橋下氏の迷走続く 今度は徴用工と慰安婦

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 ウクライナ侵攻に関する発言で批判を浴びる橋下徹氏が、今度は韓国に擦り寄る姿勢で非難されている。3月10日に出演したテレビ番組で韓国の大統領選で尹錫悦氏が勝利したことに関してコメント。徴用工問題と慰安婦問題に関して完全解決を目指す必要がないという趣旨の発言を行った。過去の経緯や国際法を無視した発言は近年の橋下氏の一連の”劣化”を示すかのようである。

■条約の問題を歴史認識にすり替え

今度は韓国に擦り寄った橋下徹氏(中央写真は同氏ツイッターから)

 元大阪市長で弁護士の橋下徹氏は10日の「めざまし8」(フジテレビ系)に出演し、韓国大統領選挙で保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦氏が勝利したことについてコメントした。文在寅大統領の時代に日韓関係は1965年(昭和40)の国交正常化以後最悪とも言える状況になっているが、尹氏は関係改善に前向きとされている。

 この点についての橋下氏のコメントを、スポニチ電子版から引用する。

 「橋下氏は、徴用工問題と慰安婦問題について『僕は(徴用工や慰安婦の問題は)完全解決なんてことは目指さなくていいと思う。歴史認識はお互いに違うんだし、尹さんも日本に対しての歴史認識、凄い厳しいです。』『…歴史認識はぶつけ合いながら、相手方は違うんだということを言い合いながらでも、最後は飯を食えるような関係、それは維持していくべきだと思いますね。』と自身の考えを述べた。」(Sponichi Annex・橋下徹氏 韓国大統領に尹錫悦氏「歴史認識はぶつけ合いながら、最後は飯を食えるような関係の維持を」)。

 この発言は元政治家、弁護士としてのコメントはお粗末としか言いようがない。何よりお粗末なのは徴用工と慰安婦の問題はあくまでも国際法上の対立であり、どのような形であれ完全解決はされるということであるのに、これを歴史認識の問題であるとして完全解決は必ずしも必要ない、としている点である。

 歴史認識は相互の国の歴史に対する考え方であるから、異なっても仕方がない。韓国人が客観的にあり得ない歴史を信じているとしても、最終的に我々日本人は「考え方を改めろ」とまで言う資格はない。韓国も日本に対して同様である。

 しかし、国際条約の問題は法的な決着が迫られるため、その際に韓国が「客観的にあり得ない歴史」を根拠に主張してきた場合、日本側としてはゼロ回答を与えるしかない。

 橋下氏は国際法(条約)の問題を歴史認識にすり替えて論じており、聞く者の多くは(確かに一致点を見出すのは難しいよな)と何となく納得してしまう効果がある。

■法と正義に基づく解決

 橋下氏も弁護士であるなら、法と正義に基づく解決を主張すればいいと思う。徴用工問題に関しては、日韓請求権協定が原則となる。

【日韓請求権協定】2条

①両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」。

 ここで日韓両国及び両国民には請求権については解決されたことを両国政府で確認しているのである。ところが韓国側は元徴用工の訴えを認め、日本企業の財産の差し押さえを行い、今、現金化されようとしている。この点を文在寅大統領は「韓国政府は三権分立により、判決を尊重しなければならない」と語り正当化した。

 しかし、条約と国内法が内容的に矛盾する場合、条約を無効とするために基本的に国内法を援用しえない。それはいわゆる条約法条約で定められている。

【条約法に関するウィーン条約(条約法条約)】46条

①いずれの国も、条約に拘束されることについての同意が条約を締結する権限に関する国内法の規定に違反して表明されたという事実を、当該同意を無効にする根拠として援用することができない。ただし、違反が明白でありかつ基本的な重要性を有する国内法の規則に係るものである場合は、この限りでない。 

 当然、同条約は日韓両国とも当事国である。そして、但し書きの部分について、請求権の問題が解決されたとすることが当時の韓国の基本的な重要性を有する国内法の規則に違反するとは到底思えず、韓国側が該当すると主張したとも聞かない。

 韓国が徴用工についてどのような歴史認識を持って日本と対立するとしても、法的には解決している。徴用工問題で歴史認識は対立しても、法的には韓国は日本に一切の負担をかけることは許されない。

■国家の主権免除という大原則

 いわゆる慰安婦の問題については2015年12月の日韓外相会談における合意によって「最終的かつ不可逆的な解決」を確認された。それに基づき、2016年8月に韓国政府が設立した「和解・癒やし財団」に対して10億円を拠出。合意時点で存命者47人中35人、物故者199人中64人の遺族に対して資金が支給された。

 ところが2021年元慰安婦等が日本国政府に対して提起した訴訟に対してソウル中央地裁が国際法上の主権免除の原則の適用を否定し、日本国政府に損害賠償の支払いを命じる判決を出し、その後、確定。これは国際法上の主権免除の原則を無視した判決であるのは言うまでもない(以上、外務省・慰安婦問題についての我が国の取組)。

 国家の主権免除(sovereign immunityもしくはstate immunity)は「原則として諸国に認められており、慣習法化しているとされる」(柳原正治・森川幸一・兼原敦子編 プラクティス国際法講義第2版 p144 信山社)。その根拠は「主権国家相互の平等に基づき『対等なる者に対して裁判権をもたない』という法諺にあるとされる」(同書p143)。

 いわゆる「国家の裁判権免除事件(独vs伊)」では、国際司法裁判所が2012年2月3日に判決を下し、主権免除の原則を主張したドイツが全面的に勝訴。「イタリアの裁判所によるドイツの裁判権免除の否定は、ドイツに対するイタリアの義務違反である」とされた(杉原高嶺・酒井啓亘編 国際法基本判例50第2版 p43 三省堂)。

 慰安婦問題は最終的かつ不可逆的な解決がなされているのに、国際法上の原則を無視した国内裁判所の判決を根拠に解決がなされていないなどという主張は認められないのは明らかである。

■決着させずに日本が永遠に謝罪を…

外務省は退避勧告を出していた

 橋下氏はおそらく国際法は専門的に学んでおらず、弁護士になってから国際公法の知識が問われる場面などほとんどないので仕方がないかもしれないが、さすがにこの程度は理解しているはず。法的には韓国の主張は全く問題にならず、日本政府は適正な法の執行を求めるだけで、もはや両国で交渉してどうこうというレベルではない。韓国政府の言い分は単なる言いがかりと言っていい。

 もちろん、歴史認識が両国で異なるのは前提の話で、その前提の上で交渉して、政治的・国際法的に決着したのである。それを「前提の違いは当然」と言って決着をひっくり返されることが許されるなら、これまでの政治的な努力は全て無になり、永遠に解決などあり得ない。

 国際法を無視して言いがかりをつけてくる韓国と「歴史認識はぶつけ合いながら、相手方は違うんだということを言い合いながらでも、最後は飯を食えるような関係、それは維持していくべき」(橋下氏)と主張することは「法的に決着させずに日本が永遠に謝罪し続けろ」と言っているに等しいように聞こえる。国際法と歴史認識を混同、すり替えることで国家間の決着をひっくり返せとしているのである。・

 橋下氏はそこまで主張するのであれば、上記で示した国際法上の決着をひっくり返すだけの理屈(法的根拠)を示すべきであり、それが示せない以上、全く意味のない主張と言っていい(以上、参照・慰安婦判決の朝日社説 ドイツの国際裁判知らない?)。

■橋下氏も思考停止の状態か

橋下徹氏(フジテレビ・日曜報道 THE PRIME画面から)

 橋下氏はウクライナ侵攻については、3月3日の「めざまし8」(フジテレビ系)出演時は「祖国防衛のために命を落とすということが一択になるのは、僕は違うと思うんですね。…ロシアが瓦解するまで、ちょっと国外へ退避してもいいじゃないですか。」と主張した(参照・プーチン大統領のブラフにかかった橋下氏)。

 かつては保守派の論客として名を馳せ名を馳せ、2021年9月には産経新聞から正論のメンバーに迎えられているだけに、ここに来ての迷走ぶりには保守派からも批判を浴びている。

 どういう思考回路でウクライナや韓国の問題を語っているのかは分からないが、印象としては相手も引き下がれないから、どこかで落とし所を設定しようという民事訴訟に臨む弁護士の発想があるのかもしれない。法を曲げて決着することは、相手が自らの正当性を主張する根拠になるのが国際社会の常識であり、そのような考え方は正常な国際関係を阻害する。そのあたりの意識がすっぽりと抜け落ちているのではないか。

 ウクライナ侵攻で、憲法9条の”信者”のような論客が次々と自らの主張を破綻させていることは当サイトでも指摘した(参照・侵攻で思考停止 池上彰・玉川徹氏ら掲げた白旗 ほか)。これは保守派の中においても同様である。もはや橋下氏も思考停止の状態に近いと言わざるを得ない。

    "橋下氏の迷走続く 今度は徴用工と慰安婦"に2件のコメントがあります

    1. 通りすがり より:

      最近はハシゲの迷走ぶりを面白がってメディアが頻繁に出演させてると思う節すらありますね。それで自分に需要があると勘違いしたハシゲがさらに暴走する悪循環に。

      今はいち私人とは言っても実質は維新に未だに強大な発言権を持つボスキャラ的存在と世間では認識されている以上、これ以上好き勝手言わせておくのは維新の会という政党に取ってマイナスにしかならないと思うが。

      なによりこうしてこの男の不穏な発言の数々が、否応なく耳目に入ってくることそのものが不愉快で仕方ない。

    2. シュール より:

      お久しぶりです。

      橋下弁護士のウクライナを巡る愚かなコメント。何ゆえこのような人間をメディアに出すのか、視聴率さえ取れたらそれで良いとする、メディア自体のどうしようもない卑劣さを実によく表しています。

      それを視聴者に見透かされていないと思っているなら、橋下弁護士もメディアも、もう終わりですね。

      ネットが存在して本当に良かったです。

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