新庁舎の完成遅れ 保坂区長の責任を追及

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 建て替え工事中の世田谷区役所庁舎の完成が最大で6か月程度遅れることが明らかになり、元区長候補の内藤勇耶氏(29)が保坂展人区長の政治責任を追及する構えを見せている。工事を請け負う大成建設が5月30日に記者会見し、工期などを短く算定していたことが遅れの原因としたが、区が状況を正確に把握していないのであれば行政として求められる注意義務に反しているとも考えられる。

◾️保坂区長「にわかに信じがたい」

「にわかには信じがたい」とする保坂区長(撮影・松田隆)

 世田谷区役所の建て替え工事は3期に分かれている。第1期(10階建ての東棟)は2021年7月からスタートし、当初は2023年7月に完成予定であった。ところが、2022年12月に2か月、工期が延びることが決まり(2023年2月20日の区議会で区長が答弁)、完成予定は同年9月とされた。今回、さらに最大で6か月延びることとなり、完成は2024年3月になる可能性が出てきた。

 この遅れが2期、3期に影響すれば、当初2027年10月に予定されていた最終的な工事の完成も遅れることが予想され、大成建設では7月14日までに区に見通しを報告するとしている。保坂区長は「非常に戸惑っている。にわかに信じがたく、到底承服できない」と語り、損害賠償について協議すると伝えられた。(以上、NHK・東京 世田谷区の区役所建て替え 工程管理不備で最大8か月遅れ)。

 世田谷区役所の建て替えは約400億円をかけた一大プロジェクト。区民1人あたり10万円近い負担となる計算で、4月の区長選挙で4選を決めた保坂区長にとっては、10年以上にわたる区政の総決算と言っても過言ではない。

 実際、区長選挙では大きな争点となった。対立候補の内藤氏は400億円をネーミングライツ導入の活発化や、民間事業者との提携で建物や土地を有効活用して収益をあげて、建設費用分を稼ぎだし区民の負担をゼロにすること、また、設計を変更して建物を一部の地域(2期工事の北東部)に集約化することを主張していた。

◾️「区も素人ばかりではない」

 建設計画の遅れにより、新庁舎での業務開始が遅れ、仮庁舎使用継続の費用が新たに発生するだけでなく、区政の混乱も生じかねない。内藤氏は報道の後に区議会議員を中心にヒアリングを行い情報を収集したという。

 「区は設計会社や施工会社と週に1回、打ち合わせをしていたそうです。区も素人ばかりではなく、土木の職員の方もいらっしゃるわけです。そうであれば、現状を見て『遅れてるな』というのを区役所として気付くべきです。しかも区長選で庁舎の建て替えが争点になっているわけですから、私が区長なら、自分の責任で本庁舎を調べに行きます。保坂区長は寝耳に水といった感じですから、世田谷区の歴史上最も高額な建設費のかかる案件に対して自らの責任において調査をしていないのであれば、行政のトップとして責任は重いと思います。」

 一部報道では、遅延は「消防検査などの日程を短く見積もるなど工程を見誤ったことが原因」(朝日新聞DIGITAL・世田谷区役所の建て替え、最大半年遅れ 大成建設「施工計画甘く」)と報じられている。この点については「消防検査の日程が短いというのは、それこそ区の職員が気付くべき話です。区長選の争点であれば、区長は現場の話をしっかり聞きにいかないといけません。もし、報道が事実であれば、保坂区長は世田谷区民のために働いていないということになります。400億円という費用、区民1人あたり10万円という負担を求めながら、区長が自分のこととして捉えていないというのは、一区民として衝撃でした」と話す。

 昨年末に完成が2か月遅れると区に報告があり、区長が区議会で明らかにしているのに、その後、現場を見ない、進捗状況を確認していないというのであれば、怠慢の誹りは免れない。

◾️なぜ選挙前に明らかにしない

 第1期が今年9月に完成予定のところ、5月末の時点で「最大6か月遅れる」という発表は一般の人にとっては、唐突に感じられる。4か月先には完成しているという5月末の時点で「最大で残りの期間の2.5倍の時間が必要」というのは、素人目にも見通しが甘過ぎ、実はそれより前に大幅に工期が延びることが分かっていたのではないかと疑われても仕方がない。

 仮にそうだとして、この時期まで発表を遅らせることに何か意味があるのか。ここから先は筆者(松田隆)の勝手な想像であるので、そのつもりで読んでいただきたい。

 内藤氏はもともと老朽化している庁舎の建て替えには賛成も、400億円の巨費を投じる建設方式には反対していた。2018年10月竣工の渋谷区の庁舎は敷地内に民間事業者に対して70年の定期借地権を設定し、その権利金211億円余により、区の建築費の負担をゼロにした(YouTube TOKYO MX・“建設費用ゼロ” 東京・渋谷区の新庁舎が完成)。そのような建設方式に変更することで世田谷区の新庁舎も400億円の負担をゼロにできるという主張を掲げ、区長選を戦った。民間と地域を共同開発する方式が現在のスタンダードであり、選挙戦では既に第1期の建築が始まっていたが、2023年10月までに設計を変更することで新方式への変更は可能であるとしていた。その場合、第2期の工事の開始は2025年10月となり、区長選から2年半の時間をかけて設計をやり直せばいい。

 一方、保坂区長は既に支払いが決まっている分(第1期)があり、400億円を区民の負担ゼロにすることはできないなどと主張。内藤氏の400億円を区民の負担ゼロにするのは無理と反論し、「保坂氏の周囲は『2023年10月までに設計変更へ舵を切る決定は現実的ではない』『2025年9月までに設計変更は不可能』と言っていたようだ」(内藤氏)として、従来の計画通りに進めていた。

 もし、投票前に完成が最大で6か月遅れることが判明していれば、内藤氏のいう第2期の工事の開始は2026年4月にずれ込むことが予想され、設計期間に3年取れる。そうなると、さらに余裕を持って設計変更が可能となり、新庁舎の建設方式の変更はより具体的な争点としてクローズアップされていた可能性がある。その場合、従来の建設方式で区民に400億円の負担を強いる保坂陣営と、渋谷区方式で行政が資金を手当する内藤陣営の戦いという構図が明らかになる。それは保坂氏が望む形でないのは明らかである。

◾️真実追求の使命

真実を追求するという内藤勇耶氏(撮影・松田隆)

 区長選から1か月と少し経過した時点での工期の遅れの発表は、選挙の争点隠しの結果というのは穿った見方であるのかもしれないが、もし、事実であれば有権者には重要な情報が知らされないまま投票が行われたことになり、看過することはできない。逆に、保坂区長がさらなる遅延を知らずに漫然と工事の進捗を大成建設から報告だけに頼っていたとしたら、行政の怠慢の誹りは免れないことは前述した通りである。

 内藤氏はこの先、真実を追求を続けることが自らの使命であると感じているという。

 「今回の件は大きな問題です。仮に区長選の前に大成建設から『工事が遅延気味です』という話を区役所が聞いていたとすれば、かなり問題があると思います。いつ情報を入手したのか、場合によっては情報公開請求を含めて詳らかにすることが区民のためになるかなと考えています。議員が役所に聞いても、いつ、それを知ったかというのは簡単には出てきません。私も役所(財務省)にいたからそれは分かります。そのため、情報公開請求で内部の書類などを区民の皆さんにオープンにしていくのも、区長選に出た私の役割の1つなのかなと思っています。」。

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