TikTok対策 米は規制し日本は活用のお間抜け
石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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中国企業が運営する人気の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」をめぐり、世界各国が規制の動きを強めている。松野博一官房長官は2月27日の記者会見で、「TikTok」を巡り、政府職員が使用するスマートフォンなどの公用端末のうち、機密情報を扱う機器を対象に利用を禁止していると説明した。その他のSNSなどの利用も禁じており、サイバーセキュリティー確保の観点から「特定の国を対象としたものではない」と強調した。(元記事は&ENERGY・「米国で強まる TikTok規制と無策の日本」)
◆情報が中共に抜かれる懸念
対応が遅れがちの日本で、ようやくという感想だ。日本と違い、米国では規制強化が進む。連邦議会ではこのサービスを名指しした法案が審議され、バイデン政権も連邦政府機関での使用禁止に動く。一方で日本ではユーザーが増え続けているのに、政治もメディアも無策だ。この警戒心のなさは異様で危険だ。
TikTokはバイトダンス(本社・北京、中国名・字節跳動科技)が運営し、中国圏サービス「抖音」(ドゥイン)も含めると、同社の21年9月時点の発表によれば約10億人が利用している。原則利用は無料だ。
ところがこのTikTokの利用者の情報が、中国共産党政権に抜かれる可能性がある。そして中共がさまざまな政治工作をこのサービスを使って仕掛けかねないという懸念が出ている。どの中国系企業もそうであるように、こうした批判にTikTokも積極的に答えていない。
欧米の報道や公的機関の調査では、Tiktok利用者の情報が中国共産党政権に漏れる話は、頻繁に出ている。アプリや動画から、投稿者、閲覧者の位置情報、名前、性別、電話番号、検索履歴、スマートフォンの利用履歴が見ることができ、中共に提供されている可能性があるという。また中国には、国内法で中国企業は情報機関にデータを当局に提供すると取り決めた「国家情報法」があり、これが使われかねない恐れもある。
確認できない情報だが、中国とインドは国境紛争を重ね、両国の軍と警察が北部で対峙しており、インドの軍、国境警備隊が動くと、中国軍がその移動先で常に待ち構えているという。インドは中国製のスマホ、情報機器、アプリの公務員の使用を原則禁止しているが、それでも持ってしまう兵士の使用の携帯やアプリから、漏れているのではないかという憶測が出ている。
保守系シンクタンク「オーストラリア戦略政策研究所」(ASPI)の2020年のリポートでは、TikTokで中国での少数民族問題、ロシアでの政権批判など、各国でタブー視される投稿が検索にかからないようにする「シャドウバン」が行われている形跡があるとされている。また中国国内では、中共批判などの投稿者を追跡する政治利用が行われ、外国からも情報が流れているようだと指摘している。
確かに日本のTikTokで、日本語、英語で検索すると「天安門」「ウイグル 人権」など、中国政府が批判されたくない問題では、検索しても何も表示されない。
もちろん米国がTikTokを批判するのは、同国企業の持つITでの覇権を維持しようという意図や、文化侵略やプロパガンダへの利用への不安もあるだろう。そうした米国の都合を考えても、懸念に当然の点はあるし、TikTokの対応も不十分だ。
◆米国で広がるTikTok利用制限-情報漏洩の懸念
「TikTokは、中国共産党がアメリカの利用者のデータにアクセスすることを許可している」「アメリカの市民はこうした実態がプライバシーやデータの保護にどのような影響を与えるのかなどを知る権利がある」
米連邦議会下院情報通信委員会は1月30日にこのような声明を出し、3月に開催される公聴会にバイトダンス梁汝波CEOが出席すると発表した。西側諸国で、公の場所にTikTok首脳部はほとんど登場しないため、その発言が注目される。
米国での行政機関のTikTok批判は強まるばかりだ。アメリカ国内では半数以上の州で、公的機関での使用を禁止している。リベラルな政策を打ち出す州として知られるカリフォルニアやニューヨークなどもそうだ。
バイデン大統領は2022年12月に、政府の電子デバイスでTikTokを使うことを禁じる超党派の法律に署名した。米国政府のTikTokへの厳しい姿勢は、トランプ政権の時から始まった。これは反中国の保守勢力だけが推し進めている政策ではなく、民主・共和両党に共通する政策とわかる。
民間でもそうで、2023年1月に名門校であるテキサス大学オースティン校が、キャンパス内でTikTokにアクセスすることを禁じた。情報や研究の漏洩を警戒するためという。これによって、大学での禁止は全米に広がった。こうした動きは欧州諸国も追随している。
◆無策どころか活用、呆れた日本政府の対応
TikTokへの欧米での危機感に比べて、日本の官民の無関心と対応の遅れは異様だ。米国ほどではないが、日本では推定1000万人以上の利用者がいて、若者に人気だ。
日本の国会検索システムで調べると、TikTok、バイトダンスという言葉が引っかからない。ほとんど国会で議論されていないのだろう。それどころかTikTokを政府や政党が広報に使う間抜けさだ。デジタル庁は普及を推進するマイナンバーで、若者向けの広報動画を大量にTikTokに流している。与党自民党内で、米国の動きを受けて懸念の声が出た。
しかし河野太郎デジタル担当大臣は、「心配ない」と繰り返すのみだ。メディアも、TikTokの面白さやビジネス利用を紹介する記事はあっても、日本での利用実態や安全保障への警戒感を打ち出した記事は少ない。TBSやフジテレビなどテレビは、パートナーシップ契約を結び、動画を提供するなどTikTokとタイアップで活動している。呆れる国際感覚だ。
◆安全確認があるまで扱いは慎重に
前述のASPIの政策リポートでは、TikTokを含め、個人が発信する新しい形のメディアでは、第三者による情報管理の確認を制度化することを提案している。トランプ政権から現在まで米国政府もそれをTikTokに求めている。しかしTikTok側はそれを拒否している。これでは不信感はなかなか消えない。
TikTokのサービスを個人が楽しむことは自由だし、企業活動の自由は最大限尊重されなければならない。また中国の人々や企業への、敵意の拡散はしてはならない。しかし情報漏洩の懸念はあり、日本は国も民間も無策だ。これは変える必要がある。
「ただより高いものはない」という古くからの言い回しが日本にある。無料でTikTokを楽しむ多くの人々が、その言葉をいずれ思い出さなければよいのだが。
政府も民間も一度、このサービスの使い方を立ち止まって考えるべきであろう。
※元記事は石井孝明氏のサイト「&ENERGY」で公開された「米国で強まる TikTok規制と無策の日本」 タイトルをはじめ、一部表現を改めた部分があります。