伊藤詩織氏vs山口敬之氏1・25判決を予測
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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ジャーナリストの伊藤詩織氏が、TBSの元ワシントン支局長でジャーナリストの山口敬之氏に損害賠償請求を求めた控訴審判決が今日1月25日午後3時に東京高裁で言い渡される。原審は伊藤氏の請求が一部認容され、山口氏の反訴請求は棄却されたが、果たしてどのような結末となるのか。
■レアケースの高裁の審理
判決を考える前に、両者の請求を見てみよう。
本訴:伊藤氏が不法行為(肉体的及び精神的苦痛等を伴う性行為)による損害賠償請求権に基づき、1100万円の支払いを求めた。
反訴:山口氏が不法行為(名誉毀損等)による損害賠償請求権に基づき、1億3000万円の支払いを求めた。
附帯する請求は省略した。判決は既によく知られているように、本訴が請求の一部認容(330万円)、反訴は請求棄却である。
控訴審は異例の展開で昨年9月21日に結審した。山口氏は当サイトのインタビューに「今回の控訴審は一審を事実上ゼロにする、事実認定から判決の結論までほとんどリセットする非常に珍しい形で進みました。控訴審では、一審の判決に瑕疵があったかどうかという形で審理が進むケースが多いと言われているようです。」と答えた(1・25判決直前 山口敬之氏に聞く(前))。
確かにこのような例は珍しい。通常、控訴審は続審制という方法で審理される(民事訴訟法298条1項、296条2項、297条)。この続審制は「一審の資料と控訴審で新たに提出された資料を合わせて判断資料としつつ、一審判決の当否を審査するという形がとられる。」(基礎からわかる民事訴訟法初版 和田吉弘著 p577 商事法務)と説明される。
もっとも「実務上は、第一審記録に基づいて第一審判決の当否について先行判断を行い、控訴理由が納得のできるものである場合にのみ控訴審において審理を続行するといういわゆる事後審的審理方法がとられているようである」(新民事訴訟法講義 第2版補訂2版 中野貞一郎ら編 p608 有斐閣)とされる。
控訴審の審理手続の細かい話は問題ではない。大事なのは和田氏の著書にある「一審判決の当否を審査する」という部分である。つまり、一審の判断が正しいかどうかをチェックするのが控訴審の判断方法である。それが山口氏の言う「控訴審では、一審の判決に瑕疵があったかどうかという形で審理が進むケースが多いと言われている」という発言の趣旨と言っていい。
■理解に苦しむ一審の判断
山口氏の発言が真実であれば、原審判決をチェックするはずの控訴審で、原審判決をリセットし、自判することになる。これは「覆審制」に近い。覆審制とは「新たな第一審というべきもの」であるが、「この制度は不経済であり、また、控訴審でやり直すことで一審が軽視されることにもなる」(ともに前出の基礎からわかる民事訴訟法初版 p578)と説明される。
このようなことを東京高裁が行ったのはなぜか。これは勝手な推測に過ぎないが、原審・東京地裁の判断枠組そのものが間違っており、その枠組みに沿ってチェックが出来なかったからと思われる。
原審はどのような判決を下したのか。これは比較的よく知られていると思うが、山口氏は午前2時から3時頃にかけて、相手から誘われて合意の上で性行為を行ったとし、伊藤氏は午前5時頃に性行為を強要されたと主張しており、そのような両者の主張を比べ、「伊藤さんの言う方に信憑性がある」として、請求を一部認容したのである。
不法行為に基づく損害賠償請求の場合、原告(被害者=ここでは伊藤氏)が加害の事実、①故意・過失、②権利・利益侵害、③損害の発生、④因果関係(①によって③がもたらされたこと)を主張・立証しなければならない。立証に失敗すれば請求棄却である。ところが、原審ではそうした加害の事実に関する攻撃防御ではなく、両者の主張のどちらが信用できるか、という方法で伊藤氏の請求の一部認容判決を言い渡したのである。
原審が、なぜそのような判断をしたのかは分からないが、控えめに言ってお間抜けであろう。不法行為に基づく損害賠償請求の攻撃防御方法を全く無視した判断枠組による判決が控訴審にあがってきたら、本来あるべき判断枠組(伊藤氏が主張・立証)に沿って、改めて証拠を評価していくしかない。そうすると山口氏の「控訴審では原審と全く同じもの(判決内容)が出てくることはないと思います」(1・25判決直前 山口敬之氏に聞く(前))という言葉の意味が分かってくる。伊藤氏の請求の一部を認容した原審の判決は破棄されるものと思われ、そのことを山口氏は「全く同じものが出てくることはない」と表現したのであろう。
■過失による不法行為の可能性
そうすると山口氏の逆転全面勝訴か、と思われるが、そう単純なものではない。実際、山口氏は前出の言葉の後ろに「どれだけ違う内容が出てくるのかは分かりません。」と付け加えている。
伊藤氏は性行為を強要されたと主張しており「殺される」と思うほどの強引な行為をされた、それによって膝を傷めたなど、山口氏の性行為を強要する故意の存在を主張していると言っていい。この故意は山口氏の意見陳述の5つの質問(山口敬之氏 意見陳述の全文)などの主張から認められる可能性は少ないと思われる。
しかし、不法行為は故意ではなく、過失による行為でも成立する。伊藤氏の言う午前5時に性行為を強要されたことは認められなくても、両者に性行為があったことは事実。その際に、伊藤氏はあくまでも性行為は望んでいなかったが、山口氏が合意があると誤解し性行為が行われたとしたら、つまり、合意があると誤解したことが過失であるという判断ができないわけではない。
伊藤氏サイドは山口氏にそのような過失があったと主張はしていないと思われるが、過失のような抽象度の高い一般条項(他に信義則違反、権利の濫用、公序良俗違反など)を「規範的要件」と呼び、過失の成立を根拠づける具体的事実(評価根拠事実)を主張すれば、過失が認定され得る。山口氏の過失の成立を根拠づける具体的な事実が伊藤氏の主張の中に含まれていれば、山口氏には過失があったと裁判所が認定できると考えられる。
原告サイドが「過失がありました」という主張をするだけなら、被告サイドは防御のしようがない。そのため、過失の成立を根拠づける具体的な事実(評価根拠事実)を主張することが求められ、その主張があれば過失の成立が認められるという「主要事実説」で民事訴訟は運用されている。
それを踏まえて山口氏は「どれだけ違う内容が出てくるのかは分かりません。」と言ったものと考えられる。それは「不意打ち」のようでもある上、山口氏の主張する事実(伊藤氏から誘ってきた)から認められにくいのは確かであるが、講学上、可能性はないわけではない。おそらく、そのリスクは、山口氏サイドは計算しているのではないか。
■反訴請求は認容の予想
続いて反訴請求について考えてみる。これは、おそらく認められると思われる。昨年9月の意見陳述で、裁判長が伊藤氏の弁護団に名誉毀損の一覧表を認めるかを確認している。山口氏は「こういう重要なやりとりが裁判所側から伊藤氏側に問いかけられたということを、私は把握しています。」(1・25判決直前 山口敬之氏に聞く(前))としており、これは山口氏の請求認容のために必要な確認であったと判断していいと思う。
仮に前出のように山口氏の過失による不法行為が認められたとしても、それは反訴とは無関係。過失による不法行為が成立しても「デートレイプドラッグを使用して性行為を強要された」という虚偽の事実の摘示は、山口氏の名誉を毀損するものであるのは間違いない。
以上のようなことから、一審判決は本訴も反訴も破棄される可能性が高く、その上で考えられる結末としては、次のようなものとなる。
(1)山口氏の過失による不法行為が成立し、伊藤氏の請求を一部認容。反訴請求も一部認容。
(2)山口氏による不法行為は成立せず、伊藤氏の請求は棄却。反訴請求を一部認容。
■山口氏勝訴が妥当な判断か
ここまで取材を続けて得られた情報など、さまざまな要素を考えると(2)が妥当な判断であると思う。しかし、(1)であれば双方の請求が認められることとなり”落ち着き”が良く、民事ではよくあるパターンと言えなくもない。どこまで裁判所がそうした悪弊を断ち切り、白黒はっきりつけようと考えるかがポイントであろう。
そうしたことを考えて(2)が8割程度、(1)が1割程度、残り1割はそれ以外のパターン(どういうパターンがあるか想像はつかないが)と予想しておく。
高裁裁判官は、病院カルテを証拠採用しなかったことに地裁判決に相当な不信感を持ち『お疲れ様メール』『膝関節怪我』なども無視したから地裁判決破棄して全く別の判決を出すことにした。そうでなければ地裁判決から2年以上3年未満の高裁判決にならない。通常は地裁判決から1年以内に高裁判決が出る。
⑴でも⑵でも、山口氏の反訴請求は、一部認容なのですね。松田さんの予想は。やはり、⑵の場合でも、名誉毀損の完全勝訴は無理なのでしょうか。というより、山口氏の伊藤氏への請求金額が大きいから、金額面での、一部という意味なのですか?
もしも⑵になり、伊藤氏の不法行為がなかったとなれば、彼女のやったことは「嘘を、何年間にもわたって、世界中に言いふらした」ということですよね。もう、一部どころか、全て、名誉毀損だと、(法律にうとい)私は思ってしまうのですが。それは、あり得ないのかな?
>>名無しの子様
コメントをありがとうございます。
損害賠償請求訴訟で100%は難しいのではないでしょうか。一審でも伊藤氏は一部勝訴であり、請求額の3割しか認められていません。メディアはその事実すら伝えず、「勝った、勝った」状態です。
そのあたりを考えてのものです。
返信ありがとうございます。なるほど。そういうことなのですね。法律には無知なもので、すいません。
よくわかりました。どうもありがとうございます。
>>名無しの子様
僕も法の実務は全く知りませんから、あくまでも参考程度に読んでいただければと思います。
はい。了解しました。
どうもありがとうございます。
素人の質問で恐縮です。
伊藤氏が虚偽の情報を流布していたと認められた場合、例えば「Blackbox」の発禁や回収また謝罪等を求める場合文藝春秋社との別訴訟が必要になるのでしょうか?私は今回の案件は伊藤氏個人の話以上にメディア側のあり方の重要性を感じています。
オーバーカッセル 様
いいコメントですね。
この事件は、伊藤氏個人だけではなく、彼女を利用している組織や偏向報道をしたメディアの責任も大きいと思います。特に、BBを出版した文藝春秋社の責任は重大です。
>原審が、なぜそのような判断をしたのかは分からないが
痴漢冤罪といっしょで、「か弱い女性が可哀そう」というステレオタイプからきたので
はないでしょうか。つまり結論ありきで判決理由は後付け。
恨み、金目当て、なにかの腹いせ、自己都合(例:遅刻したのは痴漢にあったからとい
う理由づけ)・・・様々な理由でうそをつく女性がいることがわかっていない。「理路
整然と矛盾なく被害を述べたとしても、被害者が正しいことを言っている証明にはな
らない(逆にうそを補強してきた結果)」とどこかの裁判官も言っています。
いい記事ですね。
法律用語の説明がわかりやすいです。
「取材時に話された山口氏の真意」も汲み取ることが出来ました。
難しい話を難しいまま伝えるのは、誰にでも出来ます。(←マウント取りたい人が多用するように感じます。)
松田さんの、専門知識の無い人にも理解出来るよう工夫された表現や文章構成力を高く評価します。
(2)の判決を期待しますが、民事は喧嘩両成敗のようなところもありますし、(1)になりそうな気もします。
判決は、数時間後ですね。
松田さんは裁判所に行かれるのでしょうか?
お気をつけて行ってらっしゃいませ。
以前から偉そうにこの事件を山口、伊藤両氏の個人レベルの事件として捉えていないとコメントして来ました。
左翼、ファシストのプロパガンダ、破壊工作なのです。
その意味で奴バラファシストはあるいみの勝利を得ているといえる。(詳細割愛)
裁判の結果に関わらず伊藤氏も小なりと言えど目的を達成したといえると考えます。
伊藤氏は現在もそれなりにニーズにこたえ活動(仕事)されているようです。
ジャーナリストとしての今後は伊藤氏自身の力量如何によるもので道は一応開けてはある、ということでしょう。
広義の戦い、ファシスト共との闘いはこれからであり、山口氏には文芸春秋社を提訴してもらいたいとコメントしました。
ブラックボックスは虚構であることを知らしめると共に(私はそう認識している)この事件がプロパガンダであったこと、ブラックボックスを根拠に伊藤氏を支援したファシスト、そのシンパサイダー共、今後も伊藤氏を利用(相互利用)し続けるであろうファシスト共へのカウンタープロパガンダとしての意味においてです。
ご返信は不要です。