吉野家事件とスシロー事件 断固たる措置の必要性
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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回転寿司のスシローで高校生とされる少年が寿司に唾をなすりつけるなどした事件では、同種の事件の対応が遠因になっているように思われる。2019年5月、Instagramにアップされた大学生とされる男性の迷惑行為に対して、被害を受けた吉野家は刑事事件としなかったとされる。事件の性質が微妙に異なるが、飲食業に携わる企業は業界全体のことを考え迷惑行為に対しては断固たる措置を取ることが社会的使命と言えるのではないか。
■4年前の吉野家紅生姜撒き散らし事件
高校生がレーンに回る寿司に唾をつけるなどの行為を行い、それを動画で公開した事件(以下、スシロー事件)はネットを中心に激しいバッシングが続いている。被害を受けたスシローでは少年と保護者の謝罪を受けたものの、引き続き刑事・民事双方で責任を追及する姿勢を見せており(FOOD & LIFE COMPANIES・SNSで拡散されたスシロー店舗での迷惑行為に関するお知らせ)、それに対してネットの声は概ね称賛する方向であるように思える。
今回の件で残念に思うのは、過去の同種の事件で企業が毅然とした対応をしていれば、発生を防げたのではないかと思える点である。今から4年ほど前になるが、牛丼の吉野家で似た事件があったことを記憶されている方は多いと思う。
2019年5月、20代前半ぐらいに見える黒いキャップを被った男性が牛丼の上の紅ショウガを、食べずに箸でテーブルの上にはじき飛ばす。その時に落ちた肉片を「肉は回収」と言って丼に戻す。その後、撮影者らしき男が「左に何かトッピングがあるよ、トッピング」と再び紅ショウガを入れるようにそそのかすと、黒いキャップの男は紅ショウガをたっぷりと掴んで丼の中に入れ、直後に箸ではじき出す。それに笑い声が起き動画が終わるというものである。
この不快な動画が公開されると大きな騒ぎになった。インスタグラムのアカウントには都内の私大在籍とされており、具体的な学校名として上がっていたS大学も調査に入ったという。ところが、吉野家は取材に対して「マナーに欠ける行為で非常に残念です」「こういうことは止めてほしい」と答えながらも、損害賠償は求めず、刑事告訴の考えもないと答えたと報じられた(J-CASTニュース・吉野家で「紅ショウガまき散らし」男 動画には笑い声も)。
■器物損壊罪と威力業務妨害罪
この吉野家の事件については、僕は当時、寄稿していたFoodist Mediaに企画として持ち込み記事を書かせていただいた。その際に吉野家とS大学にも取材を申し込んだ。両者の対応はJ-CASTニュースで報じられた通りで、吉野家は告訴や訴訟提起の考えはなく、S大学では現在調査中である、ということであった(Foodist Media・吉野家「紅ショウガまき散らし」動画に怒りの声。「即時退店」「店側が注意しないと」)。
店舗に対する嫌がらせとしか思えない迷惑行為に吉野家がなぜ、法的措置を取らなかったのかは分からないが、スシロー事件に比べると、その違法性が低かったことも要因の1つと思われる。
スシロー事件はレーン上の寿司に唾をつけているが、レーン上を流れる寿司は特定の客の支配下に入っておらず、いわば占有権・所有権が確定していない状態にある。自分の目の前を通り過ぎた小皿は自らが占有しなかったため、自分より下流の者が占有する可能性がある他者の寿司である。誰も取らなければ、店の占有が継続していると言える。
そのような他者の物に対して、食することができないように唾をつけるのは器物損壊罪(刑法261条)が成立すると考えられる。条文に「他人の物を損壊し、又は傷害したもの」と規定されていることからも明らか。共用の醤油差しや湯呑みを舐めるなどの行為も他人の物の損壊に相当すると考えられる。
このような行為を行ない、動画で公開すれば、その店に行こうという気が失せる者が出てくるのは当然で、威力業務妨害罪(同234条)にも問われることになる。器物損壊罪は3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料で、威力業務妨害罪は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科される。科料とは罰金と同じ財産刑の一種で、1000円以上1万円未満である(同17条)。
■吉野家事件での刑事責任
ところが、吉野家の事件について言えば、同様の犯罪が成立するかと言われると難しい。牛丼のトッピングの紅生姜については、既に自分が占有し、食器の中の食品は所有権を持っていると考えられる。所有権とは「ある特定の物を全面的に支配する権利」(民法Ⅰ総則・物権総論第4版 内田貴 東京大学出版会 p361)であり、「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」(民法206条)ため、たとえば自分が嫌いな紅生姜を食器から弾き出すのは勝手である。
そのように弾き出した紅生姜が店舗を汚すのは事実であるが、それが直ちに威力業務妨害などで刑事責任を問えるかと言われると、可能性はないわけではないが簡単ではない。もちろん、自分のものを廃棄するのであるから器物損壊罪には問えない。
共用の紅生姜を自らの食器に盛ったにもかかわらず、食べずに箸で弾き飛ばす行為はどうか。これは食器に盛った時点で所有権を得ていると考えることもできるが、食べずに食器から弾き出す目的であれば、所有権は得ておらず、店の占有、もしくは所有する物を勝手に廃棄する行為とも考えられ器物損壊罪に問える可能性はあるかもしれない。しかし、食べようと思って共用の器から自分の食器に移し、所有権が移転した後で食べる気がなくなったのであれば器物損壊罪は無理で、威力業務妨害罪も上述したように難しい。
現実的な刑事での責任追及は軽犯罪法1条31号の「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」程度しか考えられない。その場合の罰則は拘留又は科料である。
このように刑事責任の追及は難しくても、店の業務を妨害しているのは確かで、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求はしていい。紅生姜の所有権を得たとしても、その所有権は前述のように「法令の制限内において」使用、収益及び処分する権利を有するに過ぎないのであるから、箸で弾いてカウンター席を紅生姜まみれにするような行為は、法令(軽犯罪法)の制限内の処分とは言えない。そのように考えると威力業務妨害もしくは軽犯罪法で告訴することはできる(刑事訴訟法230条)。捜査機関に受理されるかどうかは微妙ではあるが。
■法的措置とらなかった吉野家
最終的に吉野家は法的な措置は取らなかったようである。S大学でも学生が所属していたか、所属していたとして処分したかなどは発表していない。黒キャップの男性はインスタグラムが炎上した直後にアカウントを消して”逃亡”を果たした。
この時、吉野家が法的措置をとっていたら、と今でも思う。刑事は難しいかもしれないが、民事で裁判が始まれば黒キャップの男性には反省の機会を与えられたかもしれないし、民事上の責任を問えたかもしれない。
訴訟にかかる手間や費用、そして顧客を訴えるという行為が客商売を営む企業として好ましいことなのかという思いなど、さまざまな事情を考慮して法的措置をとらなかったのではないかと想像する。それはそれで吉野家の判断であるから部外者がどうこう言う筋合いのものではない。
しかし、企業という社会的存在、私企業とはいえ公共性を持っていることを思えば、犯罪を助長しかねない行為に対しては負荷を負うことになっても毅然とした態度を示してほしかったというのが正直な思いである。
こうした迷惑行為は、実行者と企業だけの問題ではない。当該行為によって他の利用客は不快に感じ、食べに行こうという気が失せる。それは安くて美味しい牛丼を食べるという選択肢を失うことを意味する。同社はそのホームページ上の社長のメッセージとして「吉野家は、自らが変化を生み出し、お客様に新しい価値をお届けしたいと考えています」とし、2020年度からは「従来からの『うまい、やすい、はやい』に『心地よい』を加えることで『顧客感動満足』を実現してまいります。」と掲げている(吉野家・社長メッセージ)。そのような考えがあるのなら、迷惑行為をする客を止める、排除する、行為の再発を防ぐことも大多数の客に対する「心地よい」を実現する重要な要素と言えるのではないか。
■犯罪は割に合わないと考えさせること
今回、スシローは当事者と保護者の謝罪を受けても、前述のように刑事・民事での責任追及をやめないとしている。吉野家の事件が基本的に軽犯罪法の事案なのに対して、スシロー事件が器物損壊・威力業務妨害という重大な犯罪であることは厳しい態度であることと無縁ではないと思われる。
また、同種の事件の再発を防ぐことで、顧客の安全・安心を守るという思いが強いのかもしれない。実際に同種の事件が多発している現状では、被害を受けた企業として厳罰を求めるのが企業としての使命という思いがあるのではないか。
2019年に吉野家がそうした強い思いを持って、黒キャップの男性に毅然とした態度で臨んでいたら、今回の件は防げたかもしれない。潜在的な犯罪者、犯罪実行予備軍に対して「犯罪は割に合わないな」と考えさせること、すなわち抑止力を発揮させることを企業は軽視すべきではない。それこそが真の顧客へのサービスであると信じる。
アメリカではこの種の“事件”(=チェーンのファストフード店で営業妨害する事)は、少なくとも「Netに上げる」事はありませんよね。
※『やったら、到底支払う事の出来ない億単位の損害賠償金を請求される』事が周知されてるからでしょう。
謝罪で終われば今回のような不衛生極まりない事をやって店に損害を与えても謝罪すればチャラという悪しき前例になりかねないのでこのまま刑事民事共に訴えて欲しい
断固としてこのような事は二度と許さないという強い態度が必要だ
未成年で将来もあるし可哀想だから許してやれという人達も一部いるが本当に可哀想なのはスシローなど回転寿司業界で働いている従業員や役員、株価下落で損した人達です
あさやけ様、コメントをありがとうございます。
僕は飲食店の取材も多かったのですが、彼らがいかにしてコストを削り、安価で客に提供しようと努力している姿を見てきましたから、この類の犯罪には非常に怒りを感じます。その意味であさやけ様のコメントにはとても共感できます。
子供だからは理由になりません。子供も少年法の下、適正な処遇、処分を受けるべきです。そのための少年法ですから。
今回の件は株価の暴落を招いている以上、既に指摘があった通りこれが簡単に許された場合、ライバル企業を陥れるための手段として非常に有効な手段となり得る。
スシローが今回迅速に法的手段を取り、店舗の運営方法を変更することで事なきを得られたのは上層部のいい判断だったと思う。
ご意見に賛成です。
相手が子供だから大目に見たら、また、同じことをする蓋然性が高いと思います。子供だからこそ、厳しくしないといけないと考えます。一罰百戒でしょう。スシローの上層部はいい判断というのは、その通りだと思います。
松田様
コメント失礼します。
今回の件 もし軽い罰だった場合次に模倣犯が出た場合、厳しい罰を求めるのは難しくなるでしょう。そういう意味でもスシローが厳正に対処をするのを支持致します。