大井からケンタッキーダービー 大金星の期待
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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G1ケンタッキーダービーが5月6日(日本時間7日)にチャーチルダウンズ競馬場で開催される。日本からはJRA所属のデルマソトガケと、大井競馬所属のマンダリンヒーローの2頭が参戦する。
◾️痛すぎるハナ差だったが…
注目したいのは、地方競馬から初めてケンタッキーダービーに参戦するマンダリンヒーロー(牡3、大井・藤田輝信厩舎)。2019年から友好交流提携事業の一環として、指定されたレースで規定のポイントを獲得した大井競馬所属馬がG1サンタアニタダービーに出走できるようになり、その第1号としてマンダリンヒーローが西海岸に渡った。
カナダのウッドバイン競馬場を主戦場にして2年連続同国のリーディングを獲得した木村和士騎手とコンビを組む。4月8日のレースでは、勝ったプラクティカルムーヴに鼻差及ばなかったものの2着に入る大健闘の走りを見せた。
この2着がマンダリンヒーローの運命を変えた。米国の全ての3歳馬が目指すと言っていいG1ケンタッキーダービーは指定されたレースでの着順によってポイントを獲得し、その上位20頭が本番に出走できるシステム。
サンタアニタダービーの2着馬には40ポイントが与えられ、上位馬が回避すれば大一番に出走できる可能性が出てきたのである。陣営は米国にとどまり出走の機会を待ったが、ポイント順位は25位。そこから回避馬が出て5月3日の時点では22位にまで上昇した。
仮にサンタアニタダービーで勝っていたらケンタッキーダービーポイント100が付与され、楽々出走権を掴んでいたことになる。そう考えると大健闘だったとはいえ、痛恨のハナ差でもあった。ケンタッキーダービーに出走できなかったら、米クラシック第2レグのG1プリークネスSに向かう予定と報じられた。陣営は胃が痛くなるような日々を過ごしたことであろう。
そして、5月4日にプラクティカルムーヴ、ロードマイルズの2頭が出走を取り消したため、繰り上がりで出走権利を掴んだのである。
◾️ハイレベルのサンタアニタダービー
ケンタッキーダービーを目指し、全米各地で前哨戦と呼べるレースが行われるため、出走馬の力関係を図ることは容易ではない。ただ、マンダリンヒーローが出走したサンタアニタダービーはレベルの高い西海岸の最重要の前哨戦であり、例年、上位に入った馬は本番でも好走している(表参照)。
サンタアニタダービー優勝馬は過去10年で2頭が本番で優勝し、2着、3着がそれぞれ1回ずつ。同2着馬を見ると、7頭が出走して1勝3着1回。ただし、2021年にメディナスピリットが1位入線後に薬物使用で失格となっており、真っ先にゴールに飛び込んだ馬は7頭中2頭ということになる。
サンタアニタダービー1、2着馬がそろってケンタッキーダービーに出たのは最近10年で7回あり、本番で先にゴールに入ったのは2着馬が4回、優勝馬が3回となる。特に勝ち馬から2分の1馬身差と比較的健闘した場合には、本番で3着、5着と上位に入り、優勝馬に先着している。
今回、マンダリンヒーローは、勝ち馬プラクティカルムーヴとハナ差の接戦を演じた。最近10年の傾向から見る限り、それなりの成績が期待できそう。
日本では抽選で皐月賞に出走できた1988年ヤエノムテキ、2002年ノーリーズンが優勝しており、ギリギリ滑り込む幸運を味方に大レースを制した例はある。地方競馬のファンのためにも、世界的な大金星をもぎ取ってほしい。
◾️中央競馬からはデルマソトガケが出走
日本からはもう1頭、デルマソトガケ(牡3、栗東・音無秀孝厩舎)がC.ルメール騎手騎乗で参戦する。こちらはG2UAEダービーを優勝してケンタッキーダービーポイント100を獲得したため、事実上、優先出走権を得ていた。UAEダービーでは2着ドゥラエレーデに5馬身半の差をつける圧勝。米国での評価はこちらの方が高い。
もう1頭、G2UAEダービー3着のコンティノアール(牡3、栗東・矢作芳人厩舎)も参戦予定であったが、米国到着後に左後肢の歩様が乱れ、万全の状態で出走できないとして4日に回避を決定した。
大一番を前に現地入りしながら出走を回避できる陣営の決断力には頭が下がる。今年に入ってG1ドバイターフ出走のために現地に入っていたドウデュースも左前肢跛行のため、陣営が出走を取り消した。
海外遠征が当たり前のように行われるようになったことで、大事をとって次の機会を狙うという選択肢もとられるようになった。そのことが結果として海外での成績アップにつながっていると言えるのではないか。
◾️米国勢はフォルテ最有力
今回の米国勢は、2歳王者で7戦6勝、G1を4勝しているフォルテが最有力候補なのは衆目の一致するところ。ただ、前走のG1フロリダダービーを見ていると、1馬身差2着のメイジとそれほど差はないかもしれない。
また、デビュー戦3着の後、4連勝でG1ブルーグラスS優勝のタピットトライスは勝ち負けになっても不思議はなく、同2着のヴェリファイングも含めて有力馬と言っていい。
G1アーカンソーダービーで2着に4馬身4分の1差の圧勝劇を演じたエンジェルオブエンパイアあたりまでが優勝を争う顔ぶれになりそう。
日本のホースマンの夢はG1凱旋門賞とされるが、優勝の困難さという点ではケンタッキーダービーの方が勝るかもしれない。馬にとっては一生に一度しか出走チャンスがなく、また、日本でのクラシックを諦めての参戦となるため、出走しようという陣営も凱旋門賞ほど多くない。
そういった意味では、勝てばとんでもない快挙。奇跡と言っていい出来事かもしれないが、今の日本馬のレベルの高さなら、ひょっとしたらひょっとするのではと考える競馬ファンも少なくないはず。日本調教馬2頭の健闘を祈ろうではないか。
発走予定時刻は日本時間5月7日午前7時57分。
》》ジャーナリスト松田様
結果は12着でしたけど、地方競馬の競走馬がケンタッキーダービーに出走した事実は大きな功績だと思います。特に藤田輝調教師の信念には敬服します。またオーナーの新井さんは個人で所有するのは本馬のみとのこと。いわゆる大馬主ではないわけです。出走できるか分からない状況での渡米は、陣営にとって諸々の負担も大きかったでしょう。天も味方してくれたのかも知れませんね。
間違いなく結果以上のものを得ることができた勇気あるチャレンジでした。最大級の賛辞を贈りたいです。
結果は残念でしたが、まずは参戦しないことには勝てないわけで、おっしゃる通り、結果以上のものがあったと思います。
僕が現場にいる頃、ある大御所の調教師は「自分は最初に何かをすることはしない。他の人がやってリスクがなくなってからやる。それが馬主さんに儲けさせるには一番だ」と豪語していました。(この人は勝負の世界にいるより、金儲けの世界にいる認識なんだな)と失望したのを覚えています。
偉大な成功の前には何度も失敗した経験があるはずで、そうした貴重な経験の上に偉大な成功があると僕は思います。今回のマンダリンヒーローの関係者の勇気とフロンティアスピリットには、僕も敬意を表したいと思います。