1・25判決直前 山口敬之氏に聞く(後)

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 ジャーナリストの山口敬之氏のインタビューの後編をお届けする。1月25日に伊藤詩織氏との訴訟の控訴審判決が言い渡される。後編はメディアに対する考え、裁判に政治的な側面が出ていることなどについて聞いた。

■”張本人”は杉尾秀哉氏

伊藤詩織氏の著書「Black Box」

 伊藤氏の著書Black Boxが発売され、山口氏に対して不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起してから、ほとんどのメディアは一方的に山口氏を攻撃し続けた。

 伊藤氏の告訴に対し、東京地検は不起訴、検察審査会は不起訴相当の議決がなされているにもかかわらず、犯罪者のような表現をされることも珍しくなかった。そのようなメディアの報道姿勢は決して許されるものではない。

 1990年の松本サリン事件では、事件の第一報を行った河野義行氏が有力な被疑者であるかのような報道がなされ、後に各社が報道被害の存在を認め謝罪している。そうした経緯は全く生かされていないように思える。

ーー昨年9月21日の意見陳述は、ご自身の陳述をフェイスブックで公開され、当サイトも公開させていただきましたが、公開したことによって周囲の人々やメディアに変化はありましたでしょうか

山口:読んでくださった方から「知らなかった」、「見方が変わった」という少なくない数のメッセージをいただきました。メディアはどういう変化があったか分かりません。

ーー松本サリン事件でメディアは強い批判にさらされましたが、今回の件は山口さんをあたかも犯罪者であるかのような報道がされてきました。メディアは松本サリン事件から何を学んだのか、それとも何も学んでいないのか、見解をお聞かせください

山口:何も学んではいなかったのでしょう。松本サリン事件に関して言えば、裁判所がするように全ての証拠、証言を揃えて、それをもとに判断しようとする作業が進められている最中に断片的な報道、風評に基づいて河野さんが犯人に間違いないという空気を醸成したのはメディアでした。私の件でも同じことが起きました。私という人間は唾棄すべき存在であり、私の人格を否定し、伊藤詩織さんが全部正しいという報道はワイドショーや新聞などで多くありました。私は伊藤さんの主張の多くの嘘と矛盾点を何回も主張しているのに、全て無視されました。それを考えると、松本サリン事件で結果的に河野さんが全く犯行に関係がなかったのに犯人扱いされたことについての反省がなかったと断定せざるを得ません。

杉尾秀哉参院議員(杉尾ひでやオフィシャルサイトから)

ーー松本サリン事件が発生した際に、ご自身は当時所属のTBSで報道に携わっていたのでしょうか

山口:私は1990年入社なので、当時はカメラマンとして松本市に行っています。あえて申し上げれば、当時、河野さんをTBSのスタジオに呼んで犯人扱いしたのは、杉尾秀哉(現立憲民主党・参院議員)というキャスターでした。河野さんをまるで犯人であるかのように吊し上げたものの、実は犯人ではなかったということをテレビの中でやった張本人です。それにもかかわらず、私の事件でも私が「違う」と主張し、かつ、私の主張を否定する客観的な証拠もないのに、国会の会議室でテレビカメラの前で「山口のやったことは絶対に許されない」と言いました。ということは、この人は松本サリン事件で自分の予見をもって他人を犯人扱いしたことの反省が全くなかったし、今もない人であるということです。

■山口氏が考える「より深刻な問題」

伊藤詩織氏(中央)と取材陣(撮影・松田隆)

 今回の判決がどのような内容であるかに関係なく、事件の報道のあり方についてメディアは真剣に総括する必要があるのは間違いない。

 筆者もメディア(新聞)に30年近く在籍していたが、予め翌日の見出しを考えながら取材することは少なくなかった。それは事案を予習して疑問点を洗い出した上で、しっかりと取材目的を持って現場に臨むということではあるが、そのことによって真実を射抜く目を曇らせるというリスクを伴う。

 そこをうまく切り替えないと報道被害が発生しかねない。そのようなメディアの構造、あり方に原因があるとも思える。

ーーメディアの中には取材前に予断をもって取材することは少なくないように思いますが、そのことが今回の報道に影響を与えているとお考えでしょうか

山口:新聞記事とテレビのニュース番組の中のニュース原稿と、週刊誌やワイドショーは分けて考える必要があります。週刊誌やワイドショーは正義を実現する機関ではなく、読者・視聴者に興味のある話題を提供する媒体です。たとえば裁判の中身を報道するモティベーションは国民の興味であり、それに寄り添って視聴率を稼ごう、雑誌を売ろうというもので、そういうビジネスだと思います。そういう媒体の人はそもそも正義を実現する気持ちなどないので、私を悪く書く方が売れる、伊藤さんはかわいそうな人なんだと書く方が売れるし支持されるという判断は、ある意味、ビジネスとして当然であると思います。

ーー問題は前者ですね

山口:そうです。問題は新聞記事、テレビのニュース番組中のニュース原稿、そういうものは本来、民主主義の根幹である報道の自由を具現化するものであり、正義を実現する手段です。そして、どのメディアも「公平公正であること」を謳っています。それなのに、それと全く違う種類の原稿が出続けたことの方が問題としては深刻であると思っています。

■何千匹もいるモグラを全部叩く

インタビューに答える山口敬之氏(撮影・松田隆)

 山口氏はメディアやSNSなどで誹謗中傷をする個人に対し、訴訟を提起している。

 次から次へと出てくる誹謗中傷や虚偽の事実の摘示に対して法的措置をするのも、伊藤氏との訴訟を抱える中、大きな負荷となっていると思われる。

ーー名誉毀損の訴訟を多く提起するのは、まるでモグラ叩きのようで手間がかかると思いますが、それは社会に対して情報発信には責任を伴うという警鐘を鳴らすという意味合いもあるのでしょうか

山口:そうではありません。私がしていないことをしているかのように書く、それは私の名誉を毀損していますし、デマを流布しているわけです。それについてはモグラが何千匹いようが、基本的には全部叩くしかありません。ただ、物理的、時間的制約がありますから、悪質性の高いもの、多くの人に影響力を与えているものから順番にピックアップして訴訟を起こしている状態です。既に準備しているものもいくつもありますので、事実と違うこと、憶測によって私の名誉を毀損する表現についてはこれからも訴訟の提起を続けていきます。

ーー提訴のモティベーションとなっているものは何でしょうか

山口:名誉が毀損されているからです。結果として社会への警鐘となるなら、それはいい効果を伴うと思いますが、それ以前に私は当事者です。名誉を毀損されたら戦うしかありません。

■政治目的化された

 今回の裁判に代表される山口氏と伊藤氏の一連の事件は、特定の政治勢力の介入によって政治的色彩を帯びているようにも見える。SNSの書き込みでも、いわゆる左翼系の人々による伊藤氏への支持の傾向を感じ取った人は少なくないと思われる。

ーー今回の訴訟では、支持する人々に一定の政治的な傾向があり、また、警察庁の人事とリンクして報道するメディアもあるなど、ある種政治目的化されているようにも思えますが、その点はどのような認識でしょうか

山口:今回の事件、訴訟で政治が入ってきたことはありません。ただ、伊藤さんの方が政治問題化しています。国会に行って超党派の議員に支援させていましたし、また、立憲民主党の柚木道義という衆議院議員の予算委員会の質問で、事件のこと、自分(伊藤氏)のことが出てくるのを知って、国会の傍聴に行っています。訴訟を政治利用しているのは伊藤さんの方です。

ーー個人的な印象ですが、真実追求し、権利の帰趨を決する場であるのが興味本位の報道であったり、あるいは政治目的化されてしまったり、それは伊藤さんの戦略なのかもしれませんが、それが問題の本質を見えにくくする要因になっているように感じますが、いかがでしょうか

山口:それは、その通りです。

 SNSを含むメディアからバッシングを受け続けた山口氏にとって、1月25日の控訴審判決は大きな節目となる。

 メディアがバッシングを続ける中、少なくない数の支援者が現れ、SNSでは山口氏の勝訴を信じる者も見受けられる。最後にそうした直接・間接、物理的・精神的に支援する人へのメッセージを伝えてもらうことにした。

ーーこれまで支えてくれた方や、ネットで応援の書き込みをする方などへ、控訴審判決前の今、どのようなことをお伝えしたいでしょうか

山口:多くの人が伊藤さんの主張を盲目的に信じ、それが正しいという前提で私を攻撃する行動が日本のみならず世界中で行われました。基本的には人間は弱い生き物ですから、誰一人として私の主張を信じないということであれば、私は心身の健常な状態を維持するのは難しかったと思います。そういう意味においては、裁判資料を読んでくださる方、私の主張に耳を傾けてくださる方というのは法廷の外の話ですけれども、非常にありがたいと思っています。私にとっては、相手側を正しいとする圧倒的な情報の洪水の中でも立ち止まってくれる方がいたということですから。公平・公正を重視し、正義感の強い、しかも、こういうことについての経験のある方が、報道のあり方とか、一審の判決そのものについて疑問を持ってくださった事実については、すごく感謝しています。私にすれば、人々がどちらかのサイドにつかなくてはいけないということは考えていません。それよりもまず、ファクトを見てほしい、主張を見てほしいと思っています。そういう点に共鳴してくださった方がいるからこそ、ここまでやって来られたというのはあります。

■司法の判断1・25

 山口氏は支援した人だけでなく、特にどちらの味方でもないが、周囲の声に惑わされずに事実を見極めようとする人へも感謝の気持ちを口にした。その事実が、当該事件がいかにその実態が覆い隠され、印象操作がなされていたかを示す1つの証左であると思える。

 この解決困難な事件を司法はどのような判断を下すのか。注目の判決は1月25日に言い渡される。

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"1・25判決直前 山口敬之氏に聞く(後)"に6件のコメントがあります

  1. トトロ より:

    柚木を始め伊藤側は、刑事裁判は検察を裁く裁判を蹂躙していれことを理解していない。刑事訴訟法323条で病院カルテは証拠採用されるから、性交位2~3時で伊藤のAM5時は否定されるから公判維持不可能を検察はわか分かっているから山口氏を不起訴して、検察審査会は不起訴相当の評決をだした。刑事訴訟法を無視する柚木は国会議員を辞職しろ!

  2. 名無しの子 より:

    マスコミの報道、本当に問題がありますね。私がこの事件で感じたのは、マスコミは時代の波に乗るための報道をしているということ。
    昭和の時代は確かに、男尊女卑でした。そんな中、あのおぞましい、女子高生コンクリート殺人事件が起きました。
    被害者には全く落ち度がないにもかかわらず、惨殺された被害者へのセカンドレイプは目を覆いたくなるようなものばかりでした。そしてそれを率先してやっていたのは、紛れもなく、マスコミでした。
    そして今、男女平等どころか、女尊男卑の時代。山口氏への名誉毀損は肯定され、伊藤氏へのただの疑問さえ、セカンドレイプだと非難される。山口氏が冤罪ではないかという、疑いすら持たずに。控訴審判決が、ただ時代の波に乗りたいだけのマスコミに喝を入れてくれることを期待します。
    山口氏の支援者についてですが、先日、ある方が亡くなりました。皆が反対する中「私は山口さんを応援する」と表明し、応援サイトまで作られた方でした。せめて、せめて、控訴審判決まではと、励まし合ってきましたが、それはかないませんでした。さぞかし無念だったことでしょう。
    志半ばで、逝かれたその方のためにも、高裁裁判官には、必ず、客観的に納得のできる判決を出してもらいたいものです。

  3. 野崎 より:

    91年,八尾恵事件が思い浮かびます。
    山口、伊藤両氏の事件とは異なりますがポイントは当初、八尾恵氏を支持した左翼勢力です。

    八尾恵氏を北朝鮮のスパイ又拉致に加担した人物とマスコミは報じた。
    八尾慶氏は事実無根と提訴、そして勝訴した。
    後、何故か八尾恵氏は自身が北朝鮮のスパイであり拉致(有本恵子氏)に加担したと事実を認めた。

    それまで支持していた左翼勢力はダンマリ。(社民党の北朝鮮に対する姿勢に同じ)

    山口、伊藤両氏の事件とは異なりますが伊藤詩織氏には同じく左翼、ファシスト達の組織的支援があることです。(その目的に関しての私見は割愛)

    ある意味伊藤氏は左翼ファシスト達に利用され又伊藤氏も利用したのでしょう。
    山口氏勝訴の場合でも左翼、ファシスト達はダンマリ又不当判決との主張をするでしょう。
    問題を犯罪の有無から倫理問題にすりかえ山口氏を貶めつづけるでしょう。
    狭義には山口、伊藤両氏の個人としての戦いであり広義の戦い、ファシスト、そのシンパサイダー共との闘いはこれよりです。

    今後の山口氏の提訴ですが山口氏としては個人的問題としての提訴と言わざるを得ないでしょうが広義の戦いの要素は当然内包されてあり期待し支援するものです。

    個人的には文芸春秋社を提訴して頂きたい。
    伊藤氏支援組織に関し何らかの記事を期待したい。

    広義の戦い、伊藤氏の背後にうごめく組織、シンパサイダー共に光を当てその多面破壊工作を明るみに出す。
    伊是名氏、鈴木氏、CLP等々は山口、伊藤両氏の問題とリンクしています。

    自由を守るために戦うと旗幟鮮明なる松田氏に期待します。

    ご返信は不要です。

    以下、八尾恵事件、八尾恵事件を知っていますか|tass|noteより抜粋引用。

    華奢な女性がたった一人で国とメディアという強大な敵を相手に声を上げたのである。この行為を拍手で迎える者は後を絶たず、「夢見波」という名の支援組織ができて市民団体や運動家による支援活動は大いに盛り上がった。
    左翼勢力のみならず、多くの一般人ボランティアが八尾に絶大な声援を送り、90年には、事件の一周年記念集会が開催された。弁護士は手弁当で裁判を応援に駆けつけ、支援者たちも徹夜でマスコミ訴訟のための資料作成や、ビラ作成にあたるなど、労を惜しまなかった。

    マスコミにも「権力の陰謀」をほのめかす者がいた。共同通信の斎藤茂男記者は『朝日ジャーナル』誌上で、「この女スパイ騒ぎ、もしかすると一方で北朝鮮バッシングに、他方で『だから国家秘密法は必要だ』の世論誘導に有効、と深読みした人が筋書きを作ったのだろうか」などと八尾の言い分を鵜呑みにして書いていた。

  4. 通りすがり より:

    出てきた名前が杉尾と柚木ですか。碌でもない連中の繋がりってこんなもんだとよくわかる。
    明日の判決が待ち遠しく思う。
    必ずや全ての不義に鉄槌を下す結果となって欲しいと思う。

  5. 月の桂 より:

    レイプの事実が無い伊藤氏に対して、セカンドレイプは発生しませんね。
    辻褄が合わない部分を伊藤氏に対して指摘し、説明を求めるのは、誹謗中傷とは言いません。
    伊藤氏お得意の「可哀想な私の演出」も、判決への効果は望めないように思います。

    私はどちらの支持もしない中立的立場で、この事件を見て来ましたが、もはや、どう足掻いても伊藤氏の勝ち目は無いように思えます。伊藤氏を操り人形として利用して来た人達は、伊藤氏に利用価値が無くなったらポイ捨てにするんでしょうか…。
    そうなって初めて、伊藤氏は自分の犯した過ちの大きさに気付くでしょう。愚かですね。

    明日の判決を静かに待ちたいと思います。

    1. soga より:

      >伊藤氏は自分の犯した過ちの大きさに気付くでしょう
      さいごまで「私は正しい」「私は可哀そう」で押し通すと思います。
      山口氏のお父様が、「息子が薬物レイプ犯罪者」といわれたまま亡く
      なられてもなんとも思わないひとですから。

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