妻の国籍欄「台湾」に!日台夫婦・葛西家に届いた朗報

葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

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2月17日、嬉しいニュースが飛び込んできました。日本の法務省が5月から戸籍の国籍欄に地域名を表記できるように省令を改正することを明らかにしたものです。これにより「地域」として「台湾」と記載が可能になりました。台湾人と結婚した場合、その国籍を『中国』とせざるを得なかったという不適切な表記が解消されることになります。
◾️「中国」国籍のやるせなさ
1964年以降、台湾出身者は国籍欄に「中国」と記すことを余儀なくされてきました。日本人と外国人が結婚した場合、日本人の戸籍欄には配偶者の名前と国籍が記載されます。台湾を「国」として認めていない現状では、この配偶者が台湾出身でも、「中国」と表記せざるを得ませんでした。私の妻も日本の戸籍欄に「中国」と記載されており、これを見て「しょうがないね」と諦め気味につぶやいていたことが、強く印象に残っています。
しかし、子供の出生届提出でも区役所の担当者から書類の母の国籍欄を「中国」とするよう求められた時は、普段はあまり悲しい顔を見せない妻が真剣な眼差しで「私は台湾人です」と訴えました。生まれてきた子の届出書類にも自身のアイデンティティである「台湾」と記せないこと、そのやるせなさと悲しさを痛烈に感じた私は、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。同時に、出自を堂々と示せないことは、個人の尊厳に関わる重大な問題であると痛感しました。今回、法務省が国籍欄を「国籍・地域」の表記欄と改めるとしたことによって「地域」として「台湾」の記載が可能になったのです。
中華民国(台湾)外交部(外務省)はこの報道を受け、日本在住の台湾出身者のアイデンティティ尊重に加え、身分上の判別をさらに明確にしたとのコメントを発表、また林佳龍外交部長(外務大臣)は、日本各界の努力に感謝を表明しました(民視新聞網 2025年2月18日・快新聞/日本戶籍國籍欄5月起可正名台灣! 外交部樂見:彰顯旅日僑民身分認同)。
台湾メディアでは、今回の改正に関して日本の超党派の国会議員でつくる日華議員懇談会の長年の働きかけがあったと報じています。日華議員懇談会は台北駐日経済文化代表処(大使館に相当)や在日台湾人団体等から、「中国」表記問題解決への協力を要請されていました。日華議員懇談会は2022年台湾人の妻を持つ滝波宏文参院議員を座長として専門チームを立ち上げ、慎重に事を進めてきたということです(公視新聞網 2025年3月4日・5月起日本戶籍文件可填台灣 幕後推手議員為台灣女婿)。
2024年8月まで駐日代表(大使)を務めた謝長廷氏も自身のフェイスブックにて、本件の顛末を語っています。謝氏は2016年の就任時以降この案件を「複雜難度高,但應努力完成 (複雑で難しいが、努力して完成させなければならない)」として、「沒有間斷的推動 (絶え間なく進めてきた)」としています。そしてようやくの実現に「不禁眼眶泛淚,百感交集 (万感胸に迫り涙が溢れ出すのを禁じ得ない)」と思いを綴っています(謝長廷 FBファンページ 2025年2月17日 投稿)。
◾️台湾メディアは歓迎
本籍に「台湾」の記載が可能となったことについては、台湾メディアは良好な反応を示しています。「台灣人第一次可以大聲的說出自己的出身地是「台灣」,日本法務省正名的一小步,凸顯的台日關係進展的一大步(台湾人はようやく自身の出自を「台湾」と胸を張って言うことができるようになった。日本の法務省による正名(台湾本土化運動の名称)への小さな一歩は、台日関係発展への大きな一歩であることをはっきりと示している)」(台視新聞網2025年2月18日・日本戶籍國籍欄 台灣人可從「中國」改登記「台灣」) と、日台関係の更なる発展と評ずるものがありました。
また、日本に長期滞在する外国人の在留カードや住民票には「国籍・地域」欄があり、2012年以降「台湾」と記載できるようになっていたことから、「戶籍表格的修改雖然整整晚了十三年,但可視為是遲來的正義。(13年を経て戸籍表記の改正となったが、これはようやく訪れた正義と見做すことができよう)」(自由時報 2025年2月18日・日本戶籍國籍欄可記載台灣 對台重大正名措施 5月實施)と歓迎する媒体もあります。
2月13日にアメリカ国務省がホームページ上から「台湾独立を支持しない」という文言を削除したことを絡め、「美日的一小步 台灣地位的一大步(日米の小さな一歩は台湾地位向上の大きな一歩である)」(Newtalk新聞 2025年3月1日・美日聯手推動「台灣中國,一邊一國」)と、日米の施策が国際社会での台湾の地位向上を大いに促進することを期待とともに報じる記事もありました。
また台湾の人々からも、好意的な声が多数寄せられています(Dcard、Yahoo!台湾、Youtube、Facebookを参照)。
「終於還我作為台灣人的驕傲,想起以前曾經在市役所堅持我是台灣人(やっと台湾人としての誇りを取り戻せた、市役所で「私は台湾人」と突っぱねていたのを思い出すよ)」という歓迎のコメント。
「這也成為了日本在正式承認台灣為國家時,一個重要的既成事實(日本が台湾を国家として正式に認めたときの重要な既成事実となるだろう)」と未来へ期待する思い。
「為了配合台灣還不是國家的現況,因此將欄位改成「國籍、地域」真的很貼心(台湾は国家ではない現状に配慮して「国籍、地域」としたのはとても親切だね)」と日本の対応を親切とする声。
「製菓衛生師免許証上的本籍是不是也能從中國改成台灣? (製菓衛生士免許の本籍も中国から台湾に切り替えてもらえるかな?)」などと国家資格免許等の「地域名」対応を求める声も複数挙がっていました。
◾️台湾人の妻と喜び噛み締め
台湾国立政治大学選挙研究センターでは1992年から中華民国籍保持者を対象に「自分は台湾人か、それとも中国人か」という調査を行っています(國立政治大學選舉研究中心重要政治態度分佈趨勢圖・臺灣民眾臺灣人/中國人認同趨勢分佈(1992年06月~2024年12月))。
2024年12月発表の最新調査結果では、「自分は台湾人」ととらえる人は63.4%で、2020年以降一貫して60%を上回っています。また1992年の調査開始から「自分は台湾人」である人の割合は17.6%であったのが、以降は上昇し続けてきました。
それに対して「自分は中国人」ととらえる人の比率は2024年12月で僅かに2.4%です。1992年の調査では25.5%と、対象者の約4人に1人が「中国人」と認識していたものが、2002年には10%を割り、その後も減少を続け、2024年度では最も低い数値となりました。
この調査からも、台湾では「台湾人」としてのアイデンティティーを持つ人が多数を占めていると言えるでしょう。この現状に沿った日本の対応は、日本人を配偶者に持つ台湾の人々にはようやく訪れた朗報、と言えるのではないでしょうか。この報を知った妻は、「次回帰国時には『台湾』表記に変更する」と楽しみなようです。「中華民国」ではなく、地域としての「台湾」表記が可能となったこと、これは僅かな改正ですが、(己の出自が中国ではないことを堂々と示せる)と喜ぶ妻の笑顔に、台湾の人々には大きな自信となったのだ、と私も妻とともに喜びを噛み締めました。