欧州ディープ産駒 凱旋門賞の勝算

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 ディープインパクト産駒のスノーフォール(牝3、愛A.オブライエン厩舎)が8月19日のヨークシャーオークス(芝11ハロン188ヤード)を快勝し、G1を3連勝した。G1凱旋門賞の前売りオッズでも1番人気になっており、日本産馬による欧州チャンピオン誕生なるか注目される。

■コースレコードに迫る好時計

ヨークシャーオークスのレーシングプログラムから

 7頭立ての6番手に控えたスノーフォールは直線で外に持ち出し、残り400m付近で先頭に立って、そのまま押し切った。最後の50m程度は鞍上のライアン・ムーア騎手が手綱を緩める余裕ある勝利だった。

 勝ちタイム2分26秒61は1998年のG2グレイトヴォルティジュールSでシーウェイヴがマークしたコースレコード2分25秒12に1秒49差に迫る好タイム。同年のキャッチアズキャッチキャンの優勝タイム2分26秒02以後、同競馬場で開催されたレースでは最速だった(2008年ラッシュラッシーズの勝ちタイム2分25秒11はニューマーケット競馬場でのもの)。

 6月4日の英オークス(芝12ハロン6ヤード)、7月17日の愛オークス(芝12ハロン)とG1を3連勝。同年に英愛オークス+ヨークシャーオークスを制したのは2017年のエネイブル以来4年ぶりの快挙となった。また、ムーア騎手、エイダン・オブライエン調教師は昨年のラブに続く連覇。

 8月末現在、スノーフォールが10月3日の凱旋門賞(芝2400m)の最有力候補であることは変わらず、現時点での前売り単勝オッズは1番人気となっている。

■凱旋門賞前評判はスノーフォールを含む3強

 日本調教馬ではないが、日本産馬での凱旋門賞制覇は日本の馬産界にとっては大きな意義がある。現時点での英ブックメーカーの前売りオッズを見てみよう。

スノーフォール(牝3):3.0~3.25倍

アダイヤー(牡3):4.5~5.5倍

タルナワ(牝5):6.0~7.0倍

ミシュリフ(牡4):8.0~9.0倍

ハリケーンレーン(牡3):8.0~11.0倍

ワンダフルトゥナイト(牝4):9.0~13.0倍

セイントマークスバシリカ(牡3):8.0~13.0倍

ラブ(牝4):8.0~21.0倍

クロノジェネシス(牝5):13.0~17.0倍

 前評判ではスノーフォール、アダイヤー、タルナワが3強を形成している。漠然とした印象だが、今年はレベルが高い。アダイヤーは単勝7番人気で6月5日のG1英ダービー(芝12ハロン6ヤード)を勝った時点では「今年も弱い英ダービー馬」という印象が強かった。ところが、7月24日のG1KジョージⅥ世&QエリザベスS(芝11ハロン211ヤード)でミシュリフ、ラブ、ブルームを破っての勝利で評価は一変。2015年のゴールデンホーン以来6年ぶりの英ダービー馬による同年の凱旋門賞制覇があるかもしれない。9月12日のG2ニエル賞(芝2400m)から本番に向かう。

 タルナワはG1の3連勝を含む重賞4連勝中。昨秋、ヴェルメイユ賞オペラ賞BCターフと格の高いG1を3連勝。その後は休養して8月5日のG3バリーローンS(芝12ハロン)で9か月ぶりに復帰し、弱敵相手に6馬身半差の圧勝で力の違いを見せた。凱旋門賞、BCターフへ向けて今年上半期を休養に充てており、コース適性も考えれば一番の強敵かもしれない。

■英チャンピオンSと両睨みのミシュリフ

写真はイメージ

 分からないのがミシュリフ。今年2月20日のサウジC(ダート1800m)、3月27日のG1ドバイシーマクラシック(芝2410m)と中東のビッグレース2クラを制し、8月18日にはG1英国際S(芝10ハロン56ヤード)でラブ、マックスウィニー、アルコールフリーを下して優勝している。

 2400mもドバイシーマクラシックでこなしているので問題ないが、陣営では馬場状態を見て凱旋門賞か10/16のG1英チャンピオンS(芝9ハロン212ヤード)のどちらに行くか決めるとしている。その後、BCターフ、ジャパンCを視野に入れているという発言をしていることから、2400mに不安がないのは間違いない。ドボドボの不良馬場なら凱旋門賞を回避する考えなのだろう。

 現状では凱旋門賞に全てを賭けるわけではなく、陣営ではより勝機の高い英チャンピオンSの方にと考えているのかもしれない。出てきたら上位争いは確実と思われるが、ワンパンチ足りない印象があり、勝ち負けまではどうか。

 ハリケーンレーンはここまで6戦5勝、唯一の黒星は英ダービー3着。6月26日のG1愛ダービー(芝12ハロン)は首差の際どい勝利だったが、7月15日のG1パリ大賞(芝2400m)は2着に6馬身差の圧勝だった。

 気になるのは9月11日のG1セントレジャー(芝14ハロン115ヤード)経由で本番に向かうというプラン。これは同厩舎のアダイヤーとの使い分けを考えたのだろうが、素直に考えればチャーリー・アップルビー調教師は、凱旋門賞に近いのはアダイヤーの方だという評価をしているということ。

 この点、主戦のW.ビュイック騎手が本番でアダイヤーとどちらを選ぶか分からないが、もし、こちらを選んでくるようなら、勝機は高いと言える。英ダービーでは同騎手がその時点で重賞未勝利だったアダイヤーを捨てたのは当然の選択だったが、結果は捨てた馬に勝たれるという情けない結果となった。今回、W.ビュイック騎手はこちらを選んでくる可能性は高くないが、選んでくれば、そしてセントレジャーを回避すればの条件で最有力の1頭としたい。

■出てくれば最も怖いセイントマークバシリカ

 セイントマークスバシリカはスノーフォールと同じA.オブライエン厩舎の所属で、現時点では英チャンピオンSに回る可能性が強い。故障で英国際Sを回避したのも気になる。今年の仏ダービー馬で7月3日のG1エクリプスS(芝9ハロン209ヤード)でアデイブ、ミシュリフを一蹴しており、潜在能力ではこの馬が一番かもしれない。初距離にはなるが、出てくれば最も怖い1頭。

 ラブは昨年出てくれば大本命だったが、今年はG1プリンスオブウェールズS(芝9ハロン212ヤード)を勝ったものの、その後はキングジョージ、英国際Sと連続3着。特に不利もないのに直線で決め手を欠くレースぶりで、メッキが剥げた印象は否めない。

 クロノジェネシスはドバイシーマクラシックでミシュリフに敗れており、上がり目薄い5歳牝馬。勝ち負けは難しい。

■いつになく楽しみな凱旋門賞

 こうして見てくると、スノーフォールも決して楽な戦いではない。ヨークシャーオークスで速い時計に対応できたのはいいが、ディープインパクト産駒だけにある意味当然だろう。凱旋門賞は一昨年が重馬場、昨年が不良馬場と道悪競馬が続いており、良馬場の保障などない。

 英オークスは雨の中のレースだったが発表は稍重馬場だった。重・不良馬場なら、晴雨兼用のタルナワやハリケーンレーンに苦杯を舐めるかもしれない。

 また、同厩舎のセイントマークスバシリカが使ってきたら力負けする可能性も否めない。その場合の乗り役が難しいが、セイントマークスバシリカにムーア騎手、スノーフォールがデットーリ騎手という組み合わせもあり得る。

 いつになく楽しみな凱旋門賞である。

"欧州ディープ産駒 凱旋門賞の勝算"に1件のコメントがあります。

  1. MR.CB より:

    》》ジャーナリスト松田様

    今年の秋、凱旋門賞は本当に楽しみです。ディープ産駒のスノーフォールと日本代表クロノジェネシスの対戦は、日本の競馬ファンには垂涎の一戦ですね。両馬の1、2着を期待します。
    昨今の凱旋門賞では日本馬の出走、そして有力馬として人気を集めることが普通になってきました。私が競馬を始めた40年前では考えられないことです。競馬だけではなく今では、野球やサッカー、そしてテニスやゴルフなどの人気スポーツでも同様に日本のレベルは急速に向上しています。多くの先人たちの勇気と涙がようやく今、いろんな場所で花咲いてきたのでしょう。
    兎にも角にも、10月3日のパリ・ロンシャン競馬場で日本競馬の悲願を達成してくれると信じています。

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