ディープインパクト産駒が英ダービー優勝

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 ディープインパクト産駒のオーギュストロダン(牡3、A.オブライエン厩舎)が3日に英エプソムダウンズ競馬場で行われたG1英ダービー(芝12f6y)を制した。2019年に死んだ無敗の三冠馬のラスト世代が、世界で最も権威のあるクラシックレースを勝ち、新たな勲章を加えた。

◾️英2000ギニー12着からの巻き返し

優勝したオーギュストロダン(手前、Racing TV画面から)

 14頭立ての後方5、6番手を進んだオーギュストロダンは直線で外から追い上げ、ラスト1f付近で先に抜け出したキングオブスティールとの一騎打ちに持ち込んだ。激しい競り合いの末、ゴール前でとらえて第244代の英国ダービー馬の座に就いた。

 日本産種牡馬の産駒が英ダービーを勝つのは初めてで、同国のクラシックに限れば2018年G1英2000ギニーのサクソンウォリアー、2021年G1英オークスのスノーフォールに続く3勝目。欧州主要国のダービー制覇は、2018年G1仏ダービーのスタディオブマンに続く2度目となる(父はすべてディープインパクト)。

 オーギュストロダンは、オペラ賞などG1を3勝したロードデンドロンが来日してディープインパクトを種付けされ、アイルランドで誕生した。サクソンウォリアー、スノーフォールが日本産なのに対し、愛国産に分類される。ロードデンドロンの全妹のマジカルは英チャンピオンS、愛チャンピオンSなどG1を7勝するなど母系も極めて優秀で、競馬の世界では文句なく「良血馬」と呼ばれる範疇に入る。

 昨年6月1日のデビュー戦は、後にG2ベレスフォードSを制するクリプトフォースの2着と敗れたが、すぐに勝ち上がり、G2チャンピオンズジュヴェナイルS、G1フューチュリティートロフィーと3連勝を飾った。2歳時は4戦3勝で、その時点で2023年の英ダービーの最有力候補とされていた。

 ところが、5月6日、3歳初戦のG1英2000ギニーで12着と大敗し、一気に評価を下げてしまう。この時は道悪(重馬場)が敗因とされている。英ダービーは良馬場に恵まれたことから、ダービー制覇に必要とされる運も持ち合わせていたと言えるのかもしれない。

 手綱を取ったR.ムーア騎手はルーラーオブザワールド以来10年ぶり3度目、A.オブライエン調教師は2020年サーペンタイン以来3年ぶり9度目のダービー制覇となった。

◾️次走7/2G1愛ダービー有力

 この先、オーギュストロダンは、7月2日のG1愛ダービー(カラ、芝12f)に向かうことになりそう。レース後にA.オブライエン調教師は、当初、1970年のニジンスキー以来53年ぶりとなる三冠を目指す考えだったことを明かしている。それが第1レグの英2000ギニーで敗れたことでプランは消滅。今後は国際レースや10f、12fのレースを狙っていくとした。

 愛ダービーの結果次第で7月29日のG1キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS(アスコット、芝11f211y)に進むことになりそう。秋は10月1日のG1凱旋門賞(パリロンシャン、芝2400m)が最高目標になるのは確実。もし、三冠狙いなら9月16日のG1英セントレジャーに出走となるため、凱旋門賞出走は日程面で厳しかった。

インタビューに答えるA.オブライエン調教師(Racing TV画面から)

 このあたりをA.オブライエン調教師は「彼は今、(三冠の)拘束から解き放たれている」(レーシングポスト電子版・Auguste Rodin back to his brilliant best to provide ‘genius’ Aidan O’Brien with a record-extending ninth Derby win)と語っている。日本的に表現すれば、英2000ギニーの敗戦は怪我の功名であったということ。

 国際レースと言っている以上、11月4日の米G1BCターフ(サンタアニタパーク、芝12f)も視野に入っているのであろう。英ダービーはG1ジャパンCの報奨金交付対象となる指定競走で、同馬が勝てば本賞金(5億円)のほかに報奨金300万ドルが入るため、そこも選択肢の1つになっているかもしれない(可能性は低そうではあるが)。

 なお、英国のブックメーカーの凱旋門賞の前売りオッズを見ると、オーギュストロダンは、エミリーアップジョン、イクイノックス、ルクセンブルクらを抑え、単勝6~9倍で軒並み1番人気となっている。

◾️楽観視できない種牡馬価値

 欧州では貴重な血となるサンデーサイレンスーディープインパクト系だけに種牡馬としての成功も期待されているが、楽観はできない。2022年の英愛総合サイアーランキングを見ると、トップ10に入っている英ダービー馬は2位シーザスターズ、4位ガリレオの2頭しかいない。

 最も権威あるレースを制した馬が種牡馬としてはあまり成功していないのは、そのコース形態に求められるのかもしれない。エプソムダウンズで行われる英ダービーはスタートからゴールまでの高低差が約40mあり、スピードよりスタミナが必要とされる(参照・JRA-VAN コース解説・エプソム競馬場。距離をメートル法に直すと約2420mで、同競馬場で開催の英ダービーレコードは2010年ワークフォースの2分31秒33。ほぼ同距離のG1東京優駿(日本ダービー)のレコードタイムは2022年ドウデュースの2分21秒9で、10秒近い差がある。

 このように世界的にスピード優先の現代競馬から、少し離れた位置にあるのが英ダービーと言っていい。そのため、種牡馬として成功している2頭の英ダービー馬は、シーザスターズが英2000ギニーや愛チャンピオンSなどマイルや10fのG1を制し、ガリレオも愛チャンピオンSで頭差2着と好走するなど、スピードの裏付けがある点で共通している。

 そうなると、オーギュストロダンは英2000ギニーで惨敗したのは痛く、この先、10f戦で結果を残さないと種牡馬としてどこまで評価されるか未知の部分はある(今後、マイル戦を使うことはないと思われる)。

 もし、愛ダービーを勝つようなら、キングジョージ、凱旋門賞と12f路線まっしぐらとなる可能性はあり、この馬の未来にとってはあまりいいことではないのかもしれない。

 可能であれば、愛ダービーの後は8月23日のG1国際S(ヨーク、芝10f56y=約2020m)か、9月9日のG1愛チャンピオンS(レパーズタウン、芝10f)を勝って凱旋門賞というのが種牡馬価値を考えた時にはベターであろう。

◾️欧州でディープインパクト系を

 1980年代あたりまで、日本は種牡馬の墓場と言われていた。欧米から優れた種牡馬を輸入しても成功せず、廃用とされることが多かったことを指している。

 その「墓場の国」で誕生したサラブレッドに、アイルランドから牝馬が派遣されて種付けが行われ、帰国して誕生した産駒が英ダービーを制するのであるから、時代は確実に変わっている。

 日本の競馬ファンの1人として、この後もオーギュストロダンが活躍し、種牡馬としてサクソンウォリアーやスタディオブマンとともに成功して欧州でディープインパクト系を大きく展開することを期待している。

    "ディープインパクト産駒が英ダービー優勝"に1件のコメントがあります

    1. nanashi より:

      牝系を調べたら3代母のCassandra Goは日本で外国産馬として走ったターファンスズカの半妹だそうですね。
      更に牝系を調べてみるとNative Streetの牝系で、日本ではトーヨーリファールやダイワスペリアー 、ゴッドインチーフやヌーヴォレコルトが出ていますね。
      海外ではジャパンカップダートを制したフリートストリートダンサーや日本で種牡馬となったストラヴィンスキーが出ていますね。

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