慰安婦判決の朝日社説 ドイツの国際裁判知らない?

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 朝日新聞は9日付けの社説でソウル中央地裁の原告勝訴の慰安婦訴訟を取り上げ、日本政府にも責任がある趣旨の内容を掲載した。韓国の国際法を反する判決が問題であるのは明らかだが、なぜか日本にも責任があるとしている。しかし、国際法では100%韓国に非があるのは明らかで、せめて国際法の基礎ぐらい学んでから社説を書いてほしいと感じさせられる。

■慰安婦判決に「歴史の加害側である日本でも…」

 ソウル中央地裁は1月8日、慰安婦だった女性12人(故人を含む)の日本政府に損害賠償を求めた訴えを認めた。日本側は国家には他国の裁判権が及ばないとする「主権免除」の原則から裁判自体を否定しており、一審判決が確定する見込み。

 これを受け、朝日新聞は「慰安婦判決 合意を礎に解決模索を」という社説を掲げた。そこでは日本側の責任も追及する姿勢が見える。

 2015年のいわゆる「慰安婦合意」がたなざらしになっている点については文在寅政権が骨抜きにしたのが最大の原因としながらも、以下のように記している。

・歴史の加害側である日本でも、当時の安倍首相が謙虚な態度を見せないことなどが韓国側を硬化させる一因となった。今回の訴訟は合意の翌年に起こされた。合意の意義を原告らに丁寧に説明していれば訴訟が避けられたかもしれない。

 その上で、最悪の自体を避けるために韓国が政府が元慰安婦との対話を進めるべきとしつつ、以下のように記した。

・日本側も韓国側を無用に刺激しない配慮をする必要がある。

 締めは以下である。

・現状は日韓が和解のための最大の努力を尽くしたとは言いがたい。日韓両政府の外交力が問われている。

■独vs伊の国家の裁判権免除事件

オランダのハーグにある国際司法裁判所(同裁判所のHPから)

 最大の原因は韓国政府にあるとしながらも、なぜか日本側にも責任があるとし、日韓で力を合わせて、と対等の責任を求めているかのような締めになっている。国際法の原則を踏み躙り、国家間合意を無視している韓国に100%の責任があるのは明らか。そのため、菅義偉首相も「我が国としては、このような判決が出されることは、断じて受け入れることはできない」と強く反発しているのである。

 朝日新聞は国際法の基礎すら知らずに記事を書いているようにしか思えない。国家の主権免除(sovereign immunityもしくはstate immunity)は「原則として諸国に認められており、慣習法化しているとされる」(柳原正治・森川幸一・兼原敦子編 プラクティス国際法講義第2版 p144 信山社)。その根拠は「主権国家相互の平等に基づき『対等なる者に対して裁判権をもたない』という法諺にあるとされる」(同書p143)。国際法の基本書ぐらいは読んでから社説を書いてほしい。

 実際に国家の主権免除が国際司法裁判所(ICJ)で争われた例もある。いわゆる「国家の裁判権免除事件(独vs伊)」で、国際司法裁判所が2012年2月3日に判決を下した。これは第二次大戦中にナチスドイツによってイタリアから追放され、ドイツで強制労働をされたとするイタリア人が戦後自国で民事訴訟を起こし2004年に勝訴、イタリアの裁判所はドイツの文化交流用センターの土地建物に裁判上の抵当権を設定したことが発端となった。

 これに対してドイツが主権免除の原則に反するとして2008年にICJに提訴し、結果はドイツが全面的に勝訴。判旨で「イタリアの裁判所によるドイツの裁判権免除の否定は、ドイツに対するイタリアの義務違反である」とされた(杉原高嶺・酒井啓亘編 国際法基本判例50第2版 p43 三省堂)。

■伊の主権免除不適用の主張を一蹴

 今回、ソウル中央地裁は主権免除を適用しない理由として慰安婦問題について「『日本によって計画的、組織的に強行された反人道的犯罪』と認定」した上で、「主権免除は『他国の個人に大きな損害を与えた国に、賠償を逃れる機会を与えるために作られたものではない』として、日本政府に適用されないと判断した。」(朝日新聞電子版1月8日付け:韓国の慰安婦訴訟判決、首相「断じて受け入れられない」)と説明しているようである。

 実は国家の裁判権免除事件でもイタリア側から主権免除を適用しない理由として①国際人道法の重大な違反、②強行規範違反、③他の救済手段の不存在を根拠とする免除例外が主張された。

 しかし、ICJは①〜③まで、全ての主張を退けている。細かいことを書けば、①についてはそのような国家実行はない、②は裁判権免除は手続き的性格を持ち、問題の行為の合法・違法には関わらず抵触は存在しない、③については、裁判権免除の付与を他の救済手段の存在にかからしめる国家実行が存在しない、としたのである(国際法基本判例50第2版 p43から)。

 慰安婦問題についても①、②のICJの判断が当てはまり、③については2015年の慰安婦合意などが他の救済手段があるから、韓国側は主張できない。

 こうして考えると、ソウル中央地裁が国際法に違反した判決を出したのは明らかで、「韓国の裁判所による日本の裁判権免除の否定は、日本に対する韓国の義務違反である」ということは容易に想像がつく。

■朝日新聞が蒔いた種から育った毒樹

 社説を書く者はこの程度は調べてから書くべきだろう。

 そもそも朝日新聞による誤報がここまで慰安婦問題を国家の問題にしてしまったのである。同紙は最終的に18本の記事を取り消しているが、肝心の韓国にそのようなことをしっかりと説明していないようである。

 自分たちが蒔いた種から育った毒樹、知らん顔で自国政府に責任を押し付ける朝日新聞の姿勢には呆れるよりほかはない。

    "慰安婦判決の朝日社説 ドイツの国際裁判知らない?"に6件のコメントがあります

    1. トトロ より:

      慰安婦は官憲の強制連行が大問題で、当時は
      売春は合法で何も問題ない!
       本当に強制連行があれば、昭和4年に発生した
      “光州学生独立運動”そこのけの大暴動が発生している。
       光州学生独立運動は、日本人野郎学生が、現地の女学生に
      “チョッカイ”出したことで、現地の野郎学生と決闘になり
      朝鮮半島全土で反日暴動が発生して、光州では、”光州学生独立運動記念館”
      が建設されている。
       本当に慰安婦強制連行があれば、光州学生独立運動そこのけの
      大暴動が、朝鮮半島で発生しているが、そんな話を朝日新聞はじめ
      マスコミから聞かない。
       そのことは、秦育彦氏が元朝鮮総督府職員の方から聞いていて
      本で発表している。
       朝日新聞は、そのことを説明する義務がある。
      http://blog.livedoor.jp/urikorea/archives/26339378.html
      http://fkgenkai.blog.jp/archives/5690966.html?ref=foot_btn_prev&id=7284665

      1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

        >>トトロ様

        コメントをありがとうございます。
        戦前は東北地方の飢饉で娘を身売りというようなこともあったわけで、そういう不幸な女性と、一儲けを狙ってという女性がいたのではないでしょうか。現在の米国で売春婦をしているの人々の多くは韓国からという話も聞いたことがあります(真偽不明)。

        朝日新聞ですね、元凶は。そう思います。

    2. プルメリア より:

      今後、朝鮮戦争時の慰安婦らが、反日英雄としての年金を受け取る目的で「従軍慰安婦被害者」に登録されていく。これは非常に明快な話で、今までの慰安婦もほぼ朝鮮戦争時の慰安婦であったからだ。

      太平洋戦争の慰安婦については、ほぼ完全な形で取り調べ内容がアメリカ議会図書館に残されており有無を言わせないが、朝鮮戦争時の慰安婦は全く記録がない。そのため記憶の改竄が容易で、反日英雄として「ハルモニ」(韓国語でおばあさんを意味する)として祭り上げられれば、年金の保証のほか、介護施設の整った家でたくさんの子供達の訪問を受けて優しくしてもらえる。こうした反日英雄作成スキームは、朝日新聞の報道と某野党議員らの手によって作り上げられ、静かに進められた。

      しかし実際、「ハルモニ」の人々は幸せだったのか、幸せになれたのかというと、そうは思えない。例えば日本の反人道的犯罪と言いつつも、太平洋戦争時は通常の売春婦として金銭的に恵まれ、休暇や外出など基本的な権利も行使できていたにも関わらず、朝鮮戦争時の慰安婦の酷さは筆舌に尽くしがたいものがあった。というのも、米軍に供されたとしかメディアには出てこないが、現実は無惨にも同じ民族である朝鮮兵や中国兵やソ連の顧問団を装った兵士らに蹂躙されていたからである。こうした朝鮮戦争の内容が明らかにされないのは、言わば民族の恥であり、「こうなった責任は日本なのだから日本に責任を取らせろ」という日本責任論の前に黙殺された。つまり、本当のことは言えないのだ。日本になすりつければ国民的な大歓迎を受けるから演じているのだ。こうした状況を幸せと感じる人もたくさんいただろうが、本当の幸せと呼べるものではない。

      今回の判決は、「植民地政策は非人道的であるから、日本にすべての責任がある」とするものだった。また、その実行力は遺族であってよく、時効は存在しない。また賠償金の上限も決まっておらず、ほとんど法と言って良いのか疑問に思えるほどである。実は徴用工の判決も同じ主旨であった。即ち、徴用工裁判以後、いかなる日本に対する裁判があろうとも、植民地政策に対する慰謝料だと言えば無期限、無制限に支払いを命令されるだろう。

      韓国的思考と日本的思考の衝突について、最後に書いておきたい。
      韓国はあくまで儒教精神に則り、可能性の限界の領域まで議論の枠を広げて、もう妄想の域に達してでも良いから、相手を負かせば勝ちという文化である。この儒教の思考法により、例えば歴史の改ざんはとても容易である。自論を補強する通常の作業は不要で、可能性を一つ指摘するだけで良いのだ。日本のものは全て朝鮮が教えたはずだと。具体例を上げるなら、済州島に古い桜の木が有るから日本の桜の木の起源を主張する。日本の面をつける歌舞伎は新羅の面をつける舞が起源だ(実際は麺をつけるのは能)。など、列挙に暇がない。
      そして、今回の裁判も同様であった。可能性を指摘しただけで裁判には勝てる。もし日本政府が裁判に参加したとしても、負ける心配はない。儒教の国は結束が固いのだ。日本がいかに国際慣習法を主張して主権免除を訴えようが、「憲法違反」と退けることができるのだ。韓国の憲法前文を見ると、「三・一運動」「平和的統一」をあげて、日本への反発を訴えている。併合は不正だったとする思想が刻まれているのだ。憲法そのものが「植民地政策は非人道的だった」としている国で、日本が勝つ方法はない。

      今回の司法判断を見た中で、「日本が折れるべきだ」とか、「日本が謝罪すれば完全に解決する」などとする意見が主にマスコミを中心に聞かれる。今後、韓国司法は次々に日本敗訴の判断を下すだろう。それは国に対してのみならず、企業や個人に対してもである。そうした中でも、日本が折れてい続けられるだろうか。無限に無制限に金を払い続けられるだろうか。日本の教科書を韓国起源で埋め尽くして反省の意思を示せるだろうか。
      私は、とうてい許すことは出来ないし、ただ韓国のことを嫌いになることが自明だと思うのだ。

      1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

        >>プルメリア様

         コメントをありがとうございます。

        >>もう妄想の域に達してでも良いから、相手を負かせば勝ちという文化である。この儒教の思考法により、例えば歴史の改ざんはとても容易である。

         これですね。「歴史戦」という言葉を使うようですが、歴史とは自分たちに都合のいい歴史を正しい歴史という国ですから、まともな話し合いなどできません。正直、仲良くする必要があるのかなといつも思っていました。合理的・論理的な話しかできない人たちとは極力、接触を少なくするのが賢明な手段であると考えています。

    3. MR.CB より:

      》》ジャーナリスト松田様

      遅ればせながら、簡単にコメントさせて頂きます。松田さんも、「毎度毎度」のお気持ちでお書きになっておられることでしょう。結局のところ、朝日新聞が益々部数を減らすだけのことです。
      ただ、還暦間際の小生が中学生の頃に、「朝日はエリートが読む新聞」と信じていたことが残念でなりません。お恥ずかしい限りです。

      1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

        >>MR.CB様

         コメントをありがとうございます。

         朝日新聞の社説担当者はもし、国際司法裁判所の判決を知らなかったら、お話になりません。それを書いたら日本側の責任は0%になってしまうので、故意に触れなかったとしたら公平公正の立場とは言えません。

         どちらにせよ、論外だと思いました。

         こんなことをしているから、部数が激減しているということに、いい加減、気づいた方がいいと思います。もはや手遅れでしょうが(笑)。

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