マス“ゴミ”と呼ぶ前に新聞を利用せよ
石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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■記者の体得した新聞を使いこなすノウハウ
私は通信社記者を振り出しに、四半世紀、記者として活動している。修行中の身であるし別に優秀ではないが、自分の仕事を高めたいと思い努力を重ねてきた。
そこで情報のインプットで新聞はとても有効な道具であると確信を持っている。今でも、新聞を5紙以上、雑誌を毎週3紙以上、速読している。そのノウハウを少し紹介してみたい。
①早く読む。そのために見出し、リードを拾い集める
私は駆け出しのころ日銀記者クラブで末席記者を務めた。そこで新聞の切り抜きを担当した。新聞を隅から隅まで読んで、記事を選んだが何時間もかかった。それで新聞を溜め、キャップに怒られた。そこで新聞の読み方を教わった。また読み方のノウハウを先輩記者から盗んだ。それを伝えてみよう。
まず自分の関係する単語を流し読みする。そして、それが記されていた記事のリード(冒頭部分を読む。ここには普通の新聞は5W2Hの情報を入れている。Who(誰が) What(何を) When(いつ) Where(どこで) Why(なぜ)したのかの「5W」が書かれている。さらにHow(どのように)が入るし、経済記事ではHow Much(いくらで)の「2H」が入る。それを拾い読みすれば、全部読まなくても、記事の概要はわかる。そして必要な記事だけを熟読する。
読む量を減らすと、短時間で大量の情報を取り入れられるようになった。「量は質に転じる」。情報の場合には、絶対にこの格言が当てはまる。そして慣れると一定時間で読める量が多くなる。
②新聞を信じないで参考にする。複数読み比べ、批判的解釈
ただし新聞を信じてはいけない。読者の皆さまは、自分の働く業界を描写する新聞や雑誌記事で、間違った内容に憤りを覚えたことがあるだろう。残念ながら、これは永遠に消えない問題だ。記者はやや詳しい素人にすぎない。「記事はそういうものだ」と割り切り、信じないことが重要だ。
惑わされないため、新聞を複数読み比べ「情報のダブルチェック」をするべきだ。新聞は当然、論調、社風、執筆者が違う。一つの物事を描写するにあたっても、扱い方、文章、着目点が異なる。複数の新聞を読むと、それが見えてくる。そして批判的解釈のための鍵も得ることができる。
特に、外国の一流紙は取材が深く面白いし、日本にない視点で書かれている。私はニューヨーク・タイムズをネットで購読している。トランプ大統領がフェイクニュースと批判しているし、確かにリベラル支持のバイアスも最近、少し目立つが、アメリカの知識階級の奥深さがのぞける新聞だと思う。
③情報の意味を考える。誰が発したか。そして背景、意図は何か
①と②が進むと、情報の意味を深く考えられるようになる。記事がなぜ掲載されたのか。誰がどのような意図で情報を流したのか。書かれてはいない情報は何か。社会にどのような影響を与えるか。こうした背景を考えるようになる。私は自分が書き手なので、その点に注目する。ところが読者はなかなかこれを考えない。
例えば「再生可能エネルギーは素晴らしい」という情報が社会にあふれている。その元資料をたどると、意外にも原発推進を考える経産省が熱心に拡散していることが分かる。これは同省が福島原発事故で評判が失墜したため、この分野をエネルギー政策の立て直しの突破口にしようとしていると、簡単に推量できる。
実際に経産省の人事を見ると、最優秀と折り紙付きの人材が担当部局に投入されている。さらにFITをはじめ、多額の予算をこの分野で獲得している。経産省の人も「再エネ振興は、国民との和解の手段」とオフレコで認めている。
新聞を使い、立ち止まって考えれば物事の裏が見えてくる。
④情報機器を使う
私がフリー記者になって困ったことは、会社にあった新聞が読めなくなったことだ。地元の公共図書館を利用したが、朝から退職者らしい人が陣取り、新聞が読めない。またiPhoneで新聞や雑誌写真を撮影すると怒られる。そのため有料図書館の会員になり、そこを仕事場にして、さらに置かれた新聞、経済誌を読み込むことにした。出費は痛いが…。
また情報機器を使うようにしている。グーグルは、単語検索と組み合わせると、自動的に新聞サイトからある単語の載った記事をクリッピングする。iPhoneで見出しを読み、必要な記事はクラウドサービスの「Evernote」に保存して、タグをつけてすぐに検索できるようにしている。ニュースをまとめるアプリも、いろいろ提供されている。こうして私は一日800~1000ぐらいの記事をさばく。
⑤新聞を読みすぎる弊害に気をつける。描写されない情報、時間の制約、体系化されない問題
ただし、新聞を読みすぎる弊害もある。
第一の問題は、新聞には情報の漏れがあるということだ。尊敬する旧通産省の高官に、こう言われたことがある。「記者が一生懸命努力しても、問題に必要な情報の4分の1しか得られないでしょう。情報源の大半が官庁や企業の組織だから。けれども、私は官庁にも、企業にもいたけど、どんなに頑張っても、権力を使っても、必要な情報の半分は得られない。残りはどうしても手探りになる」。これはその通りで、「知らない危険」は常につきまとう。知った振りはしないことだ。
第二の問題は、情報収集に時間がとられすぎる危険があることだ。だから新聞を読む際にチェックする単語を絞るなどの工夫が必要だ。前述の瀬島氏のように「インテリジェンスに加工する」という目標を持ち読めば、取捨する情報も限定され、時間も節約できる。
第三の問題は、新聞情報だけでは、知識が体系化されないということだ。真面目に仕事をして、問題を知っているのに、ピントのはずれた記事を書く記者がいる。情報を知っていても、物事の背景にある学問や理論を知らないためだろう。
例えば、福島原発の事故記事では文系の記者たちが大量に記事を書いたが、健康被害が起こると騒いだ記事ばかりだった。健康被害は起きず、それは全て間違っていた。医学常識を全く知らなかったためだ。
経済学者のケインズが次のような名言を残す。「どんな実務家も過去の奇妙な経済学者の奴隷である」。こうした弊害を避けるために、視野を広げ専門家の知見を参照して、情報を整理することが必要だ。
■新聞への「批判」と「使いこなし」、どちらが得か?
このように新聞を使いこなせば、多くの読者にとって見える世界が違ってくるだろう。
新聞を読まずにメディアを批判する人が目立つ。しかし新聞は道具として使いこなせば、今でもかなり使えるものだ。確かに新聞のずれた報道に腹が立つことは多い。しかし、そうした感情は脇に置いておいて、ただの道具として扱えばいい。金を払いたくなければ、別のメディアの記事を見ればよい。自分で一次情報をチェックすればいい。官公庁、企業は今、自前で大量に発信している。怒るエネルギーがもったいない。
どちらの態度が、自分のためになるか。言うまでもないだろう。
石井孝明 経済・環境ジャーナリスト
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