パンサラッサV 日本勢サウジカップで約20億円
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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パンサラッサ(牡6、栗東・矢作芳人厩舎)が2月25日(日本時間26日未明)にサウジアラビアで行われたG1サウジカップ(ダート1800m)を優勝、1着賞金1000万ドル(約13億6000万円)を獲得した。13頭立てのレースに6頭が出走した日本勢は3~5着、7着、11着となり、上位10着までに支払われる賞金で総額1500万ドル(約20億4000万円)を手にした。
■最内枠から逃げ切る
最内枠から好スタートを決めたパンサラッサが先手を取り、2番手にジオグリフ、3番手にテイバ(米国)、その後ろにカフェファラオ、クラウンプライドと日本勢が先行グループを形成する流れとなった。直線ではテイバが後退し、日本勢が1~4番手を占める日本のレースのような光景。
外から追い込んだカントリーグラマー(米国)がパンサラッサに4分の3馬身に迫ったところでゴール。パンサラッサが逃げ切り、3着にカフェファラオ、4着ジオグリフ、5着クラウンプライドと上位5頭のうち4頭が日本調教馬という結果となった(Saudi Cup 2023・Results Race8 The Saudi Cup)。
パンサラッサは昨年、ドバイターフ(芝1800m)を勝ち(同着)、G1初制覇を海外で達成した。今回は2年2か月ぶりとなる2度目のダート戦。最内枠からスンナリ先手を取れたことと、前評判があまり高くなかったことでそれほど厳しいマークを受けなかったことが功を奏し、大金星と言っていい勝利を掴んだ。
2着が昨年のサウジカップ2着、ドバイワールドカップ優勝のカントリーグラマーであるから、その勝利の価値は高い。陣営がなぜ、ダートを使ったのかは分からないが、すでに昨年、中東で芝のG1を勝っていること、サウジカップデーでの芝の適クラ・ネオムターフカップ(芝2100m)はG3の格付けの上、微妙に距離が長いことから、中山記念、ドバイターフで実績ある1800mのサウジカップという選択になったものと思われる。
ある意味、当然の選択肢と言えるかもしれないが、過去、ダートはリステッドレースの師走Sで11着という結果に終わっている点を考えれば、素晴らしいレース選択。結果的に多くの人には分からなかったが同馬にはダート適性はあり、それを矢作調教師が見抜いていたと言えるのかもしれない。
この後は、2連覇を目指し3月25日のG1ドバイターフに出走予定で選出馬となっていたが、サウジカップ後に同調教師はメーンのG1ドバイワールドカップへの参戦の可能性も口にしており、おそらくそちらになると思われる。
■日本のG1が空洞化の懸念
サウジカップは2020年からスタートし、昨年からG1に格付けされた。1着賞金1000万ドルは世界一の高額賞金を誇る。10着まで賞金が支払われ、3着カフェファラオは200万ドル(約2億7200万円)、4着ジオグリフは150万ドル(約2億400万円)、5着クラウンプライドが100万ドル(約1億3600万円)、7着ジュンライトボルトが50万ドル(約6800万円)で、5頭で合計1500万ドルを手にした。
日本では2月19日にG1フェブラリーS(ダート1600m)が行われたが、その1着賞金は1億2000万円だった。カフェファラオはこのレースを2連覇中も、今年は東京競馬場は見向きもせずにリヤドのキングアブドゥルアジーズ競馬場を目指した。結果、3着に終わったが、獲得賞金はフェブラリーSの優勝賞金の2倍以上である。
日本ではサウジカップと、3月末に行われるドバイワールドカップデーのためにフェブラリーSが空洞化すると懸念する声もあるが、この賞金体系を見ればそれも当然の帰結(参照・1着賞金11億円の衝撃 第1回サウジカップはJRAのG1×8クラ以上)。フェブラリーSのG1レースとしての格を保とうとするなら1月下旬か2月上旬にレースを移し、優勝馬にサウジカップかドバイワールドカップの優先出走権を付与してもらうなど、中東シリーズとの関連性を強めるのも1つの考えであろう(1月開催になればレース名の変更は検討材料)。
実際、今年はカナダからの出走があり(シャールズスパイト=9着)、中東シリーズを狙う外国勢(米国、カナダ、香港など)の参戦が見込め、レースの質は高くなるかもしれない(参照・中東で9勝の荒稼ぎ 日本競馬の経済学)。
■第1回の優勝賞金は未払い
サウジカップに日本調教馬は第1回から参戦しており、この時はゴールドドリームが6着、クリソベリルが7着となった。優勝は米国のマキシマムセキュリティ(参照・米国マキシマムセキュリティがサウジC優勝 6着ゴールドドリーム賞金6480万円)。
ところが、レースの後に同馬のジェイソン・サーヴィス調教師による禁止薬物の常用が明らかになり、サウジアラビアジョッキークラブ(JCSA)は1着賞金の支払いを停止した。2着のミッドナイトビズー(米国)陣営はマキシマムセキュリティの勝利の取り消しを要求。こうしたゴタゴタが続き、肝心の1着賞金は2023年2月の時点で支払われていない(JRA-VAN Ver.World・サウジC2着馬ミッドナイトビズー陣営、マキシマムセキュリティの勝利取り消しを主張ほか参照)。
ただしJCSAの公式サイトでは、レースの優勝はマキシマムセキュリティとされたまま(The Jockey Club Of Saudi Arabia・Race Results 1440season Meeting No-58 8R)。賞金の支払いだけが保留されているという状況になっている。
2022年12月9日にサーヴィス氏が有罪を認める陳述をしたことで、今年5月に予定される判決公判では禁固刑を科される可能性が出てきた。それを受け、マキシマムセキュリティのオーナーはレースの失格と、賞金の再分配の決定がされたら支持することを明らかにした。分かりやすく言えば、賞金が支払われなくても文句はありません、ということである。
JCSAはこれを受けて、12月12日に、今後も調査や裁判の進展を見守る趣旨の声明を発表した(The Saudi Cup・2022年12月12日午後9時22分投稿)。おそらく、遠くない時期に同ジョッキークラブによる賞金の再分配が行われると思われる。
こうしたトラブルで始まったサウジカップではあるが、4回目にして日本調教馬が日本人ジョッキーで優勝したのは、日本の競馬のレベルの高さを世界に示すものとなったと言えよう。この後のドバイワールドカップデーでも多くの馬が高額賞金をさらっていくことが予想され、日本の競馬ファンには楽しみが続きそうである。
》》ジャーナリスト松田様
矢作調教師の先見の名、ようやくここに極まったと言うところでしょうか。先を見据えて海外の競馬について、研究や準備もしっかりとされてこられた。これまでにも名伯楽と呼ばれる先生(調教師)はおられましたが、矢作さんは経営者としても今最も優秀なトレーナーだと思います。
優勝賞金13億円超えのクレージーなレースを、吉田豊騎手を配してパンサラッサで勝つとは想像しておりませんでした。おそらく先生にとっては最も合理的な選択だったのではないでしょう。
競馬の社会は生産者、育成、厩舎、そして馬主の利権と生活が複雑に絡み合う、ある意味【経済システム】だと思います。
繊細かつ体力の消耗が激しいサラブレッドにとって、管理する厩舎の存在は競走馬の素質以上に重要です。グローバル化が進んだ競馬界にとって、JRAの矢作調教師の存在はまさに競馬先進国の象徴であるようにも思えます。
最大の勝因は矢作調教師のレース選択という部分、同意です。矢作調教師の緻密な作戦もあったのでしょうし、何より行かなければ勝てないということで、とにかく行ったというのが大きいと思います。
今回の賞金は日本の競馬サークルに還元されるでしょうし、また、日本のサラブレッドの世界への売却という面でも大きいと思います。日本の経済、企業は総じて元気がありませんが、競馬や馬産の世界は活気があるのがうれしいです。矢作調教師がその原動力の一端を担っているのは間違いないと思います。