米国種牡馬の経済学 フライトラインは高すぎる

The following two tabs change content below.
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 2022年の米国の年度代表馬が怪物の呼び声が高いフライトライン(牡4、J.サドラー厩舎)に決定した。通算6戦6勝、2着につけた着差の合計が71馬身という信じ難いパフォーマンスは怪物の呼び名に相応しく、初年度の種付け料は破格の20万ドル(約2600万円)に設定された。世界から評価される馬だが、この価格はさすがにバブルではないか。

■初年度から種付け料2600万円

北米種牡馬の2023年の種付料ランキング(松田隆作成)

 1月26日に米国の競馬の年度表彰であるエクリプス賞の受賞馬が発表された。年度代表馬は今季3戦3勝、通算6戦6勝のフライトラインが順当に選ばれた(最優秀ダート古牡馬も受賞)。エクリプス賞は全米競馬記者放送事業者協会、デイリーレーシングフォーム紙、全米サラブレッド競馬協会の代表者による投票で決められる。今年の投票者は246人で、年度代表馬の部門ではフライトラインが239票と97%以上の得票率で選出された。

 日本のメディアでもかなり話題になっている馬だけに、名前だけは知っているという方も少なくないと思われる。昨年は半年ぶりの実戦となった6月11日のG1メトロポリタンH(ダート8f)からスタートし、2着のG1馬ハッピーセーバーに6馬身差をつけて勝った。G1で2着に6馬身差なら普通は楽勝の部類で、実際にこの時も楽勝と言っていい内容であったが、この時が全キャリアの中で最も接戦になったレースであった。

 続いて9月4日のG1パシフィッククラシック(ダート10f)に出走、同年のG1ドバイワールドカップ優勝馬カントリーグラマーに19馬身4分の1差をつける信じ難いレースを演じた。最後の100mは流す余裕。そしてラストランの11月5日のG1BCクラシック(ダート10f)も楽々と優勝、2着につけた着差は8馬身4分の1であった。IFHA(国際競馬統括機関連盟)が発表したワールドベストレースホースランキングでは史上最高タイのレーティング140をマーク。

 これだけ強さを見せれば、もうそれ以上の性能を競馬場で披露する必要はない。現役引退は当然の選択肢と言ってよく、今年からケンタッキー州のレーンズエンドファームで繋養され初年度の種付け料は20万ドル(約2600万円)に設定された。

 日本の種牡馬の種付け料を見るとエピファネイアの1800万円が最高で、コントレイル、キズナ、ロードカナロアが1200万円で続く。米国は4年連続北米リーディングサイアーのイントゥミスチーフが25万ドル(約3300万円)でトップ、続いて2年連続(2007、2008)米国年度代表馬で、昨年のリーディングサイアーランキング2位のカーリンの22万5000ドル(約2900万円)、そして3位タイがまだ1頭の産駒も出していないフライトラインとなる(参照・北米種牡馬の2023年の種付料ランキング)。

■種牡馬界の万馬券イントゥミスチーフ

 上記の表の「比率」に注目していただきたい。これは当該種牡馬の初年度の種付け料に対して、2023年はどの程度、変動しているかを示したものである。トップのイントゥミスチーフは初年度の2009年は1万2500ドル(約160万円)に過ぎなかったが、14年後にはその20倍になっているのである。言ってみれば、種牡馬界の万馬券。

 2位のカーリンは現役時代、G1を8勝した米国を代表する馬だったので初年度から7万5000ドル(約980万円)と高額に設定されていた。それが14年後に3倍になったわけで、浮き沈みの激しい種牡馬の世界では大成功と呼んでいい。

写真はイメージ

 結局、種牡馬というのは結果が出ていない初年度はどんなに強い馬でも未知の部分が大きいことから一定の金額に収まり、実際に能力の高い産駒を多く出すようになれば種付け料は上昇するというシステムになっている。その天井は現在のところ、イントゥミスチーフの25万ドルということになる。

 イントゥミスチーフが積み上げた実績と、フライトラインへの期待値が種付け料にして5:4という接戦になっている。これは期待の大きさを先取りしたものと考えることができ、期待以下の成果しか得られない場合、種付け料は一気に下落するリスクを孕んでいることになる。

■高額種付け料の馬のその後

 ここでもう1つの表(北米新種牡馬の高額種付け馬のその後)を見ていただきたい。これは年度別の新種牡馬の最高種付け料の馬が、2023年にはいくらになっているかを示したもの。2016年から供用されたアメリカンフェローが、フライトラインと同じ20万ドルであったことが分かる。こちらは1978年のアファームド以来37年ぶりの三冠馬ということで期待の大きいスタッドインであったが、7年後の今年は6万ドル(約780万円)と70%減。2017年のフロステッドに至っては80%減である。

北米新種牡馬の高額種付け馬のその後

 こうしてみると、フライトラインの20万ドルはあまりに高過ぎないか。種牡馬に期待されるのはやはりクラシック制覇。その点、三冠馬のアメリカンフェロー産駒は3歳時からの活躍が期待できるが、フライトラインはクラシックは不出走で3歳の12月のG1マリブSが重賞初挑戦であった。この点は産駒を購入する馬主にとっては気になる部分。

 仮にいい産駒を出してリーディングサイアーになっても、4年連続首位のイントゥミスチーフの25万ドルを超えるのは簡単ではない。そうなると、当面の天井は25万ドルで、7年後にはアメリカンフェローと同じ6万ドル程度に落ちている可能性も考えられる。

■オーセンティックに魅力

 米国の種牡馬争いは、期待の大きい馬が思ったように成功せず、現役時代には大した実績のない馬が成功することが多いように感じる。代表的な例がダンチヒで、3戦3勝だったものの重賞は不出走である。日本ならシルバーステートのもっとキャリアが短いバージョンという印象であろうか。

 個人的には2021年にスタッドインしたオーセンティックの産駒が活躍するのではないかと感じる。同年にケンタッキーダービーとBCクラシックを制覇して早々と引退したが、BCクラシックでは1歳上の4歳世代をまとめて負かしており、内容は濃い。イントゥミスチーフの産駒ということでその後継種牡馬としての期待が高まり、牝馬のオーナーなら、期待料込みの20万ドルでフライトラインを種付けするよりオーセンティックの方が遥かに期待が持てるように思う。(※1ドル≒130円)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。