韓国の歴史歪曲許さない 産業遺産の活用を

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。
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 昨年末に産業遺産情報センター(東京都新宿区)を訪問した。面白い施設で読者の皆様に紹介して、見学を呼びかけたい。産業遺産にはさまざまな活用の方法がある。加えて、ここは韓国や中国との「歴史戦」の最前線にもなっていた。政府の勝利への「気合い」が感じられなかった。その問題も取り上げる。(元記事は&ENERGY産業遺産を活用し、観光振興と「歴史戦」の勝利を

◆民間による産業の勃興が明治維新を実現

端島展示コーナーの前に立つ主任ガイド中村陽一さん(撮影・石井孝明)

 2015年7月にユネスコの世界遺産委員会において、「明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産として登録された。製鉄・製鋼、造船、石炭の分野で、全国23か所、8県11市にまたがるものだ。その情報発信の拠点として同センターが2020年6月に開所した。

 しかし、開所時期がコロナ禍と重なったこと、後述するようにPRに関しての政府の消極姿勢のために見学者が少なく、あまり知られていないのは残念だ。

 明治維新で、日本は政府の力によって近代化が成し遂げられたという印象がある。それは事実ではあるが、一面に過ぎない。民間と各地方の底力によって産業が勃興、そして成長し、国が発展した。このセンターの展示で、その民間の力がよく分かった。

V Rによる端島炭坑の映像(撮影・石井孝明)

 製鉄、造船、石炭の各産業は、江戸時代後期から各藩、また民間が行っていた。岩手や北九州では製鉄業が発展し、それに伴って高温の炉を運用するために石炭産業も発生した。

 さらに鹿児島(薩摩藩)、佐賀(肥前藩)、山口(長州藩)という明治維新を牽引した西日本の雄藩では、海外から刺激を受け、自発的に殖産興業をした。例えば、薩摩藩の名君、島津斉彬(1809-1858)は殖産興業を懸命に行い、写真、ガラス、西洋式武器、ガスとガス灯、製鉄・金属加工、蒸気機関と蒸気船という各産業を自藩でゼロから作り上げた。これは他の非欧州国では稀で、誇らしい歴史だ。そうした人々の努力の跡も解説で見られる。

 展示は、映像、VR(仮想現実)、また写真が活用されていた。映像と印刷技術の進歩で、迫力のある美しいものだった。また製鉄、造船、石炭の各産業は設備の規模が大きいので、産業遺産そのものが巨大で見栄えのあるものとなっていた。

 ボランティアの説明がついたが、どの方も熱心で博学で聞きがいがあった。産業遺産はコンテンツとして魅力的で、さまざまな楽しみ方、活用方法があることを実感できる。

◆韓国との「歴史戦」の最前線

 しかし、このセンターへの訪問で難しい問題が見えた。ここは「外交戦」「歴史戦」の舞台になっていることだ。

 上記の産業遺産に「軍艦島」と呼ばれた石炭採掘場だった端島炭坑(長崎市)が加えられた。ここは明治期から三菱財閥が購入し、島から海底に伸びるトンネルで、石炭採掘事業を明治初期から1974年(昭和49)まで行っていた。古い建物が廃墟のように残り、観光名所になっている。今は長崎市の所有だ。

 ところが、韓国から「軍艦島で、強制的に徴用された朝鮮人労働者が奴隷の如く働かされた」という事実無根の批判が行われ、同国政府はユネスコに抗議を今でも繰り返している。韓国は新しく産業遺産に認定される予定の佐渡金山でも事実無根の抗議を始めた。そしてユネスコでは中国も韓国に同調する動きを示しているという。

 展示ゾーンの一部は、この軍艦島についてのものだ。資料と当時の島民の証言が集められている。中には朝鮮出身者の声もある。終戦前後には朝鮮人には日本人と同じ高い給金が与えられ、待遇に差別なく、一緒に仲良く暮らしていたという内容の証言ばかりだ。当時の端島にいた島民の方がここにボランティアとして詰めて説明もしている。

 ところが韓国は、そうした記録を全く受け付けず、被害を受けたという主張を官民一体になって執拗に続けている。このセンターにも韓国の反日団体、そして日本の同調者が何度もやってきて抗議をし、ユネスコにまで訴えて展示内容を彼らのいう通りにせよと圧力をかけているという。

 主任ガイドの中村陽一さんは小学校3年生だった1947年(昭和22)から中学校1年生まで、端島に住んだ。父はこの炭鉱の所長だった。「ここに戦時捕虜はいない。日本人も、朝鮮人も差別なく、一生懸命働き、仲良く暮らしていた。ふるさとの正しい情報を伝えたい。国民の皆さん、韓国の皆さん、世界の皆さんに真実を知ってほしい」と、頑張っている。

◆歴史戦を戦う「気合い」が足りない

 国がこの問題で反論するのは当然で、この施設が設けられたのは適切なことだ。このセンターは「歴史戦」の必要性を訴えた安倍晋三首相(当時)の政治判断で作られた。ただし、企業や政府が、そうした外交戦、歴史戦の矢面に立つのはためらいがあるようだ。

 この施設は一般財団法人の産業遺産国民会議が運営し、施設は国が貸し出している。ところが政府側に熱心さを感じない。このセンターは都心から離れた、東京都新宿区若松町にあり、政府の古い建物を使っていた。玄関は主要通路から外れた路地裏の道から入る場所にあった。休日は開館せず、コロナを名目に入館制限をしている。他の国営博物館は休日に開館しコロナの制限も撤廃しているのに、おかしな話だ。政府側が見学人数を制限し、この施設を目立たないようにしているとしか思えない。

 ユネスコとの折衝は外務省、施設運営は内閣府・総務省、観光は国土交通省が所管する。各役所は存在を明示していなかった。安倍氏が首相として指示をしても、現場の役人たちはこのセンターを目立たせないように設置し、歴史戦をサボタージュし、自らの責任逃れをしているのかもしれない。

 また企業にもためらいが見られた。軍艦島の石炭事業は三菱合名、その後に三菱鉱業に受け継がれ、閉山後の事業の後始末は、継承した金属大手の三菱マテリアルに受け継がれた。しかし展示では、同社や三菱グループは、資料提供以外に積極的に協力していなかった。筆者の推測だが、政治問題に巻き込まれることを嫌がり、消極的な関係にとどめているのかもしれない。役人が事なかれ主義に逃げることは批判されるべきだが、企業が消極的になることは理解できる。

◆産業遺産を活用し歴史戦を勝ち抜こう

 ここで思うことが2つある。

 一つは産業遺産は今に役立つさまざまな使い方があるということだ。観光資源になる。教育の素材になり、愛郷心、愛国心が育まれる。地域のまとまりの中心になる。石炭産業は日本からほぼなくなったが、造船や製鉄は世界トップの座を抜かれたものの、今でも重要な産業であり、各地の地場の企業活動のPRにもつながる。

 産業の歴史の研究は歴史学の進化、知識の普及にも役立つ。各地でそうした取り組みを行っているが、せっかくできたこの東京の拠点を通じて相互交流、発信をすれば、もっと効果があるだろう。全国の歴史マニアも産業遺産を知り、楽しみ、情報拡散に協力してほしいと思う。

 もう一つは「歴史戦」についてだ。政府は手抜きしないで明確に反論し、もっと戦うべきだ。都心に「産業遺産博物館」を置き、目立たないように展示するのではなく、大々的にPRしてほしい。十分、東京の新しい観光地になる。

 一案だが、素晴らしい場所がある。東京の千代田区北の丸公園にあり、皇居に隣接する旧陸軍の近衛師団司令部庁舎が、今空き家だ。ここにあった国立美術館工芸館が石川県金沢市に移転した。1910年(明治43)建設の美しい建物だ。終戦の時のクーデターなど、歴史の舞台にもなった。現時点で、次の活用案は明確に決まっていない。

◆旧近衛師団司令部庁舎の活用を

旧近衛師団司令部庁舎(撮影・石井孝明)

 日本は世界の国で珍しいことに、国立の軍事博物館がない。また都心部に軍の部隊がない。1945年(昭和20)の敗戦のトラウマが今でも残っているためであろう。各地に自衛隊の博物館はあるが、旧軍の歴史はすっぽり抜け落ちている。

 昭和30年代に防衛庁がこの庁舎を利用して軍事博物館を作り、また自衛隊の部隊を置こうという計画を立てたが、当時、強かった左派や、警察庁・警視庁が反対したために、立ち消えになったという。

 国立産業遺産博物館と国立軍事博物館を、この近衛師団司令部庁舎に置いたらどうだろうか。日本では東アジアでの国際情勢の緊張に対応して、今後は防衛費が増額される方向だ。産業遺産と国防遺産を同時に広報する拠点として、これほど適切な場所はない。この由緒ある場所で、特定アジア諸国に対する「歴史戦」の勝利を目指すのだ。旧陸海軍は問題のある組織だった。しかし、日本の近代化を牽引し、日本の国威を高めた栄光の歴史も有している。それを民間の産業遺産と絡めて、歴史的建造物の中でPRしてはどうだろうか。

 自分でもいいアイデアだと思う。実現に向け運動してみようか。

 ※元記事は石井孝明氏のサイト「&ENERGY」に掲載された「産業遺産を活用し、観光振興と『歴史戦』の勝利を」 タイトルをはじめ、一部表現を改めた部分があります。

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