分娩費用無償化は世田谷の「死活問題」 前回区長選候補

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 2028年6月までに標準的な出産費用の自己負担をなくす新制度が施行される中、都内の産科医療機関に対して経営への影響を懸念する声が上がっている。前回の世田谷区長選に立候補し、2027年の次期区長選への出馬が見込まれる内藤ゆうや氏(32)は24日までに、区内の産科医療機関を維持するため、行政による支援が必要との考えを示した。

◾️前回惜敗の区長候補が抱く危機感

「世田谷の死活問題」と話す内藤ゆうや氏(撮影・松田隆)

 2023年の区長選で現職の保坂展人氏との一騎打ちで14万7361票を取りながら敗れた内藤氏は次回の区長選にも出馬が見込まれ、現在、毎週のようにミニ集会を開き、区民との対話を続けている。元財務省官僚で、分娩費用を巡る新制度についても、妊産婦の負担軽減だけでなく、産科医療機関の存廃に関わりかねない問題として、その行方に注目している。

 7月1日に区内で開いた集会では、当サイトの質問に答え、この問題に関する見解と、行政としてどのように対応すべきかを明らかにした。

 現在は、公的医療保険の加入者が出産した場合、出産育児一時金として原則50万円が支給される。支給額は、2022年度の全施設平均出産費用の推計額48万円に、産科医療補償制度の掛金1万2000円を加えた49万2000円を踏まえて設定された(厚生労働省「第167回社会保障審議会医療保険部会 出産費用の見える化等について」から)。

 新制度では、保険診療以外の分娩について国が1件当たりの基本単価を設定し、保険者が医療機関に直接支払う。基本単価は全国同水準とする一方、施設の体制や役割に応じた加算も設けられる。具体的な給付水準は今後、告示で定められる。また、基本単価とは別に、すべての妊婦に定額の現金給付を行うことも決まっている(参照・妊産婦への支援 決着は保険適用化+現金給付へ)。

 内藤氏は、基本単価が50万円程度に設定された場合を想定し、次のように述べた。

 「保険適用をするということは、要はその50万円を全国一律にしなさいねという話なんでしょうが、現実問題、東京でこれは難しいと思っています。世田谷ですと、国立の成育医療研究センターがありますが、そこでさえ大体(分娩費用が)80万円ぐらいかかります。利益を取らなくても、東京の場合は出産費用がそれくらいかかってしまうということなんです。そのため、仮に『50万円でやりなさい』と言われてしまうと、世田谷の場合であれば利益を取らなくても30万赤字です。これは確かにおかしいと思っています。」

◾️出産1件30万円の赤字が招く未来

写真はイメージ

 新制度を盛り込んだ健康保険法等改正法は5月29日、参院本会議で可決、成立した。6月5日に公布され、新制度は公布から2年以内に施行される。そのため、仮に内藤氏が2027年4月に世田谷区長となった場合には、すぐにこの問題に取り組む必要がある。

 現在、同区内で一般の妊婦の分娩を取り扱っているのは前出の国立成育医療研究センターなど12施設とされる(出産ナビでの検索による)。総人口93万1853人(世田谷区・令和8年(2026)世田谷区の人口と世帯数(全域)から)を抱える同区で、これらの施設が新制度の影響で相次いで分娩取扱いから撤退すれば、世田谷区でも「お産難民」が生じる可能性は否定できない。

 「せめて国立成育医療センターや、駒沢にある昔の第二病院、国立病院機構東京医療センターあたりの金額が賄える程度には、少なくとも東京に関しては設定しなければ、制度としておかしいと思います。出産するたびに30万円赤字となれば、病院はどこも(分娩取扱を)やらなくなってしまいますから。ですから、保険適用する際には、少なくとも今かかってしまう80万という金額を、世田谷区は担保しなければいけないと思っています。」

 地価や人件費などの違いで、全国で分娩にかかる費用はまちまちである。2022年度の都道府県別の出産費用の平均値は、最も高い東京都で60万5261円、最も低い熊本県は36万1184円である(前出の厚労省資料から)。これまでは経営の維持のために分娩費用を適切な価格に設定することができたが、新制度では基本単価が全国同水準となるため、加算を含む給付額が全国平均の50万円程度にとどまれば、コストの高い東京都などの都市部の産科医療機関は壊滅的な打撃を受けることになる。

 「区としては国に『全国一律の保険適用はさすがに勘弁してください』と言いたいです。無料なのはすごいありがたいですし、無料になってほしいのですが、地域の実情も少しは見てほしいというところです。『世田谷では分娩できません』『じゃあ、どこで分娩すればいいの』という話になります。昔であればこの地域だと池尻に東邦大学医療センター大橋病院があります。実は私、大橋病院の生まれです。しかし、今、大橋病院も分娩はやっていません。どんどん分娩ができなくなってきていて、一番近いのが、場合によっては渋谷の赤十字病院(日本赤十字社医療センター)というくらい遠いんです。」

◾️世田谷でもお産難民

 具体的な支援策として、内藤氏は前述のように80万円程度の金額を担保すべきとしている。その財源として、現在、区民に支給されている妊婦支援給付金10万円の一部を医療機関への交付に切り替える考えも示した。同給付金は2025年4月から始まったもので、5万円を2度に分けて支給するものである。

 「世田谷区は今独自で妊婦さんに10万円を渡しています。5万円かける2ですね。もし本当に国が『50万円でやりなさい』とした場合は、今、妊婦さんにお渡ししてる『出産費用に充ててください』という5万円の部分、ここは出産費用が無料になるので、大変申し訳ないけれども、ここは病院に、といったところを含めてやっていかないと、病院が本当に潰れてしまうと思っています。」

集会で話す内藤ゆうや氏(撮影・松田隆)

 妊産婦に交付する金額を医療機関に回すというのは、次期区長選への出馬が見込まれる内藤氏にとっては言い出し難いことであると思われる。それでもそのような考えを打ち出さなければならないのは、基本単価や加算の設定次第では、安全・安心な出産ができる体制が崩れかねず、そのしわ寄せが妊産婦に及ぶとの考えが背景にあるためである。

 当サイトの「それらは最終的には妊産婦のためということですか」という問いに対して、内藤氏は、はっきりと答えた。

 「世田谷でも分娩難民というのは始まっています。これはもう、世田谷区にとって死活問題だと私は思っています。」

 2027年の世田谷区長選では、区内の産科医療機関をどう支え、妊産婦が安心して出産できる環境をどう守るかが、大きな争点となる可能性がある。

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