伊是名氏が可視化 バリアフリーのコストと政策

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。
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 社民党常任幹事で車椅子を利用する伊是名夏子氏による「JRにより障害者の乗車拒否にあった」という奇妙な主張が行われて約1ヶ月が経過した。その経緯と、主張が矛盾でおかしな点だらけであることは、令和電子瓦版運営者、松田隆氏の詳細な取材と記事で明らかになっている。

 伊是名氏は、今年4月1日から改正バリアフリー法が適用されることをから、無人の来宮駅を計画的に狙い、無通告で訪問し、騒動を起こした可能性が高い。社民党、本人、取り巻きの主張は滑稽で奇妙であり、約1ヶ月経過してもネットの炎上、嘲笑、批判が続く異様な状態になっている。私は社民党が、この問題で勝手に自滅し消え去ればいいと思っている。

 ただ、この滑稽な騒動は、バリアフリーの巨額のコストが見えた点で、少し社会的意味があったように思う。社民党と伊是名氏本人が真剣にその問題を考えていなさそうなので、私がその対応策を読者と共に分析してみたい。

可視化されたバリアフリーのコスト

既にエレベーターが設置されている網代駅(熱海ネット新聞提供、2015年3月9日公開記事から)

 無人駅でバリアフリーにする方法は、エレベーターと、それに合わせた人の動線の整備だ。そのコストは、来宮駅では(保守を含めて)近くの網代駅の時の設置費用2億400万円を遥かに超えると知った。大変な金額だ。改正バリアフリー法で1日の利用客が2000人以上の場合もバリアフリー化を促すこととされた。来宮駅は利用者の実数が1100程度で、乗降客ベースにするとその2倍で2000人を超えるとされると聞く。

 仮の計算だが、乗客2000人から得られる収入は一人当たり近距離の片道切符200円を買うとして、1日40万円だ。1年で1億4600万円となる。乗客で、エレベーターが必要な高齢者、障害者はわずかだろう。この来宮駅は地域の拠点の熱海駅の隣にあり、Googleマップで見ると、1.6キロメートルしか離れていない。バリアフリーのタクシーなどを整備する代替策もある。だとしたら、エレベーターのコストを考えると、この駅を廃止してコストをかけないのが、鉄道会社にとって合理的な経営判断となる。

 実は似た事件がある。あちこちで車椅子での乗り物への搭乗をアポなしで行っていた人物がいる。その人が2017年「バニラ・エア車椅子搭乗事件」を起こした。予告なしに航空機に車椅子で搭乗させろと主張した障害者が、自力でタラップを上がって着席した事件だ。飛行機用の車椅子用エレベーターを設置すればいいが、格安航空会社には負担できない。彼が無理に搭乗したバニラ・エアの関西空港-奄美線は、2019年に廃止された。同社は、廃止の理由を明確にしていない。しかし儲からない路線は、コストがかかれば企業は撤退する。

 今は新型コロナの影響で、運輸業界は利用客の減少で大変な打撃になっている。鉄道会社、航空会社は無通告乗車への対応やバリアフリー要求に対応するために、赤字や高コスト路線を廃止するのが合理的だ。JRの前身の日本国有鉄道は、慢性的な赤字体質で債務が約37兆円まで膨らみ、その解決のために1987年に分割民営化された。その経験がある以上、JRは赤字削減に容赦はないだろう。

 これでは過剰なクレーマーによって、交通弱者がふえ、障害者の移動の自由も制限されてしまうことになる。彼らは口先では、「障害者の移動の自由のために活動した」という。しかし経済的合理性を考えないために、企業に負担をかけ、サービスを減らし、結果として障害者の移動の自由を減らす、とんでもない人たちであると言えよう。

バウチャー制度とコンパクトシティ

 ではどうすればいいのか。まず大前提で、おかしなクレーマーは、徹底的に無視し、好き勝手な行動をさせないことだ。

 そして日本では知られていないが、2つの社会政策の考えを紹介したい。

 一つはバウチャー制度だ。

 使用目的を限定した券(バウチャー)を作り、利用者に支給。その利用した事業者に、その使用分だけ行政が支払う。経済学者のミルトン・フリードマンが教育バウチャーを提唱。その後、貧困層の食事などにも、活用の範囲を広げている。GOTOキャンペーンもその一種だろう。

 行政がサービスそのものを提供すると、行政費用が膨らむ、非効率になる、箱物ができて無駄なインフラが増える、廃止しづらくなるなどの問題が出てしまう。バウチャーを使えば、利用者が選択の自由を得る、民間の産業を支援し競争を促すなどの効果がある。行政が投入する資金を増減することで、サービスの利用量を変えられる。

 日本でも、大阪市で、橋下徹元市長が、塾などの習い事での教育バウチャー制度を2012年から小規模に導入した。小規模だが評判は良いと報道されている。

 これを移動の自由のために、観光地などでは障害者に提供してはどうだろうか。

 もう一つは「コンパクトシティ」と言う考えだ。生活に必要な諸機能、公共機関、交通機関を都市中央に集め、都市暖房やエネルギー使用の集中による省エネ、行政機関の削減とコスト減、利用者の利便性の向上に役立てると言うものだ。これはバリアフリーの集中投資もできる。少子高齢化に対応し、高齢者や障害者などの移動の弱者も守れるはずだ。この促進は、国土交通省の重要政策になっている。

余裕がない日本、インフラをまとめる時代

 この2つの考えは理屈の上では正しい。だが、各国でも、日本でも、なかなか広がらない。当たり前だが、利用者はサービスを細かく求めたいし、政治家はその要望を得票のために聞いてしまう。

 2011年の東日本大震災では、東北の市町村で津波により、街全体が破壊されたところがあった。そこで計画段階で、コンパクトシティによる再建、バウチャー制度の導入による箱物インフラ建設の抑制が、議論されていた。実際にそうした形で再建した街があった。ところが、ある街を2017年に訪問したところ、高台に街の中心地を移したが、なんでもインフラを揃えた街ができていた。なぜと聞くと、復興の予算措置がなされ、金の心配がなくなり、みんなの意見を集めたところ、なんでも揃えようと言うことになったと言う。

 しかしこれからは、同じような街づくりは無理だろう。自民党から社民党のような考えのおかしな極左まで、政治家は日本の政府にも民間企業にも無尽蔵に金があると勘違いしているようだ。しかし、実際は違う。日本の産業は弱まり、少子高齢化が進み、国力は衰退している。国の借金は返せない水準である1100兆円になっている。社会的弱者を守りたいと思っても、公的サービスを自由に利用したくても、その金がどこにもない。

 社民党の主張のように「全部」に障害者対応などの設備をつけろと言う幼稚な、非現実的な考えは誰でも主張ができる。責任ある有権者である私たち普通の日本人はインフラをまとめ、効率的にすることに知恵を絞らなければならない。

 例えば、今回の来宮駅の例を考えてみよう。地域拠点の熱海をコンパクトシティとして使いやすい街にして移動を楽にし、バウチャーによりタクシーを利用できる環境を整える。民間事業者が利益を得やすく、投資できる環境を作り、情報を利用者にわかりやすいように整備する。愚かな活動家や無責任なノイジーマイノリティではなく、住民主体で専門家の知恵を借りて、街とサービスをデザインするのだ。(もう熱海・来宮の現地の方が行っていそうだが、そうだとしたら部外者の私の勝手な提言を許していただきたい。)

「全てを守るものは全てを失う」

フリードリッヒ二世(Wikipediaから)

 ここで私は一つの軍事格言を思い出す。戦争で勝利を重ね、一代でドイツ北部のプロイセンを大国に引き上げ、知識人としても、行政家としても、軍指揮官としても、卓越した才能を示した、フリードリッヒ二世(大王、1712-1786)という王がいる。彼は、将軍たちと書簡を交換し、軍事思想の統一を図った。そこで「全てを守るものは全てを失う」との言葉を残している。全ての場所に兵力を張り付けるのではなく、重要拠点に兵力を集中させるべきことを述べている。

 ちなみにこのフリードリッヒ大王の肖像のレプリカを、ナチスドイツの指導者、アドルフ・ヒトラーは執務室に飾っていたそうだ。しかし、そのヒトラーの戦争指導を第二次世界大戦のドイツの名将フォン・マンシュタイン元帥は、「全てを守るものは全てを失う」の言葉を引用して、回顧録で批判した。ヒトラーは一度手に入れた占領地の防衛、特に資源産地や経済の重要地の防衛に固執し、兵力を分散させ、ドイツ軍の敗北を早めたという。メリハリをつけて、防衛線を構築して戦うべきだったと、指摘している。

 この格言は、さまざまな問題にあてはまる。障害者政策でもそうだ。軍事問題でそうであるように、公的な資源は有限だ。そして日本はさまざまな面で縮小し、使える資源はますます減っていく。そうだとしたら減る資源を効率的に使うために、インフラをまとめ、民間の力を使い、サービスを金銭の上から持続可能にしなければならない。全部にサービスや設備をつけてはいけないのだ。

 それに固執するおかしな主張を続けるならば、どこかの政党の人たちのように批判を受け、「全てを失う」ことになりかねないだろう。

    "伊是名氏が可視化 バリアフリーのコストと政策"に10件のコメントがあります

    1. ぷんぷん丸 より:

      おっ、石井さんも参戦ですね。

      まずは、社民党支部の入る建物から、バリアフリーを進める事を社民党自ら
      やらないとね。説得力ないですよね~。
      「率先垂範」って言葉、知ってるかしら。

      各地の状況を写真付きで纏めると、面白いかも。

      まぁ、バリアフリーが進んで、事業主の収益が悪化しようが、
      バリアフリーが進まず、廃駅になって地元住民が困ろうが、
      社民党の目的は、日本の弱体化でしょうから、どっちに転んでも
      目出度しなのでしょうね。

      しかしこの話題で、マンシュタインが出てくるとは思いもしませんでしたよ(笑。

      1. 石井孝明 より:

        軍事史への我田引水ですみませんw。評価をいただきありがとうございます。ただ義憤に囚われる話で、社民党は潰れて欲しいです

    2. 匿名 より:

      具体的な数字も含まれており、とても分かりやすい記事でした。

      ありがとうございました。

      1. 石井孝明 より:

        ありがとうございます

    3. 名無しの子 より:

      石井さん、わかりやすいご説明ありがとうございます。伊是名氏も、きちんと論理的に提案したのならば、ここまで炎上はしなかったと思います。
      石井さんのご提案、とても現実的で納得しました。では、私の非現実的な(笑)、願望というべき、提案をさせていただきます。
      私は酷いど近眼です。メガネが無ければ、一歩も歩けません。でもメガネをかけていることで、普通の社会生活を送っています。
      社会のほとんどをバリアフリーにという意見を通したならば、車椅子使用者も、社会の完全なる一員です。車椅子さえ使えば、どこへでも行けるようになるのだから。メガネをかけたど近眼の私がそうであるように。だからバリアフリーにかかる費用は、車椅子を使用している方々に払っていただくのが筋だと思います。つまり、車椅子使用者の方の、障害年金の減額です。少子高齢化が進み働き手が減ってきているので、車椅子の方々にも、障害年金に頼るのではなく、普通に働いてもらわなくてはならないと思います。
      私はかつて、足を手術し、3ヶ月杖を使っていました。しかし仕事を休むわけにはいかず、杖をつきながら仕事しました。ちなみに職種はデスクワークではありません。また、昔「典子は今」という映画を観ました。サリドマイド児で手のない典子が、足を上手に使って食事や歯磨きなどの日常生活をこなし、仕事もしていました。自分の障害を他の部分で克服し、なんとか自立し、社会に貢献しようとするその姿勢に、とても感動しました。
      伊是名氏は政治家であり、コラムニストであり、ご主人はNHKにお勤めです。経済的に恵まれているのに、嘘をついて不正にヘルパーを雇ったりしています。「障害者だってどこでも行きたい」と障害者の権利ばかり主張していますが、「障害があっても、社会の役に立ちたい」という言葉が、一言もないのが、非常に残念です。
      以上は私の願望です。でも多分、実現はしないでしょう。ただ、障害者を権利の意味でも義務の意味でも、正式な社会の一員として認めるということが、本当の意味での、差別をなくすことだと私は思っています。

      1. ぷんぷん丸 より:

        ただただ同意します! 特に最終行のコメント、その通りですね。 

        >「障害があっても、社会の役に立ちたい」
        この文言は、目から鱗 です。確かに社会生活を送る上で、
        これは重要なピースですよね。インフラ整えてそれでお仕舞いじゃない。
        この想いが微塵も感じないですよね。

        なっちゃんなり、社民党なり、自分達の都合の良い権利ばかり言ってないで、
        こう言う主張も含ませれば、まだマシですが、炎上上等ですから・・。
        逆にサポータが増えてしまうので、方針転換は御免蒙りたいですな。

      2. 石井孝明 より:

        障害があっても頑張られることに敬意を持ちます。自立を支えることの方が色々健全だと思うのですが、勘違いする方が一定数います。社民党界隈は気付きそうにないですが

        1. 名無しの子 より:

          石井さん、ぷんぷん丸さん、返信ありがとうございます。
          車椅子使用者だけだとしても、障害年金を減額し、バリアフリー建設費に投入するとしたら、充分足しになると思うんですよね。また車椅子使用者が働かなければならなくなったら、バリアフリーを活用しながら、電車にも乗りますから、JRとしても助かると思いますし。
          伊是名氏が政治家である以上、少しでも社会の役に立とうとするべきですよね。多分ご自身は「私が声を上げることは、障害者の為になるんだ」と思っているのだと思いますが、石井さんが指摘されたように、駅がなくなってしまったり、私の勝手な願望がもしも叶い障害年金が減額されたりしたら、障害者の方々にとっては、迷惑以外の何者でもないでしょう。だからそういう意味ではなく、健常者も含めた社会全体の役に立つことを目指していただきたいと思います。そうでなければ、政治家だとはとても思えず、単なる障害者代表にすぎませんからね。まあ、たとえ障害者代表だとしても、決していい仕事をしているとは言えませんけれど。
          私の願望にお付き合いいただき、ありがとうございました(笑)

    4. 海軍大将 より:

      名無しの子さん、素晴らしいご提案だと思います。
      特に最後の一文は障碍者問題を考える上で基本とすべき発想だと思います。
      ただ、私から見ればこの提案もまだ甘い気がします。健常者と障碍者の差別を無くすには、徹底的に義務と権利に於ける平等を推進しないといけないと思います。つまり、健常者の受けられないサービスや給付は一切障碍者に提供せず、健常者も障碍者も同じ負担をするということです。当然、障碍者料金も障害年金も一切廃止して、健常者と同じだけ払い、同じサービスを受けるようにすべきです。障碍者だけに必要なサービス(重度訪問介護など)についても、健常者が公費でお手伝いさんを雇えない事を考えれば、全て全額自己負担とすべきでしょう。そうすれば健常な日本国民の血税が不正受給されることも絶対なくなるはずです。バリアフリーについても、コンパクトシティーの是非はさておき、バウチャー制度など導入せずに、全額自己負担、タクシー代ぐらい自分で稼げでいいと思います。ついでに言えば、エレベータも運賃を設定して、一回乗るごとに健常者・障碍者、老若男女問わず一律500円などとすれば、バリアフリー化は数年の内に長足の進歩を遂げると思います。
      こうして障碍者を健常者と一律平等に扱い、全く同じ負担と、全く同じ義務を課すことによってのみ、障碍者は一人前の「正式な社会の一員」になれると信じております。現状のように、障碍者を一方的に支援するだけでは、何時迄経っても障碍者は半人前の、社会の準会員のままです。
      最後に、近頃一部の言論人の間で、この件をきっかけにバリアフリーを国民の血税で推進しようという議論が起こっており、国交省でも都市部の乗客に負担を上乗せして地方駅をバリアフリー化するという方針が示された(但し国交省の方は伊是名が事件を起こす前から決まっていたことのようです)件について、このような動きを絶対通してはいけないことも付記しておきます。なぜならば、伊是名が事件を起こした直後にこのようなバリアフリー拡充方針を打ち出した場合、奴ら極左活動家は、「人に迷惑をかける形でクレームを入れれば、願いが叶う」と学習してしまうためです。
      社民党をはじめとする極左マイノリティがこれ以上日本人に迷惑をかけないようにするためにも、今は「我儘をいって他人(この場合は健常者)に吠えかかって、肉(サービスや金)を不当に得ようとすればするほど、必ず口にくわえた肉をも川に落とすこと」を学習させる必要があります。そのためにも、ここは一つ、障碍者にとって厳しい解決策を提示していくべきでしょう。

      1. 名無しの子 より:

        海軍大将さん、返信ありがとうございます。
        私も理想としてはそう思っていますよ笑。ただ、いきなりはなかなか難しいかと。
        外国の話ではありますが、この前、足のない少女に、機械の足を取り付けたと言っていました。これでその少女は、普通に歩け階段も登れると。これが広く行き渡れば、メガネや補聴器などのように、それを身につける人を障がい者だとは呼べなくなりますね。
        障がい者と呼ばれる人を減らすことが、本人や家族の為はもちろんのこと、社会の為にも意義のあることだと私は思います。高齢化対策にもなりますしね。

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