侵攻1年 ロシア大使館周辺はピリピリムード

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始してから、2月24日で1年になる。東部で激戦が続き、両軍一進一退の状況と伝えられており収束の兆しは見えない。こうした中、東京都港区にあるロシア大使館は現在、どのような状況になっているのか現地に足を運んでみた。

■大使館周辺に多数の警備の警察官

港区麻布台のロシア大使館(撮影・松田隆)

 在日ロシア連邦大使館は港区麻布台の国道1号線近くにあり、高いビルが周囲を睥睨するかのように聳え立っている。侵攻当初は戦争に反対するリベラル勢力などを中心に、門の前から戦争反対を叫ぶデモが行われていた。侵攻から4日後の昨年2月28日には、およそ100人が集まって「侵略NO」「NO WAR」などと書かれたプラカードを持った人たちが抗議の声をあげた(朝日新聞デジタル・ロシア大使館前で抗議 100人参加「小さな声でも反対訴え続ける」)。

 侵攻1日前の2月23日には、国境近くにロシアが軍隊を展開し緊張が高まる中、在日ウクライナ人などが集まって、「ウクライナに平和を」「Stop Putin Stop War」などと書かれたプラカードを手に抗議活動を行っている(KYODO NEWS・「ウクライナに平和を」 ロシア大使館前で抗議)。

 この日、2023年2月16日午後にロシア大使館を訪れると、特に抗議活動もなく周辺は静かな様子だった。いつものように大使館周辺は常駐の警察官が各所に立ち、あたりに目を配り、緊張感を漂わせていた。

 入口の近くで写真撮影を始めると、すぐに警備の警察官がやってきて、写真を止めるように言ってきた。

警察官:やめた方がいいですよ。

松田:そうですか?

警察官:ああいう国ですからね。止めておいた方がいいと思いますよ。

松田:撮影はダメなんですか?

警察官:ダメというわけではないけど、近くで撮っていると、ああいう国ですから。

松田:僕の身に危険が起きる可能性があるということでしょうか。

警察官:そうではないですけど。そちらは遊びで撮ってるんでしょうけど、それを相手は、よく思わないだろうし。

 ソフトなムードで提案ベースで「撮影は止めたら?」という感じではあるが、公道から建物を撮影しているだけでこのように言ってくるのも珍しい。そして、警察官が(相手が訳が分からない国だから、あなたのためにも止めた方がいいよ)という言い方をしてくるのも、あまり耳にしない言い方である。もちろん、この時点で警察官が一般人に対して撮影をやめさせる法的な根拠はない。

 写真を見て分かるとおり、入口には監視用のカメラが設置されている。そのため、門の前で写真撮影していれば、在館するスタッフはその様子を全て把握できる。当然、録画されていると思われ、場合によっては大使館が日本側に(怪しい人間が写真撮影していたが、保安上の問題はないのか)などと問い合わせをするかもしれない。そうしたことを考えて、警察官はやめるように言ってきたのであろう。

■撮るなら遠くから撮ってはいかが?

 せっかく警察官と話ができたので、もう少し、やり取りを続けることとした。

松田:こちらも遊びというわけではないんです。仕事で撮影しています。

警察官:何の仕事ですか?

松田:僕はジャーナリストでして、ウクライナ問題について記事を書く時もあります。その時のために資料用の写真を撮っているわけです。

警察官:そうですか。それなら、たとえば道路の反対側とか、遠くから撮ったらどうですか?

松田:ああ、そうですね。道路の反対側なら問題ありませんか?

警察官:そうですね。

 このあたりの話からすると、やはり警備としては防犯カメラに撮影する人が映っていると、保安以外の問題を含め何かと問題になるという意識があるように思えた。

松田:ところで、デモなどはあるんですか?

警察官:今日ですか?

松田:今日に限らず、ウクライナ(侵攻)以後で、ということです。

警察官:それはありますよ。

 結局、ロシア大使館の前でデモや抗議の集会が行われることもあり、中には館内に侵入しようとする輩もいるかもしれない。そうした可能性を考えると門の近くで写真を撮影していると、侵入に向けての準備かもしれないと大使館側は考える可能性がある。そのため、警備する側も日本の法律でギリギリ許される範囲で規制をお願いしているということであろう。

■ベースとなるウィーン条約

 警察官がここまでピリピリするのは、上記の警備上の問題もあるが、前提として「外交関係に関するウィーン条約」の規定があることを忘れるべきではない。

【外交関係に関するウィーン条約】

22条(公館の不可侵)

1 使節団の公館は、不可侵とする。…

2 接受国は、侵入又は損壊に対し使節団の公館を保護するため及び公館の安寧の妨害又は公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責務を有する。

(国際条約集 2015年版 奥脇直也ら 有斐閣 p121)

ロシア大使館の裏には社交場の東京アメリカンクラブがある(撮影・松田隆)

 「やめたらどう?」と言われて「公道で何をしようが個人の自由じゃないか」などと食ってかかると、警察官もいつまでも笑っているわけではない。

 門の前でバシャバシャと写真を撮影していると、ロシア側から「公館の威厳の侵害」とクレームをつけられ、「なぜ、警備は何もしないのか。外交関係に関するウィーン条約22条2項を遵守せよ」と申し入れがなされる可能性もないわけではない。そうなれば外交問題に発展する。

 それを踏まえて、松田と警察官のやりとりをもう一度読んでみると、警察官がなぜやめるように言ってきたか、どうしたいのかが自ずと分かろうというもの。

 特に日ロ関係が険悪なこの時期、政府がその点ナーバスになっていると思われる。門の前で写真撮影することが直ちに違法になるわけではもちろんないが、警察官が丁寧に接してきている段階で身を引くのが国民の務めというものであろう。

 特にデモも抗議活動もない平穏な平日の午後ではあるが、こうしてロシア大使館周辺はピリピリとしたムードに包まれていた。平和な日本にあって、戦争の影響を肌で感じる瞬間であった。

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