電力危機+復旧力弱体化 あなたも停電の被害者に

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。
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◆「これまで」は電気は停電せず、すぐに復旧した

 さて前置きが長くなったが、本題に入ろう。エネルギーの危機対応の話だ。

 この電力危機での電力会社の災害復旧能力に、私は改めて感銘を受けた。災害発生半日で、秋田、鳥取の停電は全面復旧した。強風と豪雪により送電線が破損したと理由が伝えられている。これは、そうした天候の中で、送電線を元通りにした電力会社と関連会社の取り組みがあったということだ。頭が下がる。誰も褒めないので、私が褒めたい。

 電力中央研究所が興味深いリポートを公表している。「東日本大震災・被災地におけるエネルギー利用 実態調査」というリポートだ(抜粋版)。

インフラと災害復旧(出典:電力中央研究所・東日本大震災・被災地におけるエネルギー利用 実態調査から)

 電気、水道、灯油、ガソリン、都市ガス、LPガスのライフラインを調べると、復旧が早かったのは電気で1週間後までに95%以上が復旧している。

 これは、災害地を供給範囲にする東北・東京の両電力の復旧力の高さに加え、電線が地上に露出しているために他のインフラより整備がしやすいという点もあるのだろう。自立型電源として期待された太陽光発電は3割が破損し、大半が既存の総配電網システムに組み込まれたために、すぐに使えなかったという。

 電力業界、ガス、石油というエネルギー業界を、私が取材して印象に残るのは、供給への責任感が企業の中に色濃くある点だ。

 ある東京電力社員が次のような体験を話してくれた。「昼食時に社員食堂で警報が鳴ると、それまでごったがえしていた社員食堂からはあっという間に人が消える。マニュアルに書かれているわけではない。それが当然の行動であり、文化であり、見よう見まねでしているうちに体に染みつき、やがて自分自身の『本能』となっているのだろう」。こうした責任感を電力会社は持ち、現場を大切にしている。

 日本の電力会社の災害対応力は、世界の中で最高レベルのものだ。海外では停電が頻繁に起こる。米国では近年復旧力の悪化が指摘されている。2012年10月のハリケーン「サンディ」では米国東部のニューヨーク州、ニュージャージ州では、850万世帯が停電。1ヶ月経過しても10%以上の停電地域が残っていた。復旧の遅れで、いくつかの電力会社を持つ親会社のファースト・エナジー社が批判を浴びた。同社の本社は、停電地区から離れたオハイオ州にある。

 米国は各州で電力の制度が違うが、上記2州では90年代に発送電分離、地域電力会社を分割、民営化した。ところが新規参入が小売り部門で起きず、経営悪化で地域の送電会社が買収され、事業を継続した。しかし収益向上のために、災害関連の設備投資を怠り、復旧力が落ちたのではないかと、メディアは批判をしている。(筆者記事「ハリケーン・サンディ、電力復旧遅れの理由」を参照されたい)

 日本では個人の生活でも、地域の防災でも、大規模災害にあっても、電力が数日中に復旧することを前提に、対策を練っていればよかった。しかし、それも今後は「これまでは」という注釈がつきそうだ。それが維持できるかはわからなくなっている。

◆電力自由化で検討されなかった責任

電力会社の努力で電力危機は踏みとどまっている(撮影・松田 隆)

 日本でも電力自由化が進み、2020年にこれまで地域独占をしていた電力会社の発送電の分離が行われた。小売自由化も2015年から行われている。そこで、この災害対応の問題が「曖昧」になっている。今回の電力自由化は、2011年の東電福島原発事故の後に進められた。事故によって電力会社への批判が強まり、当時の政権与党の民主党が世論におもねって、電力会社解体を進めた面がある。その過程で、電力の安定供給について踏み込んだ議論が行われなかった。

 電力自由化を勧告した、経産省の「電力システム改革専門委員会報告書」(2013年2月)では、災害対応と電力会社の供給能力の維持は「期待したい」「電力会社の社内文化の維持を支える制度づくりが必要」という指摘はあったが、具体策が書かれていなかった。私はその無責任さに驚いた。経産省はその後、電力供給義務を契約で明確化、詳細にすることにより、電力会社の安定供給の問題を解決しようとしている。しかし書類の上で制度を整えても、供給が必ず確保できるとは限らない。

 既存の電力会社の「停電させない」という熱意は、各電力会社が地域独占を認められる代わりに、地域への供給義務を課せられていたことから生まれたと言える。それが自由化でなくなった。自由化が進めば紹介した米国の一部州のように、災害対応への投資が手抜きされ、利用者が損害を被りかねない。

 発送電分離によって同一会社内で済んでいた電力会社の災害対策が複数化することになる。新規に参入した新電力会社の災害対応能力は、既存電力会社より劣るだろう。小売り自由化では、新電力が「安さ」「選択の自由」を積極的に広報した。しかし「災害の時にどうなるか」ということは、宣伝文句ではあまり見られない。

 進行している電力危機は、各電力会社の頑張りで踏みとどまっている。災害復旧も素早い。しかし、その電力業界をいじめて、儲けさせないように、攻撃してきたのは、おかしな一部の人々、政治家や経産省・資源エネルギー庁だった。そうした「民意に基づいた誤った政策」の結果が、今の電力危機の背景になっている。過度な責任を負わされた電力会社は、いずれ責任が果たせなくなり、さらに危機に対応できなくなるのは明らかだ。

 危機が去った後に、日本全体で、電力やエネルギーの供給体制を見直す必要があるだろう。今回の危機が「日本の電力システム維持、最後の成功例」にならないことを、祈りたい。もしかしたら、今後の日本では災害被災者に「すぐに電気が復旧する。それまでがんばれ」と言えない状況になるかもしれない。

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