車イス女性の映画館トラブル”既得権と私怨”

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 ”車椅子インフルエンサー”の中嶋涼子氏が15日、Xに投稿したポストが話題になっている。これまで鑑賞していた映画館から次回からは来ないように言われたという内容。これに対して、映画館を運営するイオンエンターテイメント株式会社が16日に全面的に謝罪するお詫び文を公開した。同社の障害者に対する対応が不適切であったのは確かであるが、中嶋氏への疑問や批判の声は止みそうにない。事件がひと段落しても残る後味の悪さは、示された厚意を既得権化し、厚意の終了の通告が許されざる権利の侵害かのように扱い、さらに意見を述べる場で私怨を晴らすかのような中嶋氏の姿勢、振る舞いにあるように思える。

◾️ポストに6000万近いアクセス

中嶋氏のXアカウントから

 発端は3月15日、中嶋氏が東京都調布市のイオンシネマシアタス調布のグランシアターで「52ヘルツのクジラたち」を鑑賞したことに始まる。同シアターはリクライニングができて足があげられるプレミアムシートで鑑賞が可能。中嶋氏はこれまで何度も1人で観に行き、席への移動は「映画館の人が手伝ってくれてた」という。

 ところが、この日は鑑賞後に「支配人みたいな人」がやってきて、次回以後、当該劇場の利用を控えるように提案された。

 「『この劇場はご覧の通り段差があって危なくて、お手伝いできるスタッフもそこまで時間があるわけではないので、今後はこの劇場以外で見てもらえるとお互いいい気分でいられると思うのですがいいでしょうか。』って言われてすごい悲しかった。。」

 中嶋氏は「なんでいきなりダメになるんだろう! 悲しさを通り越して今は行き場のない怒りに変わってきた。その時に言い返せなかった自分にも腹が立つ。イオンシネマの社長と話し合いたい。」とした(以上、2024年3月15日午後5時17分投稿 から)。

 このポストに17日午前までに6000万近いアクセスがあり、3000近いリプライが付けられ、その多くは中嶋氏に対する批判であった。

 この事態にイオンエンターテイメント株式会社は16日、全面的に謝罪を行なった。

 この度は弊社従業員によるお客さまへの不適切な対応につきまして、お客さまおよび関係者の皆さまにご不快の念をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます。

 …お客さまの映画ご鑑賞後に弊社従業員がご移動のお手伝いをさせていただく際、お客さまに対し、不適切な発言をしたことが判明いたしました。お客様は楽しみに当劇場にお越しいただいたにも関わらず、不適切な対応により大変不快なお思いをさせてしまいました。弊社の従業員への指導不足によるものと猛省しております。

 …今回の件を重く受け止め、イオンシネマシアタス調布を含む全てのイオンシネマにおいて、従業員へのお客さま対応の教育再徹底と再発防止を講じると共に、設備の改善を進め、お客様の信頼回復に努めて参ります。

(AEON CINEMA・【弊社従業員による不適切な対応に関するお詫び】から抜粋)

◾️キーワード「合理的配慮」

 この問題で重要なのは「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」との関連である。同法の目的は「…障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資すること」(同法1条)とされている。その上で実際に差別を禁止するために、行政機関等には不当な差別的取扱いを禁じ(7条1項)、そのために以下のような配慮をすることを求めている。

【同法7条】

2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

映画の街として知られる調布市(撮影・松田隆)

 いわゆる合理的配慮と呼ばれるもので、公の機関には条文上義務付けられている。一方、イオンエンターテイメントのような事業者については、次条の8条に規定があり、1項は行政機関と同じ差別的取扱いの禁止を定め、2項に関しては条文の文末が「必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。」と努力規定となっている。

 この努力規定が4月1日から行政機関等と同じく合理的配慮が義務化されることになっている。改正法施行の直前で発生したこの問題、イオンエンターテイメントとしても企業の社会的責任から考えれば全面的な謝罪をすべき場面と判断したのであろう。

◾️合理的配慮の難しさ

 この合理的配慮というのが厄介な代物である。合理的と思える範囲を具体的事例に当てはめる際にどうすればいいのか迷う。本件に即して合理的配慮がどう適用されるべきか、ポイントは中嶋氏のポストで紹介された以下の点にある。

(1)シアター内は段差があって危険、手伝えるスタッフも十分な時間があるわけではない

(2)事実上、もう来ないでほしいと言われた

(3)イオンシネマ(シアタス調布)の社長との話し合いを希望している

 合理的配慮に関しては2月9日に政府広報オンラインでそのガイドラインが公表されている(政府広報オンライン・事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化されます)。そこでは不当な差別的取扱いとされる例が4種挙げられており、本件に関連するのは主に以下の2点である。

(a)障害の種類や程度などを考慮せず、漠然とした安全上の問題を理由に施設の利用を断る行為

(b)正当な理由なく入店を断る、介助者などの同伴をサービス提供の条件とする行為

 (1)で示したように、グランシアターには段差があり介助に慣れていないスタッフが移動を手伝うことで危険が伴う。ただし、それは(a)で示したような漠然とした安全上の問題に過ぎないと判断されてもおかしくはない。そもそもそうしたことで障害者に差別的取扱いがないように努力してくれというのが法の趣旨であるから、危険が起きないように設備を改善せよ、従業員を教育せよと言われかねない。それをせずに事実上「もう来るな」では不当な差別的取扱いをしたと判断されても仕方がない。

 もちろん合理的配慮は無制約に認められるものではない。前出の政府広報オンラインでは3つの要件を満たす場合に認められるとしている。

・必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること。

・障害のない人との比較において、同等の機会の提供を受けるためのものであること。

・事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと。

 中嶋氏の場合はどうであったかは詳細な事情が不明なので断定はできない。ただし、これまで何度かサービスを受けていることを思えば、イオン側も合理的配慮の範囲内と判断して提供したと考えられ、それまで合理的配慮がなされていたのに、なぜ、いきなり提供できないとするのかという疑問を中嶋氏が投げかけてくることは予想される。

◾️社長との話し合いを求めた理由

 (2)については、まさに(b)に抵触する。入場を断る正当な理由などない、「グランシアターで鑑賞するなら介助者と一緒に来い」と言われる筋合いはないというのが中嶋氏の考えなのであろう。これにイオン側が反論するのは簡単ではない。

 (3)の社長との話し合いを求めている点は、ガイドラインで「『合理的配慮の提供』に当たっては、事業者と障害のある人、両者が対話を重ね、一緒に解決策を検討していくことが重要です。」(前述の政府広報オンライン)と定められていることがポイントである。

 ここではさらに「障害のある人からの申出への対応が難しい場合でも、障害のある人・事業者の双方が持っている情報や意見を伝え合い、建設的対話に努めることで、目的に応じて代わりの手段を見つけていくことができます。」とされており、話し合いをする前に「来ないでほしい」と入場を断るのは法の精神からは外れている。その点をすかさず「イオンシネマの社長と話し合いたい。」とポストしたのは、法やその運用を知悉、あるいは知悉している人間からのアドバイスがあったのではないかと思われる。

 以上のように法とその運用を考えれば、イオンエンターテイメントが全面謝罪に追い込まれたのは当然と言える。

◾️目的は私怨を晴らすことなのか

京王線調布駅とTrieA館

 障害を持つ方がストレスを感じずに社会生活を営めることが理想であるのは言うまでもない。そして、そのために官民共に負うべき責任があるというのもほとんどの人は理解しているはず。

 それでも、中嶋氏への批判が止まない理由の1つは冒頭で掲げた、本来の範囲を超えて厚意で行なったことを既成事実として既得権化し、相手から厚意の継続が困難となったと伝えられた時に守られるべき既得権を盾に反発・非難する行為に見えるからであろう。

 行政はともかく、事業者は社会的責任を負うとはいえ経済活動を継続することが前提であり、合理的配慮を義務化されるのに一定期間の猶予が設けられたのはそれと無縁ではない。障害を持つ方が権利として平等的取扱いを求めるのは当然としても、行政と事業者では事情が異なることもまた事実である。

 もともと憲法が保障する国民の自由及び権利は「これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」(憲法12条後段)とされている。本件が中嶋氏の権利の濫用と言う気はないが、平等的取扱いにはコストと国民の理解が必要。

 そうした点に配慮した様子もなく、具体的に劇場名を指摘し、さらにグランシアターの「支配人のような人」、「他の係員」と特定が可能な形にしてSNSに公開し、指弾するかのように指摘する必要があったのか疑問が残る。彼らが今、どんな思いで働いているかと思うと胸が痛む。中嶋氏が障害を持つ人のために言うべきを言うのは結構であるが、それが同氏の考える”意識の低い人”を攻撃した上でなされなければならない理由はない。

 中嶋氏の投稿は障害者に優しい社会にする目的があることは認めても、同時に私怨を晴らす場になっているように見えるのは残念と言うしかない。

"車イス女性の映画館トラブル”既得権と私怨”"に6件のコメントがあります

  1. 野崎 より:

    松田氏、眼光紙背に徹するなり!

    ●コピペ→眼光紙背に徹すとは、表面だけでなく真意まで(隠れていること)理解することのたとえです。読解力に長けていることを表すことわざ。

    >イオンシネマの社長と話し合いたい。」とポストしたのは、法やその運用を知悉、あるいは知悉している人間からのアドバイスがあったのではないかと思われる。

    例えて、スーパー等で悶着を起すモンスタークレーマーもその企業体の代表者、社長さんと話し合いを!とはならないだろう、←だろうではなく、ならない。モンスターでもならない、何故ならないのか、は面倒なので割愛!

    以前、吉野屋常務の首を見事に取った若き女ファシスト戦士のことをコメントした。
    この女戦士はその後、伊藤詩織氏の弁護士であった女性弁護士と勝利の記者会見を行った。
    だたのセミナー参加者ではなかったのである、それはその対社会的行動から、その人脈から見て取れる。

    この女性も、車椅子インフルエンサーと評されるほどならばその人脈に障碍者を利用するファシスト達が介在していることは想像に難くない。

    批判の声が多いのはそれを感じ取っている要素もあるのだろう。
    又社長さんと話し合いたい、とは問題を社会的に大きく拡大させたい意図が見え、インフルエンサーとしての地位をさらに確固たるものにしたいとの思惑も感じるからなのだろう。

    ご返信は不要です。

    1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

      確かに末尾の社長と話し合いたいとする部分が唐突で、違和感を覚える部分です。結局、そこが合理的配慮において建設的な話し合いを勧める政府の示したガイドラインに則っているわけで、非常に政治的な匂いがします。

      それを含めて胡散臭さを感じる事案です。中嶋氏の行動は国民の障害者に対する理解を阻害する効果がある気がします。福祉の観点からすれば逆効果と思えて、それが非常に残念です。そして、いつものことですが、彼らの背後に控える政治勢力が障害者を政治主張の道具にしているであろう現実に憤りを感じます。

  2. 匿名 より:

    かつて熱海駅で乗車拒否を受けたと主張した社民党常任幹事の事件を彷彿とさせますね。
    さて、今回の御仁、やはり政党とのつながりがある活動家だったようです。
    れいわ新撰組大阪府総支部長の八幡愛とYoutubeコンテンツを運営している模様。

  3. クロサワケイスケ より:

    このカスタマーハラスメントにおよんだクレーマーは、れいわ新選組とつながりのある人です。
    社民党常任理事・伊是名夏子といい、この人といい、困った政党が背景にいるようですね。法的な入れ知恵も、れいわ関係者から受けたのではないでしょうか?

  4. BADチューニング より:

    > >「イオンシネマの社長と話し合いたい。」とポストしたのは、法やその運用を知悉、あるいは知悉している人間からのアドバイスがあったのではないか
    >やはり政党とのつながりがある活動家(中略)れいわ新撰組大阪府総支部長

    『1人の車椅子ユーザーからの改善提言』などではなく、やっぱり“政治がらみ”のいわゆる“IZENA活動”であった。

    ただ、
    伊是名夏子氏は自身が社民党の幹部であり自身が主体となっての用意周到wな活動であったが、
    今回の事件?は中嶋涼子氏の我儘wwから発生した“私怨”に、れいわ新撰組等の“特定政治勢力”が「乗っかった」形で、その分用意や対策もほぼなく(=言いっぱなし)、中嶋氏に“バッシング”が行き易い。

    ソレを考えると、中嶋氏はやはり“被害者”なのかもしれない、“特定政治勢力”の。

  5. 小田朱実 より:

    彼女の目的は一体何だったのかと考えると、口では「障害者が暮らしやすい社会作り」などと立派そうな事を言っていますが、案外、単なる私怨オンリーなのでは。
    それを、このような耳触りのよい言葉でくるんで見えにくくしているだけなのではないかと思います。

    松田さんのおっしゃる、既得権を取られた、今まで厚意でしてもらったことを断られたことへの私怨というのはもちろんです。

    しかしそれ以外に、彼女自身の、不自由な身体への苛立ちや、健常者のように自由に出来ないことに対する鬱屈、そういったやり場のない感情を、立場の弱い職員さんをこのような形でやり込めることで晴らしているようにしか見えないのです。
    そして、困惑したり申し訳なさそうにしている職員さんを、障害者への配慮が出来ない「意識の低い」人だと攻撃する。
    結局これも、障害者福祉のためというよりは、自分が優位に立って職員さんが困るところを見て面白がっている、いじめっ子と変わりません。
    社長と話をしたいなどと唐突に言い出すのも、おそらくそうすれば、より偉い人を屈服させて、自分が偉くなった気分になれるからでしょう。

    障害者福祉の充実だとか、綺麗な言葉で飾って、実際の行動はどう見ても私怨100パーセントの迷惑行為。
    今回の騒動がかなりの大炎上となったのは、彼女の行為に、ほとんどの人が、上記のような感想を抱いたからではないでしょうか。

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