台湾人の「偽出國景點」気分だけでも日本旅行
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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台湾は新型コロナウイルス対策により海外渡航が制限されています。海外旅行が好きな台湾の人々にとって、今の状況は精神的にかなり辛いようです。そこで台湾の航空会社は国際線の旅客機で上空を飛び、着陸せずに帰ってくる「微出国」とよばれる疑似出国を企画運営、これが予想以上の人気となっています。また疑似出国と台湾国内での疑似日本観光を組み合わせたツアーも組まれるなど、日本旅行復活を願う台湾の人の思いが伝わってきます。
■出国好きの台湾人に大好評の「偽出国」
台湾の有効パスポート保有数は約1400万冊(中央通訊社2020年9月6日)、これは台湾の全人口2380万人のうち約60%を占めています。ちなみに日本国民の有効パスポート保有数は約3000万冊、保有率は約25%です(外務省「旅券統計」平成30年1月~12月)。
2019年台湾からの海外出国者数は延べ1710万人で過去最高記録となりました(交通部觀光局觀光業務統計)。複数回出国した人も多くいるでしょうが、もし一人一回の出国と計算すると、台湾の人々の約70%が海外へ出かけたことになります。
このような「出国好き」の台湾の人々にとって、新型コロナウイルス対策による出国制限は非常に辛いものだったようです。6月10日台北松山空港はFacebook上で、7月2日から3回、一日30組60名限定で疑似出国体験イベントを実施すると告知しました(台北松山機場Facebookページ)。応募期間は10日間。この告知は大きな反響を呼び、結果応募者数は1万名近くに達しました。
当選確率1.8%の中から選ばれた幸運の持ち主は、航空会社カウンターで搭乗券入手→手荷物検査→イミグレーション通過、と通常の出国手続きを済ませ実際に飛行機に15分間乗り込み、再度イミグレーション通過して入国するという疑似体験 をしました。このイベントが好評を得たことで、松山空港に続き桃園国際空港も同様の「偽出国」イベントを開催、こちらも応募者殺到となりました。台湾メディアはこれら空港での疑似出国体験を「偽出国」と名付けニュースとして取り上げ、大きな話題となりました。
■「微出国」の登場 発売即完売
「出国好き」の台湾の人々の心をつかんだ「偽出国」に台湾の航空会社が反応しました。今度は乗客を載せて台湾上空や他国上空近辺を飛行し再び台湾へ戻ってくるというツアーを始めたのです。まずタイガーエアが桃園国際空港発(8月6日午前)→鹿児島上空→桃園国際空港着(同日午後)というツアーを企画販売、「少しでも海外旅行の気分を味わいたい」という台湾の人々の切ない思いに見事合致したこのツアーは一人8888台湾元(約3万2000円)と平常の往復チケットとほぼ同額ながらその付加サービス(牛タンランチの機内提供)もあり即完売となりました。
このように国際線の飛行機で上空を飛びどこにも着陸せずに戻ってくるフライトは「微出国」と呼ばれ、その他台湾の大手航空会社もこれに追随し同様のツアーを行っていきます。エバー航空は人気のハローキティジェットで8月8日に台湾東部を通って先島諸島西端で折り返すツアーを開催、機内ではミシュラン三ツ星レストランの食事提供や免税品の割引販売、そして乗客にはハローキティグッズ等がプレゼントされるなどのサービスが話題となりました。
チャイナエアラインも8月14日から「微出国」ツアーを開始、これは午後3時から石垣島上空経由で台湾南東部の緑島、台湾東部宜蘭県上空を通って2時間後に帰国するというものでした。機内ではアフタヌーンティーの提供や免税品の割引販売も行われました。
これら「微出国」ツアーは海外旅行に飢えていた多くの台湾の人々の心をつかみ、有名ホテルやブランドとのコラボ商品や機内食、プレゼントにもこだわったことで話題となり、各航空会社のツアーチケットは完売となりました。なお好評につき各航空会社のツアーは現在も継続して行われています。またエバー航空ではクリスマスや年越しフライト、初日の出フライトを企画しており、これらもチケット完売となることが予想されています(参照:聯合新聞網2020年9月17日、數位時代2020年8月12日)。
■台湾国内の疑似海外観光スポットも人気に
台湾では、国内の疑似海外観光スポットにも人気が集まっています。ネットでは疑似海外観光スポット特集が複数組まれ、海外気分が味わえる台湾各地の観光スポットが「偽出國景點(疑似海外観光スポット)」として紹介されています(聯合新聞網2020年9月17日)。
特集ではニュージーランド気分が味わえる場所として人気の台湾東部花蓮県の観光スポット「德瑩農場」や、「疑似モロッコ」として話題の金門島沙美街の建築物が紹介されている他、台湾版浅草と呼ばれて浴衣体験もできる桃園市にあるテーマパーク「不老村」や、台湾版富良野として親しまれている台北市北投区の「北投社三層崎公園」が紹介されています。10月の中秋節四連休と建国記念日三連休には多くの人がこれら「偽出國景點」を訪れ海外旅行気分を楽しみました。
■「微出国」と「偽出國景點」観光で疑似日本旅行
台湾観光局の統計資料によると、2019年に日本を訪れた台湾の人は約489万人(延べ)、これは上述台湾からの出国者数延べ1710万人で最多の28.7%を占めています(交通部觀光局觀光統計資料庫、行政院「國情簡介」)。また日本の国土交通省統計調査では、台湾からの観光目的の旅行者のうち来訪回数が2回以上のリピーターは66.2%、10回以上は19.4%、合わせると85.6%を占めます(国土交通省観光庁観光戦略課観光統計調査室「令和元年訪日外国人消費動向調査」)。
日本へ観光に来る台湾旅行者の10人に8人はリピーターであり、台湾の人がいかに日本旅行好きかが分かります。コロナ禍で日本へ行けないことは台湾の日本愛好家にとって大問題のようで、ネット大手掲示板では早くも5月に「解禁多久後敢去日本? (解禁後どれくらいで日本へ行く?)」の名でスレッドが建てられ、
當然是隔天啊,都快悶死了 (もちろん次の日だ、悶え死にそう)
好想去日本玩希望疫情早日減緩 (日本へ遊びに行きたいコロナ禍も早く収まって)
といったコメントが寄せられていました。その後も「真的好想去日本玩 (本当に日本へ遊びに行きたい)」「好想去日本之藥妝可買 (日本へ行って化粧品や薬を買いたい)」といったスレッドが複数建てられ、日本再訪を切に願う台湾のネットユーザーが想いを熱く語っています(批踢踢實業坊PTT「解禁多久後敢去日本?」「真的好想去日本玩QQ」「好想去日本之藥妝可買」)。私の周囲でも「桜だけでなく紅葉も見られないとは」と嘆いたり「早く日本へ行ってグルメ三昧したい」といった心の叫びが上がっており、日本愛好家の辛さを感じ取ることができます。
我慢の限界を迎えつつある日本愛好家に対して「微出国」+「偽出國景點」を組み合わせたツアーが11月に行われます。これは「微出国」のツアーが桃園国際空港発のスターラックス航空国際便に搭乗、上空から日本を眺めた後台湾へ帰国、上述桃園市にある和風テーマパーク「不老村」を訪れ日本の縁日を楽しむという企画です。当日のパークにはたこ焼き屋台等台が出され、夕方には盆踊りも催される予定で、「飛行機搭乗+日本文化体験」の複合ツアーは、「行きたくても行けない」日本旅行の夢を少しでも叶える手段として話題となっています(蛋寶生技不老村Facebookページ)。
■台湾人の現状への対応力と湧き出るアイデア
「偽出国」「微出国」、そして「偽出國景點」の人気。ここからは台湾の人々の即応性や、現状に対応し楽しみ方を見出していく台湾の人々の柔軟性や、このような「疑似体験」のアイデアを生み出していくチャレンジ精神が見えてきます。