阿部岳記者が提訴 自らの首に突き刺さる刃か

The following two tabs change content below.
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 沖縄タイムスの阿部岳記者が22日、ジャーナリストの石井孝明氏に対し、那覇地裁に損害賠償請求を提起した。ツイッター上で自身の名誉を毀損する投稿が続いたことに対して精神的な損害を受けたことなどを理由としている。しかし、その裏には訴訟制度を悪用する狙いがあるように見える。また、自身が反訴提起されるリスクも負ったと考えられ、石井氏に向けた刃は、自らの首に突き刺さるかもしれない。

■YouTubeライブで提訴趣旨説明

阿部岳Tube画面から

 阿部記者は同日、ツイッターで提訴した事実を明かし、さらにYouTubeを通じ、現場(那覇地裁付近とする)と室内から2度に渡ってライブで、その趣旨を説明した。

 1度目のライブでは以下のように述べた。

「…那覇地裁の方に行ってきまして、名誉毀損の損害賠償を求める裁判を起こしてきました。…訴えた相手はですね、ジャーナリストの石井孝明さんという方で、石井氏はですね、私のツイッター上で『政治活動』とかですね、『ゴミ記者』とかですね、あるいは『デマを言っている』とかですね、そういったことを私にずっと、執拗に言っていて、かれこれ多分3年ぐらいになるんですが、この間、私から絡んだことは1回もなかったのですが、石井氏の方から執拗に絡んでくるということがありまして、私の精神的苦痛ということもそうなんですけども、私のしている仕事ですね、記事とか、書いているものとか、それのその信用性を貶めているので、これは放置できないということで、先ほど訴状を提出してきました。…」

 2度目のライブでは訴状と思われる書面を画面に示し、石井氏の問題となった発言を「発言一覧表」というタイトルの表で示している。画面から読み取れた一例を示す。

石井氏の書き込み:慰霊の日に、政治活動をするのはやめなさい。人として、静かに。恥ずかしい。そっと閉じました。沖縄タイムス、阿部岳氏、人倫に反します

摘示事実:原告が行なっている取材活動が、人倫に反する政治活動であるという事実

 発言一覧表には6つの発言が記載されているが、次ページにも続いているのかもしれない。上記の発言に関しては、①その行為が公共の利害に関する事実に係り、②もっぱら公益を図る目的に出たこと、③摘示された事実が真実であることが証明されたこと(真実と信ずるについての相当な理由にあるとき)、に該当し違法性の要件が欠けると判断されると考えるのが通常の思考であろう(最判昭和41年6月23日ほか)。

 この種の裁判でよく見られる、できるだけ多くの発言を名誉毀損に該当するとし、その中の1つでも認めてもらえれば、という常套手段と言っていい。

■那覇で提訴の目的

写真はイメージ

 阿部記者が訴えを提起するのは自由であるが、本件訴訟に関して言えば、那覇地裁に訴えを提起したという部分が問題となる。石井氏は東京在住、応訴の煩はかなりのレベルで予想される。

 そもそも民事訴訟の裁判籍は、被告の所在地が原則である。

【民事訴訟法4条】

①訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。

 この原則は「このような規律は、公平という観点による。訴訟は相手方と争ういわば喧嘩のようなものであり、相手方としてはいやいや付き合わされるものであるから、争いを始めようとする原告が、相手方となる被告に対して『自分のところに来い』と言える、というのは公平ではなく、むしろ原告を被告のところまで出向かせるのが公平である、と考えられるのである」(基礎からわかる民事訴訟法 p11-p12 和田吉弘 商事法務)。

 本来なら東京地裁に提起すべき訴訟を沖縄で提起したのは、おそらく同法5条9号の不法行為に関する訴えを利用したものであろう。つまり不法行為があった地でも提訴できるのであり、不法行為地には、不法行為が行われた地と結果が生じた地とが離れている場合は、どちらも不法行為地となると解されているという判例(大判大正3年10月20日)を参考にしたものと思われる。

■石井氏は移送の申し立てか

訴えは東京地裁へ移送される見通し(撮影・松田隆)

 こうした裁判籍の問題は、訴訟追行をする上で極めて重要なファクターとなる。東京に居住する者が沖縄での裁判を求められるのは大きな負担。阿部記者の請求金額は明らかではないが、せいぜい100万円程度と思われる裁判で、那覇まで何度も往復する費用と時間を考えただけでも訴えられた方からすれば応訴の煩は相当なものとなる。

 そのため、石井氏は移送の申し立てをすると思われる。これは同法17条の「遅滞を避ける等のための移送」であり、訴訟進行が遅れる場合のみならず「当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときも同様である」(新民事訴訟法講義 第2版補訂2版 p82 中野貞一郎ほか 有斐閣)とされている。そして、その当事者間の衡平の判断は「『当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情』を考慮すべきものとされている」(同p82)。

 阿部氏は過去の記事やツイッターでの書き込みから民事訴訟法については全く知識がないと思われるが、その代理人は、石井氏が移送の申し立てをしてくることぐらい、予想しているはず。分かっていながら那覇地裁に提訴したのは、相手への負荷を大きくしようとする意図があったのではないか。

 管轄選択権は、訴訟当事者の事情を考慮して認められるものであり、その原則は前述のように被告の所在地である。訴訟手続きで被告に過分な負担を負わせ、訴訟追行を有利に進めようとしているとしたら、法の精神を軽視するもので許されることではない。そのことで逆に、東京地裁に移送という阿部記者にとって自滅と言えるような結果をもたらすかもしれない。

 以前から当サイトは阿部記者に「もう少し勉強してから記事を書きなさい」と忠告してきた(参照・沖縄タイムス阿部岳記者のコラム、不勉強さと思い込みに唖然)。せめて民法1条の規定ぐらいは読んでいただきたい。

【民法1条】

①私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

②権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

③権利の濫用は、これを許さない。

 新聞記者であれば、法に訴える者であれば、最低限この程度は弁えるべきである。

■民訴146条1項を読みなさい

 阿部氏が民事訴訟法についての知識がほとんどないと思われると書いたが、それは民法も同様である。阿部氏は1度目のライブで以下のように語っていた。

 「特に石井氏は沖縄に関すること、中国に関すること、朝鮮半島に関することで執拗にヘイトスピーチなどをしていてですね…」

 また、2度目のライブでも同様の発言をしている。

 「…悪名高いDHCの番組のですね、ニュース女子の番組が放送された後のことで、そういう意味でもいかにあの番組が差別を扇動したかということを、もう、証明の1つでもあると思いますが、これも石井氏のツイートも、それからニュース女子もですね、言っていることは結局、沖縄も朝鮮半島も中国も全部まとめて差別するというそれの1点ですよね。」

 これらは名誉毀損にあたる事実の摘示と思われる。特にヘイトスピーチと断定している部分は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(ヘイトスピーチ解消法)の定義に該当するスピーチをしたということであるから、石井氏の名誉を傷つけているのは明らか。

 阿部氏は民事訴訟法146条1項を読むことをお勧めする。気分が高揚していたのかもしれないが、自らが損害賠償請求されかねない発言をしてしまったことを認識した方がいい

    "阿部岳記者が提訴 自らの首に突き刺さる刃か"に3件のコメントがあります

    1. 月の桂 より:

      ジャーナリストの石井孝明氏とは、こちらでも記事を書かれている石井氏のことですか?

      阿部岳記者は、勉強不足を自ら晒してしまいましたね。使用者である沖縄タイムズも、自社の従業員が不確かな法知識で恥さらしな言動をしていることは承知でしょうに、会社の信用失墜に繋がるとは思わないのでしょうか。「記者」は「活動家」とイコールなのか…と感じる今日この頃です。

    2. 海軍大将 より:

      DAPPIの件と言い、黒瀬の件と言い、今回の件と言い、自分たちの気に入らない言論をする人に対して、一方的に民事訴訟を仕掛けて嫌がらせするというのが最近の(私が知らないだけで昔からかもしれないが)反日極左のトレンドなんですかね
      結局、政治家や記者のように十分すぎるほどの発信力を持っているにも拘らず、公開の言論で反論せずに、訴訟を起こすこと自体が、正々堂々と議論したら勝てない事を認めているようなものなのです。
      愛国系インフルエンサーの海乱鬼さん(ツイ垢名 @nipponkairagi)が「SNSの自由な言論を守る会」を作って不当なスラップ訴訟や開示で知りえた情報の暴露から自由な言論を守る為の活動をしております。
      自由な言論が、国を思う言論が、正しい言論が、日本に仇を為す事しか考えていない連中に封じられることが無いように戦っていきましょう。

    3. 偏見報道沖縄にあきれる県民 より:

      阿部岳記者は口臭の酷い人でした。沖縄県内の国家、県、市町村への質問も電話質問が多く、各自治体等は質問に対する回答をトップの了解を得て回答してます。情報公開法で即当人の質問内容及び回答を請求すべきと思います。あまり印象が良くない記者であることは記憶してます。特に防衛局や外務省沖縄事務所、沖縄県への質問を文書廃棄前までの早期に開示請求してはどうでしょうか。

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です