台湾・朝鮮半島危機に不安 アフガン救出失敗

The following two tabs change content below.
石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。
石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

最新記事 by 石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 (全て見る)

◆アフガニスタン、日本の救出作戦の失敗

 アフガニスタンで今年8月、武装勢力タリバンがほぼ全土を掌握し、アシュラフ・ガニ大統領のアフガン政権が崩壊した。各国とも在アフガニスタンの自国民と関係者の保護・救出活動をしているが、その中で日本の活動は見劣りする。

C2輸送機(防衛省航空自衛隊ホームページから)

 日本政府は自衛隊機を派遣。1度飛行し、日本人の1名、関係するアフガニスタン人14人を退避させた。これで当面、救出作戦を打ち切るという。

 31日時点で、米軍は作戦を終了。米国民6000人を救出した。まだ米国民100人ほど残留しているという。英国政府は自国民・関係者1万5000人、ドイツ政府は45カ国5000人以上(うちドイツ人500人)、カナダ政府は自国民・関係者3700人、韓国政府は同400人を国外に退避させたという。日本と数が違いすぎる。

 日本の救出作戦の詳細はまだ明らかになっていない。しかしこの問題で他メディアより詳しい情報を提供している読売新聞、産経新聞の報道を時系列で整理すると、問題が浮かび上がる。

8月初旬:アフガニスタン主要都市が次々と陥落。

15日:首都カブールにタリバンが侵入、ガニ大統領が国外逃亡。

17日:日本大使館員12名が英軍機で退避。翌日から残留日本人が問題になり始める。カブールの空港が避難民で混乱していることが報道される。

21日:自衛隊派遣が発表。

23日夕:C2輸送機3機、自衛隊員約200人が日本を出発。

26日:空港周辺でタリバンと敵対するイスラム原理主義組織ISによるものと思われる自爆テロ発生。米兵16人と市民約100人が死亡。

27日:自衛隊カブールから撤収。救出数は上記15人。ただしこの時点でJ I C Aなどの関係者は脱出し、残留邦人数は6人。

31日:米軍は全兵士の撤退を発表。米国大使はこの段階で脱出。

 26日時点で、バス10台に乗った日本人とその関係者が、空港に近づくが、この日に発生したテロによる通行止めと混乱で断念。脱出者の総数は約500人という。

 この作戦はどうやって日本の関係者を選別しているのか、脱出希望は何人なのか、本当に残留したのは邦人6人だけなのかなど、8月31日現時点で不明な点が多い。事後的な公表と検証が望まれる。

◆作戦の問題点はどこか

 こうした公開情報から考えると、多くの問題がある。

 第1に初動が遅い。他国は8月初旬から救出の動きを見せたのに、日本で派遣されたのは23日だ。情報収集能力と判断に問題があるだろう。

 第2に邦人よりも、先に大使館員が全員脱出したのは、おかしい。自衛隊員、警察官、外交官は、(酷な言い方かもしれないが)日本人の安全という職責を、自らの安全を顧みずに全うすることを期待される職業だ。詳細は明らかではないが、その職責を全うしたのだろうか。

 第3に救出の行動に、おかしな点がある。現地の詳細な状況は不明だが、野蛮な武装勢力タリバンが支配し、テロが横行するカブール市内をバス10台で移動させるというのは危険だし、不可能であると推定される。

 ただし、この作戦の不十分さは、自衛隊の能力の問題というより、法律上さまざまな制約を受けているためであろう。

 今回の自衛隊機の派遣は、戦闘地域での邦人救出だ。これまでは非戦闘地域で自衛隊の海外派遣が行われた。これは初めての取り組みだ。自衛隊法84条の「在外邦人輸送」の任務に加え、2015年の平和安全法制の整備で同条に「在外邦人保護」の任務が加えられ、派遣が可能になった。

 2015年には野党勢力が平和安全法制の整備に、理解に苦しむ反対を行なっていた。こうした反対勢力の存在と日本の一部にある憲法9条を絶対視するおかしな安全保障観が、国民の安全を脅かしている。

 法律が部分的に整備されても、自衛隊は在外邦人保護でも、他国と違って、国外での武装勢力への攻撃を規制され、武器使用でも厳格な制約がある。これは軍隊ではないとする、憲法での自衛隊の立場の曖昧さから発生しているものだろう。今回の戦闘地域への自衛隊の派遣さえ画期的なことだった。そうした問題が山積する状況の中で、日本政府と自衛隊に、今回の作戦の成功を求めるのは酷かもしれない。

◆迫るアジアの有事に何ができるのか

 しかし、それでも国には、成功して欲しかった。もっと大きな問題、「朝鮮半島有事」「台湾有事」の可能性があるからだ。北朝鮮による韓国への攻撃、中国共産党政権による台湾の武力統一の可能性は、近い将来にありえ得る。そこで当然、邦人の避難の問題が発生する。

 韓国の人口は5125万人だが、外務省の統計によれば、日本人観光客はコロナ前の2019年で約300万人、長期滞在が約3万9000人いる。

 台湾の人口は2357万人だが、19年で日本人の観光客数は200万人、長期滞在が約2万4000人いる。

 自衛隊による海外の邦人救出はできるし、救出策の検討は行われているが、受け入れ国の同意が大前提だ。

 報道によれば、韓国政府が自衛隊の受け入れに難色を示し、特に日本批判を強める文在寅(ムン・ジェイン)政権との間で協議は進んでいない。台湾は、日本は一つの中国として扱い、法律上は地域扱いという曖昧なものになっている。どうも具体的に、政府間の協議や日本の準備は進んでいないようだ。

◆「邦人保護」で戦争した歴史の経験

 歴史を振り返ると、こうした邦人保護の問題は、明治以降、日本に常にのしかかってきた。日中戦争の悲劇の一因でもある。

 1931年の満州事変から1945年のアジア・太平洋戦争の敗戦まで、日本の中国への行動を私は「侵略」と表現できると思う。しかし、日本は当時の中国と戦争せざるを得なかった面がある。日本人が満州(現・中国東北部)に1931年時点で約10万人居住し、日本の持つ多くの利権があった。そうした人と財産への攻撃が始まったために、「邦人保護」のために、戦わざるをえなかった面がある。

1946年から1949年までの中国の国共内戦、1950年から53年までの朝鮮戦争では、両地域に近い日本は戦略的に重要な意味を持ち、米軍の出撃基地、物資の供給地になった。朝鮮戦争で韓国が危機的状況にあったとき、李承晩(イ・スンマン)政権の日本への亡命も検討された。

 仮に今、アジアで戦争が起きた時には、邦人の脱出に加えて、米国人やその他の外国人の救出、そして自由主義陣営の防衛のために、日本が対応を求められることは避けられない。韓国、台湾とも、人手不足の中で、外国人労働者の数が増えているという。さまざまな国籍の人々が日本への避難する必要も発生するし、それぞれの本国から日本の貢献を期待されるだろう。

 韓国からの避難民の流れも懸念される。朝鮮半島では、韓国での避難民の総数は総人口の50%の約1041万人だった。日本への密入国者が急増し、九州北部、中国地方の日本海側に上陸した。検挙者数は50年に2772人、51年に4435人で、逮捕されると強制送還された。しかし3万人から5万人の密入国があったとの推計もある。この中には当然、北朝鮮の諜報員で、工作活動を行う者も含まれていた可能性は否定できない。同じことがあり得る。

◆浮き彫りになった行政能力等の問題

外務省の行政能力に問題はなかったか

 今回のアフガニスタンでの日本の救出作戦では、情報収集の問題、外務省など行政の能力の問題、法律の問題が浮き彫りになった。その問題を改善せずに無策のままであるならば、アジアの有事の際に、邦人保護をめぐって大変な問題が起こりそうだ。失敗が、より大きな規模で繰り返されるかもしれない。また韓国と台湾が戦争に突入した時に、日本も攻撃を受けるかもしれない。

 今回の失敗について、日本国内で批判が広がっている。左右に言論を分けるのはばかばかしいことだが、いわゆる右の人は、自衛隊をかばいながら法律の未整備と左の人の空想的平和主義を批判し、左の人は政府の失策を批判しているようだ。両方の言い分はその通りだが、他人を批判するための題材にして、実際の対応を怠ってはならない。

 アマゾンの創業者だったジェフ・ベゾス氏は、「ビジネスの問題は善意では解決しない、仕組み(システム)が解決する」という名言を残している。感情や個人の能力に左右されて仕事の結果が動くのではなく、目的が達成できる仕組みを作ることが大切という意味だ。今回の日本の失敗を批判ですませるのではなく、危機への対応をする仕組みづくりに役立てるべきだ。

 日本が戦争に巻き込まれた場合に、個人から国まで何をする必要があるのか。邦人の避難の問題でも、現実的な対応への準備を今から行う必要がある。

"台湾・朝鮮半島危機に不安 アフガン救出失敗"に4件のコメントがあります

  1. NA より:

    米国民主党及びネオコン/RINOは、アフガニスタンの不安定化を望んでいると思われます。
    テロリストや難民を世界中に拡散させたいでしょう。

    朝鮮半島有事を見据えて、韓国資本が対馬の不動産を買い漁り、半島脱出に備えています。
    竹島を占拠されて以来、山口や北九州の漁師が韓国に虐殺されたり、不当な目に遭わされてきました。東日本大震災では、避難場所となる学校に日本人住民が到着すると、貸し切りバスでやって来た大勢の中国人が占拠し、日本人避難者が追い出される始末だっと言われています。こうした事は、メディアが広く報道することはありませんでした。

    ならず者国家5か国の中でも凶悪な国トップ3に囲まれている日本。
    これらの国々に武力攻撃されるまでもなく、第3国での有事や自然災害においても、戦後の侵略者達に乗っ取られ、さらにはニューカマーにまで日本国民の共有財産が奪われているのです。軍事力増強、土地売買の規制(相互主義の採用等)・技術流出阻止が叫ばれても、与党においてすら、猛反対する売国議員が少なくなく、嘆かわしい限りです。

    1. NA より:

      ホワイトハウスは、同胞を置き去りにしつつ先にアメリカへと退避させたアフガニスタン人難民を、民主党基盤を強固にするため、スウィングディストリクト/スウィングステートに移送するとしています。日本が移民難民を受け入れろだの、外国人にも参政権を、というのは、日本の全うな保守を打っ壊す為であります。

  2. 通りすがり より:

    >左の人は政府の失策を批判しているようだ。

    今朝のTBSラジオの森本毅郎の番組でこれのオンパレード。
    作戦の失敗の根底にある法的な問題は全て無視。政府ガー、自衛隊ガー、とあの番組は本当に腹立たしい。

  3. 波多野昭一 より:

    日本人、同胞を助けるという、倫理観に欠けた一般国民、これはマスコミの人命一番という美名の喧伝により、個人主義が闊歩した典型です。
    日本人の誇りを右翼的だと断罪するマスコミ政権(日米同様民主主義の弊害である)の責任である(リベラル派)と私は考えております。
    やはり、過去の戦争を総括することが早急な課題ではないかと考えます。
    総括とは左右の争いではなく、戦争により尊い命を国のために捧げた人に報いるためにも、あの戦争を否定するのではなく、その上にたってこれからの日本の将来を考え、外交、自衛隊の意義存在をもっと深く考えるいい機会だと思っています。

波多野昭一 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です