高検検事長の定年延長 手続き論に終始する野党に忠告「実体論も語れ」
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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東京高検の黒川弘務検事長の事実上の定年延長が問題になっている。政府が国家公務員法の定年延長は検察官に適用しないという従来の政府の解釈を変更したことについて、野党やメディアは攻撃の手を強めている。しかし、その議論を聞いていると、公益を無視した政府攻撃のための議論でしかないように感じる。
■手続き上の問題と実体上の問題
この問題で考えなければいけないのは、手続き上の問題と実体上の問題があるということ。
手続き上の問題:政府が恣意的に法解釈を変更し、黒川氏の定年延長をした。
実体上の問題:黒川検事長の定年延長そのものが適切ではない。
ここまで見る限り、黒川検事長が定年を延長して勤務を継続すること自体に反対する意見はあまり出てきていない。IR事業をめぐる汚職事件やカルロス・ゴーン被告の逃亡などの捜査や公判を引き続き担当させるためには黒川氏の力が必要であり、さらに検事総長としてカルロス・ゴーン被告の逃亡について関係各国との調整も必要になるなどと言われている。
こうした人事で黒川氏が適任ではないということであれば、大いに問題であろう。しかし、そうではない。現在進行形の大きな事件を手掛けるために黒川氏の力が必要であるのに、定年の規定に引っ掛かって退官せざるを得ない状況になったとしたら、公益を大きく毀損することになる。そのためか、野党も専ら手続き上の問題ばかりを取り上げている。
本来であれば、法改正等で検察庁法に定年の延長の規定を新たに加えるなどの立法措置で解決するのが望ましい。しかし、IR事業を巡る事件もゴーン被告の逃亡事件も昨年末から問題になったのであり、立法措置が追い付かなかったのは明らか。そうであれば、解釈変更で事案の解決を図るのは次善の策として許容範囲内であろう。しかも、その解釈変更で権益を害される人や団体は存在しない。
■野党は前向きな提言ができないのか
そもそも法解釈は時代の変化によって行われるべきであるし、最高裁判例も度々変更されているのは多くの人が知っている。法の解釈は固定的なものである必要はなく、時代に合ったものとしていくのは法に関わる者の使命と言ってもいい。
黒川検事長の問題にしても、野党は最終的に何を目指しているのか分からない。仮に手続き上、瑕疵があるとして、それを理由に公益を害してでも黒川検事長の定年延長を無効とすべきと考えているのか。そうではなく、40年近く前の国会の政府委員の答弁を持ち出して手続き上の瑕疵があると責め立てる、その論理矛盾のようなものを示して政府を攻撃するだけが目的ではないのか。
健全な野党、公益に資する野党であろうと思うのであれば、「検察官の定年延長等をする場合であれば、関連する法律や過去の政府答弁等を精査し、手続き上の瑕疵がないように事前の準備をすることが大事。また、恣意的な運用がなされないようにすることを改めて示すことなどで、国民の理解を得る努力を十分にしてほしい」という議論をすべきだと思う。このように大局を見て政治を語れない点が、野党が選挙で負け続ける大きな要因ではないか。
■国家公務員法と検察庁法の説明
最後に、今回の件を法律的な見地から示しておこう。まず、法文を確認。国家公務員法は81条の3で定年による退職の特例として、以下のように定めている。
81条の3第1項:任命権者は、(略)その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、(略)その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。
つまり、職務遂行上、どうしても必要な人であれば定年を1年以内で延長できるとし、さらに同2項で、さらに1年を超えない範囲で期限を延長できるとしているのである。
一方、検察庁法22条は「…検察官は年齢が63年に達した時に退官する」とある。この事実上の定年については延長の規定はない。さらに同法32条の2で、22条の規定は、検察官の職務と責任の特殊性に基いて公務員法の特例を定めたものとしている。これは検察庁法の後に国家公務員法が制定され、その勤務延長の規定については検察官は影響を受けないことを明らかにしたものだという。実際に、1981年の国会答弁でその趣旨が述べられている。
国家公務員法の勤務の延長は、円滑な職務遂行ということを考えれば、当然の規定。しかし、この国家公務員法は検察官に適用されないのは、特別法は一般法に優先するという原則に従ったものと言っていいだろう。今回、東京高検の黒川弘務検事長を検事総長にするために定年を延長すると言われており、黒川検事長の勤務延長は、従来の政府解釈を変更したと安倍晋三首相は2月13日の衆院本会議で答弁した。