回り始める核燃料サイクル 再処理施設完成迫る

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。

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 日本原燃の核燃料再処理施設(青森県六ヶ所村)の完成が近づいている。昨年22年9月に26回目の工事完成の延期を発表したことは残念だが、同社は「2024年度のできるだけ早く」と期限を設定し、それを目指して全社が一丸となって努力を進めている。再処理工場が動き出せば、1960年代から国策として構想されてきた核燃料サイクルが回り始める。これにより、原子力を巡る諸問題が解決に向けて大きく前進することになる。(元記事はwith ENERGY・「核燃料サイクル、施設完成が迫る-原子力活用が進む期待」)

◆建設開始から20年、完成にめど

建設中の日本原燃の核燃料再処理施設(同社HPから)

 日本原燃は、原子力政策の根幹を成す「核燃料サイクル」を担う。1993年に建設を開始したが、短期間試験稼働をしただけで完成に至っていない。増田尚宏社長は年頭に、完工時期を「2024年度のできるだけ早く」と目標を定め「地域の皆様、電力会社との約束である完工を必ず成し遂げる」と表明をしている。

 2019年1月に社長に就任した増田氏が、長期の停滞していた状況を変え、問題の解決へ前進させたとされる。増田氏は電力・原子力業界では「英雄」として知られる人だ。東日本大震災では東京電力福島第二原発の所長だった。事故を起こした第一原発と同じように津波に襲われたが、彼の指揮でプラントは守られた。

 増田氏は、そのリーダーシップを今回も発揮した。原燃は、電力会社の寄り合い所帯でガバナンスに甘いところがあったとされるが、増田氏ら新経営陣はそれを是正しつつある。

 工期の遅れは残念だが、これをきっかけに安全性が高く高効率な運用のできるプラントを建設してほしい。規制対応工事は97%まで完成しており、24年の完工目標もかなり余裕を持って設定され、今度こそ予定は達成されそうだ。

◆核燃料サイクルは原子力政策の柱

 核燃料サイクルは日本の原子力政策の柱だ。使用済み核燃料を減らしそれを再利用する。発電で使う核分裂反応ではプルトニウムが出てしまう。それも分離し再利用するという構想だ。それでも使えない核物質を高レベル放射性廃棄物として、地下300メートルより深い安定した地盤に埋める。

 それを支える再処理施設の本格稼働は、日本の原子力の状況を一歩進める。リサイクルで、燃料を再利用することに加え、次のようなメリットがある。

▶︎発電に伴う放射性廃棄物の量を減らす。
▶︎高レベル放射性廃棄物の有害さ(放射能レベル)の度合いを低くする。
▶︎プルトニウムを消費する。

 こうした核燃料サイクルの効果が、原子力の状況に前向きの変化をもたらすだろう。

◆使用済み核燃料の量を減らせる

 福島事故以来不信の広がった原子力への社会の見方が変わりつつある。現在の電力不足、そして電力価格の上昇で、原子力の大量発電、それによる電力価格の低減効果について、多くの人が認識している。また安全性も原子力規制の強化によって、事故の可能性が低下していることの認識が知られるようになった。

 岸田政権は昨年末に、これまで曖昧だった原子力について「活用」に政策を転換した。その政策転換でも大きな反発は起きていない。

 反対派の批判は、使用済み核燃料などの原発で出る放射性廃棄物の問題が中心になりつつある。その処理が決まらないことへの批判だ。それに一般の人々が引っ張られ、不安を抱いているようだ。再処理の実施は、この問題の解決に向けて、状況を変える。

 再処理施設が動き出せば、使用済み核燃料の量を減らせる。現在、この燃料の総量は1万8000tになり、その大半は各原発の使用済み燃料プールに置かれている。この燃料の総量は、現在保管可能量の7割を超える。再処理が進めばプールに余裕もでき、原発の再稼働もしやすくなるだろう。再処理によってその量が減り、7分の1程度の量の高レベル放射性廃棄物のみを処分すればよくなる。

 また高レベル放射性廃棄物の最終処分地については、北海道で文献調査に2自治体が立候補するなど、変化の兆しが見られる。すぐに解決できる問題ではないが、処理すべき物質の量が大きく減れば、建設もしやすくなる。

 さらにプルトニウムは核兵器の材料になり、放射線量の高い危険な物質だ。日本は原子力の平和利用に際して、これを核兵器に使わず、減らすことを国際的な公約にしてきた。再処理が進み、余剰プルトニウムの量を減らせれば、各国からの懸念や批判がなくなる。また、革新炉開発の推進を背景に、わが国で高速炉の開発が再び進むことになれば、その燃料を抽出する再処理の開始の意味がさらに大きくなるだろう。

◆早期稼働で反対論に再考迫るか

写真はイメージ

 なぜか核燃料サイクルを目の敵にする人は多い。反原発の立場の人だけではなく、原子力の活用を認める人でも、使用済み核燃料の直接処分を主張する人、プルトニウムの利用を嫌う人が、日本だけではなく、世界的にいる。米国の民主党ではその考えの立場の人が多い。その影響を日本でも受けている人がいるのだろう。

 特に批判されるのが、その事業費の大きさだ。再処理工場の建設費は当初計画の4倍の3億1000億円、建設開始から2040年ごろまでの総事業費のめどは14兆4000億円になる。確かに巨額であり、その予定外の出費は検証されなければならない。しかし現在の電力市場の規模は2022年で15兆1000億円と巨大なもので、50年間の核燃料サイクル事業費より大きい。核燃料サイクルの実現により、処分問題の解決や、原子力の稼働の実現などが達成されれば、決して高いものではなくなる。

 再処理施設を完成させ、さまざまな利益を生み出していけば、その反対論にも現実が再考を迫るはずだ。

 原燃が適切な形で1日も早く、再処理工場を竣工させることを期待したい。

 がんばれ日本原燃!

 付記・3月末に私は、同施設を見学する機会がある。その際に、報告リポートを出したい。

※元記事は石井孝明氏のサイト「with ENERGY」で公開された「核燃料サイクル、施設完成が迫る-原子力活用が進む期待」 タイトルをはじめ、一部表現を改めた部分があります。

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