日本では女性の社会的地位の向上に更なる努力が必要だとする見解のコラム(風傳媒2021年6月26日)や、今回の最高裁決定は同姓による家族の一体性が重要と位置づけたと分析する論説が掲載されました(換日線 2021年8月13日)。

■多様化を進める社会で「家族一丸」の揺らぎ

 台湾は、2019年5月にアジアで初めて同性婚を合法化しました。内政部の統計によると、結婚届けを受け付けた同性カップルは2020年5月の時点で4021組に上っています(中華民国内政部)。2022年1月4日には婚姻関係にある男性同士のカップルに養子縁組を認める司法判断が下されました(中央通訊社 2022年1月4日)。

 同姓の結婚を禁止していた国が、同性の結婚をいち早く実現する、台湾は実に奥の深い国です。

 男女平等、多様化社会の建設を進め、多様な性的指向を受入れ、「姓」だけでなく「性」にも寛容なのが台湾社会の特色です。ただ、アジア第一位、世界でも第二位とされる高い離婚率や夫婦別姓に伴う家族内の多数「姓」の存在、今後問題化する可能性を孕む、同性家庭の養子縁組による家庭内での「性」の矛盾や不一致の問題ーー今後台湾における家族の一体性やアイデンティティの揺らぎが大きくなっていくのではと、私としては多少気がかりな部分ではあります。

"夫婦別姓でカオス くじ引きで子の姓を決定"に3件のコメントがあります

  1. はな より:

    姓(かばね)と氏(うじ)の違いとかにも触れてもらえるとなおわかりよいかなと思いました。

  2. 匿名 より:

    台湾には少数民族(台湾では「臺灣原住民族」と呼ばれているようです)がいます。
    それぞれの民族の名も持つ方がいるようです。

    例えば蔡英文総統はパイワン族の血を引き、パイワン名Tjukuをお持ちだとか。

    このような民族の名前は、台湾ではどのように扱われているのでしょうか?
    戸籍には記載されているのでしょうか?

  3. 海軍大将 より:

    冠姓は台湾のみならず香港にもあるようで(林鄭月蛾など)、元々中国に由来する習慣らしいですね(1929の中華民国民法に規定があるようです)。
    ただ、香港で冠姓が一般的なのは、英国の夫婦同姓や結合姓の影響もあるらしいので、台湾の年配者に冠姓が多いのも、日本の影響なのかもしれませんね。
    結局台湾が多様性を受け入れる最大の理由は、歴史的には原住民、オランダ、鄭氏政権(日明混血)、清、大日本帝国、国民党と、台湾人の国家を形成する前に様々な外来勢力の支配または統治を受けてきた歴史、そしてホーロー、客家、原住民、外省人からなる多民族性故なんだと思います。
    故に、万世一系の天皇陛下を頂き、単一民族国家である日本と同じ基準で語ることはできないのです。台湾では多様性を認めているから日本でも認めろ、台湾は夫婦別姓・同性婚を認めているから日本も認めろなどと言った議論は、日本の国体と歴史の独自性、民族と国家の独立、伝統、そして主権を無視する議論であるのみならず、台湾のそれをも無視する議論なのであります。台湾ほど日本と文化的に近い国はそうそうないですが、日本とは異なる独自の文化的、歴史的、社会的、民族的文脈を持っている国なのであります。
    台湾人は、台湾人の文化と考えに基づき、台湾人の決断に基づいて台湾の家族社会の在り方を決め、日本人は日本人の文化と考えに基づき、日本人の決断に基づいて日本の家族社会の在り方を決める。これこそが日本と台湾の主権と独立、日本人と台湾人の歴史と文化を尊重する道であり、日台手を携えて、グローバリズムの波を乗り切り、リベラリズムの名を借りた国際共産主義、そして中国共産党の世界支配に抗う術なのであります。
    私が、日本は強制的親子別姓(選択的夫婦別姓)、同性婚を断固拒否すべきと唱えながら、台湾の選択を称賛するのは、どちらもそれぞれの国の歴史文化伝統社会、そして主権と独立に基づいた選択だからです。(明治民法の起草者である梅謙次郎は、日本の慣習は夫婦同氏であり、夫婦別氏は支那の慣習だと看破していますhttps://minamoto-kubosensei.amebaownd.com/posts/7649359/)
    ところで、欧米圏で夫婦別姓や同性婚を推進しているのは、凡そLiberalを名乗る共産主義者たちですが、彼らは唯我独尊、己の思想のみが正しいと信じ、各民族には各民族の歴史と伝統と考え方があり、各国には各国の主権と独立がある事を全く無視し、只管に傍若無人な内政干渉を繰り返しているのであります。一昨日は凶悪殺人犯の処刑は人権侵害であると寝言をいい、昨日は女人禁制の神輿が女性差別であると日本国民の宗教を否定し、今日は我が国伝統の家族制度は性差別だなどと日本人差別を平然とやってのけるのが欧米のLiberalなのであります。そして「進んだ」欧米の思想を「遅れた」日本に導入しようと、必死に欧米Liberal様の指示を仰ぎ、反対する日本国民の声を「ヘイト」として弾圧しようとしているのが、日本の「リベラル」の有様です。
    日本民族の伝統や宗教を否定し、日本の主権と独立をないがしろにし、あろうことか日本人の言論の自由をも弾圧する。凡そ「リベラル」を名乗る連中のやっていることは、中国共産党やスターリンと何が違うのでしょうか。
    そして現に、日本や欧米の「リベラル」の連中は只管中国共産党が大好きで、中国共産党の日本侵略を応援する為に活動しているとしか思えません。
    しかし、同じようにリベラルと呼ばれている政治家の中でも、蔡英文総統だけは違います。常に中国共産党にその歴史と伝統、民族と社会、主権と独立、そして存在をも脅かされている台湾という国家の舵取りを担っている故に、一国の社会の在り方は、その国の歴史とアイデンティティと主権の支配する所であり、如何なる外国も容喙できないことを誰よりも理解しているのです。蔡英文は「リベラル」ではありません。全ての民族、全ての国家の自由を尊重する自由主義者なのです。だから、日本民族の歴史伝統文化社会宗教、そして日本国の主権と独立、日本国民の民意に基づいて選ばれた日本の制度に一言も嘴を挟まないのです。
    日本の夫婦同氏制について、「日本では女性の社会的地位の向上に更なる努力が必要だ」などと偉そうなことをのたまう一部の台湾メディアは、蔡英文の姿勢を見習っていただきたいと思います。

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