岸田談話に違和感 日本人だけ悪いの?
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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岸田総理が5日、共生社会と人権に関するシンポジウムに向けたビデオメッセージが一部で反感を呼び起こしている。内容は多文化共生に向けて努力を促すものであるが、マジョリティである多くの日本人だけに努力を求める片務的なものになっている。相互の理解、尊重こそが求められる多文化共生社会の実現という観点からは不十分な内容と言えるのではないか。
◾️シンポジウムに寄せたメッセージ
総理のメッセージは、法務省、全国人権擁護委員連合会などが主催する「令和5年度共生社会と人権に関するシンポジウム」(2月3日開催)に寄せたもので、オンラインで開催されたシンポジウムの冒頭で流された(人権チャンネル・令和5年度共生社会と人権に関するシンポジウム~多様性と包摂性のある社会を目指して~)。
2日後の5日に政府広報オンラインで公開され、同時に、文字化されたものが首相官邸ホームページにアップされた(首相官邸・共生社会と人権に関するシンポジウム 岸田総理ビデオメッセージ)。
その内容は首相官邸ホームページをご覧になっていただきたいが、簡単にまとめると以下のようなものになっている。
(1)共生社会の実現は、我々の果たすべき重要な使命である。
(2)我が国では雇用や入居、ネット上で外国人、障害者、アイヌの人々、性的マイノリティの人々が不当な差別を受ける事案を耳にすることも少なくない。
(3)近年、特定の民族や国籍等に属していることを理由として不当な差別的言動を受ける事案や、偏見等により放火や名誉毀損等の犯罪被害にまで遭う事案が発生している。
(4)特定の民族や国籍の人々を排斥する趣旨の不当な差別的言動、そのような動機で行われる暴力や犯罪は、いかなる社会においても決してあってはならない。
(5)目指すべきは人間の尊厳が守られた世界であり、これを脅かすことにつながる不当な差別や偏見に対しては、内閣総理大臣として、断固立ち向かう。
(6)共生社会の実現は他者との違いを理解し、そして互いに受け入れていくことが重要。政府は不当な差別や偏見の解消に向けて様々な取組を行っている。シンポジウムはその取組みの一環である。
◾️スッポリと抜け落ちた重要ポイント
グローバル化、ボーダーレス化が進む世界において、日本でも多文化共生は非常に重要なテーマである。一般に地域における多文化共生は「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的ちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと」(総務省・多文化共生の推進に関する研究会報告書 p5)と定義される。
それぞれの国や民族によって文化や社会、宗教などは大きく異なる。そうした人々が地域で生きることになった場合、違いを理由に排斥・排除するのではなく、相互に違いを認容・理解し、尊重し合って、共に生きていきましょう」ということである。
このような文化多様性の擁護は「人間の尊厳尊重と切り離せない倫理的必須課題」であって、「人権と基本的自由の擁護、特に少数民族に属する人々の権利や先住民族の権利擁護の確約」(以上、「 」内は文化の多様性に関するユネスコ世界宣言4条から)を意味するために、極めて重要である。
総理のメッセージはその点を意識して作成されたものであろう。それはそれで意味は分からなくもない。問題は差別の防止、解消を気にするあまり、多文化共生の重要なポイントである異文化に対する理解、受容、尊重の相互性という点がスッポリと抜け落ちている点である。現代の多くの日本人は外国人だから、民族が異なるからという理由でマイノリティを排斥しようなどとは考えていないはず。
マイノリティの側に日本文化・社会に対する理解、受容、尊重が見られない言動があれば、われわれマジョリティの側としては「共生の意思を見せろ」と迫るであろうし、違法な行為を繰り返すのであれば「共生する意思がないなら出ていけ」というのも当然である。
◾️マジョリティはマイノリティの靴を舐めろ?
今回のシンポジウムは、基調講演が「ヘイトスピーチ解消に向けた取組」~川崎市の取組を例として~(吉戒修一弁護士)という、主に差別をされる側の立場からの講演であることから、ビデオメッセージもこのような片務的な内容となったものと思われる。
それは大事なことなのかもしれないが、そもそも論でいえば、多文化共生はマイノリティの権利を最大限(無制約)に認め、マジョリティは我慢して、それを受け入れるという性質のものではない。前述のように相互の理解、受容、尊重が大前提。共生社会の実現が叫ばれる昨今、そうしたマイノリティの権利ばかりが主張される傾向があり、それに対して異を唱えると「差別主義者」の大合唱、インターネットで「お前は差別主義者だ」とのレッテル貼りが横行する。その視点が抜け落ちているから、総理のビデオメッセージが一部から強烈な反感を買うのである。
こうしたマイノリティの特権を利用して、相手の言論を封殺する勢力は確実に存在する。そのような例として当サイトでは過去に、川崎市の反ヘイトスピーチ条例と言える川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例に関する問題を取り上げた。
これはヘイトスピーチをやりそうな勢力に対して、表現者を萎縮させて思いとどまらせるべきだと市長に迫った例である(「表現者を萎縮させろ」と迫る記者)。憲法が保障する表現の自由をいとも簡単に制約すべきとしたのが、新聞記者であることに驚きを禁じ得ないが、それが日本の共生を目指す社会の実情である。
岸田総理のメッセージはこうした国民の自由への制約をよしとする勢力にお墨付きを与えかねない危険性を孕んでいる。
メッセージの原稿を書いたのは総理直属のライターと想像するが、もう少しバランスの良い原稿が書けないものかと残念に思う。そして、そのような原稿に疑問を感じないままカメラの前で話した総理には、(もう少し考えてから喋りなさい)と言いたい。