賭け麻雀事件で問われる朝日・産経の報道倫理

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 東京高検の黒川弘務検事長が賭け麻雀をしていたと報じられたことで、辞意を漏らしているという。賭け麻雀をしていたなら辞職は当然だが、同時に相手をした朝日新聞と産経新聞(2人)の報道倫理も問われる。彼らに新聞記者の、両社に報道機関としての資格があるのか。

■黒川検事長は辞意漏らすと報道

新聞記者なら西山事件の判例ぐらい読んでほしい

 朝日新聞電子版(5月21日付け)は黒川検事長が法務省の調査に対して賭け麻雀の事実を認め、辞意を漏らしているという。前日にも書いたが、大人4人が集まってキャラメル一箱を賭けて麻雀をすることなど考えにくく、実態は賭博罪(刑法185条)が成立するような賭け事であったのは間違いないと思われる(参考:賭け麻雀に産経無言 説明責任はどうなった)。

 朝日新聞の報道が正しければ「賭け麻雀」の事実を認めたということは、賭博罪成立が濃厚と本人も自覚しているのであろう。これが検察官同士であれば、賭博罪が成立しないように口裏を合わせることも考えられなくもないが(彼らは犯罪の成立の可否については熟知している)、相手は民間の新聞社の社員。

 いずれ真実が明らかにされてしまうことを思えば、口裏合わせなどをして、後からずるずると真実が明らかにされるよりは自ら進んで全てを明らかにする方が得策であると判断するのは当然のことと思われる。

■毎日新聞記者・西山太吉 違法な取材活動で懲役4月

 そうなると朝日・産経新聞の3人の記者も賭博罪に問われる可能性が十分ある。ここで考えたいのは、新聞記者3人と検事長1人の麻雀であり、記者サイドが取材目的なのは明白であること。

 記者が取材対象のプライベートな部分にまで立ち入って、真実を聞き出そうとするのは新聞記者としての正当な行為と言っていい。しかし、賭博罪を構成する行為を通じて取材活動をするのであれば、話は違う。

 ここで外務省機密電文漏洩事件(最高裁昭和53年5月31日決定)の判例が重要になる。これは毎日新聞の記者・西山太吉が、外務省の女性事務官と不適切な性的関係を結び、その上で外務省の秘密電文を提供させ、記事にしたという事件である。犯人の西山太吉は国家公務員法違反で懲役4月、女性事務官は同6月に処された(ともに執行猶予1年)。

■正当な取材であれば秘密漏示させても適法の場合も

 西山事件などとも呼ばれるこの事件で、最高裁は「報道機関が取材の目的で公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといって、そのことだけで直ちに当該行為の違法性が推定されるものと解するのは相当ではなく」と、正当な取材であれば公務員に秘密を漏示させても直ちに違法となるわけではないという趣旨の判示をしている。

 その次が問題である。

 「しかしながら、…取材の手段・方法が贈賄、脅迫、強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、その手段・方法が一般の刑罰法令に触れないものであっても、…法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びる

 刑法の賭博罪を構成する賭け麻雀を通じての取材は一般の刑罰法令に触れる行為であるのは明らか。今回の件で、何らかの秘密の漏示があったのか分からないが、取材方法としては違法性を帯びるのは間違いない。朝日新聞も産経新聞も報道機関を名乗るのであれば西山事件の判例を読み、記者に教育を施した上で適正な取材活動を行うことを徹底させなければならない。

■黒川検事長が辞めて済む問題ではない

 今後、どのような方向に進むか分からないが、取材手法が違法なものであったことが判明した場合には、朝日新聞も産経新聞も関係した社員を処分すべきなのは当然である。その上で、自らの報道姿勢を国民にお詫びすべき。

 黒川氏が辞めて済む問題ではない。

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