役立たずの日本学術会議 福島第一原発事故で馬脚

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。

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 日本学術会議の新規加入の6名の就任を菅内閣が拒否した。日本共産党の機関紙赤旗が第一報を出し、一部の活動家と野党、メディアが騒いでいる。6人は、5年前の平和・安全保障関連法案、共謀罪騒動などで、自民党政権の政策に反対した人だ。

 いつもの政治騒動と一緒で、この問題も論点がごちゃごちゃになっている。政治運動をする人は意図して問題を混乱させて、話を大きく見せようとしているのだろう。

日本学術会議は内閣府の特別機関(撮影・松田隆)

 論点として、首相による任命拒否が「学問の自由の侵害か」という憲法上の問題、「会員の任命権が首相にあるのか」という行政法の上での問題が考えられる。しかし大した問題になりそうにない。

 そもそも学術会議の会員でなくても研究活動は続けられるので、内閣の今回の対応は、学問の自由の侵害とは言えない。そして学術会議は、国の行政組織である以上、行政の長である首相が任命権を当然持つ。

 それよりも「学術会議が国民のために役立つ組織になっているかどうか」という問題を議論してほしい。私はエネルギー問題、東京電力の福島第一原発の事故の問題、安全保障問題に記者として取り組んできた。そこで、日本学術会議は社会に全く役に立たないどころか有害な活動をしていた。

■学術会議、異様な行動3例―福島、原発、安全保障

 2011年の福島原発事故と、それによって漏洩した放射性物質が住民にどのような影響をもたらすか。これは科学知識が必要とされる大問題になった。

 私は次のように主張した。

「これまでの放射線医療の研究を調べると、東京電力福島原発の事故で放出された放射性物質、それによる放射線量の程度では、福島県と日本に住んでも健康被害は起こらない」

「福島原発事故による放射線の被害と、原子力をエネルギーシステムの中でどのように扱うかは別の問題である。政治問題にしてはいけない」

「チェルノブイリ事故では、風評被害、デマで社会が混乱した。日本で同じことを繰り返してはならない」

 9年半経過した今では、私の懸念が現実になった。デマ、風評被害は拡大した。その影響で、福島の復興は遅れ、エネルギー政策は混乱し、賠償費用など社会はさまざまな負担を背負った。ところが原発事故による放射線で死んだ人は一人もいない。コストと結果が釣り合わないのだ。

 問題を是正する主張を続けているが、私は「御用記者」とか「原発推進派」と今でも罵られ続けている。この言論活動に社会的に助けが欲しかったが、味方は少なかった。特に学者、学会の動きは鈍かった。

 日本学術会議は2011年6月に政府の諮問に応じて、会長談話「放射線防護の対策を正しく理解するために」を公表した。そこで健康被害はないことを断言しなかった。そして2016年ごろ、社会が落ち着いてから、健康被害の可能性は少ないと、いくつかの報告書を出した。同会議は毎年20-30の提言を出すが、福島での提言の数は少なすぎ、積極的ではなかった。

 私は日本学術会議の事務局や管轄する内閣府に、同会議が「福島原発問題で積極的に科学的知見を示し安全であると社会に訴える活動をするべきだったのに、なぜしなかったのか」と、取材で聞いた。しかし担当者は「やっている」と言葉を濁すばかりだった。

 ある理系学者である関係者によると、福島問題で日本学術会議が、積極的に活動をするべきという声はあったという。しかし2014年ごろまで反原発の動きは感情的で過激だった。学者の多くは、そうした罵倒や攻撃的な批判に慣れておらず、騒動に巻き込まれることを恐れた。そして事務局の役人も面倒を嫌がり、動かなかったという。

■反原発活動には積極的な日本学術会議

 一方で日本学術会議は、反原発活動には積極的だった。原子力問題では、高レベル核廃棄物の最終処分場問題が、候補地が決まらず暗礁に乗り上げた状態だ。同会議は自発的に、この問題について、特別委員会を作り報告書を作成した。「高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策提言 – 国民的合意形成に向けた暫定保管」(2015年4月)という報告書だ。これは問題を知る人間にとって、間違いだらけで、あまりにもひどいものだった。(私の批判記事「日本学術会議の核廃棄物処理提言の問題点」)

 報告書の結論は要約すれば、「最終処分場の問題を解決しなければ、原発を停止せよ」というもの。別に処分の問題を解決しなくても、保管方法はたくさんあり、原発を止める必要はない。同会議は公的機関で露骨に反原発を主張できないので、奇妙な論理を使ったのだろう。内容はおかしいのに、この報告書は反原発を支援するメディアに肯定的に、大きく取り上げられた。メンバーの学者たちも一生懸命広報をした。

 この委員会には、原子力推進の立場の学者、実務者の参加はゼロだったという。メンバーは文系の学者で反原発活動をしていた人が多かった。驚いたことがあった。高レベル放射性廃棄物は、地下400mメートルより深い岩盤に埋められ、金属容器、粘土層に囲まれる予定だ。しかし文系の委員長は、新聞のインタビューで次のように語っていた。(記事

「地下深くの微生物に放射線が作用してその微生物を取り込んだ別の生物が地上に出てくるなど、人間界に及ぶ可能性はいろいろ想定できる」

 つまり放射能を浴びた微生物が突然変異をして、400メートルの岩盤をすり抜け、地上に出て、人間に害をなすと、語っているのだ。そんなことはありえない。もしこのような「エイリアン」が生まれるのを、大人が信じているのなら、その人は中学生の理科レベルの科学知識がないということになるだろう。

 「怪獣映画ゴジラの設定の方が科学的です。日本学術会議は大丈夫でしょうか」。このインタビューを知人の原子力学者や研究者、エネルギー政策関係者のネット上のコミュニティ2つにこう言って知らせたところ、参加者に笑いと困惑が広がった。その場で、学術会議関係者である原子力学者とやりとりをした。この委員会の参加を求めたのに「中立性を保つ」という名目で断られたという。

 同じような滑稽な話がある。安全保障問題でも日本学術会議は、反政府活動に忙しい。「軍事的安全保障研究に関する声明」(2017年3月)では、日本の大学での軍事研究の禁止を呼びかけている。その中心メンバーの天文学者は滑稽な妄想を公開していた。(記事

 安倍首相の友人が経営する故に設置を政府から支援されたと一部の人々が文句をつけた岡山理科大学獣医学部(愛媛県今治市)は、生物化学兵器を研究するために作られた可能性があるという。もちろん、それを証明する文章はどこにもなく、この人の妄想だ。陸上自衛隊には化学戦部隊、化学学校や防衛医科大学などの教育・研究機関があり、わざわざ外部に新設の研究機関を作る必要はない。自衛隊をめぐる初歩的な知識があれば、誰でもわかる。学者は、ある分野ではトップクラスの学力があっても、他の部分では子供のような妄想を抱くちぐはぐな思考を持つ人がいるようだ。そういう人が、政策提言を、日本学術会議を使って行っている。

 私の詳しい分野で見られた3つの異様な日本学術会議の動きを紹介した。同会議は、社会に必要な活動はせず、滑稽な思考をする老人が、反政府の政治活動をする場に堕落している。同会議は他分野でも、同じようなことをしているのだろう。安全保障政策などで政府を攻撃し、中国など日本の敵性国家との協力には熱心でもあるとされる。

■反政府の科学者機関は日本だけ?

 科学者と政府の関係において、おかしな科学者が政策を混乱させるというのは、日本独特の現象のようだ。他国では科学者や学会は政治的に中立的で、社会貢献に配慮し、政府と協力して社会問題の解決に向き合っている。

 福島原発事故のとき、各国の科学者と政治の関係を調べたことがある。日本以外の国では、政府科学顧問が問題に、適切な助言をした。科学顧問とは、大統領など行政府の長に科学問題に助言する人で、主要国には置かれている。日本は日本学術会議がその役割を果たすことになっているが全く機能していない。

 英国では福島原発事故の時に、首相科学顧問が事故を分析して、日本にいる英国人に健康被害の可能性は少なく、パニックに陥る必要はないことを映像と文章で伝えている。米国でも米軍や米原子力委員会が退避勧告など過剰な防護活動をしようとしたところ、必要ないと大統領科学顧問が止め、テレビ等で広報した。このように積極的に社会に役立つ関わり方をしている。

 日本学術会議は、そのような貢献をしなかった。今回の新型コロナウイルスの感染対策では、日本政府は学術会議を使わず、感染症の専門家を集め、政策の参考にした。同会議が役立たないことを、政府も認識しているのだろう。

 どの社会にも専門家は、その知の力と地位を獲得する過程において、その社会からチャンスと支援を受け、その対価として社会的責任を引き受ける。学者もそうであろう。特に税金をもらっている日本学術会議は組織も構成員も「社会に貢献する」という責任を引き受けなければならない。しかし同会議はその責務を果たしていない。

■今のように役立たない組織であるのなら…

 今回の騒動を契機に、日本学術会議を廃止、民営化しろという過激な意見もネットでは散見される。しかし私はそこまでする必要があるとは思わない。福島の原発事故問題のように、また新型コロナウイルス感染症の問題のように、科学の知識を社会が必要とする場面は、日本でまた必ず発生する。その時に、学術会議に科学と社会の橋渡し役として活動してほしい。

 しかし今のように役立たない組織であったら…。日本は学位を所有したのに仕事がなく、苦しむポスドク研究者が文系にも理系にもいて社会問題になっている。私の周囲にもいる。日本学術会議の予算は年10億円という。その税金を投入する価値を日本学術会議が示せないならば、解体して使われる公金を若手研究者に回した方が、はるかに日本のためになる。

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