蓮舫氏 根拠なき”本物の少子化対策”

The following two tabs change content below.
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

最新記事 by 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 (全て見る)

 東京都知事選挙(7月7日投開票)に立候補を表明している蓮舫参院議員が18日、都内で会見を開いて公約を発表した。7つの公約を明らかにしたが、真っ先に挙げた「本物の少子化対策」は論理性に欠ける上、非正規雇用者対策に強引に結びつけて支援する日本共産党の主張がそのまま打ち出される、きな臭いものとなっている。非正規雇用者が増えても婚姻数は減っていない事実に目を瞑り、少子化対策を口実に共産党の政策を推し進める内容に見える。一言で申せば、都民を欺く行為と言える。

◾️公約の解釈、関連性の評価に疑義あり

公約を発表する蓮舫氏(THE PAGE画面から)

 蓮舫氏は7つの公約を掲げたが、その1番に掲げられたのが「現役世代の手取りを増やす~本物の少子化対策」である。メインタイトルにある若者の所得を増やすことが、サブタイトルにある少子化対策につながるという趣旨のようである。その説明は以下のようなものであった。

(1)2023年の東京都の合計特殊出生率が0.99になり、このままでは人口が半減する。

(2)子供が生まれないのは、東京都の非婚化が進んだことに起因。婚姻数は1972年の14万5712から、2022年には7万5179に半減した。

(3)正規・非正規・パート、アルバイトで婚姻率が大きく異なる。

(4)男性は年収が上がると結婚している人が増えている。

(5)そこで現役世代の手取りを増やすことに取り組む

(6)2002年から2022年にかけて非正規雇用が60万人増えた。

(7)条例で都と契約する企業に、働く人の待遇の改善を要請する。

(8)都の非正規職員(約3万2000人)を専門職から順次正規化など処遇改善を進める。

 1つ1つ示された事実に大きな間違いはないが、その解釈や関連性の有無などの評価に恣意的なものがあり、全体として論理性を欠く内容となっている。順に見ていこう。

 (2)で、婚姻数が半減した事実を指摘している。確かに東京都の婚姻数は1972年の14万余から2022年の7万余と約51.6%に減少した。しかし、1972年という時代背景を考える必要がある。その年は戦後のベビーブームで生まれた子供、いわゆる団塊の世代(1947年~1949年の3年間に生まれた世代)が20代半ばの婚姻適齢期を迎えた時期。

 1972年当時の女性の平均初婚年齢は24.2歳、初婚以外を含めても24.7歳であり、1972年の24歳は1948年生まれ、25歳は1949年生まれと、まさに団塊の世代のど真ん中であった(e-stat 統計で見る日本・人口動態調査 人口動態統計 確定数 婚姻 )。

 1948,49年の東京都の女性の出生数は16万0022人。同じように2022年を見てみよう。この年の24歳、25歳は1998年、1997年生まれで、女性の出生数は9万5636人と団塊の世代に比べて約59.8%になっている。また、2022年の女性の平均初婚年齢は29.7歳、初婚以外を含めて31.7歳である。2022年の30歳、31歳は1992年、1991年生まれが相当し、その年の東京都の女性の出生数は9万8950人と、ほぼ24、25歳と同じ(東京都保健医療局・人口動態統計 年次推移からダウンロード可)。

 こうしてみると婚姻数の大幅な減少は、1972年が団塊の世代の女性が婚姻の適齢に到達したことが大きな要因といえ、婚姻数の半減が非婚化が進んだことの主要因とするかのような説明が合理性を欠くのは明らかである。

◾️正規雇用と婚姻率の関係

都の婚姻件数推移(令和4年東京都人口動態統計年報(確定数のあらまし)から)

  このように公約の前提とする事実の分析に誤りがある以上、それに基づく説明が説得力を発揮しないのは当然。

 引き続き公約を見ていこう。(3)~(5)で非正規雇用の人の婚姻率が正規雇用の人より少なく、年収が上がると結婚している人が増えるという相関関係が認められるから、現役世代の手取りを増やす、正規雇用を増やすと言っている。

 相関関係は認められても因果関係までは認められないため、正規雇用を増やせば必ず婚姻率が上がるというものではないが、その点は措くとする。経験則からして、収入が安定しない者が婚姻に至らないことが多いのは必ずしも間違いというわけではない。

 その上で、もし、蓮舫氏の説明が事実なら2002年には173万9400人だった東京都の非正規職員が、2022年にはおよそ60万人増えて231万6400人と33.2%も増えているのであるから、婚姻数は減少して然るべきである。

 ところが、実際に婚姻数の推移を見ると、上の図のとおり2002年(平成14)・84,623、2007年・89,243、2012年・89,301、2017年・84,993、2022年・75,179と、ほぼ横ばい。2008年から2010年は9万を超えており、2021年には69,813と7万を割ったが、2022年には7万台に戻している。

 このように、非正規職員が増えても婚姻数は減少どころか一時的に増加し、結果的に20年間でそれほど減少していない(令和4年東京都人口動態統計年報(確定数のあらまし)・婚姻件数の年次推移(東京都)p5)。このように非正規雇用者数と婚姻数の間に有意な因果関係は認められず、非正規雇用者を正規雇用者にしても婚姻数が上昇する保障はない。蓮舫氏の言う「本物の少子化対策」は根拠を欠くものであることは明白である。

◾️共産党「非正規ワーカー待遇改善法」提案

 (7)、(8)は非正規雇用の待遇改善を求めるもの。東京都の非正規職員3万2000人も順次、正規化するとしているが、一体、どれだけの財源が必要になるのか。その財源について聞かれると、「予算のバックデータが公開されていない。実際のお金の流れは当選してみないと見えない。不確定な数字を言うと独り歩きをしてしまうので、ご容赦願いたい」(THE PAGE・都知事選に出馬表明の蓮舫氏が会見 公約「7つの約束」を発表)と詳細な説明を避けた。

蓮舫氏は都庁の主になれるのか(撮影・松田隆)

 3万人以上の職員の正規雇用するが財源のアテはなく、非正規雇用の正規雇用が少子化対策にならないのに、都民に虚偽の事実を述べて推し進める。それが公約というのであれば、蓮舫氏の公約は都民を欺くものでしかないと思う。

 ちなみに非正規雇用の正規雇用というのは日本共産党が強く主張している。昨年10月には田村智子政策委員長(当時)が非正規ワーカー待遇改善法の提案を発表している(しんぶん赤旗・非正規ワーカー待遇改善法の提案を発表)。

 結局、蓮舫氏はこの共産党の主張を丸呑みして、その理由を少子化対策に結びつけて共産党色を弱めようとしているだけのように思える。東京都の有権者はこうした公約の中身を精査して投票行動に移すことを期待したい。

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です