大谷翔平は「亞洲之光」台湾の熱視線
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
最新記事 by 葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼 (全て見る)
- 台湾Vに熱狂 3ラン陳傑憲のドラマに”涙腺崩壊” - 2024年11月27日
- 台灣隊前進東京 ”12強賽” 初の4強に熱狂 - 2024年11月19日
- 台湾はワクチンの恩忘れず 能登半島地震「義氣相助」 - 2024年1月28日
ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手の大活躍には台湾からも熱い視線が注がれ、「大谷フィーバー」の様相です。10日時点で本塁打王争い単独トップの33号、投手として4勝の大活躍には国境を越えた賞賛の声が挙がり、アジアの誇りとする声が集まっています。
■検索ワード「大谷翔平」が急上昇 人気度100
大谷選手が13号本塁打を放ち日本人メジャーリーガー初の両リーグ本塁打王争い単独トップに躍り出た5月17日以降、その活躍は台湾でも大きく報じられるようになりました。
グーグルトレンドのキーワード「大谷翔平」による検索の人気度動向を見ると、5月22日に検索数が大幅に増え、人気度はその前週から倍増し24ポイントに。そしてこの状態を維持したまま、大谷選手が月間MVPに選ばれた6月13日から人気度は一気に上昇、6月26日の時点で人気度41となりました。
その後27、28号を放った6月29日、29号と30号の2打席連発の7月2日、史上初の投打同時のオールスター選出の快挙から、外国出身選手が前半戦に放った本塁打としては1998年のサミー・ソーサ選手に並ぶ最多タイ記録となる33号本塁打の10日まで、人気度は上昇カーブを描き続け、11日時点で人気度が最も高いことを示す「100」に到達しています(Google Trends)。
約1か月半での急激な検索数増加と人気度の急上昇、台湾メディアでの報道の過熱ぶりを見るに、台湾で今ちょっとした「大谷フィーバー」が起きていると言ってもいいと思います。
外国である台湾でもここまで注目されているのは、卓越した才能と記録破りの結果とともに、純粋に見た目が「格好いい」こともあると思います。スタイルのよさや精悍なルックス、全身から醸し出される「スター感」も人気の一因と考えられます。
■台湾中が驚きと賞賛
台湾メディアは大谷選手の活躍を日本ハム在籍時から紹介しており、野球ファンの間では知名度が高い選手でした。その後のエンゼルスへの移籍によって、さらに報道される機会が増え、人気と知名度も着実に上がっていきました。
連日の活躍に台湾メディアでは「跨世代的天才 (世代を跨いだ天才)」(The New Lens 2021年4月24日) 「無敵」 (Newtalk 2021年7月11日) 「宇宙級怪力」(台湾Yahooスポーツ 2020年6月19日) の見出しが躍り、台湾ネットユーザーからも以下のような声があがっています。
現實的漫畫人物 (リアル漫画キャラクターだ)
太神啦 (神すぎるよ)
這還是人類嗎 (これも人類なのか)
前途無可限量 (前途には無限の可能性は広がっている)
百年難得一遇的存在 (百年に一度あるかないかの存在)
こうした驚きや絶賛の声が相当数挙がっています(批踢踢實業PTT 「Baseball」板及び台湾Yahoo ニュース コメント欄から抜粋)
■大谷選手は「アジアの誇り」 2018年W杯の日本躍進でも
台湾メディアやネットユーザーのコメントには、「亞洲 (アジア)」人プレイヤーとしての活躍を称賛するものが数多く見られるのが特徴です。例えば30号を放った時はこんな感じです。
明星賽前30轟亞洲第一人 (オールスター戦前に30号ホームラン アジア人初)(TVBS NEWS 2021年7月3日)
32号で元ヤンキースの松井秀喜選手が持つアジア人プレイヤー最多記録を破った時には以下のようなコメントがありました。
大谷翔平32轟締造亞洲紀錄 (大谷翔平32号ホームラン アジア記録を生み出す)「(蘋果新聞網(台湾) 2021年7月9日)
米スポーツ局ESPN主催の年間表彰「ESPY賞」受賞のニュースに際しては以下です。
亞洲第一人!大谷獲年度最佳球員 (アジア人第一号!大谷選手最優秀プレイヤー賞獲得)(NOWNEWS 2021年7月11日)
このように「アジア人の快挙」としてクローズアップしています。
身為亞洲人感到開心 (アジア人としてとても嬉しい)
亞洲驕傲大谷翔平 (アジアの誇り大谷翔平)
亞洲之光,已經不只是亞洲是MLB上最強了吧 (アジアの光、アジアだけでなくメジャーリーグ最強だよ)
こうした絶賛の声が寄せられています(批踢踢實業PTT 「Baseball」板及び台湾Yahoo ニュース コメント欄から抜粋)。台湾の人々にとって大谷選手は「野球界の最高峰であるMLBに挑戦し、驚異的な結果を出すアジアの同胞」であり、彼の活躍に親近感を感じ、さらなる快進撃に「アジア人」としての誇りを感じている一面があるように思われます。
こうした現象は野球に限ったことではありません。サッカーW杯でも日本を「アジアの挑戦」として応援しています。
特に前回2018年のロシア大会、台湾メディアは日本の決勝トーナメント出場への躍進と活躍を「亞洲之光 (アジアの光)」(自由時報2018年7月16日)、「亞洲足球新驕傲 (アジアサッカーの新たな誇り)」と(ETToday 2018年7月3日)いった見出しで報じました。
決勝トーナメント1回戦ベルギー戦当日にはスポーツニュースキャスターだけでなくニュース天気予報のお姉さんまで日本代表のレプリカユニフォーム着用で登場、開催期間中は日本代表ユニフォームを来た台湾の人を街中で頻繁に見かけるなど、「プチ日本代表ブーム」に湧きました。
■ヤンキース王建民選手の最多勝で高まったMLBへの関心
国内野球が盛んな台湾ですが、日本のプロ野球(NPB)やMLBを楽しむ人も多くいます。かつては巨人の呂明賜選手や西武に在籍していた郭泰源選手、現役では巨人(前日本ハム)の陽岱鋼選手や日本ハムの王柏融選手等、台湾出身のプレーヤーが活躍しています。
台湾国内ではケーブルテレビ2局でNPBが中継されており馴染みが深いと言えるでしょう。MLBもイチロー選手や松井秀喜選手の活躍は大いに話題となりました。
そして2006年、アジア人初の最多勝利(19勝)の快挙を成し遂げ、台湾中が大熱狂した「英雄・王建民」(当時ヤンキース)の活躍を機にMLBへの関心は飛躍的に高まりました。
王建民選手の活躍に伴い台湾国内でMLB中継を行うスポーツチャンネルが増加し、近年は民放とケーブルテレビ局を含む4局でMLBのライブ中継や再放送が行われており、時間を問わず観ることができます。台湾に於いてMLB観戦は身近な存在になっていると言えます。
テレビのスポーツニュース野球コーナーでは、まず台湾プロ野球、続いてMLBやNPBの試合結果等を報じています。新聞も日米プロ野球報道に大きく紙面を割くことが多々あります。インターネットでは台湾のポータルサイトやニュースサイトに連日台湾、日米プロ野球に関するニュースが投稿されます。
以上の点から、海外野球の試合放送環境や情報量に関しては、台湾は日本と比べ同等かそれ以上であると思います。
なお、2008年から政府公認のスポーツくじ「運動彩券」が販売されています。このくじは日米プロ野球のリーグ戦を含めた海外のスポーツ試合が賭けの対象となっています。海外野球ファン以外にスポーツくじを購入する層も該当試合やリーグの動向に注目していることになります。
■4月から増えたOHTANIのユニフォーム
私は台湾プロ野球楽天モンキーズのホーム球場桃園野球場内のフードコートでたこ焼き屋を出しています。桃園野球場では「国内外のチーム問わず野球グッズを身につける」観戦スタイルが特徴のようです。ホーム楽天モンキーズやアウェイチームのレプリカユニフォームに身を包んだファン以外にも、日米プロ野球のチームレプリカユニフォームやキャップを身につけ球場へ観戦に訪れる人も大勢います(熱いファンが多い中信兄弟のホームの台中インターコンチネンタル野球場は桃園と異なりホームチームユニフォーム着用率が圧倒的に高いです)。
背中に台湾出身の陽岱鋼選手の「YOH」と記された日本ハムや巨人のレプリカユニフォームを着用したファンをよく目にします。
楽天モンキーズのユニフォームに阪神のキャップという面白い組み合わせも複数回目撃しています (台湾では阪神も人気です)。MLBのユニフォーム着用で観戦に訪れるファンは、昨年まではヤンキースやドジャースのユニフォーム着用者が多い印象でした。今年4月の台湾プロ野球リーグ戦開始以降少しずつ増えてきていたのは、背中に「OHTANI」と記されたエンゼルスのユニフォームです。その活躍からすれば、当然のことでしょう。
■OHTANIユニフォームのファンが桃園球場へ戻る日を願う
新型コロナウイルス感染拡大対策のため台湾プロ野球は5月15日から全試合の延期が決定、今もリーグ戦は中断したままとなっています。球場閉鎖がなければ、大谷ユニを身にまとい桃園野球場に足を運ぶファンを目にする機会はさらに増えていたと思いますし、台湾大谷フィーバーの一面を直接、肌で感じることができたでしょう。それが少し残念ではあります。
野球ファンがそれぞれの贔屓チームのレプリカユニフォーム姿で生の試合観戦が楽しめる日が早く戻ってほしいと願っています。そして、大谷選手のさらなる活躍を台北から祈っています。