消防法で車椅子インフルエンサー排除 根拠なし

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 調布市の映画館で今後入館しないように勧められた車椅子インフルエンサーの中嶋涼子氏と消防法との関わりが、問題になっている。同氏が入館しようとした劇場には車椅子用スペースがないため、消防法によりそもそも入館ができないのではないかとする声がネット上に上がっている。もし、事実なら当該劇場が法令に違反していたことになるため状況は変わる。関係各所に取材をした。

◾️消防法で中嶋氏は入館不可?

中嶋氏Xアカウントから

 東京都調布市のイオンシネマシアタス調布には11のスクリーンのうち9つのスクリーンには2~4の車椅子用スペースが設置されている。中嶋涼子氏が事実上、入館を控えるように言われたグランシアターと、もう1つの第6シアターには専用スペースは設置されていない。

 中嶋氏はこれまでグランシアターを訪れ、席への移動は「映画館の人が手伝ってくれてた」とするが、3月15日に訪れた際には「支配人みたいな人」がやってきて、次回以後、当該劇場の利用を控えるように提案されたとする(中嶋氏ポスト、2024年3月15日午後5時17分 投稿)。

 これを当サイトが記事にして、多くの方にご覧になっていただいた(参考・車イス女性の映画館トラブル”既得権と私怨”)。

 一方、X上では2008年4月以降、車椅子利用者の座席が消防法で指定され、その座席での鑑賞が義務付けされ、その上で指定された場所以外で鑑賞した場合は施設側が罰せられるという趣旨の投稿がなされている。

 それが事実であれば、イオンシネマシアタス調布が消防法の規定に違反して車椅子用スペースがないグランシアターに車椅子利用者を違法に入館させていたことになり、話は変わってくる。

◾️東京消防庁に聞く

 消防法には劇場において車椅子利用者は専用スペース以外を利用してはいけないとする条文はない。そこで東京消防庁に直接、話を聞いた。話を聞いてくれたのは同庁予防部予防課。

松田:車椅子専用スペースのない劇場で、車椅子利用者を普通の座席に座らせることについて消防法上の規制はあるのでしょうか

担当職員:消防法などに関して、そのような規制はありません。映画館がどのように判断するかということになってきます。

松田:そうなると、映画館が案内できると判断したら案内してもらえると考えていいでしょうか

担当職員:そうです。ただ、通路に車椅子を置くしかないというのであれば問題になるかもしれません。

松田:通路上に車椅子を置いてはいけませんということですね

担当職員:はい。映画館の係員さんなどにご協力いただいて、通路の邪魔にならないようにできるのなら(案内できる)。それ以外に規制はかけていないと認識しています。

 東京消防庁の話では、車椅子利用者を普通席に座らせない規定は存在しないと明言する。なお、「通路の邪魔にならないように」というのは避難施設の問題と思われる。

【消防法8条の2の4】

学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店、旅館、飲食店、地下街、複合用途防火対象物その他の防火対象物で政令で定めるものの管理について権原を有する者は、当該防火対象物の廊下、階段、避難口その他の避難上必要な施設について避難の支障になる物件が放置され、又はみだりに存置されないように管理し、かつ、防火戸についてその閉鎖の支障になる物件が放置され、又はみだりに存置されないように管理しなければならない。(以上、法抜粋)

 興行場の管理者は、階段や避難口などで避難の支障になる物件が放置されないように管理する義務が定められており、その点が問題になるという説明であるのは間違いない。この定めは東京都の条例でも規定されている。

東京都火災予防条例54条

令別表第一に掲げる防火対象物の関係者は、避難施設を次に定めるところにより、有効に管理しなければならない。

一 避難施設には、火災の予防又は避難に支障となる施設を設け、又は物件を置かないこと。(以上、条例抜粋)

 令別表第1は消防法施行令別表第1のことであろう。別表第1(1)イに劇場、映画館、演芸場又は観覧場が定められており、階段などに車椅子を置くことが避難に支障となる物件を置くことになるため、禁止されていると読める。イオンシネマシアタス調布ではその点が問題になると考えた可能性はある。

◾️調布市の条例

 念の為、東京都調布市に車椅子利用者の劇場利用に関連する条例がないかを問い合わせると、以下のような回答が得られた。

 「車椅子利用者の座席を制限する決まりはありません。市の条例で言えば、調布市福祉のまちづくり条例13条、14条あたりが多少、車椅子利用者に関連する程度です。」

 同条例を見ると、劇場の所有者に対していくつかの努力義務規定を置いている。

【調布市福祉のまちづくり条例】

13条 市長は,都市施設の整備について,事業者の判断の基準となるべき事項(以下「都市施設整備基準」という。)を策定しなければならない。

2 都市施設整備基準は,次の各号に掲げる事項について,都市施設の種類及び規模に応じて定めるものとする。

(3)車いすで利用できる便所及び駐車場に関する事項

14条 都市施設を所有し,又は管理する者(以下「施設所有者等」という。)は,当該都市施設を都市施設整備基準に適合させるための措置を講ずるよう努めなければならない。

2 施設所有者等は,すべての人が円滑に都市施設から他の都市施設へ移動することができるようにするため,他の施設所有者等との連携を図り,自ら所有し,又は管理する都市施設とその周辺の都市施設とを一体的に整備するよう努めなければならない。(以上、条例抜粋)

 これによればイオンシネマシアタス調布は、施設を都市施設整備基準に適合させ、他の施設へ移動ができるようにするための一体的な整備に関して、努力するように定められている。

 もっとも努力義務にとどまるため、シアターの1つが車椅子スペースがなかったからといって問題になるわけではない。以上のように車椅子利用者が専用スペース以外に入ることを禁ずる法令(消防法、東京都条例、調布市条例)は存在しないことは明らかである。

◾️合理的配慮の義務化

京王線調布駅前とTrie A館(撮影・松田隆)

 中嶋氏が事実上、グランシアターへの入場を断られたことそのものを語る際には消防法や関連する条例は直接は関係しない。車椅子を階段等に置けないため、別の場所に置けるかどうか、避難施設の管理の問題にはなり得る。

 そのような車椅子の置き場所にかかる問題を解決して車椅子利用者を受け入れる合理的配慮が努力義務として障害者差別解消法上定められていると考えていい。これが4月1日から法改正によって義務化される。

 そうなるとイオンシネマシアタス調布は障害を持つ人との話し合いを行なって問題を解決していく必要が生じてくる(政府広報オンライン・事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化されます)。こうした背景を考えると、イオンエンターテイメント株式会社が全面的に謝罪したこと、中嶋氏が「イオンシネマの社長と話し合いたい。」と投稿したのも理由が分かってくる。

"消防法で車椅子インフルエンサー排除 根拠なし"に10件のコメントがあります

  1. 匿名 より:

    つまるところ避難経路になりうる所に車椅子を置いておく訳にはいかない。
    で、あるならば当該のグランシアターの場合は座席からそれなりに離れた場所に置くしかない。
    しかも介助人が居ないとなると車椅子を取りに行けないし、自分で逃げ出すことも勿論できないと。
    結論から言うと、そりゃお断りされますよ。
    介助人を用意してても即逃げできない状況じゃないですか。
    まして1人で事前連絡無しで来られたら対応なんて出来ませんよ。常設で介助人を雇う余裕なんて映画館側にあるはずないんですから。

  2. 匿名 より:

    丁寧な取材ありがとうございます。

  3. BADチューニング より:

    映画館スタッフを守る?為とは言え、「もう来ないでください」と同様の内容を言ってしまった以上、イオンシネマ側にも落ち度はない訳ではない。
    今後100%断るつもりでも、“建前”で「事前にご来館をご連絡ください、当館にもスタッフを調整する必要があります」という事も出来たのだ。

    が、
    前の記事に「“IZENA 活動”である」と書かせていただいたが、
    同様の伊是名夏子氏の“来宮駅騒動”の際には、ターゲットとなったJR側は、いち早く『これはただのクレームではなく“政治活動”だ』と見抜き、
    現場の“2トップ”である駅長と助役(来宮駅は無人駅なので熱海駅の)で抜かりなく対応して、謝罪等の『言質を取られる』事なく収束させた。

    それを踏まえれば、
    今後この様に、映画館、劇場、音楽ホール、中堅以下のホテル/旅館、同じく中堅以下のレストラン等の“ソフト•ターゲット”が、
    この様な『特定の政治勢力』の「メシのタネ」になってしまう恐れもあるのでは、と思いました。

  4. 匿名 より:

    そもそもイオンシネマシアタス調布側は件の方のポストを読む限り消防法云々を理由にしていません。つまりこの文章の最後は問題が置き換えられているのではないでしょうか。今回の件は『消防法に基づく拒否』ではありません。更に元々別のシアターに車椅子用のスペースが確保されているのですから合理的配慮はそもそも果たされています。合理的配慮は施設側が全て受け入れる事ではない筈です。またイオンシネマの謝罪は『不適切な発言』に対してのみです。今後のシネマ側の対応がどうなるかも不明なのですからこれが全面的な謝罪に値するかを判断するのは難しいと考えます。

    1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

      この記事は、Xに以下のようなポストがあったので、それに対して書いたものです。

      >>車椅子利用者の座席が消防法で指定され、その座席での鑑賞が義務付けされ、その上で指定された場所以外で鑑賞した場合は施設側が罰せられるという趣旨の投稿がなされている。

      イオンシネマシアタス調布が消防法を理由にしていないのは最初から分かっていますが、上記のポストがあって、混乱する人がいると思って消防庁などの取材し、「このポストの言っていることは間違っていますよ」としたわけです。

      もう少し、落ち着いて本文を読んでください。まるっきり見当違いのコメントになっています。

      1. 匿名 より:

        『従業員が車椅子を持ち上げる事が困難になった』話だったものが『車椅子の置き場が問題になる』話に変化したなと勝手に思い込んでしまいました。誠に申し訳ありません。

  5. AuO2 より:

    労働基準法関連で、重量物の運搬に関する、重量制限の方に引っかかりそうな気もするんですけど、どうなんでしょうね。女性で20kgまででしたっけ。
    伊是名夏子氏問題の時も、この重量制限の話が出ていたように思うのですが。

  6. Once より:

    車いすの方のトラブルは定期的に話題になります。
    私は、車いすを運ぶ方の立場の人(飲食店/小売店や交通機関、ホテル/民宿、マンションなどの末端で働く人)の負担/リスクも考えてほしいと常に思っています。
    なぜかマスコミの報道を含め、車いすの方のみに焦点があつまり、それを運ぶ末端の働く人の負担/リスクは軽んじられているように思います。

    AuO2様も指摘され、アゴラの記事に詳しいように、
    「障害者差別解消法上、「負担が過重でないとき」には、障害者の社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をすべき努力義務が事業者に課されています」
    「労働法体系上、腰痛等の労災を防止する観点から、男性が運搬する物の重量の上限は体重の40%以下、女性職員はさらに男性の60%以下とすることが努力義務となっています。さらに、これは平坦な道において物を運搬する場合であり、人を持って階段昇降させることは推奨されていません」
    「足下について視界が遮られたり、両手がふさがるような体積のかさばる物や重量物を持った階段昇降はできるだけ避け、エレベータ、クレーン、階段昇降機等を利用する」
    https://agora-web.jp/archives/240317031317.html

    中嶋涼子氏が要求し実施させたこと(女性スタッフ2人で階段を持ち上げ)は、法令違反である可能性が強い。

    伊是名夏子氏(コラムニスト。社民党常任幹事)の熱海来宮神社観光騒動の時は、伊是名氏は当日、JRにバリアフリー法に則る対応を求めたそうですが、利用者数3000人以下の来宮駅は同法対象ではありません。
    結局、小田原駅から連絡を受けていた熱海駅駅長を含め4名が一行を急遽出迎え、来宮駅まで同行。階段降下時には、100キログラム超の電動車椅子を4名で手持ち運搬したそうです。

    なお、中嶋涼子氏は自身のXで、バスに乗車する際に、中嶋涼子氏を運んだ運転士がぎっくり腰になったと投稿しています(今は鍵垢になって直接は閲覧できない)。
    https://twitter.com/masanews3/status/1770321604838355221
    現実に法令違反を強要した結果、労災を発生させているように見えます。

    車いすで生活する方々が、日常生活でもご旅行等でも非常に不便な局面がまだまだ多いことは本当に気の毒だと思います。
    でも、車いすの方の利便性を上げるために、飲食店や映画館、旅館、交通機関などの末端で働く人に過大な、健康上の危害が生じる可能性のある行為をさせることはおかしい。

    諸法令を見れば、階段を車いすで運ばせることは、法令違反でしょう。
    そしてその法令群は、妥当なものに見えます。
    この法令群がないと、末端で働く人の権利が不条理に侵害されるように思える。
    飲食店や映画館、旅館、交通機関などの末端で働く人は、もし車いすの方がそのような作業を要望した場合は、法令に基づき明確に拒否してよい。
    事業者側も、もし車いすの方がそのような作業を要望した場合は、法令に基づき明確に拒否してよいし、拒否すべきでしょう。それが末端で働く人を守ることになる。
    マスコミも、末端で働く人、車いすを運ばされる側の人の「健康を保つ」権利を尊重して報道してほしいと思います。

    1. BADチューニング より:

      >必要かつ合理的な配慮をすべき努力義務

      は、行為を受ける側にも必要なんですよね……

    2. Once より:

      追伸:
      車いすを使わざるを得ない方は、一般の人に比べ行動が制限されるがために、交通機関の各種優遇制度があったり障害年金の受給が可能だったりするわけです。
      障害年金や各種優遇制度を用意するので、申し訳ないが一般の人と完全に同等な行動は保障できません、それは我慢してください、という制度設計だと思います。
      例えば映画館での映画鑑賞やスタジアムでのスポーツ観戦は、車いすの方用の席でご鑑賞ください。バスは労働基準法を守るなら車いすの方は利用できないケースも多々あるので、その場合は他の交通機関をご利用ください、ということなんでしょう。

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