ウクライナ侵攻 短期間の東部限定攻撃か

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。
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 ウクライナでロシア軍の侵攻による戦争が始まる可能性が2月19日時点で高い。バイデン米大統領は同日、数日中にウクライナ侵攻が始まると語った。戦争がどのように推移するのか。私は多少、近代の軍事史の知識があることから、その類推で予想してみる。ただし、勝手な推測であることは、お断りしたい。

 正確な情報など、ロシアが隠している以上、わからない。私の情報も、英語の軍事掲示板、欧米主要メディアを引用したもので、出所は怪しい。(ちなみに日本メディアの軍事情報は米英に比べて見劣りする。)

 ロシア軍の配備の状況は出典不明の情報が多数出ているが、ウクライナ軍の配備は報道管制のためか、全くわからない。出典は煩雑で、省略する。

◆ロシア軍の作戦予想―結論

 陸上戦で、2パターンがあると思う。

その1・東部の限定攻撃。東の占領した地域からの拡大。目標はドニエプル川流域の重要拠点。この可能性が高い

その2・全面戦争。その場合、ソ連軍の伝統的な作戦行動である大規模な包囲運動によって、東部国境に配備してある、ウクライナ軍を包囲し、首都キエフも狙われるかもしれない。

◆解説―北と東にロシア軍が集中

【図1】ロシア軍配置図(Rochan Consultingから)

 現在ロシア軍も、多くの軍隊も、大隊(歩兵500人規模)に諸兵科連合(戦車、砲兵等)を合わせた大隊戦闘団(B T S)を単位に行動する。現在それが100前後国境に集結。その兵站も加えると13 万人程度が集結しており、ロシア地上軍の3分の1になる。ウクライナの地上軍の数は同程度とされるが、航空優勢や兵器の質が凌駕している。ウクライナ軍は厳しそうだ。

 その1月末時点のロシア軍の配置図が、欧米の掲示板に出ていた。Rochan Consultingという英国の安全保障関連のコンサル会社の作成だ。北方に軍が偏在している。ロシア軍は2月20日まで、ベラルーシで演習している。またロシアの精鋭部隊、第1親衛戦車軍は東部国境の後ろに展開している。

 「A」は軍、1T Aは親衛戦車軍だ。ロシアは17世紀のピョートル大帝以来、エリート部隊に「親衛」の称号を与え重点的に育成をする。第二次世界大戦で作られ、冷戦終結と共に消えたこの称号を、ロシア軍は2014年に復活させた。ロシア軍は旅団規模の装甲集団を4つ保有しているらしいが、この戦車軍に2-3個配備しているとされる。英語の報道では、この部隊が攻撃の中心になると注目されている。

 「軍」は第二次世界大戦までは、師団を束ねた軍団の上の集団で数十万人規模だったが、ロシア軍は伝統的に戦闘団の規模を小さくして組み替えを容易にする傾向がある。現代で数万人程度と思われる。 

 この図を見て連想したのは1945年夏の満州の戦いだ。ソ連軍は250万人の兵力を展開し、70万人前後の日本軍に襲いかかった。モンゴル国境に展開した第6親衛戦車軍、東の第5軍を主攻撃に、その他を助攻撃にした。ソ連軍は国境で全面攻撃をして日本軍を拘束。第6親衛戦車軍は突進し、満州国の中枢部、満鉄の開発した鉄道と、その沿線に並んだ新京(現瀋陽)、奉天など主要都市を制圧した。

【図3】ソ連軍の満州侵攻(wikipediaの地図から作成)

 後方を占領されたため、国境に展開した関東軍が撤退できないまま、包囲される形になった。日本軍関係者は戦後、関東軍は戦力抽出で弱体化していたと弁明しているが、ソ連軍の作戦と能力に翻弄された面がある。この見事さと規模の大きさから、米軍は冷戦時代、ソ連との戦いに備え、満州戦を研究していたという。

 ウクライナ国境の布陣でも、ロシア軍の両翼が強化されている。同じような「二重包囲」(後述)行動を取るかもしれない。ソ連軍は1944年から戦術、戦略的に大変技量が上昇し、ドイツ軍を打ち破るようになる。そこでのパターンは以下の通りだ。(詳細 独ソ戦全史(学研)より)

事前攻撃で軽歩兵が拠点(交通の要地や都市など)を奇襲。これは現代ではヘリボーン・空挺攻撃や特殊部隊(スペツナズが有名)に置き換えられる。

第一撃で、展開する敵軍を航空、砲兵で打撃、拘束。拠点が制圧されているために、敵軍は動けない。

第二撃で、装甲軍が戦線を突破し、後方の重要拠点を占領。前線の敵軍を大きく包囲する。「二重包囲」と言われる。前線の敵は殲滅されるか降伏する。

一つの作戦で希望通りの状況を作り、連続した攻撃を行う。「戦争術」と言われる。

 ソ連では第二次世界大戦は、「大祖国戦争」と呼ばれ重要な位置をしめ、軍人たちも、そのドクトリン、また戦史を学んでいる。ウクライナ軍も同じだ。私と同じように、ロシア軍は北と東から、ウクライナ軍に国境で二重包囲をするかもしれないと警戒するだろう。また近年のロシア軍の軍事行動、2008年のグルジア侵攻、14年のクリミア侵攻でも、特殊部隊や空挺部隊が事前攻撃をして拠点を制圧した後で装甲部隊が到着、確保をした。

◆欺瞞情報の可能性

 だが、こうした情報は偽装かもしれない。私のような素人が考えつくということは、当然、プロの軍人たちは予想するだろう。そもそも、ベラルーシでの軍事演習を、ロシアのメディアは世界に告知している。

 これに対応するために、ウクライナは北に軍を展開せざるを得なくなる。私は2015年に、チェルノブイリ原発を取材した。キエフの以北は元々過疎地で、第二次大戦のドイツ軍も移動を避けたプリピャチ沼沢地の外周部で、開発もされておらず、原発事故で一段と放置されてしまった。そしてキエフからベラルーシ国境まで最短200キロ程度だ。

【図3】ビルド紙の戦争予想図

 しかし、逆にその隙をついて、ロシアの占領する東部地域から、ウクライナ東部を攻める作戦もあるだろう。「焦土作戦」(カレル、学研)によれば1944年にドイツ軍をベラルーシで殲滅した「バクラチオン作戦」の前に、ソ連軍は南方で作戦を起こすとの偽情報を流し、ヒトラーと総統大本営はそれに引っかかり、南の警戒をしたという。

 上記のような大作戦は、ウクライナ軍を殲滅できるかもしれないが、それをやったら世界規模の批判になり、戦争は泥沼化する。

 ウクライナの歴史、またロシアの同国への16世紀からの侵略、第二次世界大戦でも、同国を貫くドニエプル川が、軍事的目標になってきた。そしてこの沿岸に、都市や重要拠点が集中している。ロシア勢力が支配しているドネツク自治共和国から西へわずか200キロの同川岸に工業都市サポロジャがあり、近郊にはウクライナのもつ発電用原子炉15基のうち、6基があるサポロージェ原子力発電所がある。

 全面攻撃ではなく、ドニエプル川近くのこうした重要拠点を占領し、交渉するのがロシアにとって合理的でコストの低い行動と思われる。この場合、第1親衛戦車軍は、西のキエフではなく、東、南部に進撃するだろう。

 またドイツの大衆紙ビルドの作った図だが、占領したクリミアを策源地として、沿岸部の攻撃があるとの予想も出ている。ロシアは、海軍所属の海兵旅団を3つバルト海、黒海、太平洋に持つが、全部クリミアに移動しているとの情報もある(S N S情報で、信用はできないが)。

 黒海の制海権はロシア艦隊が握っている。ウクライナの大規模港は黒海沿岸のオデッサしかなく、ここを占領、もしくは破壊されたら、同国の海上貿易は麻痺するだろう。

 こういう重要拠点を奪取し、交渉する行動の方がロシア軍にとって合理的と思う。

◆戦争が起こらないことを祈って

promote Ukraineのツイッター画像から

  2月20日に北京オリンピックは終わる。また例年、ロシアからウクライナ北部は、3月から4月まで雪解けで泥濘となる。独ソ戦ではこの時期、両軍は動けなくなった。

 一方ソ連軍は、雪上戦闘、寒さに慣れているため冬季に活発に動いた。80年前とインフラ整備、そして車両性能は全く違うが、作戦ができる時期は限られてしまう。そして北からキエフを攻めるのは難しくなる。

 数週間で終わらせるには東部での限定攻撃が起こる可能性が高いと思う。結論に戻ると「その2」の全面戦争の恐怖を撒き散らしながら、「その1」のような限定攻撃をするのではないか。その方が合理的だからだ。戦争そのものが合理的とは思われないけれど、まだマシな解決かもしれない。

 以上は、筆者の妄想に近い予想である。妄想が妄想のままであることを祈る。米国政府の予想では、数万人単位の死傷が両軍に出かねないとしている。

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