世界有数の優秀さ 日本の電力会社の底力

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。
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 本州の日本海側と北海道では12月22日(2022年)からの大雪で各所で停電が起きたが、26日早朝までに全て復旧した。被害にあった方にお見舞いを申し上げたい。そして日本の電力会社の電力を止めない能力の高さを讃えたい。このことを誰もほめないので、読者の皆さんに知らせたいし、私はほめたい。(元記事は&ENERGY停電させない! 電力会社の凄さはいつまで続く…

◆大雪でも必ず復旧する電力供給

表1(電力中央研究所•報告書番号Y11027から)

 北海道紋別町では森の木が倒れ送電線が切れたり鉄塔が倒れたりしたことで2回停電し、停電時間はのべ3日になった。世界最大級の原子力発電所の柏崎刈羽原発のある新潟県柏崎市が半日停電した。

 この大雪で死者がいなかったのは幸いだった。住民の方が雪害を警戒して準備をしたためで、日本の民度の高さのためだろう。それに加えて、北海道電力、東北電力と関連会社の人たちは、この雪の中を復旧に頑張り、命綱になった電力供給を早期に回復させ、人々の生活を守った。

 電気はスイッチを押せば、簡単に使えるように利用者には思えてしまう。

 そうではない。発電、送電をするインフラの建設と維持には大変な労力とコストがかかり、それを支える人たちがいる。

◆日本の停電は世界一少ない

 東京電力の福島第一原発事故以来、原子力発電に絡めて、電力会社は批判の渦に巻き込まれた。しかし日本の電力会社の社風はどこも真面目で、現場の人たちは素晴らしい成果を上げている。それが知られていない。一例として日本の停電時間の少なさを紹介してみよう。停電はどうしても起きてしまうが、日本は異常に復旧が速いのだ。

 2021年度末時点で、日本の電力会社の1年あたりの停電時間は27分、東京電力は8分だ。「自然エネルギーが普及している。参考にしよう」と怪しげな日本の研究者やメディアが絶賛する、アメリカのカリフォルニア州は同737分にもなる(東京電力・停電時間の国際比較、2023年1月2日閲覧)。

 また電力はライフラインの中で、復旧が早い。2011年の東日本大震災での被災3県のライフライン復旧率の推移」(表1)を見ると、地震で274万戸が停電したが、6日後には電力の復旧率は9割を超えた。水道やガソリン、都市ガスは1か月半が経過しても復旧は8割台だった。電線が地上に露出しているために他のインフラより整備がしやすいという点もあるのだろうが、東北電力、東京電力の復旧能力の高さによるものだ。

 ある東京電力社員が次のような経験を話してくれた。「自然災害の警報が鳴ると、会社からはあっという間に人が消え、持ち場に向かいます。電力供給を守るためです。それが当然の行動で、文化であり、見よう見まねをしているうちに体に染みつき、やがて自分自身の『本能』となっているのです」

◆アメリカでは自由化の後で復旧力が低下

 こうした復旧能力の高さは、世界でも稀だ。2012年のハリケーン「サンディ」では米国東部のニューヨーク州、ニュージャージー州では850万世帯が停電し、復旧の遅れで、いくつかの電力会社を持つ親会社のファースト・エナジー社が批判を浴びた。15%程度で停電は1か月程度続いた。この親会社は、停電した地区から離れた米国中西部オハイオ州にある。

 米国は各州で電力の制度が違うが、上記2州(ニューヨーク州、ニュージャージー州)では1990年代に発送電分離、地域電力会社を分割、民営化した。効率を重視して災害関連の設備投資を怠り、復旧力が落ちたのではないかと、メディアは批判をしていた。

 日本でも、その状況が懸念される。エネルギーシステム改革で、電力とガスの自由化が進行し、電力会社の発送電分離、小売り自由化などが進んだ。2021年4月に電力会社の発送電分離が完成した。この世界に誇る復旧力が維持できるか心配だ。

◆責任だけを負わされる気の毒な電力会社

 私は原則として、あらゆる産業で自由競争を支持するが、電力・ガスのようなインフラ産業では、国民生活への影響が大きいので制度づくりは慎重に行われるべきと考える。ところが、電力・ガスの自由化は、拙速に行われた。2011年の福島第一原発事故の後で電力会社批判が強まった。当時の政権与党の民主党が世論におもねって注目を集める政策として進めた面がある。

 以前からその案を持っていた経産省・資源エネルギー庁は、それに乗り原子力事故の批判を避けようとする、ずるい行動をした。世論は当時、ヒステリックに電力会社と原子力発電を攻撃し、民主党の政策を後押しした。自民党は政権に返り咲いても、この動きを放置した。

 電力システムでは、これまで10社の電力会社の特定地域の独占が認められる代わりに、 地域への電力供給義務があった。これが自由化で、両方なくなった。今は建前上では、電力会社が停電させても、その責任は、個別の供給者との間に発生するにすぎないということになっている。

 ビジネスにドライなアメリカでは、前述の東部の電力会社のように、電力自由化の後で、供給安定のために手を抜いた。しかし、日本では日本らしく、法律の義務はないのに、電力会社を頑張らせてしまう。また利用者も行政も、過去の状況が続いていると錯覚している。さらに、電力会社は真面目な社風のゆえに、そうした要請に義務でもないのに応える。

 自由化の結果、新電力が参入したが、それらの会社の大半は既存の電力会社に依存。また既存電力会社は、原子力発電の停止に加え、料金自由化、化石燃料価格の高騰などの諸問題に直面して、軒並み赤字だ。とても気の毒だ。

◆仕組みが物事を解決する

写真はイメージ

 そして供給力維持の対応策は考えられていない。電力自由化を勧告した経産省の「電力システム改革専門委員会報告書」(13年2月)では、災害対応と電力会社の供給能力の維持は「期待したい」「電力会社の社内文化の維持を支える制度づくりが必要」という指摘はあったが、具体策が書かれていなかった。私は当時読んで呆れた。つまり、具体的政策ではなく「希望」が、堂々と政策文書に書いてあったのだ。

 その後、小手先の制度が作られたが、22年になってもこの供給制度の問題はほぼ放置され、電力各社の頑張りに期待する仕組みのままだ。面倒な取り決めが必要であり、また電力自由化と矛盾するために、政治家も、経産省・資源エネルギー庁も放置しているのだ。

 アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏に、「善意で物事は解決しない。仕組みが物事を解決する」という名言がある。この言葉通り、電力会社の頑張りだけに期待するといずれ問題が発生する。仕組みを作らなければいけない。国民全体が、設備維持の大変さに気づかないと、今後、日本の電力供給の脆弱化は進んでしまう。ただでサービスを受けられる、うまい話はない。ある程度のコスト負担が必要だ。今回の大雪からの復旧が、「日本のインフラ復旧、最後の成功例」にならないことを祈る。

 ※元記事は石井孝明氏のサイト「&ENERGY」に掲載された「停電させない! 電力会社の凄さはいつまで続く…」 タイトルをはじめ、一部表現を改めた部分があります。

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