これが台湾の誇り「台灣最美的風景是人 」
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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今年7月、あるニュースが台湾で話題になりました。台湾有情を感じさせるニュースに多くの人が胸を熱くしました。
■75歳の日本人女性バッグが2年ぶりに
一張名片 助日籍律師找回在台掉落的父親遺物 (一枚の名刺、日本籍弁護士が台湾でなくした父の形見を探し出す)(中央社 2020年7月6日)
75歳の日本人女性(弁護士)は台湾出生の「湾生」で、2018年6月に台北で行われた日本統治時代に関する学術活動参加のため訪台、現地で台北城市科技大学の陳乃慈副主任と名刺を交換しました。その後、女性は帰り道にバッグをタクシーに置き忘れてしまいます。急いで警察へ行くも、探し出す事ができませんでした。このバッグの中には女性の父の形見である刺繍入りのセカンドバッグが入っていました。
今年6月23日、警廣(台湾警察ラジオ:遺失物の管理も扱う部門)から陳さんに、バッグの持ち主を尋ねる電話が入りました。警察によると、女性が落としたバッグは当人が帰国後に警察へ届けられていたということ、2年が過ぎても持ち主が現れない為、バッグに入っていた名刺から陳さんに連絡をしたということでした。陳さんはすぐに女性に連絡、翌日代理人として警察へバッグを引き取りに行きました。
2年越しの発見に、多くの人から「感動」「心中有溫暖 (温かい気持ち)」等、高評価の声が寄せられました。また、
一張名片的緣分、台日友好 (一枚の名刺が生み出した縁、台日友好)
台灣人重視人與人之間的友善 (台湾人は人の間にある優しさを大切にしている)
台灣真有人情味 (台湾は本当に人情があるね)
と、落とし物を警察に届けたことを「優しさ」「人情味」として評価する声も多くありました(台湾Yahooニュース及び批踢踢實業坊)。
■「台灣最美的風景是人 台湾で最も美しい景色は人である」
台湾の人は、自国の魅力を語るときに「台灣有人情味 (台湾には人情がある)」という言葉をよく使います。またメディアで台湾の魅力を語る時には「台灣最美的風景是人 (台湾で最も美しい景色は人である)」といったフレーズと併用されるフレーズですし、長期台湾滞在外国人は普段の生活に於いて一度ならず言われたことがあると思います。
私は台湾の人から台湾在住の理由としてしばしば「因為台灣有人情味,是吧? (台湾には人情があるから、でしょ?)」と言われます。台湾の人々が自信を持って言える自国の魅力、それが「人情味」です。
私も台湾の人々の優しさや気さくさ、親切心と「互相幫忙 (助け合い)」の精神には常々助けられていますし、この「人情味」が私の台湾行きを決定した一因です。1998年8月、私は初めて台湾を訪れました。滞在は14日間、その間、私は台湾一周旅行をしました。行く先々で出会った台湾の人はとても気さくで親切でした。例えば台北の果物屋で道を尋ねたとき、店の主人が果物満載のトラックに私を載せてわざわざ目的地まで連れて行ってくれました。また台湾東部の台東の夜市の屋台では、隣のテーブルで食事をしていた男性がメニューを丁寧に紹介してくれて、さらに私をテーブルに招いて食事とビールをごちそうしてくれました(写真参照)。
素晴らしい一人旅となった台湾と人々の「人情味」は、私の心を惹きつけ、台湾長期滞在を決心するに至りました。
■台湾も観光に「人情味」をアピール
交通部觀光局も2010年代から台湾観光の魅力として「人情味」を重視する傾向にあります。例えば2011年には「Time for Taiwan – My Beautiful Island」というショートフィルムを製作、作品では阿里山や太魯閣峡谷、蘭嶼島等台湾の名所と各地の人々の生活中での人情を描いています。
また台湾政府観光局や台北市観光伝播局のウェブサイト日本語版では「あふれる人情」「人情味豊かな」といった言葉で各地が紹介されています(参照:交通部觀光局、台北市政府観光伝播局)。2019年12月には訪台日本人延べ人数が200万人を突破したことをうけ、交通部観光局は日本向けに台湾の人情の厚さを伝えることを主眼とした観光PR映像を製作、Youtubeで公開しました(参照:交通部観光局「台湾熱い温度編」)。
スカイスキャナーが2020年5月、日本を含むアジア9カ国・地域に住むユーザー5,000人近くを対象に行ったアンケートを実施、「安全性」、「人情味」、「美食」、「交通の利便性」、「旅行費用」、「文化・芸術」、「自然景観」、「ナイトライフ」の8つの分野で、台湾観光の印象を評価しました。
上記のような対外宣伝の効果もあってか、マレーシアとフィリピン以外の7カ国・地域で、台湾の「人情味」に対する評価が上位3項目にランクインしており、台湾の人々の親切心や優しさがアジア各地の訪台旅行客に深い印象を与えていることがわかります(参照:TaroNews)。
■警察も「人情味」で対応 救われた日本人観光客
2017年にも日本人が台湾の人情のお世話になる一件がありました。このニュースは当時日本でも報道されたようです。
日女錯過班機睡愛河邊挨轟 所長暖回:不會讓女生單獨睡街頭 (日本人女性飛行機に乗り遅れ愛河で大いに泣く 所長親切に対応:女性を野宿させない)
2017年11月17日の夜台湾高雄市を流れる愛河ほとりで一人の女性が泣いているのが目撃され、心配した発見者から警察に通報が寄せられました。連絡を受けた周信宏派出所所長が現場で女性を発見、日本人旅行客であることが分かり派出所へ移送、日本語を解する警察官の通訳によって、この女性は京都から来た24歳の日本人であること、日本への航空便に乗り遅れてしまったこと、所持金も底をつき、言葉の問題から相談できず、空港から徒歩で高雄市中に引き返してきたところで、空腹と寒さから途方に暮れ泣き出したことが明らかになりました。
事情を知った周所長は自腹で食べ物と飲み物を購入し与えました。当観光客は派出所で一晩を過ごし、翌日警察から日本交流協会高雄事務所へ連絡、飛行機代は交流協会が立て替え女性は無事日本へ帰りました。
このニュースはボディカメラで撮影された周所長との現場でのやりとり及び派出所内のカメラ映像と共に報道され、大きな話題となりました( TVBS NEWS 2017年11月16日)。ネットに寄せられた声には、
台灣的警察真有人情味 (台湾の警察には人情がある)
警察人超好、真有人情味、給一百個讚 (警察官超いい人、人情がある、「いいね」百個!)
這就是台灣人熱情的善良! (これぞ台湾人の親切心と善良さだ!)
と、警察官の親身な行為に対する称賛の声が大半でした(※9)。私もこの警察官の行動には称賛とともに日本人として感謝の気持ちです。同時にこの日本人女性については、単身で海外旅行をする気構えが少々足りなかったのでは、と感じました。
台湾では日常で人々の親切心や優しさを感じることができます(台湾在住の日本人にはそれをお節介、世話焼きだと煩わしく感じる人もいるようですが)。人々はそれを台湾社会の誇りと感じているようです。
新型コロナウイルス禍が一日も早く収束し、台湾を訪れた世界各国の人達がその「人情味」を肌で感じる日が訪れるよう切に願っています。